センサーと望遠鏡のマッチング

天体撮影の光学系と撮像センサーの"良いマッチング"を探る試みです。
どんなカメラやセンサーを用意したら自分の望遠鏡と目的にベストマッチになるのか、自分の光学系はどういう対象に向いているのか?初心者の自分はどんな光学系を揃えるのがいいのか、ステップアップを目指すなら次は何を買ったらいいのか?
 単純に、35mmフルサイズ換算の「○○mm相当」では片付けられない世界があります。

 こうしたところは悩みどころです。そこでイロイロ計算して比較してみた、というのが今回の記事です(下の方に比較一覧表を載せました)。

 様々なサイトを眺めたりショップの方からのご意見を伺ってみたりもしましたが、「自分に合った組み合わせを探しましょう」的な散財のススメみたいなお経には、どうにも身を委ねられない自分がおりました。信心が足りないのだと思いますが、煩悩の多いワタクシには学問のススメの諭吉先生が去ってゆくのは忍びないのであります。
 とにかく方向性を考える羅針盤がないことには安心して航海できませんから、これを考える上で重要なファクターの計算方法と、いくつかの具体的な組み合わせでの事例を見ながらケーススタディをしてみたいと思います。

 私も、いまのデジイチで十分練習したら、やがてはガイド撮影も惑星撮影も専用のCMOS/CCDカメラに移るんだろうなあ・・なんて思っています。そのときまでに、色々出てくるカメラや鏡筒達にどういう眼差しを注いで眺めたらいいか、というのは考えとかなきゃなあ、と思ったわけです。

■ファクターは「画角」と「解像度」と「感度」の3つ

色々考えたのですが、結局、写真撮影を考える上で必要なファクターは「画角」「解像度」「感度」に尽きるかな、というところに落ち着きました。そして、これらは望遠鏡やセンサーの寸法から見積もることができるなあ、というわけで、それぞれの計算方法です。

[画角]
 画角(写野)は、焦点距離とセンサーサイズから求めることが出来ます(ベテランの方には常識ですね…)。どれだけ広い範囲を写せるか、というものですね。次の式で求められます。なお、括弧[]内は単位を表しています。
 画角[°] = (センサーサイズ[mm] ÷ 焦点距離[mm]) × 57.3
 センサーサイズは対角の数字を入れれば対角の画角(写野)が求まります。この数式は近似式ですが、望遠鏡を使うような範囲(10°くらいまで)の写野なら、有効桁2桁以上の精度があります。

[解像度:FOVppと「画素倍率」]
 解像度をどう表現するのがいいか、というのは少し迷いました。世の中的にはFOVpp(画素あたり写野)という数値が提案されているようで、上述の式で画角のセンサーサイズの代わりに画素サイズを入れたものです。
 これとは別に、望遠鏡の倍率みたいな数字も比較にはいいなあ、と感じていて、「画素倍率」なるものを定義して数値を求めてみました。求め方が望遠鏡の倍率と似ていて、アイピースの焦点距離のかわりに画素サイズ(μm)で主鏡の焦点距離を割るというものです。何に対する倍率かといえば、焦点距離1m・画素1mm角の撮影系に対する解像力の倍率です。

 画素倍率 = 焦点距離[mm] ÷ 画素サイズ[μm]
 FOVpp[秒角] = 206 ÷ 画素倍率

 この数字を使うと、1画素がどのくらい細かいものを見ようとしているのかが分かります。(そういう意味では、FOVppの方が画素倍率よりも便利な数値かもしれません。)

[感度の一要素、「畜光力」]
 一画素が大きいセンサーは感度がいい、とか、画素数がむやみに多いセンサーを選択しても感度が下がって良い結果に直結しないことがある、といった話を目にしたことがあります。
 センサーの感度そのものは、チップの量子効率や暗電流の多寡によって決まってきてしまう部分があるので、センサーの世代や設計に大きく依存してきます。ですが、同世代の似た方式のもの同士であれば、1画素が大きいものほど感度が大きいのはよく知られているところです。センサー1つあたりの受光面積が大きいからです。
 一方で、露光時間を左右する光学系側のファクターには「F値(口径比)」もあります。
 では、「F値が明るかったら、どのくらい小さい画素のセンサーを使ってもOKなのか?」という質問に対してはどうでしょうか。冒頭のお経のように「自分のスタイルに合った」ものを探すというのでは、お金はともかく時間が辛いので、あまり手間はかけずに答えを知りたいものです。
 そこで、「畜光力」なる数値を定義して、次の式で求めてみました。1画素にどれだけ光を集めてこれているか、ということを表す数字です。
 畜光力 = (画素サイズ[μm]÷F値)^2
 この数値のミソは「2乗」で、こうすることによって露光時間との関係を簡単に表現できるようにしています。どういうことかと言いますと、畜光力2倍なら露光時間半分、という関係です(素子自体の感度の影響を除く)。

■ いろいろな組み合わせを比較してみた

能書きはともかく、計算してみたのが下の表です。なかなか示唆に富んでいます。

・気付き イ: 大きいセンサーはレデューサーに似た効果
 単に画角で決まる"○○mm相当"が変わるという話ではなく、サイズが大きいセンサーは概ね画素も大きくて同じF値でも畜光力がUPして写野も広がるので、レデューサーに近い効果があるように見えます。

・気付き ロ: 小さいセンサーはエクステンダーに似た効果
 サイズが小さいセンサーはこの逆で、画素も小さくて画素倍率がUPします。しかし、エクステンダーレンズを使った場合と同様に畜光力は下がるという効果は気にせざるを得ません。

・気付き ハ: カメラ選びは方向性が割れる
 画素が大きく畜光力を稼げるタイプのセンサーと、画素が小さくて解像力を稼げるセンサーとに分かれるように思われます。
 ASI294などは前者で、たとえばEOS Kissの代わりにつけて似た画角と解像度になりますが、冷却CCD(CMOS)にすることによって感度を大幅にアップできるという意味でのお手軽感があるように思われます。
 QHY8なども前者で、更に画素サイズが大きくなっていて、畜光力を稼げるようになっています。ハイスピードな撮影を求める場合にも、初心者にとってもメリットは大きいセンサーなのではないかと想像します。
 ASI1600は写野も取れて画素数も多いのですが、画素サイズはそれなりに小さいのでASI294ほどのお手軽感はないものと思われ、やや上級者が扱うと良い結果が得られそうです。
 ASI183などは後者のタイプで、高い解像度を求める場合に良さそうですが畜光力は下がるので、ほかのCMOS/CCDカメラと比較するとそれなりの露光時間を要求されることになります。

・ケーススタディ① 自分の鏡筒 SE200N+EOS Kiss X5
 表の中ほどより下にあるこの鏡筒、ほかの光学系と比較すると画素倍率200倍超と高く、そこそこ長い中焦点ではありますが、F5という口径比のせいで畜光力が不足気味で露光時間を稼がなければならないのが痛いところです。フルサイズカメラと組み合わせて畜光力を稼ぐという方向性も考えてしまうところですが、斜鏡による周辺減光などを考えるとやる気は起きません。
 私のような初心者が練習するには画素倍率が要求するガイド精度と相俟っていい修行材料かもしれません。一般的な初心者には勧めにくい組み合わせです。長めの露光時間も高級なレジャーなんだと割り切って、中焦点にちょうどいい被写体をみつけつつ十分に練習したいと思います。

・ケーススタディ② 高写野の雄たち (RedCat51 / VSD100 / FSQ / RASA8 ほか)
 画素倍率が100倍以下のゾーンでは、対象に合わせて画角を選びたいところです。ここに並ぶ光学系を見ると、写野の広さと畜光力に効くF値がモノを言う感が凄いです。
 RedCat51はどのカメラを使っても大変広い写野が得られる凄さがある一方で、畜光力がネックかもしれません。上級者であれば、ここは(総)露光時間を十分与えて解決する世界かと思います。
 VSD100のレデューサーを使った場合の画角と畜光力は群を抜いています。EOS6Dと組み合わせると、RedCat+EOS Kissで撮る場合の 1/5の露光時間で済んでしまうのは驚異です。FSQ85/106も同様で、これらを冷却CCD/CMOSと組み合わせるともの凄く短時間に素晴らしい写真が撮れそうな予感がします。
 RASA8のF2とASI294の組み合わせは別格で、ほどほどの画素倍率でありながら畜光力5超えは威力があります。

・ケーススタディ③ 長焦点の雄、C11
 さすがの大口径、長焦点で、画素倍率の高さは比類ないものがあります(C14はありますけど)。しかし、小さくなってしまう畜光力と要求されるガイド精度を考えると、冷却CCD/CMOSを使う以外にチョイスが難しいようにも思えます。
 長焦点望遠鏡にはやはり冷却CCD/CMOSを使って感度を補いつつ、高い解像度を活かすのが吉であるように見えます。(大画素のものをつかうと、より小さな鏡筒との差を見出しにくくなりそうです)

望遠鏡と撮像センサーの組み合わせと「解像力」「畜光力」「画角(写野)」の比較

こうして色々比較して考えてみると、やはり冒頭の「自分に合った組み合わせを探しましょう」というお経にも、一定の含蓄が込められていたということが分かります。ショップの店員さんも、むやみに散財を誘っているわけではないのです。
 ですが、数字にして比較してみると、自分が狙っている機材が目的に合ってるのかどうかが多少なりとも見えてくるわけで、煩悩多きこの季節に、学問を勧める諭吉先生にも多少は顔向けできるんじゃないか、とか思っております。

コメント

タカsi さんの投稿…
こんにちは。
難しい理論はよくわかりませんでしたが、なんとなく私の為に記事を書いて下さっているような気がしてならず(勝手に思っているだけです)、興味深く拝見しました^^
特に、蓄光力の比較表、面白いです。
ε-180ED+6Dは5.56ですか!随分光を溜め込む組み合わせなんですね。
という事は、光害地で蓄光力が高い組み合わせの機材を使うと、すぐに飽和してしまってS/N比がなかなか上がらないという事なんでしょうか。
そういえば、昨夜は蓄光力0.14の組み合わせで、明るい空を撮っていました(笑)
大変為になりました。ありがとうございますm(__)m
Lambda さんの投稿…
コメントありがとうございます。
決してどなたかを意識してはいなくて自分のため、だったのですが、カメラと光学系の組み合わせはリアルにいい機材を駆使されている方々のを参考にさせていただいてしまいました。

蓄光力は、カメラそのものの感度の話もあるので直接的ではないのですが、5.56はかなり強力です。
S/Nは、光量が大きい分だけ有利だと思います。
確かに飽和はしやすいですが、その分短時間で十分な露光が得られるので、枚数が稼げてスゴイ写真につながりやすいということだと思います。
蓄光力0.14は、冷却の威力を借りて初めて成立する世界かも知れませんね。だいぶ丁寧な操作が要求される世界だったんだなあ、と、改めて感心してしまいました。
山口のじぃ さんの投稿…
またすごいデータを作られましたねぇ!?
天体撮影界における永久保存版ですやん!(売れるッ!)
が、数字が並ぶと目眩がする山口のじぃで、ガス!(笑)
なので、畜光力だけに注目させてもらいましたッ!
とりあえず所有機材を見たら・・・グスン!(笑)
解釈方法がよく分からないので、保存して勉強します!
ありがとぉございますぅ!
しっかし・・・Lambdaさんの次期カメラが見えたことは
確かで、ガス!ははっはははっはははは!!
Lambda さんの投稿…
こんばんは!
私も並んだ数字を見てたら、曼荼羅に見えてきて、「ナンマンダブ」という簡易版のお経がありがたく思えてきたのであります!
さて、蓄光力の小さい機、使いこなすのには実力が要るってことだと思います。十分な露光と枚数を与えてやると、なにかまた解脱した世界があるんじゃないかと思われます。
私の狙うカメラ、、、さて、けっこう真面目に迷っております!迷ってるうちに世代交代しちゃうかも、、、デス。