衝撃!筒内気流除去の術

シーイングのせいとされてきた像の乱れのうち、結構な部分を除去できたぽいです。私の人生でこんなに惑星が良く見えた日はありません。必要投資額はわずか数百円ですが、これまでのいかなる高級機材導入よりも感動する結果になりました(いや私、あんまり高級機材買ってませんね, スミマセン)。
 この対策は、惑星観察者はもちろん、観望されるだけの方も、ディープスカイの撮影をされる方にも、全ての望遠鏡に効果があるものと思われます。
 ガリレオ、ケプラー、ニュートンの時代から既に400年前後が経過していますが、長年にわたって見過ごされてきた事実への超ローテク対策が、私のような底辺アマチュアにも美しい天体像をもたらしてくれることに感謝せねばなりません。
と、同時に、どうやら、世の多くの望遠鏡がロクでもない劣悪な状態で使われていた疑いも浮上してきました。ミューロンだろうがツアイスだろうが、その性能を存分に発揮する機会が奪われていた疑いも濃厚です。既に万全の筒内気流対策で良像を得ておられるベテランの方にとっては改善しろが小さいかもしれませんが、一考の余地はあるのではないかと思います。

眼視ではもっと断然クリアに美しく見えていました
写真がヘタクソですみません(汗)、惑星写真は2回目なのでご容赦を…
20cm/F5反射, 拡大撮影SR4mm, EOS60D, ISO6400, 約1800枚スタック
2019.05.18 01:15頃

■ 素晴らしい効果
 この写真は、手持ちのSE200N鏡筒に対策を施し、ラムスデンアイピースで拡大撮影した木星です。昨夜は雲が発生したり通過したりするような不安定な状況で、特別シーイングが良かったとは思えないコンディションでした。
土星も撮ってみました
やはり眼視の方が断然よく見えました
ヘタピーなピンボケ写真は駄目ですねトホホ
確かに上空の気流は荒れているのですが、新しい筒内気流対策のおかげで像そのものはクリアに見えていました。望遠鏡の分解能が2ランクくらい上がった感じです。
 眼視では、かつて経験したことのない恐ろしくクリアな像、つまりベテランの方が撮る高精細な写真のような像が見えいて、まさに初めて月や土星を見た時のような感激があり、天候がイマイチの中、何時間にもわたって眺めてしまいました。
対策を施した望遠鏡で見る木星には、大赤班自体の濃淡や周りのウジュルジュルした複雑で微細な模様がハッキリと見え、衛星が落とした影が美しいコントラストで見えました。土星もシーイングが悪いはずの低空でしたが、カッシーニの空隙はもちろんクッキリと見えましたし、環と土星本体の立体感や縞模様の濃淡までハッキリ観察できたのです。
 こうして、これまで観望会も含めて覗いてきたどんな望遠鏡の像よりも素晴らしいものを拝むことができたのでした。そして繰り返しになりますが、これはわずか数百円の対策で可能です。

■ 対策は "鏡筒のホイル包み"
鏡筒のホイル包み(食べられません)
理屈はともあれ結論だけ言ってしまうと、対策は温度慣らしが一通り終わったら銀色シートを巻いて鏡筒の放射冷却を防ぐ、というごくごく簡単なものです。(シートを巻いて30分くらい放置するとほぼ大気と筒の温度が落ち着くようです)
 銀色シート自体は空気との温度順応を考えると薄手のものがよく(*)、防災グッズとして売られているペラペラのやつが多分最良のように思います。
 この対策は、夜露の対策で計算をしていたら、これをしないで使っている望遠鏡の筒内気流がトンデモないことになっているという驚倒の計算結果を得てしまって、気が付いたものです。
 しかも「上空の気流のせい」とされていたものの内、かなりの部分が筒内気流のせいだった疑いが濃厚です。確かに上流の気流で像は乱されているものの、それは今まで見ていたものとはだいぶ質の違う乱され方でした。
 これまで多くの望遠鏡は、長らく実力を発揮する機会を与えられずにいたんじゃないのかと思います。少なくとも私の望遠鏡はそうでした。

*補足説明:銀色シートは空気との断熱のために巻くのではありません。放射冷却を防止するために巻きます。空気との熱交換はむしろ促進された方が温度順応し易くなりますので、放射冷却だけを防いで空気との熱交換を阻害しない薄手のシートが最良だという結論です。
 一方で、本当に外気に順応させるのが最善なのかどうかは議論の残るところです。外気にどうやって順応していくのかという過程を考えると、それは筒内気流によって熱伝達が行われて順応していくわけですから、温度なんか外気と違っていても筒内が安定している方がいいという場面は十分にあり得ます。外気温がどんどん変化していくような場面では、「温度順応したほうがいい」という教義自体も含めて、今後の検討を要する部分です。

■ 本当に上空の気流のせいなの?
 日本では「ジェット気流によるとかいうシーイングのせいで良像は得にくい」とかなんとかいうのが入門書の教義です。もちろん、上空の気流が像を乱しているのは間違いないことなのですが、ベテランの方々のスゴい惑星写真を見ていると、あのくらいの解像度までは日本のシーイングでも解像できるということを示していて、その落差が何なのかは謎でした。自分の望遠鏡が悪いのかな?と、半ばあきらめの境地だったわけです。
そんな中で、何でもかんでもジェット気流のせいにするのは、ちょっと違うかもな?と、違和感は感じていました。今回の実験では、像の劣化のけっこうな部分が上空の気流ではなく筒内気流のせいだということが見えてきました。とにかく対策すると、ユラユラしてても像はクリアなんです。

 だいたいそもそも論として、「気流のせいで像が乱れる」という教義からして正確さに欠ける話ではあります。空気自体の動きは見えたりしませんし、像にも影響しません。例えば新幹線に乗って300km/hで走っていたって、外の景色がぼやけたりはしないわけです。一方で夏のアスファルトからは陽炎が見えますが、べつに地面付近で300km/h以上の剛速球な気流が吹き荒れているわけではありません。
 像を乱している本質は、気体の密度変化です。温度変化によって空気の密度が変わると屈折率が変わるので、これは像に影響するわけです。上空の気流が影響がするのは温度が入り混じる層が動いているときで、必ずしも気流の速さとイコールではありません。
 鏡筒の内部に生じる「筒内気流」も、もちろん新幹線より速いわけはありません。問題は筒の中で密度差が生じて動き回ることで、これが屈折率の変化をユラユラと動かして像を乱すことになります。
 
■ 驚愕の計算結果。
 一般には、筒内気流は「温度順応できていない主鏡の熱によって立ち上る気流」が原因だとされています。そして、主鏡がなかなか温度順応しないのだとお悩みの声は各所で拝見しました。
 でも、そんなにゆっくりしか放出しない熱のせいであんなに激しく像が乱される気流(密度差)が生じるのかというのは甚だ疑問だったんです。僅かな温度差では、きれいな層流しかできないというのが流体力学の理論です。
 それで夜露対策の時の計算で、鏡筒の「筒」からの放射冷却が強烈な筒内気流を発生させている、という事実にたどり着いてしまったのです。
 鏡筒からどのくらいの熱が奪われているのか、と、秘奥義によって計算してみると、うちの20cm反射鏡筒ではなんと200W(ワット)超にも達するという驚倒の数値だったのです。実際には地面からやってくる遠赤外線があるのでトータルではそこまで達しないにせよ、こんなの無視できません。そりゃまあ、こんなに放熱してたら夜露だってつきまくるわけです。
 人間の体温が全身で100W程度ですから、鏡筒に抱きついて全力で温めるのよりずっと影響が大きいレベルです。あるいは鏡筒を下から200Wとかのハロゲンヒーターで温めながら覗いてるようなインパクトがある、ということです。これと比べたら、主鏡に残留している1℃未満の温度差なんて誤差みたいなものです。
 鏡筒内では、天に向かう放射で冷えた鏡筒の上面で空気が冷却され、場合によっては湿気も失って激しく密度を変えながら鏡筒の下方に移動し、下方の空気は上に移動するという対流と陽炎を生じていたわけです。
 なんとなく…「透明度の悪い日はシーイングが良い」的な生活の知恵も、ぢつは放射冷却が少なくて筒の中が落ち着いている、という話だったんじゃないかという気もしてきます。

■ 鏡筒の熱は大問題
 筒内気流というと、温度順応できてない温かい物体が問題という先入観がありましたが、実は冷えている鏡筒こそ、そのままでは永久に温度順応などしない悪の枢軸だったのです。
 望遠鏡で結像する光の多くが口径の外周部からやってくるという事実も、この問題を大きくしています。なんせ、口径の1/8の幅の薄い外周部分が全集光量の4割強を占める上、そこが分解能のカナメなのですから、鏡筒内面近傍の流動が影響甚大なのは想像に難くありません。20cmの望遠鏡なら、鏡の外周の幅2.5cmの部分が像を作る光量の半分弱なんです。
 屈折望遠鏡でも当然この影響を受けています。たとえば6cmの屈折望遠鏡だと、僅か幅7.5mmの外周部から来る光が全体の半分弱です。で、そこは放射冷却でガンガン流動が発生している、と。
 そして太い鏡筒の大口径反射では200Wどころでは済まない焼肉の鉄板みたいなエネルギーになるわけで、光路通過が往復2回もあるので影響甚大です。3回の光路通過があるカセグレン光学系も、更に影響大でしょう。

※訂正: 「口径の1/8の薄いエリアで全集光量の半分」と当初記載しておりましたが、不正確でしたので本文の表現を訂正しました。正確には全集光量の44%ほどになります。

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 さて、いずれにせよ鏡筒の放射冷却にまつわる事実が分かってしまった以上、観察/撮影時には前述のように鏡筒をホイル包み状態にしない選択肢はありません。
 これから先、メタリックでピカピカな鏡筒な望遠鏡が主流になる日も、ないとは言い切れないなあ、と思ったのでした。(まさかとは思うけど、昔のテレビューの鏡筒が金ピカだったのはこのため…じゃないよな??)

 皆様が、眼視や写真で良像を得られる平和な日々が訪れることを、心よりお祈り申し上げております。

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コメント

  1. 遂に「王様は裸だよっ!」って言いましたねぇ!?(笑)
    従来の偏頗な入門書に対するアンチテーゼで、ガスねぇ!テヘッ!
    Lambdaさんの既成概念に捉われない実践力!敬服で、ガス!
    わくわくドキドキしながら読ませて頂きましたッ!あざ~す!
    高校時代に月着陸船のたった0.3mmの壁、金色のシートで宇宙温度から
    燃料を護っていたのが疑問でした!やっと夜眠れます!ははっはは!!
    って、赤猫君に金色・銀色は躊躇しますので、反射鏡筒に使ぉおと、
    しっかし、反射も赤と黒なんですよねぇ!?困ったこまった!
    はははっはははっはははっは!!

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    1. コメントありがとうございます!
      王様が裸だったので、銀色の衣装を着せちゃいました。
      じつは今回の発見(?)で、私もすごくドキドキしながら望遠鏡を覗いてました。
      ガリレオとかもそうだったんだろうなー、と思います。
      私、入門書が悪者みたいに書いちゃうときがあるんですけど、しょうがないんですよね。
      むかしはハレー彗星が来たら毒ガスで人類全滅だとか思われてたんですから。

      さて、銀色シート、短焦点ではあまり必要ないかもしれません(夜露以外)。そこはデザイン重視上等じゃないでしょうか!?
      じつは効果があるのは…ガイド鏡だったりするかも、と妄想中です。
      (シンチレーション的なものが減って精度UP、と)。

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  2. 初コメ失礼します!
    鏡筒をホイル包みにするだけで筒内気流をシャットアウトできてしまうという説、素晴らしくセンセーショナルで、魅力がありますね。速攻でシートをポチり、我が15cm白ドブに巻き付けてしまいましたが、生憎の梅雨でろくに観測ができません…。そうなると試行錯誤が捗るわけで、色々考えていたのですが、結果こういう結論になりました。まあ、わざわざ言うまでもないような気もしますが…。

    そもそも、鏡筒素材に由来する筒内気流とは、筒の内壁が筒内の空気を温めるか冷やすかすることで生じるものである。であれば、鏡筒内壁での空気との熱のやり取りを遮断してやればその影響は無くすことができる。熱のやり取りには、空気との接触面での熱伝達と、放射による伝達があるが、放射によるやり取りを無視すれば、迷光処理の下地に断熱材を配置することでこれを断ち切ることができる。

    もっとも、調べてみると鏡筒の内壁に断熱処理を施すというアイディアはネット上にも見られますし、ホイル包み作戦の方なら鏡筒の夜露対策も兼ねているわけなので、別に大した発見ではないのですが…。

    ついでに言えば、今は主鏡温度を外気温より下げて乱流を防ぐ方法として、濡れタオルと携帯扇風機を使う方法も検討中です(笑)。こちらは、急冷により鏡面の精度に影響を与えないか、というところがポイントでしょうか。

    それにしても、小型望遠鏡での眼視観測が学問的な意味を持たない現代でも、こうして宇宙を少しでも良く捉えようと工夫するのはとても楽しいですね。限られた資材、技術でどこまで宇宙の姿に迫れるか。こう考えてみると、エコノミー天文趣味とは、かつて歴代の天文学者がしてきた試行錯誤の日々を追体験しているといっても過言ではありませんね(過言か)

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    1. コメントありがとうございます!
      実際にお試しされた上での試行(思考?)錯誤、大変興味深いです。

      古今、断熱の方法というのは数多くあるのですが,断熱とは何かということを考えたときの私の答えは「温度差をなくす」ことかなあ、と思っています(断熱境界条件というやつです)。

      鏡筒を断熱するというのはよく見かけるのですが、その多くは鏡筒内での対流熱伝達を抑制という方向性かな、と思っています。
      やり方はいくつかあるのですが、私の方法はそもそも論として「冷やさない(温度差を極小にする)」方向性で、ある種の完全断熱条件をめざしているかなあ、とか思っております。

      まあ、「エコノミー天文趣味」は、個人的な思考実験を実践してみて、私のような面倒くさがりでもなるべく苦労せずに星を眺めるというところが主眼です。ただ、いろいろ考えていくうちに、私が信じ込んでいたことが随分真実からズレてるなあ、というところも楽しんでおります。

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  3. 素晴らしい実験結果ですね。
    自分は以前50cmのトラス鏡筒にシュラウドを巻かずに使用していましたが、何となくその方がいいような気がして程度の理由でした。ひょっとしたら、このほうが筒内気流の影響を受けなくて済むのでしょうか。
    あと、今は30cmのボイド管鏡筒を使っているのですが、これだと金属鏡筒に比べて放射冷却の影響も少なくて済みそうでしょうか?

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    1. シベットさん、コメントありがとうございます!

      ご指摘の通り、薄いシュラウドは筒内気流を作ります。
      放射冷却でシュラウドが冷えて、それが内側にも伝わるからです。
      50cm鏡筒ですと、kW級に近いかもしれません。
      シュラウド無しですと風も通り抜けますが、そこに温度ムラがなければ像への影響はありません(体温は影響するかもしれないですね)。

      ボイド管は熱伝導率が低めで厚さもありますから、金属鏡筒よりは影響が小さいと思います。筒の内面よりも外表面での伝熱の寄与が大きくなると思われます。筒が冷え切ってしまうと影響が出ると思いますが、金属筒より影響は小さそうです(一旦冷えるとしばらくは戻らないと思いますが)。

      #SRの件でも議論ありがとうございました。 結局、単レンズを試してしまいました (笑

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    2. Lambdaさん、さっそくのご返信ありがとうございました。
      アメリカのスターパーティに行ったとき、ほとんどのトラス鏡筒にシュラウドが巻かれておらず、それのマネで「形から入った」自分ですが、ずっと巻かない方がよく見えるような気がしてました。裏付けが得られてうれしいです。
      ボイド管鏡筒も自分のように数十分しか望遠鏡を出さない者の用途にはよさそうですね。
      以前、5cmハーシェルニュートンを作ったときに、銀色のカッティングシートを塩ビ鏡筒に貼り付けたのですが、ボイド管にも同じ方法が有効かもしれません。

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    3. おお!
      無遮蔽ハーシェルニュートンですね。
      俄然興味が湧いてきます。
      銀色カッティングシートの効果と相俟ってか、ものすごい鋭像ですね。火星の模様も分かるとは!

      同様の効果は、ボイド管でも有効だと思います。
      ただし、順応時間が余計にかかるようになってしまいますので、そこの兼ね合いは考えどころかもしれません。

      ※現在の私は銀色シートをマグネットで脱着しています。
       順応時=野ざらし
       観察時=シートで覆う

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