望遠鏡設置の時間ロスを減らすというお題目で、極軸合わせがラクになるようにちゃんと調整しよう、と思い立ったのでした。赤道儀のポーラーアライン機能やスマホアプリでの北極星の時角計算がなくても正確なアナログ極軸合わせができるようになっておく、ということことのご利益はあります。
ということで、今更ながら「極軸望遠鏡の調整方法と使い方」を整理して、備忘録として手順を記録してみました。
(※光軸調整と目盛環調整法です。内容はありきたりです。)
最初からポールマスター使えば、とか、PHD2のポーラーアライン機能を使えよ、というのは至極ごもっともなご意見です。ただ、あくまでも今回は「手軽な割にはそこそこ正確に」という方向性で極望に目を向けたのでした。撮影向けにより正確に合わせる近代的な方法については、また別途いろいろ試してみたいと思います。
個人的には目的は2つで、一つは赤道儀のアライメントを含めたセットアップ時間の短縮です。初期の極軸合わせの正確さは、いろいろな面倒を軽減してくれる期待感大です。
二つ目は、これから来たるべき2020年の火星シーズン到来に向けて、高倍率の惑星観察で赤緯修正の必要が無い状態を手軽に作りたい、というところです。(特に単レンズを使った惑星観察では極軸合わせが極めて重要なのであります。そんなの私だけでしょうけど…。)
■ 極軸望遠鏡の光軸合わせ
ここで敢えてご紹介するまでもない基本なのですが、極軸望遠鏡(極望)の光軸と極軸の合わせ方をおさらいしてみたいと思います。
ここに書く極望の光軸合わせの方法は、極軸望遠鏡が極軸と共に回転するタイプの赤道儀で有効です。私が使用している赤道儀は、セレストロンの Advanced GT赤道儀です。おそらく、この赤道儀のコピー元とも言われる VixenのGP赤道儀やその前身のSPの極軸望遠鏡も同様と思われます。
(1) 光軸ズレの確認
遠方(1km程度以上)の目標物を極軸望遠鏡で導入し、パターンの十字線中央にくるように上下左右の微動で調整します。この状態で赤経軸のクランプを緩め、ぐるっと回します。
赤経軸を回して十字線の中心からズレるようであれば、赤経軸と極望の光軸が合っていないということです。
(2) 光軸の調整
ズレが確認出来たら、調整です。極軸望遠鏡のレンズの近くに3方向から調整する調整ネジが付いていますので、これを使って調整します。
注意しなければならないのは、AGT用の極望の調整ネジはプラスチックの部品に取り付けられているということです。少し強く締め込むとネジがバカになってしまうので、要注意です(私はプラスチックだとは考えずに締めてしまい、壊しました。)。
調整のポイントは、調整量を十字線中心までの半分にするということです。ズレてる量を全て合わせてしまうと、また赤経を回転させたときに同じだけズレてしまいます。
このようにして、赤経軸を回しては半分調整、というのを繰り返して、赤経軸を回しても対象物が常に十字線上に来るようになったら光軸調整は完了です。
■ 極軸望遠鏡のパターン位置合わせ(AGT赤道儀の場合)
極望がきちんと仕事をするためには、極軸望遠鏡のパターンが正しく北極星の位置を示してくれることが大切です。北極星は点の北極の周りを周回していますから、極軸合わせの時刻にどの回転位置にいるか、ということが分からないと極軸合わせは出来ません。
北極星の回転方向の位置は、スマホアプリなどを使って調べることもできますが、AGT赤道儀のように北極星オンリーで他の恒星を使わずに合わせるタイプの極望パターンの場合、実際の極軸望遠鏡のパターンが正確にスマホが示した方向を向いてくれるかどうかが曖昧になってしまいがちです。
そこで、極望パターンの「回転方向位置合わせ」をきちんとしてやって、日付と時刻を赤道儀の目盛で合わせると、あとは極望のパターンに北極星を合わせるだけ、となります。
※極望パターンや、回転方向の目盛の合わせ方は、機種によって異なります。ここでは、セレストロンのAdvanced GT(AGT)赤道儀での方法を紹介します(たぶんコピー元のVixen GP2やその派生品、前身となった機種も似ているとは思います)。
(a) Advanced GTの日付&時刻合わせ目盛
AGTの赤経軸についている目盛環は、RAと書いてあるのに赤経軸と一緒に正しく回ってはくれない謎設計で、赤経目盛環としてはタダの飾りです。
バーニヤまで付いているこの目盛環には赤経目盛としての能力は無く、極軸合わせ用の時刻合わせ目盛だと考えるべきもののようです。極軸望遠鏡についている目盛環と合わせて、日付と時刻を設定するためのものです。
この(赤経風)時刻合わせ目盛環の固定クランプがついていますが、目盛環の0時とクランプ位置を合わせたところでだけ締め込んでよい設計になっていますので、この位置でクランプを締めておきます(違う位置でクランプすると赤経軸にクランプがかかるという、いにしえの御三家のビックリの設計です)。
(b) 目盛環(日付環)の位置を合わせる
目盛環位置調整の考え方はただ1つ、「極望のレチクルパターンが北極星の南中を示すように赤道儀をセットしたときに、目盛環も北極星の南中時刻を示すようにセットしておく」ということです。
目盛環の設計自体がアレな赤道儀ですから、買って来た時の状態が合っている保証なんて無いと思った方が無難です。(この位置合わせは、極望と極軸のネジのかみ合いやどこで締め込みが止まるかというところに依存していますから、出荷時に調整が為されない限り合っていないはずです。)
一度合わせておけば、次回からはやる必要はありません。
極望目盛環の調整手順は次の3ステップです。
(事前に、前述の目盛環の所定位置でのクランプが必要です)
(b)-1 極望のレチクルパターンを「北極星南中相当に」セット
極軸望遠鏡を赤道儀にしっかり固定した状態で赤経軸を回転させ(機種によってはレチクルパターンを独立して回し)、極望を覗いた時のレチクルパターンが「北極星が南中したときのパターン」になるようにします。
極望は倒立像ですから、北極星が来るべき場所が、鉛直真下にくるようになっていればOKです。
私は、極望のアイピースから少しだけ目を離し、十字線の延長が赤道儀の垂直微動ネジの中心に来るように合わせました(遠くの鉄塔などで合わせる場合には、架台の水平に気を付ける必要があります)。
(b)-2 極望の目盛環(日付環)を「南中日時」にセット
極望側の日付目盛環を回して、極軸側についている時刻目盛との組み合わせで「北極星が南中する日時」に合わせます。南中時刻は、観測地点での南中日時で構いません(*)。たとえば東京であれば 10/31の0時は北極星の南中日時の一つで、赤道儀の目盛環を合わせやすい時刻です。
*経度補正目盛はあくまでも相対的なものですので、南中時刻や経度補正0°の位置を日本標準子午線(明石市)にこだわって調整する必要はありません。
(b)-3 指標線をセット
基本的に(b)-2までで目盛環の設定は完了なのですが、なにかの拍子に目盛環がズレたときの素早い修正のために、指標線をセットしておきます。この設定は、遠征で大きく経度が違う地へ行くときに経度補正目盛を使えるというメリットも生みます。
指標線はAGTの極望ではネジ止めされた黒いリングで、白い線が入ったものです。これのネジを緩めて、黒リングの白線と日付間の「E20 … 0 … W20」と書いてある真ん中の線とが合うように黒リングを回し、固定します。
いざ、目盛環がズレてしまったときには、この指標線を頼りに直します。また、経度が異なる土地に遠征したときには、その経度のズレ分だけ「E20…W20」の経度補正目盛を使って目盛環を補正します。
■ 実際の極軸合わせ
以上のように極軸望遠鏡の光軸や目盛環をきちんと合わせておけば、比較的短時間でそれなりに正確な極軸合わせを終えることが出来ます。
実際の場面では、日付&時刻目盛が現在日時を示すように赤経軸を回せば、極望のレチクルパターンは北極星の位置を表すことになります。あとは極望を覗いてここに北極星を置くだけです。
なお、北極星は年々移動していますので、正しい情報を入手して天の北極から何分角の距離の位置に北極星を置けば良いかを考慮して合わせると、より正確です。
(点の北極からの距離: 2020年:39' 、2030年:36'、2040年:34')
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と、いうわけで、これで安心してお気楽な極軸調整が行えるようになったのでありました。そして本日は、このセッティングでシリウスの伴星にもチャレンジ。正確な極軸あわせのおかげで、高倍率でもビシッとシリウスを中央に捉えてくれたのであります。
(余談: シリウスBは、XO5、HR2.4、TOE3.3、Radian4 のいずれでも確認できましたが、倍率が高い方が見やすく感じられました。「Radianは重星に向く」とのウワサ通り、シリウスのギラギラの向こう側が安定して暗い星がよく見える感じでした。)
ということで、今更ながら「極軸望遠鏡の調整方法と使い方」を整理して、備忘録として手順を記録してみました。
(※光軸調整と目盛環調整法です。内容はありきたりです。)
最初からポールマスター使えば、とか、PHD2のポーラーアライン機能を使えよ、というのは至極ごもっともなご意見です。ただ、あくまでも今回は「手軽な割にはそこそこ正確に」という方向性で極望に目を向けたのでした。撮影向けにより正確に合わせる近代的な方法については、また別途いろいろ試してみたいと思います。
個人的には目的は2つで、一つは赤道儀のアライメントを含めたセットアップ時間の短縮です。初期の極軸合わせの正確さは、いろいろな面倒を軽減してくれる期待感大です。
二つ目は、これから来たるべき2020年の火星シーズン到来に向けて、高倍率の惑星観察で赤緯修正の必要が無い状態を手軽に作りたい、というところです。(特に単レンズを使った惑星観察では極軸合わせが極めて重要なのであります。そんなの私だけでしょうけど…。)
■ 極軸望遠鏡の光軸合わせ
ここで敢えてご紹介するまでもない基本なのですが、極軸望遠鏡(極望)の光軸と極軸の合わせ方をおさらいしてみたいと思います。
ここに書く極望の光軸合わせの方法は、極軸望遠鏡が極軸と共に回転するタイプの赤道儀で有効です。私が使用している赤道儀は、セレストロンの Advanced GT赤道儀です。おそらく、この赤道儀のコピー元とも言われる VixenのGP赤道儀やその前身のSPの極軸望遠鏡も同様と思われます。
(1) 光軸ズレの確認
遠方(1km程度以上)の目標物を極軸望遠鏡で導入し、パターンの十字線中央にくるように上下左右の微動で調整します。この状態で赤経軸のクランプを緩め、ぐるっと回します。
赤経軸を回して十字線の中心からズレるようであれば、赤経軸と極望の光軸が合っていないということです。
(2) 光軸の調整
ズレが確認出来たら、調整です。極軸望遠鏡のレンズの近くに3方向から調整する調整ネジが付いていますので、これを使って調整します。
注意しなければならないのは、AGT用の極望の調整ネジはプラスチックの部品に取り付けられているということです。少し強く締め込むとネジがバカになってしまうので、要注意です(私はプラスチックだとは考えずに締めてしまい、壊しました。)。
調整のポイントは、調整量を十字線中心までの半分にするということです。ズレてる量を全て合わせてしまうと、また赤経を回転させたときに同じだけズレてしまいます。
このようにして、赤経軸を回しては半分調整、というのを繰り返して、赤経軸を回しても対象物が常に十字線上に来るようになったら光軸調整は完了です。
極軸望遠鏡の光軸合わせの様子 |
■ 極軸望遠鏡のパターン位置合わせ(AGT赤道儀の場合)
極望がきちんと仕事をするためには、極軸望遠鏡のパターンが正しく北極星の位置を示してくれることが大切です。北極星は点の北極の周りを周回していますから、極軸合わせの時刻にどの回転位置にいるか、ということが分からないと極軸合わせは出来ません。
北極星の回転方向の位置は、スマホアプリなどを使って調べることもできますが、AGT赤道儀のように北極星オンリーで他の恒星を使わずに合わせるタイプの極望パターンの場合、実際の極軸望遠鏡のパターンが正確にスマホが示した方向を向いてくれるかどうかが曖昧になってしまいがちです。
そこで、極望パターンの「回転方向位置合わせ」をきちんとしてやって、日付と時刻を赤道儀の目盛で合わせると、あとは極望のパターンに北極星を合わせるだけ、となります。
※極望パターンや、回転方向の目盛の合わせ方は、機種によって異なります。ここでは、セレストロンのAdvanced GT(AGT)赤道儀での方法を紹介します(たぶんコピー元のVixen GP2やその派生品、前身となった機種も似ているとは思います)。
(a) Advanced GTの日付&時刻合わせ目盛
極軸望遠鏡周辺の目盛と指標線 |
バーニヤまで付いているこの目盛環には赤経目盛としての能力は無く、極軸合わせ用の時刻合わせ目盛だと考えるべきもののようです。極軸望遠鏡についている目盛環と合わせて、日付と時刻を設定するためのものです。
この(赤経風)時刻合わせ目盛環の固定クランプがついていますが、目盛環の0時とクランプ位置を合わせたところでだけ締め込んでよい設計になっていますので、この位置でクランプを締めておきます(違う位置でクランプすると赤経軸にクランプがかかるという、いにしえの御三家のビックリの設計です)。
(b) 目盛環(日付環)の位置を合わせる
目盛環位置調整の考え方はただ1つ、「極望のレチクルパターンが北極星の南中を示すように赤道儀をセットしたときに、目盛環も北極星の南中時刻を示すようにセットしておく」ということです。
目盛環の設計自体がアレな赤道儀ですから、買って来た時の状態が合っている保証なんて無いと思った方が無難です。(この位置合わせは、極望と極軸のネジのかみ合いやどこで締め込みが止まるかというところに依存していますから、出荷時に調整が為されない限り合っていないはずです。)
一度合わせておけば、次回からはやる必要はありません。
極望目盛環の調整手順は次の3ステップです。
(事前に、前述の目盛環の所定位置でのクランプが必要です)
(b)-1 極望のレチクルパターンを「北極星南中相当に」セット
南中相当の極望レチクルパターン (Celestron 旧型) |
極望は倒立像ですから、北極星が来るべき場所が、鉛直真下にくるようになっていればOKです。
私は、極望のアイピースから少しだけ目を離し、十字線の延長が赤道儀の垂直微動ネジの中心に来るように合わせました(遠くの鉄塔などで合わせる場合には、架台の水平に気を付ける必要があります)。
(b)-2 極望の目盛環(日付環)を「南中日時」にセット
極望側の日付目盛環を回して、極軸側についている時刻目盛との組み合わせで「北極星が南中する日時」に合わせます。南中時刻は、観測地点での南中日時で構いません(*)。たとえば東京であれば 10/31の0時は北極星の南中日時の一つで、赤道儀の目盛環を合わせやすい時刻です。
日付環を回して、北極星の南中日時に合わせます |
*経度補正目盛はあくまでも相対的なものですので、南中時刻や経度補正0°の位置を日本標準子午線(明石市)にこだわって調整する必要はありません。
(b)-3 指標線をセット
極軸望遠鏡の指標線 (時刻環の目盛が飾りバーニヤの方を 向いてるのが難点です ...) |
指標線はAGTの極望ではネジ止めされた黒いリングで、白い線が入ったものです。これのネジを緩めて、黒リングの白線と日付間の「E20 … 0 … W20」と書いてある真ん中の線とが合うように黒リングを回し、固定します。
いざ、目盛環がズレてしまったときには、この指標線を頼りに直します。また、経度が異なる土地に遠征したときには、その経度のズレ分だけ「E20…W20」の経度補正目盛を使って目盛環を補正します。
■ 実際の極軸合わせ
以上のように極軸望遠鏡の光軸や目盛環をきちんと合わせておけば、比較的短時間でそれなりに正確な極軸合わせを終えることが出来ます。
実際の場面では、日付&時刻目盛が現在日時を示すように赤経軸を回せば、極望のレチクルパターンは北極星の位置を表すことになります。あとは極望を覗いてここに北極星を置くだけです。
なお、北極星は年々移動していますので、正しい情報を入手して天の北極から何分角の距離の位置に北極星を置けば良いかを考慮して合わせると、より正確です。
(点の北極からの距離: 2020年:39' 、2030年:36'、2040年:34')
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と、いうわけで、これで安心してお気楽な極軸調整が行えるようになったのでありました。そして本日は、このセッティングでシリウスの伴星にもチャレンジ。正確な極軸あわせのおかげで、高倍率でもビシッとシリウスを中央に捉えてくれたのであります。
(余談: シリウスBは、XO5、HR2.4、TOE3.3、Radian4 のいずれでも確認できましたが、倍率が高い方が見やすく感じられました。「Radianは重星に向く」とのウワサ通り、シリウスのギラギラの向こう側が安定して暗い星がよく見える感じでした。)
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