惑星向けアイピース見比べ2020 - 表面模様&キレ味編

惑星観望シーズン到来、ということで昨年から蒐集してしまっていた高倍率アイピースを、改めて比較してみました。この2020年の梅雨は7月一杯まで続くほどの長さで晴れ間も無かった分、梅雨明け後の晴天で惑星観望を楽しんでおります。

 比較するアイピースは、Carl Zeiss Jena(CZJ) 4-O、TeleVue Radian 4mm、Takahashi TOE 3.3mm、Vixen HR 2.4mm、PENTAX XO 2.5XO 5XP 3.8、Celestron X-Cel LX 2.3mm の8本で、それなりのアイピースの比較となるかとは思います。
(その他アイピースについては、昨年の比較記事もご参照ください。上記のラインナップでの惑星同時見比べは、今回が初めてです。※この後、TMB SuperMonoはじめいくつかのアイピースを追加レビューしました。

 これらの多くは、既にシリウス伴星での比較を行っていますが、重星の見え方と惑星面の見え方の良し悪しとは必ずしも一致しません。シリウスの伴星を見るような場合には収差補正の良し悪しのほかに極限等級的な部分も大きく影響するのに対し、惑星面の観察では似たような輝度のグラデーションで細かい部分が見えるかどうかが問題になり、後者は必ずしも収差補正だけで語れないのが難しいところです(単レンズが良く見えるという現象が実際にありました)。

 なお、今回初お目見えの Celestron X-Cel LX は、ややエコノミーな価格で入手可能なダークホースで、後述のようにかなりな実力でありました。

"キレ味"の評価は土星の環にて行いました。
実際の眼視イメージも大体こんな感じです (エンケさんのスケッチに似た感じに撮影できました)
(撮影: 2020.08.04, 20cm/F5 Newtonian, PowerMate 5x, Sv305)

■ 比較方法(キレ&表面模様)
フェストーンや大赤斑周囲の
様子を見て評価しました
(2020.8.3撮影)
 
 比較は「土星の環」と「木星および火星の表面模様」とを使って二晩かけて(*)どのアイピースもそれぞれの対象で2回評価して行いました。使用した鏡筒は 20cm F5ニュートンのSE200Nで、主鏡セルのツメを排除してあります。
(※1日目の結果をTwitterで速報していましたが、2日目はCZJ 4-Oの焦点位置での接眼筒の引っ込み量を減らすように工夫したり、ダブルチェック的に確かめたりしており、評価は速報時と若干前後しています。)

 像の「キレ味」は、土星の環の見え方で評価しました。カッシーニの空隙の見え方(全周にわたってのシャープさなど)や、その内外輪の明暗、およびエンケの隙間群(minima)の辺りに見える暗部の見え方などを見て評価しました。切れ味には、主に収差補正の良否が効いているように思います。
2020年は火星接近の年。
態勢整えて臨みたいところです。
(2020.8.4撮影) 
 「惑星面」の見え方は、火星・木星の表面模様を見て比較しました。木星表面については、大赤斑やフェストーン周囲の乱れの様子を細かく分離できているかどうか、コントラスト良く見えるかどうかといったところを主眼に置きました。火星表面では、表面の模様の細かい形や、極冠の周辺での濃淡の変化の様子に着目しました。微細な模様の解像には、主に回折環の明瞭さの良否(レンズの平滑度に起因か?)が効いているように思います。回折環の乱れが惑星面のコントラストに差をもたらすことは、反射式と屈折式での差のようなところかとも思います。


※なるべく偏見を持たないように観察した時の様子を描写したつもりではありますが、良し悪しは結局は主観での評価によるポエムですのでご注意ください。また、使用する鏡筒や眼の状態による個人差はあるものと思います。
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■ 短評 
※掲載順は良し悪しではありません。また、評価のABCは他の記事とは基準が異なります。どれも良く見える素晴らしいアイピースばかりですので、A+を下回るものはありませんでしたが、Aが国産オルソ、Bが凡庸な付属品プルーセル、というくらいです。A+以上のところは確かに違いは見えても、良いか悪いかの判断は主観(好み)によって変わってくるかもしれません。

・Celestron X-Cel LX 2.3mm
惑星表面: S-、切れ味:A+
 X-Cel LXは6枚構成のアイピースで、EDレンズを使っていたX-Celシリーズの後継です。60°の見掛け視界と、16mmのアイレリーフがある覗きやすいレンズで、高さ調整機構付きのアイカップがついています。
 このアイピースについては、「ネットに情報が少ないため "Sleeper"のレッテルを貼られているが、これを使用した観測者からの評判は一貫して大変高い」との記述があります。
 そういうわけで試してみましたが、特に惑星表面の模様に対する性能は大変優秀で驚きました。XO/XPなどと比肩すると思います。切れ味も大変優秀な部類であることに間違いはないのですが、他の超級アイピースと比較すると必ずしも抜群とは言えないと感じられました。

・Carl Zeiss Jena 4-O
惑星表面: A++、切れ味: S+
 大変シャープで、「他のアイピースよりもう一段階ピントを追い込める」と言われるゆえんがよく分かります。切れ味については、焦点距離の違いを差し引いて考えても、他のアイピースの追随を許しません。明確にナンバーワンだと思えます。例えば恒星像なら、ブラインド(?)でテストしても誰でも見分けられるレベルの違いがあると思います。
 一方で、ニュートン反射にとってはピント位置が内側(バレル径変換のせいもある)なのが鬼門で、接眼筒の筒内への張り出しが起こりやすくなっています。このせいかどうかは不明ながら、表面模様観察のコントラストはXO/XPと比較して僅かにゆずる部分となっています。たとえば木星面のフェストーン周辺の構造の見え方や大赤斑の中の構造で、XO 5や XP3.8 で見えているものが、CZJ 4-Oでは見えにくく感じられる部分がありました。
 とはいえ、相当によく見える部類には違いありません。

・Vixen HR 2.4mm
惑星表面: A+、切れ味: S
 昨年の頂上対決でナンバーワンと評価されたHRです。大変シャープで、土星の環の見え方が特に素晴らしいと感じられました。この切れ味に優れる性質は、昨年の頂上対決での人工星の撮像結果とも符合します。シリウス伴星を見たときの印象とは異なりましたが、惑星をカッチリ見るのに向いているようです。
 一方で、惑星表面の見え方(ヌケ)については昨年の眼視インプレでも比較した時と同じ感想でXO/XPと比較するとわずかに差があり、コントラストの面でもやや差を感じます。(差があるとはいえ、HRが大変良く見える部類であることには違いありません)
 惑星を見たときの色味はニュートラル(白色)に近い印象です。

・Takahashi TOE 3.3mm
惑星表面: A++、切れ味: S
 切れ味が大変鋭く、カッシーニの隙間が大変美しく見えるアイピースでした。HR同様に大変すばらしいものがあります(それより優っているかもしれない)。また、HRよりも1枚多いレンズ構成ですが、私の予想に反して惑星表面も大変よく見せてくれました。
 シリウス伴星対決でも極限等級の高さが示されましたが、新品で入手できるアイピースとしては随一の切れ味ではないかと思われます。
 惑星面も大変よく見えます。HR2.4mmとの比較では、ごく僅かだけ優っているように感じられました(火星のアリンの爪の先の割れ方や隣の地形との間の模様の見え方で、HR2.4と挿し替えながら比較したインプレッションです)。
 惑星を見たときの色味はニュートラル(白色)に近い印象です。

・TeleVue Radian 4mm
惑星表面: A+、切れ味: S
 5群7枚構成で60°とこう書くな、大変切れ味鋭いアイピースです。カッシーニの隙間はもとより、惑星の輪郭などもカッチリと見える感じがあります。2.4mm/3.3mmといったものと比べての倍率の低さを差し引いてもシャープさは並んでおり、収差補正の観点でHR、TOEと同様に大変優れていると言えます。一方で、惑星面の微細な模様に着目すると、必ずしも細部までの分解され方がXO/XPのそれのようにはならないように感じられました。(勿論、一般的なアイピースと比較すると大変よく見える部類です)

・PENTAX XO 2.5
惑星表面: A++、切れ味:S-
 惑星用として大変優れているアイピースです。切れ味ではTOEやHR、Radianに僅かに及ばない感じがありますが、表面の模様はHRと比較してやや優れる印象です。
 惑星面の観察に力を発揮するアイピースと言えます。色味が黄色がかって見える感があります。いずれにしても僅差です。

・PENTAX XO 5
惑星表面: S、切れ味: A++
 大変優れたアイピースです。切れ味については、倍率が低い分だけシャープに感じられますが、カッシーニの空隙の幅とにじみの幅を比較すると、TOEやHR、Radianに切れ味で及んでいないように感じます。
 ところが表面模様の見え方に関しては、ダントツで優れており、この点は評判通りです。やや倍率が低めにはなるものの、最も細かい模様まで分解しているか、またはそれがハッキリしているように見えます。そういう意味で、土星の環における"エンケの暗部"についても、シャープさとは別に良く見えているように感じられました。
 このことは、シリウス伴星を観察したとき見えた多数の回折環の経験と重なるものがあります。XO5は回折環の見えている本数がやや多く、したがって恒星像のシャープネスという意味ではCZJなどには全く及ばないのですが、各回折環の間の黒い部分の黒がクッキリしているという点が印象的でした。このことが惑星表面を良く見せているのかもしれません。

・PENTAX XP 3.8
惑星表面: S-、切れ味: S-
 相変わらず良く見えます。しかも、だいぶシャープでカッチリした像質です。アイレリーフの短さや視野の狭さを除けば、かなりベストに近い惑星用アイピースではないかと感じられます。
 木星や火星の表面模様なども、カッチリしつつ微細な模様まで分解しています。CZJほどのカッチリ感はないにしても、表面の模様の見え方を考えると間違いなく第一級と言えます。
 もともと拡大撮影用の投影アイピースということで眼視性能が語られることが多くはなく、中古市場でも手ごろな価格で出てくるようです。

■ 総評
 こうして比較してみると、総じて「切れ味」系のアイピースと「表面」系のアイピースとに分かれるのかもしれません。切れ味系の筆頭は文句なく CZJで、次いでTOE、HR、Radianが並んでいるように思えました。表面系はどういうわけかPENTAXの XO/XPが滅法強い印象ですが、ここに 6枚構成のX-Cel LXが食い込んでいるというところでしょうか。

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(追伸) 現在、シベットさんからお借りしたものを含めて集まってしまった「ラムスデン」アイピースのテストも進め、「ラムスデン大全」の編纂も画策しております。誰も欲しない情報の極致とも言えますが、それだけに私がやらねばという気持ちに駆られています。

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