値段は誤差くらいな違いしかないタカハシTOEとVixen HRですが、究極対決の選手をどっちにするかはかなり迷いました。ちなみに私はアンチ高橋とかではありません。どっちかというとアンチVixenか…な??、いや、ブランド信仰もアンチもありません。是々非々で生きております。
もともと人の言うことを素直に聞くタイプじゃないヒネクレ者の私ですが、ネットに比較情報がないかくらいはもちろん探してみました。ですが残念なことに、ネットにあるのはどちらかというとポエムな比較感想が主で、詳細のレビューや深い考察には辿りつけておらず、情緒や趣きを解する教養のない私には判断が難しい状況でした。
しかし、私が究極対決用の惑星用高倍率アイピースとしてわざわざ Vixen HRを選んだのには理由があります。
決してTOEが劣っていると判断しているわけではなく、私の鏡筒で行う中心像対決にはHRが向いていると判断したのです。
それは、鏡筒との相性問題です。
■ 谷オルソの考察
実は話の前段階として、そこには星像対決での谷オルソの結果がありました。谷オルソは評判通りコントラストに優れ、中心像の収差補正にも目を見張るものがあり、間違いなく第一級のオルソに属すると確信しています。しかしながら私の20センチニュートン反射では、木星観察での解像度において明らかにラムスデンに及ばないのです。見えているはずの縞模様が分解できないのです。衛星の影も若干エッジがはっきりしないのです。
ちなみに、アイピース表面の劣化やゴミは原因ではありません。星像テストの前には、全てのアイピースにレーザーを当ててゴミの付着状況を含めた表面状況を回折投影像で検査し、ゴミを念入りに取り除いた上でテストに臨んでいます。
谷オルソがラムスデンに負けている原因は、「ヌケ」でした。星像対決での回折リング(ディフラクションリング)が明瞭でないのです。収差補正はナンバーワンなのに。
■ 鏡筒(口径)とアイピースとの相性
回折リングの写真を見ながら色々考えてたどり着いた仮説は、望遠鏡の口径によってアイピースに求められる性能が違うんじゃないか、ということでした。
回折リングの大きさは、望遠鏡の口径に反比例して小さくなります。このため、小口径では回折リングのサイズは大きくなりますから、小口径では"ヌケの良さ"の意味は薄らいできます。どうせヌケの領域を分解する能力が小口径対物鏡にはないのですから。大きい回折像のサイズでは、ヌケより収差補正の方に重要性が移る可能性はあるのです。
この仮説をもうすこし分析するために、先日の恒星像比較の画像をフーリエ変換してみました。あまり馴染みがないと思いますが、フーリエ変換像では中心から外側に行くほど「周波数が高い=解像度が高い」という絵になっています。つまり、この像で大きく写るほど解像度が高いことを意味しています。
図の右側、SR-4の像を見ると、外側に丸い光芒が見えます。おそらくこの円像が20cmの口径の分解能を表す円です。10cmの望遠鏡では、この光芒のサイズが半分になります。
SR-4ではこの大きい円がハッキリ見えているので、20cmの分解能の限界までの情報をもたらしてくれていることが分かります。一方の谷オルソは、残念ながらこの領域を分解する能力はありません。これは眼視でのインプレッションと一致します。
一方で、谷オルソは中心像が大きく、つまり谷オルソの像質そのものはシャープだということを意味しています。SR-4は、全体的に収差のせいでボケているために、解像度が低い=ゼロ点に集まった像になっています。
そして注目は中解像度のゾーンです。ここを見ると、谷オルソが優っているように見えます。もしも対物鏡が10cm程度であれば、谷オルソはその領域の解像度にマッチして良像を見せてくれそうです。一方のSR-4は、収差のためにこのゾーンはいまいちハッキリ見えないかもしれないのです。
■ 話をTOE vs HRに戻すと
ちなみにタカハシもビクセンも回折像がどう見えるかとか実際の分解能がどうかなんてことは全く気にしていないご様子で、両社ともに収差補正によるストレールナントカとやらにご執心です。しかし私の20cm反射では、収差補正よりも中心の回折像の分解能の良し悪しが見え味を左右しているように思えるというわけです。
現実に、スポットダイアグラムではアッベオルソの何倍も星像が大きい筈のSR-4や、さらにそのラムスデンより8倍も球面収差が大きい筈のハイゲンスですが、そういう差は観察されず、見えたのは回折リングの見え方の違いでした。
だいたい、反射望遠鏡の回折リングなんて観察できたことない人も多いんじゃないかとも思います。私も筒内気流対策を行って、生まれて初めて反射望遠鏡の回折リングを拝むことが出来ました(勲二等の大家、故吉田博士は反射望遠鏡で回折リングが見えない主原因は筒内気流だと著書*の中で述べておられます)。
*吉田正太郎著, 天文アマチュアのための望遠鏡光学, 1978, p206
そしてTOEとHRの両者を比較すると、次のような違いが見えてきます。
・見掛け視界: HRは42°、TOEは52°。
・設計の基準: HRは20cm反射、TOEは13cm屈折。
・レンズの枚数: HRは5枚、TOEは6枚。
要するに、タカハシTOEの方が収差補正に重点が置かれているということです。おそらくこれは、口径13cm位のアポクロマート屈折で最良の像が得られる設計なのだろうと想像されます。
しかし口径がアップするにつれて重点はヌケに移るはずで、そうなるとレンズ枚数が少ない方が有利です。ビクセンHRは、視野の広さを諦めてレンズ枚数を減らしているというところに潔さを感じるわけです。
そういうわけで、自宅の反射望遠鏡との相性と対決勝負の方向性を考えて、HRを選択したのでありました。
たぶん、アポ屈折ではTOEの方がよく見えるんじゃないかと思います(想像)。
※単レンズだのミッテンゼーハイゲンスだのにかけてる金があったらTOE買って比較しろよ、という正論が聞こえてきそうなところです。ですがごめんなさい。その実視比較より単レンズの方が興味津々なんです(未だ納品待ちです)。
もともと人の言うことを素直に聞くタイプじゃないヒネクレ者の私ですが、ネットに比較情報がないかくらいはもちろん探してみました。ですが残念なことに、ネットにあるのはどちらかというとポエムな比較感想が主で、詳細のレビューや深い考察には辿りつけておらず、情緒や趣きを解する教養のない私には判断が難しい状況でした。
しかし、私が究極対決用の惑星用高倍率アイピースとしてわざわざ Vixen HRを選んだのには理由があります。
決してTOEが劣っていると判断しているわけではなく、私の鏡筒で行う中心像対決にはHRが向いていると判断したのです。
それは、鏡筒との相性問題です。
■ 谷オルソの考察
実は話の前段階として、そこには星像対決での谷オルソの結果がありました。谷オルソは評判通りコントラストに優れ、中心像の収差補正にも目を見張るものがあり、間違いなく第一級のオルソに属すると確信しています。しかしながら私の20センチニュートン反射では、木星観察での解像度において明らかにラムスデンに及ばないのです。見えているはずの縞模様が分解できないのです。衛星の影も若干エッジがはっきりしないのです。
ちなみに、アイピース表面の劣化やゴミは原因ではありません。星像テストの前には、全てのアイピースにレーザーを当ててゴミの付着状況を含めた表面状況を回折投影像で検査し、ゴミを念入りに取り除いた上でテストに臨んでいます。
谷オルソがラムスデンに負けている原因は、「ヌケ」でした。星像対決での回折リング(ディフラクションリング)が明瞭でないのです。収差補正はナンバーワンなのに。
■ 鏡筒(口径)とアイピースとの相性
回折リングの写真を見ながら色々考えてたどり着いた仮説は、望遠鏡の口径によってアイピースに求められる性能が違うんじゃないか、ということでした。
回折リングの大きさは、望遠鏡の口径に反比例して小さくなります。このため、小口径では回折リングのサイズは大きくなりますから、小口径では"ヌケの良さ"の意味は薄らいできます。どうせヌケの領域を分解する能力が小口径対物鏡にはないのですから。大きい回折像のサイズでは、ヌケより収差補正の方に重要性が移る可能性はあるのです。
恒星撮影像の「フーリエ変換」像 - 谷オルソとラムスデン |
図の右側、SR-4の像を見ると、外側に丸い光芒が見えます。おそらくこの円像が20cmの口径の分解能を表す円です。10cmの望遠鏡では、この光芒のサイズが半分になります。
SR-4ではこの大きい円がハッキリ見えているので、20cmの分解能の限界までの情報をもたらしてくれていることが分かります。一方の谷オルソは、残念ながらこの領域を分解する能力はありません。これは眼視でのインプレッションと一致します。
一方で、谷オルソは中心像が大きく、つまり谷オルソの像質そのものはシャープだということを意味しています。SR-4は、全体的に収差のせいでボケているために、解像度が低い=ゼロ点に集まった像になっています。
そして注目は中解像度のゾーンです。ここを見ると、谷オルソが優っているように見えます。もしも対物鏡が10cm程度であれば、谷オルソはその領域の解像度にマッチして良像を見せてくれそうです。一方のSR-4は、収差のためにこのゾーンはいまいちハッキリ見えないかもしれないのです。
つまり、回折像が小さい大口径望遠鏡ほどヌケが重要で、小口径ではヌケより収差補正が重要なんじゃないか、ということです。
そう考えると、谷オルソは100mmくらいのアポ屈折ではラムスデンよりよく見えるという逆転現象が起きる可能性も否定できません。
逆にドブソニアンなどの大口径機では重点がヌケに移り、多くの枚数のレンズを使ったアイピースでは対物鏡の分解能レベルは全く分解できず、ラムスデンや単レンズ以外では本来の大口径対物鏡の性能を発揮できないという可能性すらあります。20cmを超える対物鏡の分解能は、収差補正で云々するゾーンじゃないように思えるのです。
そのあたりは、ホイヘンスの空気望遠鏡の時代から頭をスイッチさせる必要がありそうです。また、ツアイス社などの高精度・丁寧な研磨や組み立てにも貴いものがありそうです。
逆にドブソニアンなどの大口径機では重点がヌケに移り、多くの枚数のレンズを使ったアイピースでは対物鏡の分解能レベルは全く分解できず、ラムスデンや単レンズ以外では本来の大口径対物鏡の性能を発揮できないという可能性すらあります。20cmを超える対物鏡の分解能は、収差補正で云々するゾーンじゃないように思えるのです。
そのあたりは、ホイヘンスの空気望遠鏡の時代から頭をスイッチさせる必要がありそうです。また、ツアイス社などの高精度・丁寧な研磨や組み立てにも貴いものがありそうです。
■ 話をTOE vs HRに戻すと
ちなみにタカハシもビクセンも回折像がどう見えるかとか実際の分解能がどうかなんてことは全く気にしていないご様子で、両社ともに収差補正によるストレールナントカとやらにご執心です。しかし私の20cm反射では、収差補正よりも中心の回折像の分解能の良し悪しが見え味を左右しているように思えるというわけです。
現実に、スポットダイアグラムではアッベオルソの何倍も星像が大きい筈のSR-4や、さらにそのラムスデンより8倍も球面収差が大きい筈のハイゲンスですが、そういう差は観察されず、見えたのは回折リングの見え方の違いでした。
だいたい、反射望遠鏡の回折リングなんて観察できたことない人も多いんじゃないかとも思います。私も筒内気流対策を行って、生まれて初めて反射望遠鏡の回折リングを拝むことが出来ました(勲二等の大家、故吉田博士は反射望遠鏡で回折リングが見えない主原因は筒内気流だと著書*の中で述べておられます)。
*吉田正太郎著, 天文アマチュアのための望遠鏡光学, 1978, p206
・見掛け視界: HRは42°、TOEは52°。
・設計の基準: HRは20cm反射、TOEは13cm屈折。
・レンズの枚数: HRは5枚、TOEは6枚。
要するに、タカハシTOEの方が収差補正に重点が置かれているということです。おそらくこれは、口径13cm位のアポクロマート屈折で最良の像が得られる設計なのだろうと想像されます。
しかし口径がアップするにつれて重点はヌケに移るはずで、そうなるとレンズ枚数が少ない方が有利です。ビクセンHRは、視野の広さを諦めてレンズ枚数を減らしているというところに潔さを感じるわけです。
そういうわけで、自宅の反射望遠鏡との相性と対決勝負の方向性を考えて、HRを選択したのでありました。
たぶん、アポ屈折ではTOEの方がよく見えるんじゃないかと思います(想像)。
どうでもいいけどハイゲンスのこのFFT像、高解像度側がヤバイほど素晴らしいんだよなー (このオマケ接眼鏡、一度も覗いたことないんです。馬鹿にしててごめんなさい!) |
※単レンズだのミッテンゼーハイゲンスだのにかけてる金があったらTOE買って比較しろよ、という正論が聞こえてきそうなところです。ですがごめんなさい。その実視比較より単レンズの方が興味津々なんです(未だ納品待ちです)。
コメント