AZ-GTi は良い架台なのですが、たまに”?”な怪動作をするように感じていました。その根源にはアライメント動作に関する無知があったようです。
これまで「架台側にアライメント情報が記憶されている」と思っていたのですが、誤りでした。架台が記憶しているのは「ホームポジションからの各軸の角度情報」で、アライメント情報は SynScan アプリ側が保持しているというのが真相のようです。
思い違いに至った言い訳と顛末は末尾に記載するとして、今回の記事では AZ-GTi の動作理解の備忘録を忘れないうちに書き残しておきたいと思います。AZ-GTi は発売から時間も経ち、マニュアル類の公開やアプリのバージョンアップにより、2,3年前よりもずいぶん理解が助けられました。初心者もベテランもつまづく事がある理由も見えてきました。
「AZ-GTi は調子の良いときはいいのだけど、ドツボに嵌まる時があるんだよな」みたいなシーンを理解できた気がします。
ドツボを抜けるための結論だけを言うと、「アライメント時には初回でもアプリ側のリセットと架台の電源OFF/ONの両方を」ということです。
また、初心者の方には「アプリでアライメントリセット」の後、「2スターアライメント」をお勧めしたいと思います。間違う可能性が少ないと思います。
これらのやり方に至る理屈をお知りなりたい方は、以下を御覧ください。
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※認識誤りが記載された下記の記事を訂正しました。ずいぶん長きにわたって誤解に基づく情報を記載してしまい、申し訳ありません。
・AZ-GTiの5つのアライメント法とツボと同期技
・AZ-GTi をLANにぶら下げる
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M8とM20、2022夏の自宅庭より AZ-GTiは晴れ間を縫う観望の強い味方です。 2022夏は梅雨明けが早かったのに悪天候が続きほとんど何もできていませんが、 7/9の台風一過の晴れ間には市街地の庭から網状星雲、M20三裂星雲を 眼視で確認できました。(写真はAZ-GTiによるものではありません) |
■ AZ-GTi と SynScan の情報保持
冒頭にも書いた通りで繰り返しになりますが、Sky-Watcherの自動導入架台における情報の記憶は次のように行われています。
・架台側は「ホームポジションからの各軸の角度情報(各軸ポジション)」を保持。
・SynScanアプリやハンドコントローラ側は「アライメントパラメータ」を保持。
架台側が保持している情報は「軸」の情報だけで、「高度・方位」や「赤経・赤緯」の情報は保持していません。架台側の情報は電源をOFFにすればリセットされ、再投入時点の各軸の角度がそれぞれ「0」となって、これがホームポジションになります。しかし、架台側の電源をOFFにしても端末アプリ上にあるアライメントパラメータはリセットされない点に注意が要ります。
また、「水平・真北」は電源投入時の姿勢であって、アライメント開始時の姿勢ではないという点にも注意が必要です。いくらアライメント開始を「水平・真北」から始めてもそれは関係ありません。電源投入時のゼロ点が「水平・真北」である必要があるのです。
SynScanアプリ側が保持しているパラメータは、「高度・方位」や「赤経・赤緯」を計算するためのアライメント情報です。この情報は「アライメントリセット」で初期に戻ります。しかし、このリセットを行っても架台側の各軸ポジションはゼロに戻りません。つまり、ホームポジション情報はアライメントリセットでは更新されないのです。
AZ-GTi は観望の強い味方です 鏡筒はMIZAR 120SL RS20P |
更に、アプリ側のアライメント情報は、アプリを再起動しても情報が残っています(SynScan Pro 1.19.0, iOS)。このことが、ユーザーにとっては混乱を引き起こしやすいところです。具体的には、最初のアライメント星を導入するときに、前回使用時の古いアライメント情報と、それとは無関係になった架台の角度情報とを使ってアライメント星に向こうとするので、架台があさっての方角を向く場合がありえるわけです。
しかもこれはアライメントモード(1/2/3スター)ごとに挙動が変わるので、混乱を招く一因になっているかもしれません。2スターではアプリ側から架台の角度情報リセットも自動で行われるのですが、1、3スターおよびブライトスターアライメントではこの自動リセットが行われません。
したがって、大過なくアライメントを行うには、最初に架台の電源OFFとアプリのアライメントリセットの両方を行うのが基本ということになります。片方だけを行った場合には、架台の状態とアプリの状態がちぐはぐになって思ったような動作をせず、なにかどこかに情報が残ってしまったかのような動作になる場合があります。高度な使い方としては、架台やアプリの片方に情報が残っていることを利用する手もありますが、分からなくなったら電源OFF&リセットした方が手っ取り早いと思います。アプリ側のリセットは必要性を認識しづらいのですが、前回使用時の情報も残っているので要注意です。
また、複数の端末から一つの架台にアクセスして自動導入や追尾を行う場合には、両方の端末が同じアライメント情報を持っている必要があります(※これを行うための機能が Alignment-sharing です)。
■ SynScan アプリのアライメント動作
SynScan のアライメントでは、「ID、CH、NP、Mel、Maz、Tilt」の6つのアライメントパラメータを決定します(それぞれの意味はよくわかりません)。このうち、1スターアライメントではID、Maz、Tilt の3つが決定されます。2スターではこれらに加えてMelの値が決まり、3スターアラインメントでCHが決定されるという具合です(NPがどういう値なのかは不明ですが終始0.0でした)。
6つのアライメントパラメータ ( "i" をタップすると見えます) |
SynScan Pro の実際のシーケンスを確認してみると、前述のように「2スター」と「それ以外」で動作が異なりますが、アライメント時には前回の状態をひきずりますので、一度ドツボにハマると何度も失敗することになります。多くの方がAZ-GTiでつまづくのはここではないかと思います。これを避けるには、アプリを起動して接続が完了したらアライメントリセットを行う習慣が肝要なように思います。
2スターアライメントの場合:
(1) 基準星を選んで2スターアライメントを開始すると、「水平、北向きにします」と表示され、次に進んだ段階で架台側のホームポジションはリセットされますが、アプリ側のアライメントパラメータはそのままで最初の基準星に向かいます。この動作の開始時点が「水平・北向き」という前提とはなってくれますが、アライメントパラメータは古いままなので前回のアライメントがボロボロだとそれを引きずります(確認済)。アプリ側がリセットされていなくてもトチ狂うほどなことはありませんでしたが、そういう場面が本当にないかどうかは不明です。
(2) 最初の基準星を導入してアライメント完了ボタンを押すと、1スターアライメント相当のパラメータ(ID、Maz、Tilt)が上書きされ、このパラメータを使って2番目の基準星の導入を開始します。
(3) 2番目の基準星を導入してアライメント完了ボタンを押すと、ID、Maz、Tilt に加えて Mel の値を含めたアライメントモデルとなり、この値が上書きされてアライメント完了となります。
1スター、ブライトスター、3スターアライメントの場合:
(1) 基準星を選んでアライメントを開始すると、いきなり星の方角を向こうとします。この時に、架台側のホームポジションや既存のアライメント情報は更新されません。最初の基準星の導入が、その時点のアライメント情報と架台の位置情報の双方を参照して行われるようです。このため、アライメントがそこそこの状態からであれば、それなりの精度で最初の基準星に向かってくれます。逆にアライメントがボロボロであればやはり前回の状態を引きずってしまいます(確認済)。アライメント途中からやり直した場合や、アライメントが成功しなかった場合などでは動作が怪しくなる可能性が高そうです。また、架台の電源を落とさずに手動で真北・水平に向けたりしていると、完全に狂った動きになると思われます。
(2) 最初の基準星を導入してアライメント完了ボタンを押すと、ID/Maz/Tiltのパラメータが上書きされます。1スターであれば、ここでアライメント完了です。
(3) 2番目、3番目も同様で、逐次パラメータが上書きされてゆき、選択したアライメントモードに応じて完了します。
■ ポイント&トラックや導入完了ボタンの動作
「ポイント&トラック」は、アライメントをしていなくてもとりあえず追尾をしてくれる有り難い機能ですが、このボタンはアライメントパラメータやホームポジション情報、およびそれとの対応付けに影響を与えません。1スターアライメントのような効能を発揮してくれることも期待しましたが、そうはならず、追尾専門仕様となっているようです。
この中で「軸」が架台の保持情報です |
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このように、AZ-GTi では全てのアライメントモードで、前回、それも当日ですらない昔の情報が参照されてしまうのが AZ-GTi の鬼門ではないかと思うのでした。このことは AZ-GTi に限ったことではなく、Sky-Watcher社の架台(VIRTUOSOや赤道儀含む)というか SynScanアプリの鬼門と言えそうです。
そういうわけで、「架台の水平出しとか真北向けとかの精度の問題じゃなくてあさっての方角を向くんだけど…」とお悩みの方は、ぜひ一度「アプリのアライメントリセットと架台の電源OFFの双方を励行する」を試してみることをお勧めします。
ちなみに、2022.8現在直近のバージョンであるSynScan Pro v1.19.0では、架台のホームポジションを保存する hibernate機能 や、他の端末とアライメント情報を共有する Alignment-sharing機能 (説明書ではPM sharing; PM: Pointing Model)機能が付与されています。これらをうまく活用すると、Sky-Watcher社マウントとSynScanアプリのうまい使い方というのも出てくるのかもしれません。
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謝辞:
2年前の会話も含め、様々な気づきを tripleRさん に頂きました。
改めて御礼申し上げます。
tripleRさんによるAZ-GTiのアライメント情報に関する記事はこちらです。
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参考:
Sky-Wathcher社 マニュアル:
・ハンドコントローラ & SynScan app
・アプリケーション開発向けドキュメント
・コマンドセット解説ドキュメント
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関連記事:
・AZ-GTiの5つのアライメント法とツボと同期技
・AZ-GTi をLANにぶら下げる
・AZ-GTi の設置とアライメント
・昼間のAZ-GTi、ノースターアライメント(日食に向けて)
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(経緯)
そもそも、アライメント情報が架台にあると思い込んだ背景には、2台の端末での実験がありました。1台の端末のアプリでアライメントしてこの接続を切り、別の端末のアプリからアクセスしたときに、やはり自動導入が可能だったということがありました。
2年前の実験時にはけっこう気を使って水平をとったりしながら AZ-GTiを試していたのですが、おそらくノーアラインメントのデフォルト状態でもホームポジションだけしっかり出れば良い状態だったのだと思います。ホームポジション情報(ホームポジションからの各軸の角度位置)は架台に保存されているため端末間で勝手に共有され、アライメントはデフォルトでそこそこだったのだなあ、と。
偶然うまく行けていたのを一般化してしまったのが敗因でありました。今回、アライメントをかなりずらして行ったところ、他の端末からの自動導入結果が数度以上ズレたので、よくよく注意深く数字を見ると、「軸」の情報だけが正しく伝達されていて、赤経赤緯や方位高度はここから計算された値が表示されているに過ぎないことに気づいたのでした。
コメント
ところで、私は対象の観察を終わるときに、鏡筒の向きはそのままで本体電源をバチッと切って、アプリを閉じるだけで、指摘されているようなアライメントリセットは基本しません。それで次回、鏡筒北向き水平から初めて困ることはありません。でもLamdaさんの言っていることが正しければ、この時おかしなことが起こるはずです。
普段やっていることなので、再現性も高いはずですが、このことは説明できますでしょうか?何らかのアラインメントリセットの過程が何処かで入るとか?ちなみに、SynScan Proは同じ1.19.0 iOSですが、このバージョンでの試行回数はそれほど多くはなく、もしかしたら私のは古いバージョンでの経験則の場合があります。
もう一つ、うまくいかない時は1. 本体電源入れ直し、且つSynScan Proを再起動、2. アラインメントリセット、3. PC電源入れ直しまでやるのですが、この前めずらしく全てやってもダメな時がありました。3をするときは同時に1から2までやってからです。何度やっても初期アライメント1発目で10度のオーダーでずれるのです。
結局原因はSynScan ProをPC接続でしかしていなくて、かつ普段の場所から県を跨いで遠く離れたことでした。AZ-GTi本体がGPS情報を取得していないため、時刻、場所情報が伝わってなかったからです。
なのでおかしなときは基本的に何らかの人間側のミスがあると言うのが私の認識です。条件が足りてない場合で、条件がきちんとしていて変な挙動をするようなことはこれまでほとんど経験していません。たまたまこの個体が当りなのか、ほとんどのユーザーは問題なく動いていて、一部動いていないユーザーの声ばかりが響いているのかわかりません。動いていない場合はきちんと条件を満たしているかの検証はすべきかと思います。そうでないと本当にAZ-GTiがおかしいのか、単に間違ったそうななの切り分けができないからです。
AZ-GTiはお手軽なところも特徴の一つだと思います。アラインメントリセットを前提で設計するのは、そもそも思想に反している気がしています。まだ何かLamdaさんと私で条件に違いがあるのかもしれません。時間がある時に私も試してみます。
Samさんのケースや多くのケースでは、アライメントリセットを毎回発行しなくとも問題は起きないと思われます。「水平・真北がゼロ点」の架台の座標系と、その座標系でアライメントを行ったパラメータの組み合わせを繰り返すからです。
しかし、何らかの理由でアライメントに失敗して出鱈目なパラメータがセットされた場合、架台の電源をOFFしてもアプリでリセットしない限りこの情報が継承されて「怪しげな動作」を繰り返すことになる、というのが今回の気づきでした。
また、電源投入後にアライメントリセットをしてその後に水平・真北に向けたような場合、全手動で行えば問題ありませんが、モーターを動かしたりエンコーダがオンだったりするとゼロ点が電源投入時の姿勢となりますから、このゼロ点をベースに架台が動き出して「怪しげな」動作になろうかとは思います。
私も、基本的には人間側がアプリの期待する操作とは異なる操作を行うことが、変な動作の原因だと思っています。AZ-GTiに問題があるとは考えていません。
一方で、こうしたアライメント情報の維持やリセットされるケース、架台のゼロ点の保持のされ方などを人よく分かっておらずに操作していましたので、そのあたりが怪しげな動作になったのだと思います。
セオリー通りであれば問題ないと思うのですが、何がセオリーなのかがイマイチはっきりしていなかったというのが今回の気づきです。
アライメントリセットをアプリがデフォルトで行わない理由は、アプリのダウンや接続切れがあった場合を考慮してのことだろうと思います。
ただ、UIとしては、アライメント開始時に「前回の情報を引き継ぐかどうか」くらいは聞いてほしかったなあというのが感想ではあります。
赤道儀でどうしてこういったミスがあまり起きないかと思ったら、Celestronの場合しか知らないのですが、電源を入れてから「Indexを合わせろ」と指示が出て、合わせてから次に進むというプロセスがあるからだと気づきました。
私は普段の癖で、たぶんLamdaさんもそうかと思いますが、最もトラブルがなさそうな手順を考えながら、それを意識して辿ってしまいます。トラブったときの復帰手順も、電源断や再起動、各種リセットも含めて、できる限り以前の情報を消すことを普通に意識してやります。たまたまそれがAZ-GTiの欲するセオリーと合っていてトラブルが少なかったのかもしれません。でもこれを初心者を含めて全ての人に求めるのは確かに相当酷です。
そう考えると、SynScan Proって一旦一旦の状態の確認プロセスが少ないですよね。ソフトなので表示とステップを増やすのは簡単なはずなので、ここは改良の余地があるといったところでしょう。Lamdaさんが「アライメント開始時に「前回の情報を引き継ぐかどうか」くらいは聞いてほしかった」というところにもつながると思います。
おっしゃるように、本能的に地雷を避けているので、知らない人は地雷を踏んでも仕方ないのだと思います。水平を出したりして毎回の設置状況を揃える、ということも良い方向に作用するのでしょうね。
SynScanはなかなか適応性が高く、水平や真北なんか適当でもアラインメントは成功できてしまうわけですが、次回の設置時には同じ状況にできないわけで、そのことが混乱の元なのかもしれません。
「架台の電源を落とす」「アプリを再起動する」と、普通の人の感覚では「まっさら」だと思います。ここで敢えて「アライメントリセット」を実行するのは、本能が研ぎ澄まされていないと難しいのかもしれません。
アプリ側での確認ステップも、増やすと軽快さが失われるので、吟味が要るのでしょうね。
そういう意味では、2スターアラインは「真北向けて」と出て、架台側のゼロ点もリセットしてくれるので、初心者にとってはこれが一番フレンドリーなのかもしれません。
アライメントや導入も手探りで分からないことが多い中
大変貴重な情報をありがとうございます!!
50-65mmゴムシート交換も大変参考になりました。
ちょっと高いけどアマゾンで0.5mm厚のステンシムがありましたので
真似て換装したいと思います。
アプリ赤道儀化したので追尾ミラーレス一眼で
撮影チャレンジしたいと思っております。
成功しないかもしれませんが・・・
頑張ってみたいと思います。
貴重な情報ありがとうございますm(__)m
改造の方は経緯台使用が前提で、赤道儀には向いていないかもしれません。クランプをしっかり締めるのに難しさがあるからです。
特に比較的大きなレンズでの運用をお考えであれば、ご注意が要るところと思います。
改造記事はあくまでも私の体験記録ですので、ここのところも必ず成功する改造法という内容にはなっていない点もご容赦くださればと思います。
しかしいずれにせよ、AZ-GTiは面白い架台ですね。
いろいろ工夫が入る余地もあると思います。
(私は赤道儀化はしていないので、お答えできないところも多いかもしれませんが、こちらもご容赦のほどお願い申し上げます)