星像比較! 高倍率アイピース達

高倍率アイピースを、恒星像を撮影して比較してみました。
ラムスデンがやたらよく見えた事件以降、高倍率アイピース比較が趣味(?)の一つになってしまい、気が付いたら4~7mmのアイピースが増殖していました。そこで比較です。
 これまた驚きの結果と言いますか、ありがちなスポットダイアグラムとか収差の大小とは一体何だったのかということを考えさせられる結果と相成りました。やはりオルソとラムスデンで容易には甲乙つけがたいという結果です。

 比較方法は単純で、惑星を撮影するのと同じようにしてアイピースによる拡大撮影で恒星を撮影してみた、というものです。実際の惑星の模様などは、真の像とこの像との重畳積分が見えているわけです。
 比較してみると、これまでの惑星面の見え方に「なるほど」という説明を加えられるようにも思えました。木星対決での写真は、写真左がSR4、右がPENTAX Or6だったのですが、その像質にも納得です。さらに、強烈なヌケの良さのダークホースとして、ハイゲンスご出陣です。

 なお、比較撮影の直前にあらためてレーザーコリメータでの光軸調整を行ったのですが、写真を見ていただいて分かるように星像を拡大するとまだ光軸ズレが残っていたようです。拡大撮影の長い筒とカメラの重量で接眼筒がたわんだせいだと思われます。拡大撮影では光軸のごく僅かなズレもよく見えている、ということが分かります。
 また、全て同一の日に撮影し、最後にもう一度最初と同じレンズで撮影してシーイングの大きな変化が撮影中に起きていないことを確認しています。

拡大撮影による星像の比較
(2019.5.25, Arcturus, 20cm/F5, EOS60D動画, 約1000 framesスタック, トリミング)

■収差とヌケとコントラストと

高倍率アイピースを語る上で重要なのは一体何なのか?ということを考えさせてくれる画像になりました。どうやら、3つのファクターがあるように思えます。それは収差の大小と、ヌケと呼ばれる解像力と、コントラストです。
 収差は、星像全体が一点でなくぼやけて結像される現象です。上の写真の星像全体の広がりで表されるものです。ほとんどの入門書ではこの観点でアイピースの良し悪しを述べていますが、中心像ではハイゲンスでもオルソでも大差があるわけじゃない、という結果です。惑星面の模様で言うと、模様の大きな構造がちゃんと見えるかどうかというところに効いていると思われます。
 ヌケの正体は不明ですが、細かい模様の見え方がハッキリするかどうかという解像力を指しています。今回の写真の像で言うと、回折像とおぼしきリングの見え方やその明瞭さがヌケに対応しているように思われます。惑星面の模様に対しては、細かい模様まで分解できるかどうかという能力に対応していると考えられます。
 コントラストは、明暗の対比の明瞭さを表しています。今回の像で言うと、星像の周囲にぼやけて拡散して見える光の大小やそのぼやけ方が対応するものと思われます。惑星面の模様では、模様や輪郭がハッキリ見えやすいかどうかというところに対応するものと考えられます。

※ちなみに、この評価は中心像のみに限定したものです。視野の広さ、周辺像、アイレリーフなどは評価対象外です。

テストに使った短焦点アイピース達
(この他にFUJIYAMA HDをテストしました)

■個別アイピース評価

※以下は、あくまでも中心像についての評価です。視界周辺での性能についてはここでは全く触れておりまぬこと、ご留意ください。

[PENTAX Or-6] 収差☆☆☆ / ヌケ☆☆ / コントラスト☆☆☆+
さすがに定評のあるオルソだけあって、星像が小さくまとまっています。コントラストも素晴らしいものがあり、惑星を見ても実際によく見えます。唯一、ヌケという観点ではSR-4やH-6に劣ります。なお、評価したOr-6はSMCではありません。

[Celestron SR-4] 収差☆☆/ヌケ☆☆☆+/コントラスト☆☆☆
撮影系の光軸ズレのせいで収差が大きいですが、オルソとの差が大きいとは言えません。僅かに色収差が見えます。ヌケの良さはご覧の通りで、これが写真比較で「分解できている模様の細かさ」という形で表れていたものと思われます。コントラストも第一級で、ペンタオルソと甲乙つけがたいという評価は変わりません。昨今の米中貿易戦争の影響か、230円という空前絶後のミラクル価格をつけている高性能設計のアイピースです。

[FUJIYAMA HD Or-6] 収差☆☆☆+/ヌケ☆☆/コントラスト☆☆
文献でも絶賛され、"poor man's ZAO(ツアイスアッベオルソ)"と評されている高屈折率ガラス採用のオルソで、収差補正が素晴らしく、星像の集中度は群を抜いています。一方で、ヌケとコントラストは並で、ここが「the best-of-best ではない」とされるゆえんであるようです。実際の惑星観察では、個人的には素晴らしい見え味だと思っています。(University optics のHD Or と同一品と思われます)

[谷光学 Or-7] 収差☆☆☆+/ヌケ☆/コントラスト☆☆☆
収差補正とコントラストに卓抜したものがあり、星像の集中度とコントラストは素晴らしいと言え、これが谷オルソの評価を形成しているものと思われます。一方でヌケはよろしくなく、このあたりが惑星面観察でラムスデンに負けてしまう理由かと思います。

[KSON Super Abbe 4.8] 収差☆☆/ヌケ☆☆/コントラスト☆☆
全体的に良くまとまっている星像で、収差・ヌケ・コントラストのどれもほどほどに良くまとめられた良く見えるアイピースだと思うのですが、卓抜した部分はありません。プレスルよりはワンランク上です(本品は笠井トレーディングのFMCオルソと同一品に見えます)。

[Vixen PL-4] 収差☆/ヌケ☆☆/コントラスト☆
プレスルと言いながら中心付近での収差が小さくなく、星像が大きいのが苦しいアイピースです。コントラストも悪く、全体的に眠たい惑星像になってしまっている理由がよく分かりました。

[SvBONY Aspheric 4mm] 収差☆☆☆/ヌケ☆/コントラスト☆☆
非球面レンズ採用ということでかなり良く収差が補正されていることが確認できます。しかしながらプラスチックレンズのせいなのか、ヌケとコントラストが今一つな結果となっています。スマイスレンズ入りで覗きやすいという点が取り柄ではあります。10mm/23mmと合わせて3本セットで2,500円という価格を考えると素晴らしい出来です。

[EIKOW H-6] 収差☆/ヌケ☆☆☆+/コントラスト☆☆☆
さすがに収差が大きく色収差もハッキリ見えますが、それほどまでの差かというと微妙なところです。特筆すべきはヌケの良さで、SR-4を上回っているように見えます。レンズ枚数が少ないということはヌケに効くようです。
実は、「さすがにハイゲンスは酷い」と言いたくて参考程度に撮影したのですが、思いもよらぬダークホース出現です。いずれ惑星でも性能を確認したいです。
また、こいつのせいでミッテンズヴェーハイゲンスにも俄然興味が湧いてきたのですが、手持ちがありません。

この他、絶版となっているホンモノのTMB PlanetaryII (6mm)も入手して、なかなか良いアイピースであることを確認したのですが、拡大撮影系に納まってくれませんでした。

---
さて、こうして比較してみると、これまで収差の大小でアイピースを論じてきたのは一体何だったのか…という気分にさせられます。ハイゲンスやラムスデンはそうした収差の大きさから低級品扱いされてきたわけですが、テスト写真を見てなおその収差とやらの差が本当に重要だと言えるのかどうか、また中心像を語る上で重要な"ヌケ"をどう考えるのか、メーカーには今一度考えてもらいたいものだと思います。

※中心像に限って、のお話ではありますが、惑星観察だったら中心以外使うのかよ、と素朴に思います(ドブソニアンは使うのかも、ですね)。

コメント

山口のじぃ さんの投稿…
Lambdaさんの既成概念に物申すアンチテーゼの隠れファン山口のじぃで、ガス!
って、隠れんでもエェかッ!ははっははははははっはは!!
いやぁ、私、光学に対する知識も知恵もありませんが、記事を読んでいて、
講釈垂れる前に自分の目で確かめろッ!と叱咤された気になります!テヘッ!
って、確かめる前に確かめた人の記事をネットで探す毎日!(笑)
論点ズレますが、自分の持ってるアイピースで拡大撮影したくなりましたッ!
せっかくの高尚な記事に水を差すコメント!失礼ッ!でもファンですので(笑)
Lambda さんの投稿…
いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます!
ご高名な山口のじぃ様にコメントいただき、恐悦至極に存じます。

ネットは大変強力なツールで、私もいつも記事をネットで徘徊しながら探す毎日なんですが、生来の天邪鬼で「ほんとかよ~?それでいいのけ?」と悪い癖が出てしまうのであります。

決して世の中に反抗してるわけじゃないんです(苦笑)

天文の世界も、なんというか信仰のようなもので成り立っている世界だと思うのですが、信心とお布施が足りない私には苦行が課せられているのでは、とか思っております。

※私も「頭上のお宝」、ファンです! いつも記事を書く前に同じネタが既に書かれてないか、確認させてもらってます!