デジタル化の波は極軸合わせにも革命をもたらしていたようです。世の中にはカメラと組み合わせた極軸合わせのための製品も登場していて、極軸合わせも職人芸の世界からは脱しつつあります。
一方で、エコノミー派の当ブログとしては、なるべくお金をかけずに高精度な極軸合わせを行う方法として、オートガイドソフトPHD2を使用した「ドリフトアライメント」を試してみました。ドリフト法という方法は、実際の赤緯ガイドエラーの様子を見ながら極軸をどれだけ修正したらいいかという案内をしてくれるものです。
この方法は、北極星やその周辺が見えない状況でも精密な極軸合わせが出来るのも特長の一つです。(今回はオマケとして、北極星が全く見えない状況での極軸合わせを支援するデジタル時代のアナログな「北方指示盤」も文末に記してみました。)
極軸が精密に合ってってくるとガイドの失敗も少なくなりますし、自動導入の決まり方もビシッとしてきて大変快適です。ちなみにPHD2を導入以来、ガイドの成功率はほぼ100%(*)で、強風でも吹かない限りガイド失敗を気にすることはなくなりました。(*20cm F5反射+Advanced GT赤道儀で10分くらい)
■ 極軸合わせの段取り
デジタル時代の天体撮影はだいぶ楽になったと思うのですが、撮影に至るまでの段取りは大切です。私は、PHD2による極軸の追い込みをするようになってからは、次のような段取りで極軸合わせを行っています。
0. 極軸望遠鏡による極軸合わせ
鏡筒やバランスウェイトを載せる前の段階で、極軸望遠鏡を使った極軸合わせを行うようにしています。鏡筒を載せる前に行うのは、極望パターンの時角を合わせるために望遠鏡を無理な姿勢にしないといけないことが時期によってはあるからです。
PHD2で最終的に追い込むにしても、初期の極軸がある程度合っていた方が時間が短く済むなどなにかと楽です。
1. 赤道儀のアライメント
赤道儀のアライメントは、APTによるプレートソルビングで「Sync」とやって終了しています。Advanced GT赤道儀では、ワンスターアライメントを実施して、視野に何が入っているかは関係なくアライメントを終了した上で、プレートソルビング(Blind solving)で完了です。
ちなみに、PHD2による極軸合わせの前に赤道儀のアライメントがある程度取れていることが望ましいです。PHD2の極軸合わせでは、調整中の赤道儀の赤経・赤緯の読み取り値から、画面に表示する「ガイド円」の直径を決めているからです。(円の大きさをあまり気にしないならアライメント不要です)
2. ドリフト法で極軸の追い込み
PHD2を使って極軸を追い込みます。PHD2の方法はドリフト法という方法で、天の赤道付近の2か所の星のガイドの赤緯ずれ量から、極軸の水平・高度の調整を行うものです。次に詳述しますが、概略の調整量をPHD2が教えてくれます。
■ PHD2でのドリフト法
・天の赤道付近に鏡筒を向ける
ドリフト法では、天の赤道付近の2か所に鏡筒を向けて、それぞれで調整を行う必要があります。極軸の水平調整には子午線(つまり南中)付近の星を使い、高度調整には東か西のなるべく低空の星を使います。
PHD2をASCOM経由で赤道儀に接続している場合には、PHD2の「旋回(slew)」ボタンでそれぞれの方向に自動で鏡筒を向けさせることもできます。ST-4コネクタでの接続の場合には、赤道儀の赤経・赤緯の読み取りだけをやってくれるようです。
個人的には、子午線付近や低空に鏡筒を向けると、望遠鏡の姿勢や各部の干渉が気になってくるところでもありますので、赤道儀のハンドコントローラを使って大雑把に位置を決めた上で、APTで赤緯0°に向けています。
・PHD2で一度キャリブレーションしておく
ドリフト法であっても赤経軸はガイドしながらになりますから、キャリブレーションしておくのが吉です。キャリブレーションしていない場合、赤経の補正パルスが逆方向に出て、赤経ガイドができなくなることがありました。
キャリブレーションは、過去のキャリブレーションデータをクリアしてからガイドをスタートさせれば自動で実行されます。
・「ドリフトアライメント」でズレ量をチェック
メニューの「ツール」からドリフトアライメントを選択すると、ダイアログボックスが出現します。ここでガイド星を選択して「調整」ボタンを押すと、赤緯のズレ量の測定が開始されます。
初めは南中付近の星を使って水平調整を行い、次に西もしくは東の星を使って垂直調整を行います。
短時間では短時間では測定精度に難がありますので、しばらく時間を待ちます。赤緯のズレ量が赤い斜めの線となって現れます。赤い線が水平ならば調整が完璧なことを表しています。
・極軸を微調整
ドリフト測定ができたら、「調整」ボタンを押します。このボタンを押すと、画面には調整の目安になる円が現れています。
繰り返しになりますが、水平方向の調整は南中付近の星を使って行い、高度方向の調整は東または西の星を使って行います。
ガイド星が調整円の円周に来るくらいまで極軸の微動装置で調整するのですが、どちらの方向に調整すればよいかは分かりません。調整してみて、「ドリフトボタン」を再度押し、赤緯のズレ量が減っていることを確認します。もしもズレ量が増えているようでしたら、調整ボタンを再度押し、反対方向に調整します。
このようににして、「ドリフト」で測定する赤緯のズレ量がなくなり、赤い線がほぼ水平になったら調整完了です。水平の調整が完了したら望遠鏡を東か西に向けて「>高度」ボタンを押し、同様にして極軸の高度調整を行います。
このようにして極軸を調整すると、実際にガイドを行うオートガイドソフトでのズレ量を補正するのですから、かなり正確な調整ができます。実際に赤緯のガイドパルスが飛ぶ頻度は激減します。
北極星付近の星が見えない環境でも、この方法ならば正確な極軸調整は可能です。
正確な極軸合わせはガイド精度に効くのはもちろんですし、各種自動導入もズバズバ決まるのも小気味よいものです。撮影の前のひと手間ではありますが、赤道儀のアライメントに時間がかからなくなった分をこちらに費やしてもバチは当たらなそうです。
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(オマケ) … 北極星が見えないと「概略の極軸合わせ」の段階で手間取りますので;
■ 北極星が見えない時の「デジタルでアナログな北方指示盤」
私もその昔、小中学生の頃はベランダがメインでしたので、北極星が見えないという問題には随分困らされました。高度は錘を使えばいいとして、方位がどうにもならないのです。方位磁針を使って1°の精度で合わせるなんて、かなりの神技と運が要求されます。
アナログ全盛の当時に編み出した方法は、「自宅が載っているゼンリンの詳細地図を使って自宅が面している道路の方位を調べ、建物に対する北の角度」を作図をして対応したものでした。(昔は住人の氏名入りの超拡大地図が普通に書店で売ってました)
さて、今はデジタルの時代です。書店には個人情報満載の地図があるような気はしませんが、人類の英知(?)グーグルマップがあるわけです。衛星写真付きで。これを利用しない手はありません。グーグルマップはメルカトル図法なので、常に画面上が北です。
グーグルマップをキャプチャした画像に建物などの延長線を描いて印刷したものを用いれば、実際の建物の壁などを基準にして北の方角をかなり正確に知ることが出来るというわけです。いい時代になりました。
一方で、エコノミー派の当ブログとしては、なるべくお金をかけずに高精度な極軸合わせを行う方法として、オートガイドソフトPHD2を使用した「ドリフトアライメント」を試してみました。ドリフト法という方法は、実際の赤緯ガイドエラーの様子を見ながら極軸をどれだけ修正したらいいかという案内をしてくれるものです。
この方法は、北極星やその周辺が見えない状況でも精密な極軸合わせが出来るのも特長の一つです。(今回はオマケとして、北極星が全く見えない状況での極軸合わせを支援するデジタル時代のアナログな「北方指示盤」も文末に記してみました。)
極軸が精密に合ってってくるとガイドの失敗も少なくなりますし、自動導入の決まり方もビシッとしてきて大変快適です。ちなみにPHD2を導入以来、ガイドの成功率はほぼ100%(*)で、強風でも吹かない限りガイド失敗を気にすることはなくなりました。(*20cm F5反射+Advanced GT赤道儀で10分くらい)
ガイドの失敗が無いと何かと楽です(写真はしし座トリオ銀河M65,M66,NGC3628) (SE200N + SkyWatcherコマコレクター + SvBONY UHCフィルター, EOS kiss X5改, ISO800 8分×13枚) |
■ 極軸合わせの段取り
デジタル時代の天体撮影はだいぶ楽になったと思うのですが、撮影に至るまでの段取りは大切です。私は、PHD2による極軸の追い込みをするようになってからは、次のような段取りで極軸合わせを行っています。
0. 極軸望遠鏡による極軸合わせ
鏡筒やバランスウェイトを載せる前の段階で、極軸望遠鏡を使った極軸合わせを行うようにしています。鏡筒を載せる前に行うのは、極望パターンの時角を合わせるために望遠鏡を無理な姿勢にしないといけないことが時期によってはあるからです。
PHD2で最終的に追い込むにしても、初期の極軸がある程度合っていた方が時間が短く済むなどなにかと楽です。
1. 赤道儀のアライメント
赤道儀のアライメントは、APTによるプレートソルビングで「Sync」とやって終了しています。Advanced GT赤道儀では、ワンスターアライメントを実施して、視野に何が入っているかは関係なくアライメントを終了した上で、プレートソルビング(Blind solving)で完了です。
ちなみに、PHD2による極軸合わせの前に赤道儀のアライメントがある程度取れていることが望ましいです。PHD2の極軸合わせでは、調整中の赤道儀の赤経・赤緯の読み取り値から、画面に表示する「ガイド円」の直径を決めているからです。(円の大きさをあまり気にしないならアライメント不要です)
2. ドリフト法で極軸の追い込み
PHD2を使って極軸を追い込みます。PHD2の方法はドリフト法という方法で、天の赤道付近の2か所の星のガイドの赤緯ずれ量から、極軸の水平・高度の調整を行うものです。次に詳述しますが、概略の調整量をPHD2が教えてくれます。
■ PHD2でのドリフト法
・天の赤道付近に鏡筒を向ける
ドリフト法では、天の赤道付近の2か所に鏡筒を向けて、それぞれで調整を行う必要があります。極軸の水平調整には子午線(つまり南中)付近の星を使い、高度調整には東か西のなるべく低空の星を使います。
PHD2をASCOM経由で赤道儀に接続している場合には、PHD2の「旋回(slew)」ボタンでそれぞれの方向に自動で鏡筒を向けさせることもできます。ST-4コネクタでの接続の場合には、赤道儀の赤経・赤緯の読み取りだけをやってくれるようです。
個人的には、子午線付近や低空に鏡筒を向けると、望遠鏡の姿勢や各部の干渉が気になってくるところでもありますので、赤道儀のハンドコントローラを使って大雑把に位置を決めた上で、APTで赤緯0°に向けています。
・PHD2で一度キャリブレーションしておく
ドリフト法であっても赤経軸はガイドしながらになりますから、キャリブレーションしておくのが吉です。キャリブレーションしていない場合、赤経の補正パルスが逆方向に出て、赤経ガイドができなくなることがありました。
キャリブレーションは、過去のキャリブレーションデータをクリアしてからガイドをスタートさせれば自動で実行されます。
・「ドリフトアライメント」でズレ量をチェック
メニューの「ツール」からドリフトアライメントを選択すると、ダイアログボックスが出現します。ここでガイド星を選択して「調整」ボタンを押すと、赤緯のズレ量の測定が開始されます。
初めは南中付近の星を使って水平調整を行い、次に西もしくは東の星を使って垂直調整を行います。
短時間では短時間では測定精度に難がありますので、しばらく時間を待ちます。赤緯のズレ量が赤い斜めの線となって現れます。赤い線が水平ならば調整が完璧なことを表しています。
PHD2のドリフトアラインの画面 赤い斜めの線が測定された赤緯のズレ量です。 |
・極軸を微調整
ドリフト測定ができたら、「調整」ボタンを押します。このボタンを押すと、画面には調整の目安になる円が現れています。
繰り返しになりますが、水平方向の調整は南中付近の星を使って行い、高度方向の調整は東または西の星を使って行います。
ガイド星が調整円の円周に来るくらいまで極軸の微動装置で調整するのですが、どちらの方向に調整すればよいかは分かりません。調整してみて、「ドリフトボタン」を再度押し、赤緯のズレ量が減っていることを確認します。もしもズレ量が増えているようでしたら、調整ボタンを再度押し、反対方向に調整します。
このようににして、「ドリフト」で測定する赤緯のズレ量がなくなり、赤い線がほぼ水平になったら調整完了です。水平の調整が完了したら望遠鏡を東か西に向けて「>高度」ボタンを押し、同様にして極軸の高度調整を行います。
極軸の水平・高度微動で調整していく様子 |
北極星付近の星が見えない環境でも、この方法ならば正確な極軸調整は可能です。
正確な極軸合わせはガイド精度に効くのはもちろんですし、各種自動導入もズバズバ決まるのも小気味よいものです。撮影の前のひと手間ではありますが、赤道儀のアライメントに時間がかからなくなった分をこちらに費やしてもバチは当たらなそうです。
_______________
(オマケ) … 北極星が見えないと「概略の極軸合わせ」の段階で手間取りますので;
■ 北極星が見えない時の「デジタルでアナログな北方指示盤」
私もその昔、小中学生の頃はベランダがメインでしたので、北極星が見えないという問題には随分困らされました。高度は錘を使えばいいとして、方位がどうにもならないのです。方位磁針を使って1°の精度で合わせるなんて、かなりの神技と運が要求されます。
アナログ全盛の当時に編み出した方法は、「自宅が載っているゼンリンの詳細地図を使って自宅が面している道路の方位を調べ、建物に対する北の角度」を作図をして対応したものでした。(昔は住人の氏名入りの超拡大地図が普通に書店で売ってました)
グーグルマップを使った北方指示盤の例 |
グーグルマップをキャプチャした画像に建物などの延長線を描いて印刷したものを用いれば、実際の建物の壁などを基準にして北の方角をかなり正確に知ることが出来るというわけです。いい時代になりました。
コメント
PHD2のドリフトの方法の名前だけは知っていましたが、実際にどうやるのかは、知りませんでした。
要は、あれですよねー、極軸ばっちりだと、補正量が少ないってことですよね!?
今度は、ポールマスターの記事を書いてくださると嬉しいです。
PHD2のドリフト法、ご指摘の通り、バッチリだとガイドでの補正量が少ないってことです。
補正量が少ないと、ヘンなことが起きる可能性も少なくて、ガイドエラーも減る感じです。
たぶん、このドリフト法以上に高い精度で極軸を合わせる方法は無い気がします。
そういうわけで、ポールマスターは極軸望遠鏡の代わりにはなりそうですが、結局ドリフト法もやることになりそうだなー、とか思っちゃってます。
焦点距離によってはポールマスターでの調整で十二分にOKだと思いますので、興味はあるんですけど、ちょっと今はPENDINGで、先の話になっちゃいそうです。ゴメンナサイ。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11122_stlshot2