反射望遠鏡の「主鏡押さえのツメ」を隠すのは定番チューンのようです。主鏡のツメは、星像に余計な光条を生じさせたり月・惑星像のコントラスト低下を招いたりする原因にもなりますから今年の火星接近の前には対策したいと思っていましたが、なんとなく先送りしておりました。
※以下の記事は、あくまでも私個人の体験記です。改造を奨励するものではありません。また、その成功を保証するものでもありません。主鏡の支持方法は機種等によって異なると思いますので、同じ方法で改造できない可能性は十二分にあります。
■ リング型主鏡押さえ
つまり、押さえ具の有効径を主鏡外径に近づける攻めた設計も可能になるというわけです。1cmもの口径を爪隠しのために無駄に捨てたりする必要はないのです。
(私は、後述の鏡面精度の理由で 有効径を約1.5mmほど絞り、φ200としてみました)
■ 工作
このシムリングは外径250mmまで対応するということで、口径20cmくらいの望遠鏡までならば主鏡マスクとして使えます。
今回は、鏡筒内径に近いリング外径とすることで、シースルー主鏡セルからの光漏れ防止も兼ねさせました。(※自分の鏡筒やセルの寸法を、事前に良く測定しておくことが肝要です)
なお、SE200Nオリジナルの主鏡押さえは中華的合理構造とでもいいますか、写真のようなL字形のゴム部品が本体で、これを金属プレート(ツメ)で支えるという構造になっていす。このゴム部品も金属ツメと同じだけ主鏡内側に張り出していましたので、私はこの張り出しをハサミで切り取ってしまうことにしました。(※したがってこの改造を行うと、もう元には戻りません)
先送りの理由は2つあって、一つは「キレイな真円を作るのが大変そう」なことで、二つ目は「口径がけっこう絞られちゃうのが勿体ない」というゆるーい理由でした。
どうしても紙で作ると切り口を綺麗にするのは大変ですし、サークルカッターの精度にも限度があります。いつも綺麗に製作されている方のものを見ては、凄いなあと思っていたのでした。
そして、機種にもよるとは思いますが、主鏡を抑えているツメはけっこう内側に張り出していて、これを全部隠すとなるとけっこうな絞りになってしまいます。私のSE200N鏡筒の場合には片側で約5mm近く張り出しており、口径を1cmくらい絞らないとマスクになりません。幼少のころから「望遠鏡の性能は口径…」と刷り込まれてきた上に貧乏性な私には、どうにも踏み切れなかったのでした。
そして、機種にもよるとは思いますが、主鏡を抑えているツメはけっこう内側に張り出していて、これを全部隠すとなるとけっこうな絞りになってしまいます。私のSE200N鏡筒の場合には片側で約5mm近く張り出しており、口径を1cmくらい絞らないとマスクになりません。幼少のころから「望遠鏡の性能は口径…」と刷り込まれてきた上に貧乏性な私には、どうにも踏み切れなかったのでした。
新型主鏡マスクでのファーストライト (クラビウス) (20cm F5 / 5x Barlow / Sv305) |
また、主鏡面は大変デリケートです。触れると傷をつけてしまうこともありますから、気軽に分解すべきではありません。
■ リング型主鏡押さえ
口径を無駄にせずにツメの影響をなくす、ということで取った作戦は、主鏡押さえのツメを取り払って代わりに金属リングで主鏡を押さえるというコンセプトです。
もともと主鏡押さえのツメが内側に大きく張り出している意味は強度・剛性的には皆無ですが、3箇所別々に止める性質上、どこか1か所が緩んだり傾いたりすると主鏡が外れてしまうかもしれないということを恐れての設計なのかもしれません。
もともと主鏡押さえのツメが内側に大きく張り出している意味は強度・剛性的には皆無ですが、3箇所別々に止める性質上、どこか1か所が緩んだり傾いたりすると主鏡が外れてしまうかもしれないということを恐れての設計なのかもしれません。
これに対して、ツメではなく金属リングを主鏡押さえにしてしまえば、主鏡はその外径より小さいリング内径を通り抜けて外れたりすることは絶対にありません。「円は定幅図形」ということで、マンホールの蓋が絶対に落ちないのと同じ理屈です。
主鏡押さえの三つ爪は退場です |
(私は、後述の鏡面精度の理由で 有効径を約1.5mmほど絞り、φ200としてみました)
■ 工作
主鏡の押さえ具として使える「確かな剛性」と、「ビシッとした真円」のリング状製品ということで、AZ-GTiの高剛性化にも使用した「セミオーダー シムリング」に再び登場願うこととなりました。製造元は、2019年度のグッドカンパニー大賞優秀企業賞に輝いた岩田製作所です。
岩田製作所のシムリング O.D.230 / I.D.200 / t=1.2 ステンレス鋼製 |
今回は、鏡筒内径に近いリング外径とすることで、シースルー主鏡セルからの光漏れ防止も兼ねさせました。(※自分の鏡筒やセルの寸法を、事前に良く測定しておくことが肝要です)
このリングにボルトを通す穴をあけ、黒く色を塗ったら押さえリングは完成です。
なお、私は耐食性と剛性を考えて材質にステンレス鋼を選択しましたが、あまりおススメしません。分かっちゃいたのですが、いかんせん日曜大工では加工しにくいのです。(SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼板には、コバルトハイス鋼のドリル刃物がないと簡単には穴があきません)
この爪の張り出しが無いと、鏡面を面で押せなくなる心配もあったのですが、杞憂でした。写真のように爪の張り出し部分は浮いていて、鏡面にはゴムは最初から面でなど触っておらず、張り出し部は何の仕事もしていないのです。締めたボルトの部分からゴムが縮むので、当然の帰結です(私は決して強く締め付けたりはしていません)。
最後に、リングにゴム部品やボルトを製作したリングに組み付けて、これらを鏡面に落とさないように押さえながら慎重にセルに取りつけ、ネジを適度に締めたら完成です(個人的には、殆どテンションはかけず、主鏡にゴム部品が触れるかどうか程度に締めてます)。
最後に、リングにゴム部品やボルトを製作したリングに組み付けて、これらを鏡面に落とさないように押さえながら慎重にセルに取りつけ、ネジを適度に締めたら完成です(個人的には、殆どテンションはかけず、主鏡にゴム部品が触れるかどうか程度に締めてます)。
■ 中華主鏡の最外周と口径の絞り
口径を無駄にしたくない心理は大いにあるのですが、実は口径を絞ることにも意味があったりします。多くの反射望遠鏡のミラーは、最外周のごくわずかな領域が正確に磨きづらく、精度が悪くなりやすいとされます。特に安価なものはその傾向が強いようです。
そこで、この最外周をマスクしてやれば、精度が悪い部分からの光はカットできるというわけです。
写真は SE200Nのミラーの恒星によるロンキー像です。この縞模様の直線からのズレが鏡面の誤差を示しています。写真の像は概ね直線になっていて良好なパラボラ鏡だということが分かります。
写真は SE200Nのミラーの恒星によるロンキー像です。この縞模様の直線からのズレが鏡面の誤差を示しています。写真の像は概ね直線になっていて良好なパラボラ鏡だということが分かります。
SE200Nのミラーは以前からかなり良好な部類だという認識はあったのですが、最外周のロンキー像には怪しさがありました。今回の主鏡マスクによって最外周を片側1.5mmほど絞ることによってそれが消え失せ、まずまずの良鏡の様子を見せてくれました。
鏡面研磨の達人、木辺成磨氏によれば「どんな鏡面でも角の0.5から1mmの幅には多少とも曲がり(ダレ)があるものです(*)」とのことで、鏡面のこの領域は隠して使うべきところであるようです。
*木辺成磨, "新版 反射望遠鏡の作り方", pp87, 1967
鏡面研磨の達人、木辺成磨氏によれば「どんな鏡面でも角の0.5から1mmの幅には多少とも曲がり(ダレ)があるものです(*)」とのことで、鏡面のこの領域は隠して使うべきところであるようです。
*木辺成磨, "新版 反射望遠鏡の作り方", pp87, 1967
コメント
↓実は自作の鏡を死蔵しているのですが、鏡周ダウンを発生させてしまったので
https://livedoor.blogimg.jp/uwakinabokura/imgs/3/0/304aaa6c.jpg
それを隠すための良い言い訳ができました!
鏡磨き…私は老後の楽しみにとっておこうと思って、2000面を磨いた達人・木辺氏による「新版 反射望遠鏡の作り方」を保管しております。
曰く、「ダウンはほとんどの初心者が作ります」「少し惜しいけれども、(中略)絞って使うとかなり良く見えるものです」とのことです。
外周部が光量的には多くなるので、そこの精度は全体の見え方に大きく効いてくるのだと思います。
鏡研磨の体験、皆様お持ちのようですね!?
F6.7であれば、すごく良く見えそうにも思えます。
今こそ光を当ててみるときなのかもしれませんよ(?)
ところで、鏡周付近は研磨が難しいようですね。
木辺先生も「どんな鏡でも外周1~3mm程度にダレは発生する」と仰っています。
主鏡というのは、もともと絞って使うのが正しい姿なのかもしれませんね。
ズボラな私は植毛紙を裏紙付きのままリング状に切り
裏紙を少しずつはがしながら鏡の端にあわせて貼り付け
ました。効果は???です。幅は2~3mmだったかな。
主鏡押さえは4箇所+1箇所(底部)で、面取りの1ミリ
のところだけに当たるようにプラ板のおさえで脱落防止
しています。テンションはほぼゼロに設定です。
有効径のサイズの筒先絞り(惑星特化)のほうが効果
ありそうですが、超ゆる基準個人の感想です。
コメントありがとうございます!
さすがにツメが悪さをしないように工夫されてますね。
ご指摘のように、プラ板や鏡に貼り付けるシールなどでも鏡の外周は隠せると思います。
ただ私は、シリウスBの見比べをやったときに様々な要因で出ている光条が気になってしまい、高い真円度が欲しくなってしまったのでありました。
支持のゼロテンションはおっしゃる通りで、私もかなり気を使って「触るか触らないか」の設定にしています。
絞りを筒先に置くか鏡の直前に置くかはどちらでも良いようにも思えてしまいますが、絞り径の決定は鏡の磨かれ具合を見ながら決めるのが良さそうです。
専用の(?)西村製作所の主鏡枠がピッタリのようですから、不安はなさそうです。
元の3ツ爪の張り出しは大きくなかったようですが、円形マスクで支持することで落下の危険がゼロにもなって、色々安心だと思います。
鏡の最外周のマスクは、分解能や限界等級を高める上で役立つと思います。
今年は、シリウスやトラペジウムEF星でもその効果を実感しております。
中村要鏡をパーフェクトな状態で使われたらさぞかし素晴らしい像だろうなあ、と、想像いたします。