高倍率アイピースは光軸中心の惑星像での見比べをやってきましたが、あれからいくつか増えてしまったアイピースもあり、これらも試してみなければと思っていました。
見比べの対象は、惑星シーズンではないこの時期としては(2020.2)、重星、それも難物と言われるシリウスBです。2020年現在は離角が11秒角と離れていて観測好機です。
比較に用いたのは、タカハシ TOE3.3mm、TeleVue Radian 4mm、ビクセン HR2.4mm、SMC PENTAX XO2.5 / 5、そしてツァイスのいわゆるCZJ 4-Oです。
上記は全然エコノミーじゃないアイピースばかりですが、その理由は、今回の見比べでは横綱SRがいきなり脱落してしまったためです。そこで今回は代打でSERIES500 PLOSSL(約千円)を起用してみました。素晴らしいアイピースだとの情報もあり、密かに新年に入手していたものです(最近は入手が難しくなってしまっているようでもありますが)。これが果たして名だたる高級アイピース達と勝負になるのか、どうか? 興味のあるところです。
今回のテストでハッキリと分かったのは、惑星表面模様の見えやすさと重星観察での性能はイコールではないということです。惑星相手に素晴らしい像を見せてくれたラムスデン軍団でしたが、SRでシリウスBが見えたことは一度もありません。EIKOW SR5やSB SR4/5を以てしても全くダメでした。7戦全敗で、見える気がしません。
収差でシリウス本体の光芒が大きくなるのと同時に、暗い伴星の光も拡散されてしまうためだと思われます(詳細後述)。
同じような輝度で連続的な濃淡がある惑星表面観察と、シリウス伴星のような明暗差が激しい対象とでは要求される性能が全く違うということのようです。
惑星表面の模様見比べではエアリーディスクのすぐ外の暗環がよく見えるかどうかがキモだったのに対して、シリウスのような重星では収差や迷光の少なさがキモであるように思われます。
■ 予備知識:シリウスの伴星「シリウスB」
全天一明るい-1.4等級のシリウスは、その周りを白色矮星シリウスBが50.1年の周期で回っている連星系です。この周回軌道は楕円形になっていて、主星との見掛けの離れ方(離角)は約3~11秒角で大きく変動しています。
この伴星は、アルヴァン・クラーク(の息子の方)が、自らが製作する47cm屈折望遠鏡のレンズの試験中に発見されました(当初はレンズの不良だと考えられた、とのこと)。この時の離角はおよそ10秒角だったと思われます。
そして、今年、2020年の前後数年は、最もシリウスの主星と伴星の離角が大きくなっており、11秒角離れています。
この伴星は8.4等級で、主星との離角は11秒角(2020年)です。
「口径6cmの極限等級が10.7等級で、分解能は1.93秒角」なのですから、このスペックだけを聞くと余裕で見えそうな感じがします。
しかし、現実にはシリウスBはけっこうな難物で、私の20cm反射ではシーイングが良くないと見えず、3勝4敗中です。ちなみに15cm反射(ミザール150SL)では、アイピースやシーイングに拠らず一度も見えたことがありません(3回チャレンジして全敗)。ほぼいつでも見える土星のカシニの空隙が0.7秒角だということを考えると、11秒角が見えないというのはちょっとした驚きです。
概ね、シリウスBは11秒角になる条件の時でも20cmの口径が必要というのが一般論ですが、アポクロマート屈折ならば10~13cm程度の口径でも見えるようです。
■ 恒星の見え方
高倍率(口径mmの倍程度)で恒星を観察すると、恒星は点になんか見えないということを思い知らされます。恒星も倍率に比例して大きく見えるのが事実です。ただ、見えているのは本当の大きさとは関係ない回折環だというだけです。(ベッセル関数というのは思ったより遠くまで振幅があるものです。)
このため明るいシリウスともなると第2第3どころじゃなく第6/7とかの回折環が光芒としてウジャウジャ見えいて、けっこう大きく見えます。これが倍率に比例して大きく見え、しかもシーイングによって揺らいでいるのです。更に収差があるとこの光芒がますます広がって、伴星を見えにくくします。
もちろん、口径が大きくなるほどこの光芒は小さく見えるようになります。それでも見えている回折環やエアリーディスクは有限の大きさで、理想状態でもベッセル関数の強度分布で見えています。
恒星は点光源ではありますが、点光源が点に見えたら苦労しないわけです。天体写真で明るい星ほど大きく写るのはこのためです。
そして微光星も実は同じように大きく見えていて、収差が大きかったりシーイングが悪かったりすると光が拡散されて"淡く"なります。
極限等級にしても、ありがちな解説では「口径が大きければ多くの光量を集光できるから暗い星まで見える」とされることがありますが、これも誤りと思われます。大口径になっても星の光だけでなく背景の光も等しく集光するので、集光力の観点だけでは背景とのコントラストは変わらず、暗い星が見えることにはなりません。恒星は点には見えないからです。
一旦数式になると騙されがちですが、集光力を使って計算する望遠鏡の性能指標「極限等級」は単なる目安に過ぎません。
大口径で暗い星まで見える理由は集光力のためではなく、星像が小さくなってより狭い範囲に集光できるからです。この効果によって背景よりもコントラストが上がり、暗い星まで見えるようになるのです。(この考え方でも、主鏡面積に比例して暗い星が見えることになるので、集光力をベースにした極限等級の式が目安として成立するのだと思われます。)
こう考えると、集光が甘くなる収差の大きい光学系では見える限界の等級は如実に下がるということです。現実に、アイピースを換えると微光星の見え方にだいぶ差を感じます。
そういうわけですから、重星、とくにシリウスBの観察では収差が少ないことが大変重要です。同時に、迷光処理の良し悪しや、反射望遠鏡であればスパイダーの曲がりなど、光芒を広げてしまう要因も重要なファクターですし、シーイングも影響大です。
こうしてみると、SRアイピースでシリウスBが全く見えないのも頷けます。惑星表面のように連続した輝度の濃淡の観察では回折環の隙間がハッキリ見える性能が重要だと思われますが、シリウスBの観察にはこれとは全く違う性能が求められるわけです。
■ 「対シリウスB」の高倍率アイピース短評
※評価は SE200N (20cm F5 ニュートン反射)で行っています。対象は中心に導入し、斜鏡スパイダーの回折像がシリウスBの位置に来ないようにして行っています。コマコレクター等の補正レンズは使用していません。
※※反射望遠鏡のため、接眼鏡の焦点位置によってはドローチューブの回折光の影響があり、このことがアイピースの評価に影響している可能性があります。反射望遠鏡では、合焦位置が外側にある接眼鏡の方がシリウスBの観察では有利です。
上記のように20cm F5反射でのシリウスBの見え方はデリケートで、主鏡鏡筒や条件によって評価が変わる可能性は十二分にあります。あくまでも下記は、ある条件下での個人的な比較の感想です。
今回の評価はシリウスB向けです。惑星表面の見え方とは違いますので、ご注意ください(惑星の表面観察では光芒の大小よりも、回折環がハッキリと分離しているかどうかがキモではないかと思われます。シリウスBのように10秒角以上も離れたところに及ぶ光芒を見る話と、1秒角以下の模様を分解する性能の話は全く別と思われます)。
・タカハシ TOE-3.3mm 評価:S (333倍)
シリウスBが最も安定して見えていたのは、このタカハシTOE 3.3mmでした。TOEは微光星がコントラスト良く見えるのが特長の一つだと感じています。
タカハシのTOEシリーズは、短焦点アイピースとしてビクセンHRと対比されることもある製品です。スペック上は、ビクセンHRが視野の広さを割り切ってレンズの枚数を減らし中心像に割り切ったタイプであるのに対して、タカハシTOEが多めのレンズ(3群6枚)を使ってやや広めの視野を確保した収差補正に力点を置いたような製品となっています。
このアイピースでシリウスBが良く見えたのは、収差補正が大変優れていることと、迷光処理が丁寧なことが効いているのだと思われます。この結果、微光星がコントラスト良く見えているように感じられました。
球状星団を楽しみたいアイピースでもあります。倍率の高さもあって、背景の黒さもよく締まって見えます。
もちろん、TOEだからと言ってシリウスの強烈な光芒が消え失せたりはしないのですが、微光星とバックグラウンドとのコントラストが高く、シリウスBの認識に向いていると感じられました。私の鏡筒でシリウスBを見るのにちょうどいい倍率ということもあるように思います。
・TeleVue Radian 4mm 評価: S (250倍)
こちらのラジアンも、TOE3.3mmと同様にシリウスBが安定して良く見えました。TOEとのシリウスBの見え方にもし違いがあるとすると、純粋に倍率のわずかな違いだと思います。250倍という倍率は、シリウスBにはやや低めの印象です。
ラジアンは視野が広く、隅々まで点像を結んでくれる5群7枚構成の素晴らしいアイピースですが、惑星観察に対する評価はZAO/CZJ、XO/XP あたりと比較すると僅かに譲るという世間の評のようです(第一級に属することには間違いありませんが)。ここの違いについては惑星で比較してみたいところです。
しかし、恒星観察におけるラジアンの性能は素晴らしく、惑星で高評価のPENTAX XO 2.5/5 やCZJ O-4を凌ぐものが確かにありました。確かに回折環の暗部の見え方のキレは一歩譲かもしれないとも思われるのですが、微光星が良く見えるのです。球状星団もきっとよく見えるアイピースだろうと思います。
収差の補正と迷光の丁寧な処理が素晴らしく、TOEと同様に微光星がコントラスト高く見える結果をもたらしています。こうした特長が、シリウスBを見るのにも向いているということだと思います。
(※合焦位置が外側にあって、反射望遠鏡のドローチューブの影響を受けにくいこともシリウスBに良い方向に作用しました)
・Carl Zeiss Jena (CZJ) 4-O 評価:S-- (250倍)
(屈折望遠鏡では更に良い結果が想像されます。)
このCZJ 4-Oは、元祖ともでも言うべき系譜のアッベオルソです。覗いてみると、見掛け視界が狭く(30°程度?)アイポイントも短い(というか鏡胴が厚い)のが古めかしいレンズですが、惑星用アイピースとしては大変定評のあるトップクラスのアイピースの一つとされています。
覗いてみると、シリウスの回折環とスパイダー像が大変ハッキリとシャープに見えていて、解像度の高さと収差補正の良さが伺えます。他のアイピースと比較しても、この回折像の締まり方はひと際優れています。
背景も黒く良く締まっていて、迷光処理が大変優れているということもよく分かります。高倍率で大きめに見えているる微光星も、良く見えます。
なぜツァイスのオルソが高額で取引されているのかがよく理解できる星像でした。回折像の様子から、惑星観察も楽しみなアイピースです。
ただし、ニュートン反射ではその合焦位置がドローチューブをかなり引っ込めた位置にあることが、シリウスB用としてはやや苦しい戦いとなりました。余計な回折像が現れてしまうのです。
シリウスBの見え方でTOEやラジアンに譲る結果に見えたのはこの影響があったと思われます。屈折望遠鏡などの条件の違う鏡筒では、おそらく結果は変わると思われます。
・Vixen HR 2.4mm 評価: A++(417倍)
惑星も人工星も大変よく見えたビクセンのHR2.4mmですが、シリウスBも相応に良く見えました。ちゃんと確認できます。バックグラウンドの黒さも申し分ありません。
恒星中心部のエアリーディスクや回折環もしっかりしたコントラストで見えていて、スパイダーの回折像もなかなかシャープに見えていました。惑星が良く見えたのも、人工星の撮影で素晴らしい性能を見せてくれたのも納得です。
ただ、倍率が私にはやや高すぎるのか、シリウス本体も伴星も大きく見えすぎるきらいがあって、TOE3.3mmやラジアンで見たときほどの明瞭さでは見えていないように思えました。
ピント位置は比較的外側ですので、ドローチューブが悪さをしていたわけでは無く、倍率違いの影響(個人的な感覚の問題かもしれない)の方が大きいと思われます。
・PENTAX XO 2.5 評価: A++(400倍)
ビクセンHR2.4mmと大変似た見え方で、シリウスBを確認できました。ひょっとしたら中心部のエアリーディスクはXO2.5の方が見えやすいかもしれないとも思いましたが、正直なところ比較は難しい世界です。焦点位置はHRとほとんど同じですので、ドローチューブの悪さもありませんでした。
恒星像そのものは全く申し分なく、エアリーディスクもその周囲の暗環もクッキリと見えておりましたが、やはり倍率が高すぎるせいなのか、伴星がややぼんやりした印象となりました。
CZJ 4-Oがドローチューブの回折光があるにもかかわらず伴星が明らかだったのと比べると、見えやすさという意味で一歩譲る結果です。(倍率による主観はあると思います)
・PENTAX XO 5 評価:A+ (200倍)
シリウスB用としては、私の20cm F5では倍率が少し低すぎ(200倍)になってしまうようです。シリウスBでは、わずかな条件の違いで見えやすい/見えにくいが生じるように感じます。
このペンタックスXO5は惑星用としては最上級に位置付けられるアイピースの一つで、収差補正、迷光防止、そして解像度のどれをとっても素晴らしいものです。
これで恒星を覗くと、他の4mm以下のアイピースと比較して倍率がやや低い分だけ星像も小さくカッチリしたイメージです。それでも何重にも見えている回折環が中心のエアリーディスクまでハッキリ分解していて、なるほどこれで惑星を見たらさぞかし模様が良く見えるだろうと想像できます(未だ試せていません)。
そして、シリウスBも確かに確認できます。できるのですが、倍率が低めなせいか見えやすさと言う点では他の高倍率アイピースの後塵を拝する結果となりました。収差が大きいということは全く感じられないので、純粋に倍率による見え易さの違いだと思います。
鏡筒や倍率によって評価は大きく変わってくるものと思われます。
・SERIES500 PLOSSL 4mm 評価:A-- (250倍)
なかなか素晴らしい星像と解像度だということが、恒星像から確認できます。星像や回折環の分解のコントラストだけに着目すると大変素晴らしい印象で、上述の一流品と十分比肩できてしまうところがスゴい、惑星観察が楽しみなエコノミーアイピース(約千円)です。
しかしながら、迷光処理には絶対的な差があるようで、背景が明るめで微光星がよく見えません。また、合焦位置がCZJ 4-Oと似た位置にあるのですが、これのためにドローチューブの回折像の影響もあり、見えているものがシリウスBなのか回折像の一部なのかの判別が困難でした。他のアイピースで伴星の見え方を確認しているから見えるのであって、このアイピース単独でシリウスBが見えたと確信するのは困難ではないかと思われました。
近年のエコノミーアイピースのレンズ性能自体は十分高いように思われますが、迷光処理などの点に丁寧さはなく、シリウスBのような難物の観察では大きな差を生むように思われました。
______
今回の比較はエコノミー派の私にとっては残念な結果ではありますが、シリウスBは機材や条件を選ぶ相手だということなのだと思いました(特に20cm前後の小望遠鏡では)。
本来であれば、屈折望遠鏡で試してみるべき対象なのかもしれません。
※このシリウスを観察しながら、主鏡マスクを作らなければ、との思いを強くしたのでありました。SE200Nの主鏡は概ね良好なのですが、最外周の僅かな領域の修正がダメなようです。
見比べの対象は、惑星シーズンではないこの時期としては(2020.2)、重星、それも難物と言われるシリウスBです。2020年現在は離角が11秒角と離れていて観測好機です。
比較に用いたのは、タカハシ TOE3.3mm、TeleVue Radian 4mm、ビクセン HR2.4mm、SMC PENTAX XO2.5 / 5、そしてツァイスのいわゆるCZJ 4-Oです。
上記は全然エコノミーじゃないアイピースばかりですが、その理由は、今回の見比べでは横綱SRがいきなり脱落してしまったためです。そこで今回は代打でSERIES500 PLOSSL(約千円)を起用してみました。素晴らしいアイピースだとの情報もあり、密かに新年に入手していたものです(最近は入手が難しくなってしまっているようでもありますが)。これが果たして名だたる高級アイピース達と勝負になるのか、どうか? 興味のあるところです。
シリウスBにチャレンジしたアイピース達 |
今回のテストでハッキリと分かったのは、惑星表面模様の見えやすさと重星観察での性能はイコールではないということです。惑星相手に素晴らしい像を見せてくれたラムスデン軍団でしたが、SRでシリウスBが見えたことは一度もありません。EIKOW SR5やSB SR4/5を以てしても全くダメでした。7戦全敗で、見える気がしません。
収差でシリウス本体の光芒が大きくなるのと同時に、暗い伴星の光も拡散されてしまうためだと思われます(詳細後述)。
同じような輝度で連続的な濃淡がある惑星表面観察と、シリウス伴星のような明暗差が激しい対象とでは要求される性能が全く違うということのようです。
惑星表面の模様見比べではエアリーディスクのすぐ外の暗環がよく見えるかどうかがキモだったのに対して、シリウスのような重星では収差や迷光の少なさがキモであるように思われます。
■ 予備知識:シリウスの伴星「シリウスB」
全天一明るい-1.4等級のシリウスは、その周りを白色矮星シリウスBが50.1年の周期で回っている連星系です。この周回軌道は楕円形になっていて、主星との見掛けの離れ方(離角)は約3~11秒角で大きく変動しています。
この伴星は、アルヴァン・クラーク(の息子の方)が、自らが製作する47cm屈折望遠鏡のレンズの試験中に発見されました(当初はレンズの不良だと考えられた、とのこと)。この時の離角はおよそ10秒角だったと思われます。
そして、今年、2020年の前後数年は、最もシリウスの主星と伴星の離角が大きくなっており、11秒角離れています。
この伴星は8.4等級で、主星との離角は11秒角(2020年)です。
「口径6cmの極限等級が10.7等級で、分解能は1.93秒角」なのですから、このスペックだけを聞くと余裕で見えそうな感じがします。
しかし、現実にはシリウスBはけっこうな難物で、私の20cm反射ではシーイングが良くないと見えず、3勝4敗中です。ちなみに15cm反射(ミザール150SL)では、アイピースやシーイングに拠らず一度も見えたことがありません(3回チャレンジして全敗)。ほぼいつでも見える土星のカシニの空隙が0.7秒角だということを考えると、11秒角が見えないというのはちょっとした驚きです。
概ね、シリウスBは11秒角になる条件の時でも20cmの口径が必要というのが一般論ですが、アポクロマート屈折ならば10~13cm程度の口径でも見えるようです。
■ 恒星の見え方
高倍率(口径mmの倍程度)で恒星を観察すると、恒星は点になんか見えないということを思い知らされます。恒星も倍率に比例して大きく見えるのが事実です。ただ、見えているのは本当の大きさとは関係ない回折環だというだけです。(ベッセル関数というのは思ったより遠くまで振幅があるものです。)
このため明るいシリウスともなると第2第3どころじゃなく第6/7とかの回折環が光芒としてウジャウジャ見えいて、けっこう大きく見えます。これが倍率に比例して大きく見え、しかもシーイングによって揺らいでいるのです。更に収差があるとこの光芒がますます広がって、伴星を見えにくくします。
もちろん、口径が大きくなるほどこの光芒は小さく見えるようになります。それでも見えている回折環やエアリーディスクは有限の大きさで、理想状態でもベッセル関数の強度分布で見えています。
恒星は点光源ではありますが、点光源が点に見えたら苦労しないわけです。天体写真で明るい星ほど大きく写るのはこのためです。
そして微光星も実は同じように大きく見えていて、収差が大きかったりシーイングが悪かったりすると光が拡散されて"淡く"なります。
極限等級にしても、ありがちな解説では「口径が大きければ多くの光量を集光できるから暗い星まで見える」とされることがありますが、これも誤りと思われます。大口径になっても星の光だけでなく背景の光も等しく集光するので、集光力の観点だけでは背景とのコントラストは変わらず、暗い星が見えることにはなりません。恒星は点には見えないからです。
一旦数式になると騙されがちですが、集光力を使って計算する望遠鏡の性能指標「極限等級」は単なる目安に過ぎません。
大口径で暗い星まで見える理由は集光力のためではなく、星像が小さくなってより狭い範囲に集光できるからです。この効果によって背景よりもコントラストが上がり、暗い星まで見えるようになるのです。(この考え方でも、主鏡面積に比例して暗い星が見えることになるので、集光力をベースにした極限等級の式が目安として成立するのだと思われます。)
こう考えると、集光が甘くなる収差の大きい光学系では見える限界の等級は如実に下がるということです。現実に、アイピースを換えると微光星の見え方にだいぶ差を感じます。
そういうわけですから、重星、とくにシリウスBの観察では収差が少ないことが大変重要です。同時に、迷光処理の良し悪しや、反射望遠鏡であればスパイダーの曲がりなど、光芒を広げてしまう要因も重要なファクターですし、シーイングも影響大です。
こうしてみると、SRアイピースでシリウスBが全く見えないのも頷けます。惑星表面のように連続した輝度の濃淡の観察では回折環の隙間がハッキリ見える性能が重要だと思われますが、シリウスBの観察にはこれとは全く違う性能が求められるわけです。
■ 「対シリウスB」の高倍率アイピース短評
※評価は SE200N (20cm F5 ニュートン反射)で行っています。対象は中心に導入し、斜鏡スパイダーの回折像がシリウスBの位置に来ないようにして行っています。コマコレクター等の補正レンズは使用していません。
※※反射望遠鏡のため、接眼鏡の焦点位置によってはドローチューブの回折光の影響があり、このことがアイピースの評価に影響している可能性があります。反射望遠鏡では、合焦位置が外側にある接眼鏡の方がシリウスBの観察では有利です。
上記のように20cm F5反射でのシリウスBの見え方はデリケートで、主鏡鏡筒や条件によって評価が変わる可能性は十二分にあります。あくまでも下記は、ある条件下での個人的な比較の感想です。
今回の評価はシリウスB向けです。惑星表面の見え方とは違いますので、ご注意ください(惑星の表面観察では光芒の大小よりも、回折環がハッキリと分離しているかどうかがキモではないかと思われます。シリウスBのように10秒角以上も離れたところに及ぶ光芒を見る話と、1秒角以下の模様を分解する性能の話は全く別と思われます)。
・タカハシ TOE-3.3mm 評価:S (333倍)
タカハシ(TAK) TOE-3.3mm |
タカハシのTOEシリーズは、短焦点アイピースとしてビクセンHRと対比されることもある製品です。スペック上は、ビクセンHRが視野の広さを割り切ってレンズの枚数を減らし中心像に割り切ったタイプであるのに対して、タカハシTOEが多めのレンズ(3群6枚)を使ってやや広めの視野を確保した収差補正に力点を置いたような製品となっています。
このアイピースでシリウスBが良く見えたのは、収差補正が大変優れていることと、迷光処理が丁寧なことが効いているのだと思われます。この結果、微光星がコントラスト良く見えているように感じられました。
球状星団を楽しみたいアイピースでもあります。倍率の高さもあって、背景の黒さもよく締まって見えます。
もちろん、TOEだからと言ってシリウスの強烈な光芒が消え失せたりはしないのですが、微光星とバックグラウンドとのコントラストが高く、シリウスBの認識に向いていると感じられました。私の鏡筒でシリウスBを見るのにちょうどいい倍率ということもあるように思います。
・TeleVue Radian 4mm 評価: S (250倍)
TeleVue Radian 4mm |
ラジアンは視野が広く、隅々まで点像を結んでくれる5群7枚構成の素晴らしいアイピースですが、惑星観察に対する評価はZAO/CZJ、XO/XP あたりと比較すると僅かに譲るという世間の評のようです(第一級に属することには間違いありませんが)。ここの違いについては惑星で比較してみたいところです。
しかし、恒星観察におけるラジアンの性能は素晴らしく、惑星で高評価のPENTAX XO 2.5/5 やCZJ O-4を凌ぐものが確かにありました。確かに回折環の暗部の見え方のキレは一歩譲かもしれないとも思われるのですが、微光星が良く見えるのです。球状星団もきっとよく見えるアイピースだろうと思います。
収差の補正と迷光の丁寧な処理が素晴らしく、TOEと同様に微光星がコントラスト高く見える結果をもたらしています。こうした特長が、シリウスBを見るのにも向いているということだと思います。
(※合焦位置が外側にあって、反射望遠鏡のドローチューブの影響を受けにくいこともシリウスBに良い方向に作用しました)
・Carl Zeiss Jena (CZJ) 4-O 評価:S-- (250倍)
Carl Zeiss Jena (CZJ) 4-O |
このCZJ 4-Oは、元祖ともでも言うべき系譜のアッベオルソです。覗いてみると、見掛け視界が狭く(30°程度?)アイポイントも短い(というか鏡胴が厚い)のが古めかしいレンズですが、惑星用アイピースとしては大変定評のあるトップクラスのアイピースの一つとされています。
覗いてみると、シリウスの回折環とスパイダー像が大変ハッキリとシャープに見えていて、解像度の高さと収差補正の良さが伺えます。他のアイピースと比較しても、この回折像の締まり方はひと際優れています。
背景も黒く良く締まっていて、迷光処理が大変優れているということもよく分かります。高倍率で大きめに見えているる微光星も、良く見えます。
なぜツァイスのオルソが高額で取引されているのかがよく理解できる星像でした。回折像の様子から、惑星観察も楽しみなアイピースです。
ただし、ニュートン反射ではその合焦位置がドローチューブをかなり引っ込めた位置にあることが、シリウスB用としてはやや苦しい戦いとなりました。余計な回折像が現れてしまうのです。
シリウスBの見え方でTOEやラジアンに譲る結果に見えたのはこの影響があったと思われます。屈折望遠鏡などの条件の違う鏡筒では、おそらく結果は変わると思われます。
・Vixen HR 2.4mm 評価: A++(417倍)
Vixen HR 2.4mm |
恒星中心部のエアリーディスクや回折環もしっかりしたコントラストで見えていて、スパイダーの回折像もなかなかシャープに見えていました。惑星が良く見えたのも、人工星の撮影で素晴らしい性能を見せてくれたのも納得です。
ただ、倍率が私にはやや高すぎるのか、シリウス本体も伴星も大きく見えすぎるきらいがあって、TOE3.3mmやラジアンで見たときほどの明瞭さでは見えていないように思えました。
ピント位置は比較的外側ですので、ドローチューブが悪さをしていたわけでは無く、倍率違いの影響(個人的な感覚の問題かもしれない)の方が大きいと思われます。
・PENTAX XO 2.5 評価: A++(400倍)
SMC PENTAX XO 2.5 |
恒星像そのものは全く申し分なく、エアリーディスクもその周囲の暗環もクッキリと見えておりましたが、やはり倍率が高すぎるせいなのか、伴星がややぼんやりした印象となりました。
CZJ 4-Oがドローチューブの回折光があるにもかかわらず伴星が明らかだったのと比べると、見えやすさという意味で一歩譲る結果です。(倍率による主観はあると思います)
・PENTAX XO 5 評価:A+ (200倍)
SMC PENTAX XO 5 |
このペンタックスXO5は惑星用としては最上級に位置付けられるアイピースの一つで、収差補正、迷光防止、そして解像度のどれをとっても素晴らしいものです。
これで恒星を覗くと、他の4mm以下のアイピースと比較して倍率がやや低い分だけ星像も小さくカッチリしたイメージです。それでも何重にも見えている回折環が中心のエアリーディスクまでハッキリ分解していて、なるほどこれで惑星を見たらさぞかし模様が良く見えるだろうと想像できます(未だ試せていません)。
そして、シリウスBも確かに確認できます。できるのですが、倍率が低めなせいか見えやすさと言う点では他の高倍率アイピースの後塵を拝する結果となりました。収差が大きいということは全く感じられないので、純粋に倍率による見え易さの違いだと思います。
鏡筒や倍率によって評価は大きく変わってくるものと思われます。
・SERIES500 PLOSSL 4mm 評価:A-- (250倍)
なかなか素晴らしい星像と解像度だということが、恒星像から確認できます。星像や回折環の分解のコントラストだけに着目すると大変素晴らしい印象で、上述の一流品と十分比肩できてしまうところがスゴい、惑星観察が楽しみなエコノミーアイピース(約千円)です。
しかしながら、迷光処理には絶対的な差があるようで、背景が明るめで微光星がよく見えません。また、合焦位置がCZJ 4-Oと似た位置にあるのですが、これのためにドローチューブの回折像の影響もあり、見えているものがシリウスBなのか回折像の一部なのかの判別が困難でした。他のアイピースで伴星の見え方を確認しているから見えるのであって、このアイピース単独でシリウスBが見えたと確信するのは困難ではないかと思われました。
近年のエコノミーアイピースのレンズ性能自体は十分高いように思われますが、迷光処理などの点に丁寧さはなく、シリウスBのような難物の観察では大きな差を生むように思われました。
______
今回の比較はエコノミー派の私にとっては残念な結果ではありますが、シリウスBは機材や条件を選ぶ相手だということなのだと思いました(特に20cm前後の小望遠鏡では)。
本来であれば、屈折望遠鏡で試してみるべき対象なのかもしれません。
※このシリウスを観察しながら、主鏡マスクを作らなければ、との思いを強くしたのでありました。SE200Nの主鏡は概ね良好なのですが、最外周の僅かな領域の修正がダメなようです。
コメント
結果は「かなり健闘」、どまりですが、こういう迷光処理に問題があるアイピースに「植毛紙チューン」をおこなうと、
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825056.html
ひょっとしたら、ひょっとするかもしれません!
SERIES500、新年早々に新品で入手してしまい、シリウスでファーストライトです。
うちの20cmではシリウスBはかなり微妙で、その中にあってSERIES500は本当に大健闘でした。恒星の回折像も崩れませんし、光学的性能は間違いなさそうです。
SERIES500は、惑星で威力を発揮するタイプと見ております。
そして「植毛紙チューン」。SR5に施されてますネ!
レンズコバ塗り分はどうにもなりませんが、それでもだいぶ改善しそうです。
火星を迎え撃つ頃までには試してみたいところです!
シリウス分離挑戦は今年で3年目になります。
ビクセンのR150Sを持っていて凍死しそうになったこともあります。
もう15㎝反射では無理なのかなと思いながらここに書き込んでいます。
口径を大きくすればシリウス分離はできるのは知っています。
しかし、ここに書いてある様な超高級アイピースは買えないし赤道儀も買えません。
限られた予算(6万円)で最速でシリウスを見れる様になるにはどうしたらいいですか?
もし、知っていたら教えてください。
R150SでのシリウスB分離は、まさしく「チャレンジ」ですね。
私のミザール15cmではシリウスBが見えたことは一度もなく(20cmで見えている日でも全敗)、かなり難易度は高いと思います。
ビクセンのR150Sは、天文ガイド1984.11号の記事での測定結果では「波面誤差λ/4」とのことですので、概ね良鏡です。
また、鬼門の斜鏡スパイダーやドローチューブの筒内張り出しが起きない構造ですから、シリウスB分離も不可能とは言えないと思います。
「必ず可能な方法」というのは15cmで連敗中の私には分かりませんが、私だったら次の対策で臨むと思います。
1. 鏡筒銀シート巻き
R150Sはミザールよりも7mmほど鏡筒径が細く筒内気流の影響を受けやすいと思いますので、この対策は必須だと思います。特に、シリウスBにとって好適な透明度の高い日ほど、銀シート巻きがない鏡筒は良く冷えて気流を発生させ、分解能も限界等級も落とします。鏡の温度順応と同時に、筒の熱対策が必要です。
2. 主鏡外周のマスク
R150Sは主鏡ツメの張り出しは無い(?)ように見えますが、主鏡外周部の研磨のダレは存在しているようです(同天文ガイドの干渉計像)。そこで、不良な外周1~2mm程度を真円のリングでマスクしてしまった方が像は良くなるものと思われます。
3. フード取り付け
空の良いところではいざしらず、市街地などではニュートン反射の接眼筒に直接入ってくる外光がありますから、フードはあった方がいいです。
4. 透明度とシーイングの良い夜を待つ
ここは運次第ですが、シーイングだけでなく透明度や光害も効くと思っています。月のない夜に暗い空を求めて遠征するのはアリだと思います。
5. アイピースの漆黒化
安いアイピースをバラして鏡胴やレンズ側面を「黒色無双」で塗りたいところです。但し、アイピースの分解・組立は、かなり難易度が高いのでご注意ください。ホコリの混入も厳禁ですし、裏表誤組立などにも細心の注意が要りますので、高級アイピースでやってはいけません。私はラムスデンの分解組立で、10本くらいオシャカにしました。
もう我慢できずLambdaさんと同じSE200Nを買おうと決めAmazonで注文しようと思ったらなんと在庫がない状態で発送は未定になっていました。値段が3万2000円でしたので安かったです。仕方なくスカイウォッチャー 200BKP F5を買いました。税込み4万5000円でした。
ここから本題に入りますがこの200BKPの鏡がフーコーテストで放物面ではなく球面鏡濃厚
(2017年時点)と書かれていました。今現在シュミットで売られている200BKPはFに拘らず
高精度放物面を使用と書かれてます。もし天文ガイドなどで書かれている情報や他の情報を知っていましたら教えてください。もう一つはロンキーアイピースで放物面か球面鏡かの判断は可能なんですかね。その辺りのことも知っていましたら教えてください。
SE200NCRと同等のミラーなら、シリウス分離は十分いけます。
BKP200/1000 の主鏡がどの程度の精度なのかは私も分からず、シュミットからの情報が頼りです(シュミットさんはSkywatcher社の正規代理店ですし)。
本家のサイトでも放物面は謳っているようです。
http://skywatcher.com/product/bkp-p200-ds/
放物面鏡かどうかは、ロンキーアイピースで簡単に調べられます。恒星を見て、線がまっすぐならば放物面。樽形や糸巻形に歪んていたら、放物面からのエラーが大きいことを示しています。
わざわざ球面と放物面を作り分けているとはちょっと考えにくいかな、とは思います。