光軸調整 - 斜鏡の位置問題を解く

反射望遠鏡の光軸調整はなかなか奥深いものがあります。単純にミラーの角度を合わせるだけならレーザーコリメータ―が問題を解決してくれます。しかしながら、「斜鏡の位置」までビシッと決めるのはなかなか難儀なことです(斜鏡の位置は、主に周辺減光の対称性に効きます)。
 今回は、特に鏡筒や金具の組み立て精度が怪しい中華反射望遠鏡での、斜鏡位置を含めた光軸調整方法についてのチャレンジです。

 この問題は屈折派のヒトには無縁のことと思いますが、反射派にとっては切実な問題です。

 斜鏡の位置そのものは斜鏡の芯出しマーキングを行うか、または令和式斜鏡投影法によって合わせることが出来ます。しかしながら、斜鏡位置を鏡筒側面のネジで調整することは支持金具(スパイダー)を曲げることとイコールなわけで、この調整を行ってしまっては良い星像は得られないのでありました。
 一方で、斜鏡の位置ズレは主に周辺減光の対称性に効いてくるというわけで、課題はその両方を解決することにあります。

 以下は、ニュートン式反射望遠鏡のレーザーコリメータ―を使った一般的な光軸調整の方法も含め、ピシッと斜鏡位置の調整とスパイダーの直線性とを両立させていく方法について書いてみたものです。(具体例の対象としている鏡筒は、Kenko SE200N CRです)

接眼筒から見える「斜鏡位置のズレ」の調整
(令和式投影法)

※あくまでも下記は個人的な備忘録としてご覧ください。

■ 反射望遠鏡の光軸調整手順概要
 現在のところ立ち至っている「ニュートン反射の光軸調整」手順の結論は、下記の通りです。通常の光軸調整は、手順③で最後に行います。

手順0 鏡筒は水平に、接眼筒も水平に設置する。
 反射望遠鏡の光軸調整を、鏡筒を立てたままやってはいけません。必ず鏡筒は寝かせてやります。工具類が主鏡に落ちると悲しいことになるからです。
 同様の理由で、接眼筒もなるべく水平に近い状態で行うのが良いです。接眼筒から物を落として、斜鏡に傷をつけるとやはり悲しいことになるからです。

手順① 斜鏡スパイダーを真っ直ぐにする。
 斜鏡の中心が理想位置に来るような調整をしてはいけません失敗談はこちら)。これはもう、斜鏡が取付具にズレて貼り付けられていようが、鏡筒が真円じゃなかろうが、接眼筒がズレていようが関係なく、問答無用で「スパイダーが真っ直ぐになるように」調整するしかないのです。
 私は、定規を当てながらスパイダーが直線的になるように、鏡筒側面のネジを回して調整したのでした。
 繰り返しになりますが、このネジで斜鏡の位置を合わせてはいけません。あくまでもこのネジは、スパイダーを真っ直ぐにするためのネジなのです。

手順② 斜鏡の位置ズレに対処する。
 ここが今回の本丸です。
 詳細は次の節で解説しますが、概略を言ってしまうと、斜鏡の位置ズレは接眼筒の傾き(スケアリング)で調整します。「え~~!?」と思ってしまいそうなところですが、私も思ってしまいます。
 それでOKな理由は次節にて説明します。
 なお、接眼部にスケアリング調整機構がない場合は、①の調整でスパイダーが曲がるのを承知で斜鏡位置を調整し、スパイダーマスクを使うしか方法はありません。

手順③ 通常の光軸調整を行う。
 ここは本来解説は不要かもしれませんが、こちらのブログにお越しになるキーワードのかなり上位に「反射望遠鏡の光軸調整」がランクインしており、わざわざお越しになった方に申し訳なさすぎるので、別途解説ページを設けました。
 慣れてしまえば、特殊なことをする必要はありません。
 解説ページ「反射望遠鏡の光軸調整(通常版)」をご参考としてください。この通常の調整だけでも多くの場合は十分です。


■ 斜鏡の位置ズレへの対処法
接眼筒のスケアリング調整機構
(斜鏡の位置ズレにはこれで対処します)
なぜ斜鏡の位置ズレが起きているのか?と考えると、その原因は多岐にわたって考えられるので、安易に斜鏡と金具との貼り付けを直しただけでは上手く行かない場合が考えられます。
 斜鏡がいくら正確に金具の中心に貼り付けられていても、鏡筒の形状や金具のネジ穴の位置が正しく作られているとは限らないからです。中華鏡筒を舐めてはいけません。

 王道は、鏡筒や金具類の工作精度をきちんと突き詰めて、それぞれが正しい範囲になるようにしていくことだと思います。
 しかし、「ゆるーい天文趣味」に邁進するモノグサ系普通人を代表する当ブログとしては、なるべくお金もかからず面倒くさくない方法で切り抜けたいと願うわけです。

 その方法とは、「斜鏡の位置ズレは接眼筒のスケアリング(傾き)で調整する」というものです。

 そんなことをしたら「写野の左右でピントがズレそう」な気分にもなりますが、そうはなりません。望遠鏡の光軸自体は、ドローチューブを基準にしてミラーの角度が調整されてしまうからです。写野左右のピントズレや星像の話は、ドローチューブとカメラとの直角度の問題でしかなく、接眼部と鏡筒の取付け角度の問題ではないのです。

 むしろ、接眼部と鏡筒の取付け角度がきちんと調整されているのかということを気にした方がよいようにも思えます。よくよく考えてみると、斜鏡の位置ズレと思っていたものは、実は接眼部の傾きに起因していたようにも思えます。ですから、むしろ現状の斜鏡を基準にして接眼筒のスケアリングをちゃんと調整したほうがよさそうに思えます。

 調整自体は、令和式投影法で行います(斜鏡にセンタードットを描いて、センタリングアイピースを使って行うのと結果は同じ)。令和式レーザー投影器は、各種延長筒の類と短焦点アイピースを組み上げる適当な物体ですが、最も斜鏡に近いところに設ける絞りによって、光軸が接眼筒に合致した投影光だけが取り出されるようになっています。

 ここで、投影光と斜鏡の影が同心円を描くように調整していくわけですが、調整のために斜鏡を動かすのではなく、接眼筒のスケアリング調整機構を動かして調整するのがミソというわけです。
 「接眼筒から見て斜鏡が中心に来るようになっていればオーライ」で、相手(斜鏡)を動かすか、自分(接眼筒)を動かすかというところが違うだけというわけです。

接眼筒の傾き調整による斜鏡位置ズレへの対処
(調整前の現実はこんなモンです)
厳密に言うと、この方法の調整によって斜鏡の接眼軸方向の位置(斜鏡のオフセット量)が僅かにズレますが、1/100mmの桁の話ですので、とてもそんなのを議論できるような鏡筒や斜鏡貼付精度ではないでしょう。
 また、最終的な光軸調整によって、斜鏡がズレて貼り付いている分だけ主鏡の光軸と鏡筒の軸が僅かにズレて、鏡筒によるケラレに僅かな不均衡が生じます(筒先で1mmくらいなので非常に微妙)。しかし、鏡筒の軸と、斜鏡のオフセット中心を高精度に合致させる方法はちょっと簡単には思いつきません。

■ 鏡筒の精度について
 私が使用している鏡筒、Kenko SE200N CRは中華製ですが、鏡の精度は良さげながら、鏡筒の機械的精度にはいろいろクセがあります。鏡筒の精度不足は、斜鏡の位置ズレに直結する問題となってきます。
 このあたりは、高級な鏡筒ならば随分マシだろうとは思う一方で、高級機でも程度の差こそあれ本質的に抱えている問題は同じだろうとは思います。

 斜鏡の位置問題を引き起こす主要な原因は、下記のようなものかと思います。

① 鏡筒の真円度(円筒度)
 鏡筒の真円度は、接眼筒の取り付け精度に直結する話ではあります。鏡筒の継ぎ目あたりをみると、1mm程度は軽く真円からズレております。但し設計は合理的で、継ぎ目から最も離れる位置に斜鏡スパイダーが取り付けられる位置関係にはなっています。

② 各種取付穴の位置精度
 鏡筒に穿ってある接眼筒やスパイダーの取付穴や部品にあいている穴は、その加工方法や位置精度がどんなものなのか知る由もありませんが、反射鏡筒のサイズや形状や取付穴のクリアランスを考えると、高精度を期待しても無駄かもしれません。

③ 斜鏡の貼り付け位置精度
 治具を使って貼り付けているものと思われますが、詳細不明です。斜鏡金具を大きく曲げねばならないほどズレていたら目視でもハッキリとズレが分かるとは思うのですが、そこまで狂っているようには見えませんでした。
 とはいえ「貼り付け」ですから、ここに高精度を期待するのも難しいところがあります。

④ その他
 その他にも、精度が担保されているとは考えにくい部位はあります。主鏡の中心も正しく鏡筒の中心に設置されている保証などどこにもありませんし、板金を折り曲げて作ってある斜鏡スパイダーの長さがもともと同じ保証もありません。

 …と、上記のようなことを考えると、トータルで2mm程度に相当する斜鏡位置ズレが起きていた私の鏡筒も、「まあしょうがないかー」と思えなくもありません。約240mmの直径の中で、角度だの穴位置だのを合わせての2mmですから。
 おそらく、大口径になってくると斜鏡と接眼筒の位置関係が遠くなり、わずかな角度ズレが大きな斜鏡位置ズレとして見えるようにもなってくるとは思います。そうなると、斜鏡の中心を厳密に理想位置に持ってくることよりも、接眼筒が正しく斜鏡の方を向いているかどうかということの方が影響甚大になってくるものと思われます。

 特に中華鏡筒の場合には各部の精度などは大変怪しいもので、モノグサな私にとっては幾何学的な完璧さを求めるのは無理に思えますし、各部品が精度よく組み付けられていることを前提にしても無駄なことのようにしか思えないのであります。

 そういうわけで、接眼筒のスケアリング調整による「斜鏡位置の適正化」は、それなりに理に適ったベストエフォートではないか、というのが令和元年暮れの結論なのでありました。


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コメント

shonencamera さんのコメント…
数年前に昔の憧れから150ニュートン(シンタのミード)を買い、斜鏡センターも入れて挑みました。お書きのように各部のガタやどこが基準と考えればよいのかと途方に暮れました。特に斜鏡センターとコリメートアイピースの十字まるでアサッテが解決せず、どうしたらいいんだろうとあちこちいじるパラドックス。結局ある程度で諦めてレーザーで中心だけ合わせてそれで見えたのでそれはそれで嬉しかったのですが、、、どうしてもあちこちに書いてあることと自機での再現が全然合わないのが釈然とせず、そのあとED屈折を買って仕舞い込んでしまっていました。

自粛で時間は売るほど余ってしまってまして何度も記事を読んでて、「え・・・あーーーー!(気づいたw)」 鏡胴も工具もアイピース類も全部引っ張り出して、接眼部のスケアリングをゴニョゴニョ。結果見事斜鏡センターを十字の真ん中に!!!ヒャー!

当時調べて覚えたはずの斜鏡の3点調整も忘れていて、はてここからどうするんだっけ?となりましたが、別記事で斜鏡3点はレーザーで主鏡中心に、ここでもまたひとつ合点がいきました。あとは主鏡のレーザー位置合わせでもうあっという間にできあがってしまい目からウロコ。やっとニュートンの各部調整の「なぜそうするか」というのがわかった気がします。気づかせてくださり本当にありがとうございます。

斜鏡は令和投影はできなくて鏡筒付属ADのM42ネジを使いM42→M58ステップダウンでEOSキットレンズをつけライブビューで中央ネジでの大まかな位置合わせ、スケアリングを液晶格子表示+目視でやり、その後コリメートアイピースで追い込みました。ただ、やはりええ加減&大雑把な各部(特に接眼部)はひとついじればコクコクと遊びや偏芯が今度はマイクロ複数で襲ってきて「ウキー!」となりもしますが、スタートラインまで難儀した分逆になんだかかわいくなってきました。愛でていきたいとおもいます。
Lambda さんの投稿…
shonencameraさん、コメントありがとうございます!

ニュートン反射は、色々な意味で「望遠鏡いじりの醍醐味」が詰まってますね (^^;;
特に最近の鏡筒は、いじれるところが沢山あって楽しみ(悩み?)が尽きません。

多くのサイトは、「斜鏡の位置」を調整するように指導しているような気がしますが、いろいろ弊害もありましたので、そこは接眼筒のスケアリング調整でやるのが吉だという結論に達したのでありました。

そして、カメラでの追い込みは、デジタル時代の良い方法すね!
「眼で覗いて大体同心円に」とか言ってた昭和からすると、大きく時代は変わりました。

ニュートン反射は、近頃は屈折望遠鏡に押されてしまっている印象もありますが、ダメな要素を取り除いていくと大変よく見える&写る鏡筒になる気がしています。
中華製品のアバウト感には悩まされもしますが、ツボを押さえさえすれば何とかなりそうな気にさせてくれるところが、またなんとも楽しいところでもありますね(汗。