反射望遠鏡の斜鏡位置は調整すべきだった、の…か?

反射望遠鏡の光軸調整では斜鏡位置が特にケラレの様子に効いてくるので、これをしっかりと調整する、というのがセオリーになってます。私の中華鏡筒SE200Nでは、当初ケラレの様子が非対称も甚だしく、これの対策として令和式レーザー投影法(斜鏡位置調整法)でオフセット(偏心)付き斜鏡の位置最適化を行い、周辺減光の様子を対称に改善したつもりだったのでした。

しかし、です。
馬頭星雲近くのアルニタクに現れた汚い光条
(とゴースト)

馬頭星雲を撮影してみて改めて気付いたのですが、アルニタク(明るい恒星)周辺の斜鏡スパイダーの回折像が甚だ美しくないわけであります。他にも別の物体による回折像とかゴーストとか発色の問題だとか色々あるわけですが、中でも斜鏡スパイダーの回折像が2本になってるのはは気になるところです。
 すぐに思いつく通り、とりあえずスパイダーが変形しとる、と言うわけです。(角度が微妙にずれているということは、スパイダーが一直線になっていないということ)。

 なぜこのようにスパイダーが曲がってしまったのか、というところは後に詳述しますが、端的に言うと冒頭の斜鏡位置調整の結果としてスパイダーは曲がってしまったのでありました。

 ここでは、反射望遠鏡の斜鏡位置の調整をやるのが本当に正義なのかどうか、というところを振り返りつつ、お気楽ソリューションに近づいてみたいと思います。

■ 2本に割れた光条の発生原因
左のベーンと右のベーンが
一直線になっていない
(比較用に定規を置いています)

光条が二つに割れてしまっている原因自体は単純で、スパイダーが曲がっているからです。写真を見ていただくと分かるように、鏡筒全面に置いたまっすぐな定規と比べると、スパイダーが斜鏡を中心にして曲がっていることが分かります。

 恒星のような点光源からの平行光を望遠鏡で就航して結像するという光学的な操作が算術的にはフーリエ変換に相当することを考えると、鏡筒に入ってくる光に対してスパイダーのような遮蔽物がある方向の解像度は全くありませんから、その方向だけが恒星像は大きくなるわけで、これがスパイダーの光条として観察されているわけです。
 "フーリエ変換"は、画像で言うと長さ(例えばm)を解像度(例えば 1/m)に変換する算数ではありますが、大切な数学的な性質として「原点を中心とした回転方向は変換前後で保存される」と言うものがあります。これはつまり、恒星像の周りの鬱陶しい各種光条の方向は、鏡筒内に突き出ている邪魔モノの位置とビタっと数学的に対応するということでもあります。
 今回の場合で言うと、光条が二つの角度に割れてしまっていますが、この恒星像で現れた光条の角度は、斜鏡スパイダーのベーンが曲がって出来た角度と一致するというわけです。(ここでは対象にしませんが、この原理はドローチューブにも主鏡保持の爪にもネジにも言えることです。)

斜鏡スパイダーによる光条
(2つの恒星は違うものです。右写真のゴーストはスパイダーとは無関係です)


■ なぜスパイダーは曲がったか?
 すでに書いております通り、スパイダーが曲がってしまった原因は斜鏡位置の調整ではあります。
斜鏡位置の調整用ネジ
(ここを弄れば、もう一方のスパイダーは曲がります)
これは、斜鏡位置の調整過程をよく考えてみれば当たり前の話で、斜鏡スパイダーの端っこについているネジを調整して位置調整を行ってしまうと、調整した分だけスパイダーが曲がるのは当然、というオハナシでありました。

 理想的には、「斜鏡は正しい位置にあって」なおかつ「スパイダーも真っ直ぐ」であることが必要なのですが、果たしてそれが正しいお気楽ソリューションなのかどうか、というのが考えどころです。

 現実的には、この斜鏡調整ネジはスパイダーが真っ直ぐになるように調整すべきで、周辺減光の調整なんかのためにいじってはならない、というのが結論でした。
 斜鏡位置のことなど考えずにスパイダーを真っ直ぐにした上で、周辺減光はフラット撮影で補正するというのが正しいお気楽ソリューションに思えるわけです。

(参考)斜鏡の位置ズレと周辺減光での影響の現れ方

ちなみに何故こんなことが起きているかと言うと、一つは斜鏡と金具の貼り付けが最初からズレている、ということが挙げられます。もともと信用していませんでしたが、中華鏡筒の精度はこんなものということではあります。
 もう一つは接眼筒のスケアリングで、令和式投影法で調整すべきはスパイダーのネジではなく、接眼部の調整ネジであった可能性は大です。SE-200N CRは、ここにスケアリング調整ネジが付いているのが良心的と言うか、ユーザー任せ感が漂うところです。

 そういうわけで、スパイダーマスクに行く前に、暇を見つけてまた調整してみたいところではあります。

にほんブログ村 写真ブログ 天体写真へ
にほんブログ村

コメント

シベット さんの投稿…
おはようございます。

自分の鏡筒ではGINJI150FN が、「スパイダーを曲げて斜鏡を偏心取り付け」させたのですが、Lambadaさんの記事ほどではないですが、馬頭の輝星の光条が変になっていました。
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825517.html
これは「気づかなかったふりをする」で解決(笑)

140SS改では斜鏡ステーが一本脚のため、ここに下駄をはかせて偏心取り付けをしましたのでこの問題は発生しませんでした。
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825534.html
78mmスカイステージ改も同じく一本脚ですが、こちらは斜鏡の貼り付け位置で調整。
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825417.html

翻って自作30㎝では斜鏡の偏心取り付けは「あえて」しませんでした。
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825565.html
これは、
1 ピンボケ星像で斜鏡の影が同心円状にならないのが光軸がズレてるみたいでイヤ 
2 斜鏡の取り付け及び光軸修正の考え方が一段階面倒になってイヤ
3 第一、眼視で見た場合、イメージサークルの偏りなんて知覚できない
という、雑な理由の数々によります(笑)
けむけむ さんの投稿…
ペラペラのスパイダーは枝毛が出やすいので、スパイダーマスクを被せちゃってます。20cmニュートンですが、3~4mm幅にするのが良さそうです。
http://lqz.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/bkp200-4153.html
Lambda さんの投稿…
シベットさん、いつもコメントありがとうございます!

私も、実はうすうす感づいていたのですが、「気付かなかったフリ」でゴリ押し解決もありかと思ってました。・・・しかし、アルタニクの光条は明るすぎて、気になっちゃったのでした。

140SSや、当時のビクセンの一本足打法はなかなか良いですよね。接眼部と斜鏡との位置関係が、ビシッと決められるという点で優れているように思えます。偏心取り付けでも難がすくなそうです。

眼視では、いわゆる斜鏡の「偏心取り付け」のご利益がどんなものかはなかなか体感しにくいですね。とくに、低倍率よりも中倍率がいいなと思う私なんかは、なおさらです。
なにかと光軸がズレやすい反射望遠鏡では、偏心によってどこが正しいのか分かりにくくなるのがイヤだ、というのはとてもよく理解できます。
Lambda さんの投稿…
けむけむさん、コメントありがとうございます!

ご指摘のように、薄いスパイダー羽根は、どうせ調整してもたわんでしまいやすいという面もあり、スパイダーマスクは良い方策ですね。

ブログ拝見しましたが、それでもご苦労があるとのことで枝毛対策も奥深そうです。
(主鏡マスクもいいなあ、と思ってしまいました。記事のご紹介、感謝です。)
雲上(くもがみ) さんの投稿…
Lambdaさん こんばんは。
わたしの反射鏡筒R200SS、VC200Lの斜鏡金具は鏡筒リングと一体成型です。
鋳物のためスパイダーが厚く 光条が太いのが悩みでしたが、
薄ければ薄いで苦労もあるんですね。
話は変わるのですが
先日R200SSの主鏡がこっぴどく結露したのをきっかけに
アルミホイル包みやっちゃいました。
検証はまだですが、湿度100%超え(笑)の日本海側でどうなるか。
(関連ブログ記事 リンクさせてもらいました)


Lambda さんの投稿…
雲上さん、コメントありがとうございます!

ビクセンの一体リング型の副鏡金具も、故あってのことと思います。
スパイダーの厚みが光条の太さと直結してるかというとそこはやや微妙で、平行度や撓みの方が悪さをするケースもあるようです。

おっしゃるように、それぞれに悩みがあるところですね。

そしてR200SSのハッブル化、拝見しました。温度順応のことは考えずに巻いてしまっても良さそうに思えている昨今です。
ぜひ、主鏡の裏側も銀の蓋をしてあげるのが吉だと思います。

(この拙ブログをご紹介いただき、ありがとうございます)