令和時代の光軸調整(レーザーで斜鏡の位置決めをやる)

 元号も定まり、新しい令和の時代が幕を開けるまでのカウントダウンがいよいよ始まりました。一方の当ブログは初心者よろしく、平成時代の間には懸案をほとんど解決できそうになく、フォーカサーとかいうナウい言葉にすら慣れていませんが、新時代にもなんとかついて行きたいものだと願っています。

 さて、今回の懸案は、光軸調整、です。
 反射望遠鏡の光軸調整は、平成時代に登場・普及した兵装「レーザーコリメータ―」によって、昭和時代の「目玉と同心円」法とは一味違う簡単さと正確さで光軸調整はできるようになり、平和がもたらされた…筈でありました(→通常の光軸調整の記事はこちら)。
 しかし、平成も終わりに近づいて、その平和もつかの間だったことを思い知ります。良く光軸を合わせたつもりでも、やはり平成の産物のデジタルカメラでいろいろ撮影してみると、隅っこの星像だったり、周辺減光の非対称性だったり、いろいろと光軸不良を疑わせる現象も見えてくるようになってしまったのです。
 もちろん、世間の先輩諸氏はこの問題に真正面から敢然と立ち向かい、解消しておられるようです。各種治具を作成したり、オフセット値を調べて斜鏡にマーキングしたり、といった地道な努力と丹念な作業によって、より正確な光軸調整への対応は可能です。
 一方の「ゆるーい」当ブログでは、面倒くさいことはなるべく避けつつ、新時代を気取ったハイカラで簡単な方法を提案してみたいと思います。

※この方法で「斜鏡スパイダーの調整ネジ」を用いた調整を行ってしまうと、精度の悪い鏡筒では結果的にスパイダーの曲がりが生じ、星像に美しくない光条を発生させます。
このため、調整は接眼等のスケアリング調整によって行うのが適切と思われます。
(本文中の記述は訂正もしくは注釈を入れました 2019.11.25,関連記事)
※※上記に関連して、接眼部のスケアリング調整によって問題を解決する方法を記事にしました。 (2019.12.21, 関連記事

■ 斜鏡位置の問題
 前置きが長くなりましたが、反射望遠鏡の光軸調整で,いわゆる「ミラーの傾き」についてはレーザーコリメータ―が解決してくれました。これによって、「光軸」そのものはほぼ完璧と言ってよい状態に仕上がります。
 しかし、実はこのレーザーコリメータを普通に使う方法では「接眼筒に対する斜鏡の位置」の調整ができないのです。この斜鏡の位置とは、斜鏡の調整金具の真ん中のネジとか、スパイダーのネジを使って調整する鏡の位置のことです(注:スパイダーのネジは、スパイダーが真っ直ぐになるよう調整すべきです)。
 レーザーを使うと、接眼筒の中心軸と主鏡の中心軸が交わる位置に斜鏡面が来るように鏡の角度が調整されます。レーザーがその軸を通るように調整されるわけですね。そういう意味で、斜鏡「面」の位置を含めた光軸は完璧に仕上がります。
 ところが、レーザーは物体としての斜鏡の位置は関知しません。あくまでもレーザーが当たる一点での「面」についての調整でしかなく、斜鏡の外形は無視されているのです。接眼筒と斜鏡外形との間の位置関係は中心像や収差そのものには影響しませんが、周辺減光の対称性には影響します。また、斜鏡での光束とりこぼしによる減光のしかたが非対称だということは、取りこぼした光束が結ぶはずの星像に影響するので、収差の様子も画像四隅で異なる形に見えたりします。また、ズレが大きい時には鏡筒に対する主鏡の傾きも大きくなりがちで、鏡筒やスパイダーでケラレることにもなります。

■ 難しい?斜鏡の位置
 とはいっても、一体どこが斜鏡の中心なのかを割り出すのは容易ではありません。特に、最近の斜鏡はオフセットがついた偏心斜鏡だったりするので、ますます困難です。
 いくら正確に作図したりしても、鏡筒の組み立ての方がそんなに精度良くはないので、困ったものです。私のSE200N鏡筒の斜鏡なんて金具に粘着テープで貼られただけのラフな作りですし、鏡筒の円筒度や調整具がついてる主鏡セルの同軸度も怪しいですから、取り付け中心の基準位置とか偏心量の精度なんて全く期待できません。1~2mmくらい軽くズレてても不思議はなく、「あとはユーザーが勝手に調整してネ」という仕様です。
 大体、「真の中心って一体何なんだぜ?」というお話でもあります。本当は、鏡筒とか金具なんかは無関係で、主鏡サマが基準に決まってるわけです。宇宙空間に浮かぶ主鏡を想像して、ここに斜鏡を置いて、どう並べてどこから覗いたらいいでしょうか、という命題なのです。そこに筒とか金具は登場しません。
 …などと、考え始めると難解なので、天動説頭の私としては、「覗く俺サマ基準」で考えたのでありました。

令和レーザープロジェクション法
 勝手に命名してしまいましたが、この方法はセンタリングアイピースを覗いて見えるミラーを同心円にするのと原理的にはほぼ同じす。レーザーを使うというのがナウい点で、2次元的な影絵が拡大されて見えるのでズレがハッキリと分かり易いのが特長です。
 面倒くさい治具製作や斜鏡へのマーキングなどは不要で、とりあえず手元にあるレーザーコリメータ―とアイピース、接眼延長筒類を組み合わせて作ったのが、令和的斜鏡位置投影器、です。着想から組み立てまで、およそ15分ほどでした。
 考え方の詳細は後述しますが、要するにレーザー光を広げて斜鏡に向けて投射し、できた影を見ると斜鏡位置のズレが分かる、というチンケなシロモノです。接眼筒を基準として、偏心斜鏡に最適化された方法になっています。前置きが長くてすみません。

斜鏡位置の投影像 - かなりズレズレです(汗)…
■ 投影器=レーザー+アイピース+延長筒
令和的 斜鏡投影器

投射のためには鏡筒の焦点位置付近から「円錐状に広がる光源」が必要なのですが、光源にはレーザーコリメータを使い、これを広げるための投射レンズとしてアイピースを用います。アイピースには、かの激安超軽量でシンプルなSR4mmを使いました。短焦点アイピースがちょうど良いようです。小口径機では更に短いものが必要かもしれません。(重たいアイピースが鏡筒内に落下すると悲しいことになりますので、注意が必要です。鏡筒も寝かせた状態で作業することが精神衛生上重要です。
 この他に、アイピースを普通とは反対側に向けて取り付けるための48mm→42mmの変換リングや、投影絞りを取り付ける筒として42mm延長筒など、AliExpressで買いあさってきた安い筒やリングを組み合わせて、投影鏡筒を組み上げました。無加工です。そして投影鏡筒の先端に、24.5mmのアイピースアダプタを取り付けると、ちょうど絞り環としていい具合に収まりました。

 ここで、レーザーとアイピースは思ったより光軸が合いましたが、わずかにズレが残りました。そのままだと投影光の円環が不正確になりますので、斜鏡に近い側に絞り環を設けて軸の合った光だけを取り出します。投影機をぐるぐる回してみて、投影像の最外形が変化しなければ光軸は合っています。最外形が変化する場合は、光が絞られずに出て行っている状況ですので、絞りの位置や径を変えて見る必要があります。なお、ダイオードレーザーの光量分布はもともと一様な円形ではありませんので、そこは留意が必要です

令和式斜鏡投影器の概念図

投影器の構成

これを取り付けて鏡筒内面を見て(*)みると、丸いレーザー投影像の中に斜鏡の影が映ります。ドローチューブを繰り出して円環と斜鏡の影の大きさが近づくように調整しておくと、より正確です。(*注意!! 主鏡方面からはレーザー光がカッ飛んで来てますので、拡散されているとはいえ主鏡を直接のぞき込まない方がいいです
 この投影は、言ってみれば接眼筒光軸を表す円ということになりますから、この投射光の円弧に対して正しい位置に斜鏡の影の円弧がくるように位置を調整してやればいいわけです。具体的には、スパイダーのネジや斜鏡金具の中心ネジを調整して、レーザーの円と斜鏡の円弧が同心になるようにすれば、難しかった斜鏡位置の調整ができるというわけです。(※スパイダーのネジではなく、接眼筒のスケアリングで調整すべきです。関連記事
 この位置調整が終わってしまえば、あとは普通にレーザーコリメータ―を使って、斜鏡の傾き調整→主鏡調整とやれば光軸調整完了です。

投影法で改善しました(投影外周が一様に近づく)
■ 斜鏡位置調整の原理
 この投影法の原理にも基準が必要で、そこが調整原理の仮定になっています。
 その仮定とは、「斜鏡の外径形状の精度はけっこうマトモだろう」という推測で、この外形形状を基準にしています。普通に考えて、鏡を貼り付けてるだけの金具とか調整ネジがついてるスパイダーよりは精度がよさそうだと考えるのは、まあ妥当だろうというわけです。
 この外形に対して焦点位置を起点とする輻射光で投影するので、下図のように輻射光の円錐と斜鏡外径が一致するように斜鏡位置を調整してやれば、斜鏡の位置は偏心も含めていい塩梅にキマるというわけです。
 細かいこと(そうでもないか)を言うと、投影先の鏡筒が湾曲しているので、正確さを追及するならば投影の円錐角を調整して、斜鏡側面との一致度合を高めておけばよいと思います。

斜鏡位置の投影

 ちなみにこの方法は、斜鏡の光軸中心につけたマークを光軸調整アイピースで追い込む方法と基本的には原理が同じで、あくまでも接眼筒と斜鏡との位置関係を調整する手段です。
 光軸調整アイピースとの違いがあるとすると、それは斜鏡の中心をどこだと思うか、という点です。メーカーの設計値的な値を採用するか、いま見えている斜鏡の外形という現物合わせの考えを採用するか、という宗教的な違いです。当「ゆるーい」ブログでは、中華設計の偏心量とその組立精度の実態よりも、目の前に見えている光束のカバレッジバランスの状況を信じるという現場主義的スタンス…というよりは深く考えるのは諦めて面倒臭くない方を採用するというゆるいスタンスです。
 なお、斜鏡「面」の位置そのものは(主鏡軸に対する偏心量も含めて)、普通のレーザー調整によって、そこがあるべき面位置になるように主鏡軸と斜鏡の角度を通じて完全に調整されます。

 さらに、この方法をもう少し突き詰めて、投影先に平板を置いて、投影の円錐径をギリギリまで詰めて斜鏡投影像の歪み方までを観察すると、接眼筒の奥行き方向の偏心量をも含めて理想位置にまで詰められる…ような気もします。が、私にはその影響を論じられるほどの腕も根性もないので、しばらくは今のセッティングでゆるくやってみようと思っています。

 そういうわけで、新時代を気取っただけのゆるーい考え方に基づく令和レーザープロジェクション法ではありますが、ひとまず簡易的に自宅の鏡筒の斜鏡位置を適正化して心の平穏を取り戻した雨の週末だったのでした。きたるべき新時代に世界平和が訪れることを願ってやみません。

本方法は、偏心斜鏡に最適化されています。斜鏡が中心に設置されている鏡筒に用いた場合にも「斜鏡によるケラレが最小になる位置」に調整されますが、その結果として鏡筒と主鏡との軸は傾きますので、鏡筒によるケラレ発生の原因となる可能性がありますので、ご注意ください。斜鏡によるケラレと鏡筒によるケラレのどちらを優先すべきかは、鏡筒径・斜鏡径によって異なります。

追記:

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