気が付いたら、メインストリームから離れた高倍率「キワモノ」アイピースが何故か集結してきてしまいました。いや、私が集めたんですね・・・。
そろそろ惑星シーズンも終わってしまうので、その前に集まってきたアイピース達を試してみたのであります。いずれの製品も、既に入手が困難になってしまっているものばかりですので誰の参考にもならない記事なのですが、記録として残しておくのには実力十分の猛者ばかりでありました。
しかし、こうしたレトロなアイピースを覗くことで新たに見えてきたこともありますので、温故知新を侮るべきではないと痛感しています。
ラインナップは3B SR.4mm、Eikow SR 5mm、谷光学 K-6mm、そして望遠馬鹿様より貸与いただいた Datyson 3群5枚仕様PL-6.3mm の4本立てです。
また、これまで良い成績を残せていない五藤光学MH-6mmについても、ゴーストの考察と共にいくつかのテストをしてみました。
少し長くなるので、今回はそのうちSRとケルナーの3本の覗き比べについて記してみます。PL-6.3mmとMH-6の話は次回と言うことで、ご勘弁ください。
アッベオルソだプレスルだとかいう高倍率アイピースの方式は中心像が良く見えるかどうかということとイコールじゃないことがこれまでの実験や覗き比べで判明していますが、モノによって差がないかと言うとそうではないというのが奥深いところです。
あるアイピースで見えている模様が別のアイピースでは全く見えない、ということは実際に起きていますし、同じ方式のオルソでも差が生じることは撮影実験でも確かめてきました。
強拡大で見ている中心像の解像の良し悪しは、「収差の大小による像の広がり」と「そこに到達する光の可干渉性」の2つのファクターで決まっているというのがこれまでの実験からの仮説です。前者はアイピースの方式や設計で決まるのに対して、後者はレンズの製造精度に依存していると思われ、これがレンズ枚数の少ないアイピースが勝負になってしまう理由ではないかと思われます。
また、色収差は一般的には忌み嫌われますが、どこかの波長が必ずジャスピンになる効果ももたらすので、短焦点Fの主鏡との組み合わせで高解像度を発揮しやすいという一面もあります。
今回テストしているのは、スペシャルラムスデン(SR)とケルナー(K)ではありますが、いずれも中心像は相当なものです。
■ ラムスデンについて
「またまたラムスデンばっかり…」とも思われるかもしれませんが、故吉田正太郎博士によれば、
『ラムスデンというと「少し色消しの悪い接眼鏡」というイメージを持っている人がいるかもしれませんが、それはまったくの誤解です。彼の設計が悪いのではなくて、後世の人たちの使い方が悪いのです(*)』とのことです。
私も全く同意します。
ラムスデンはハイゲンスよりも設計が80年ほど新しく、SRに至っては20世紀の作品です(たぶん)。2枚玉ならではのヌケの良さが凄いことについては、当ブログでも何度も紹介してきた通りです。
なお、博士に「使い方が悪い」と指摘されている点について、倍率の色消しを成立させる「f1 : d : f2 = 1 : 1 : 1」を具現化した "ピュアラムスデン" 接眼鏡を復刻させるつもりです(現在鏡胴製作が難航中…。)。
ビクセンのハイパーラムスデンHRにも迫る高性能2枚玉アイピース「SR」。そして眼側を色消しにしたケルナー。
どちらも入門書では「高倍率には向かない」と断じられていますが、私は密かに広視野を求めない高倍率の方が向いてるんじゃないかと思っているところです(アイレリーフ除く)。
*「望遠鏡発達史 [上]」,pp165, 吉田正太郎, 1994
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では、それぞれのインプレッションです。(相変わらずのポエム記事ですみません)
■ 3B(スリービーチ) SR.4mm
これまたヤバいアイピースのお出ましです。良く見えます。
セレストロンSR-4は実際の焦点距離が6mmほどでしたが、この3Bはちゃんと4mmでした。Pentax XP3.8と同程度の大きさに惑星が拡大されて見えます。
色収差が残るのは非ピュアラムスデンの宿命ですが、中心像の解像度はクリアそのものです。
セレストロンSR-4(6mm)も非常に解像度の高いアイピースでありましたが、この3B SR.4mmもそれに近い解像度でありました。中心像だけならばSMC PENTAX O-6と張り合う実力でした。
セレストロンSR-4は、迷光処理の点でやや難があって背景を含めた像のクリアさに微妙に霞みがかかるところがあるのですが、この3B SR.4mmは背景も黒く締まる印象です。
古い天文ガイドを開くと、この3B SR.4mmにはなんと 1,700円の値札が付いています。その頃の私と言えばアッベオルソ信仰にかぶれていて、SRなんかには目もくれませんでした。確かめもしないでダメなやつと思い込んでいたわけで、恥ずかしい限りです。
今回の品は、ジャンク双眼鏡との抱き合わせで 4,000円ほどで入手したものです。
■ EIKOW SR 5mm
手に入れてきたSRアイピースの中では白眉です。恐ろしいことに、セレストロンSR-4(6mm)と同じか、より良いようにすら感じます。焦点距離は、正しく5mm程度であるようです。
このエイコーのSR 5は、高倍率アイピースの中でも非常に良く見える Pentax XP3.8と同程度の解像度で良く見え、最上クラスのアイピースと同程度でした。頭がクラクラしてきます。
セレストロンSR-4と比較すると迷光処理が格段に良く、高い解像度と見易いコントラストを実現しています。3B SR-4と比較しても、高いコントラストであるように感じられました。
セレストロン、スリービーチ、エイコーのSRは、それぞれ似た見え方で、コーティングや艶消し処理などが差になっているように思えますが、じつに僅差です。スペシャルラムスデンでは色収差が残りますが、必ずどこかの波長はピントが合っている効果によって、ピントがシビアな短焦点鏡との相性がすこぶる良いようです。
中心像の解像度は間違いなく高いです。
■ 谷光学 K.6mm
短焦点のケルナーはアイレリーフが厳しくてあまり作られないと言われています。そんなことを言い出したらラムスデンだって無慈悲なアイレリーフには違いありません。惑星観察を前提にすると視野中心がメインになりますからアイレリーフはあまり関係ないとも言えますが、ケルナー6mmというのはかなり短焦点な部類だと思います。
このK.6mmで木星を覗くと、像の明るさが前出のSRと比べて際立つ感じでした。色味が白っぽく、着色がない透明感が伺えます。木星像には、ニュートン反射のスパイダーの回折像が重なって見えました。
SRと比較すると、確実に収差が少ない印象を受けます。特にこれは月などを覗くと顕著で、広くはない視野とはいえ周辺像も使えます。
そして問題の中心像ですが、こちらもクリアで収差の少ない良像を結んでくれます。ラムスデンと比較すると、像質がシャープであるようにも感じられるのですが、谷光学のOr(7mm)と同様に、もう一歩の解像力には欠ける感じで、木星の細かい模様の見え方や、土星のカシニの隙間の全周の見え具合などで SRに及ばない結果となりました。
解像度のレベルとしては TMB Planetary IIか、FUJIYAMA HD-OR と同じくらいかと思います。個人的な印象ではFUJIYAMA HD-ORに似た見え方に思えました。一般的に言えば十分に良く見えるレベルと言えます。
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以上のように、多くのレトロな高倍率レンズの中心像は実用に供するというか、現代でも高い評価を得ている高級アイピースに伍する中心像を見せてくれるということが確認できたのでありました。
また、詳細は次回に書きますが、チープなアイピースを覗き比べたからこそ見えてきたこともあります。現代のアイピースでも、気付かないところでコントラストを下げ、解像度が下がっているように感じさせる現象が実は起きているの・・・かも?(つづく)
そろそろ惑星シーズンも終わってしまうので、その前に集まってきたアイピース達を試してみたのであります。いずれの製品も、既に入手が困難になってしまっているものばかりですので誰の参考にもならない記事なのですが、記録として残しておくのには実力十分の猛者ばかりでありました。
しかし、こうしたレトロなアイピースを覗くことで新たに見えてきたこともありますので、温故知新を侮るべきではないと痛感しています。
集まってきた高倍率アイピース達 |
また、これまで良い成績を残せていない五藤光学MH-6mmについても、ゴーストの考察と共にいくつかのテストをしてみました。
少し長くなるので、今回はそのうちSRとケルナーの3本の覗き比べについて記してみます。PL-6.3mmとMH-6の話は次回と言うことで、ご勘弁ください。
アッベオルソだプレスルだとかいう高倍率アイピースの方式は中心像が良く見えるかどうかということとイコールじゃないことがこれまでの実験や覗き比べで判明していますが、モノによって差がないかと言うとそうではないというのが奥深いところです。
あるアイピースで見えている模様が別のアイピースでは全く見えない、ということは実際に起きていますし、同じ方式のオルソでも差が生じることは撮影実験でも確かめてきました。
強拡大で見ている中心像の解像の良し悪しは、「収差の大小による像の広がり」と「そこに到達する光の可干渉性」の2つのファクターで決まっているというのがこれまでの実験からの仮説です。前者はアイピースの方式や設計で決まるのに対して、後者はレンズの製造精度に依存していると思われ、これがレンズ枚数の少ないアイピースが勝負になってしまう理由ではないかと思われます。
また、色収差は一般的には忌み嫌われますが、どこかの波長が必ずジャスピンになる効果ももたらすので、短焦点Fの主鏡との組み合わせで高解像度を発揮しやすいという一面もあります。
今回テストしているのは、スペシャルラムスデン(SR)とケルナー(K)ではありますが、いずれも中心像は相当なものです。
■ ラムスデンについて
「またまたラムスデンばっかり…」とも思われるかもしれませんが、故吉田正太郎博士によれば、
『ラムスデンというと「少し色消しの悪い接眼鏡」というイメージを持っている人がいるかもしれませんが、それはまったくの誤解です。彼の設計が悪いのではなくて、後世の人たちの使い方が悪いのです(*)』とのことです。
私も全く同意します。
ラムスデンはハイゲンスよりも設計が80年ほど新しく、SRに至っては20世紀の作品です(たぶん)。2枚玉ならではのヌケの良さが凄いことについては、当ブログでも何度も紹介してきた通りです。
なお、博士に「使い方が悪い」と指摘されている点について、倍率の色消しを成立させる「f1 : d : f2 = 1 : 1 : 1」を具現化した "ピュアラムスデン" 接眼鏡を復刻させるつもりです(現在鏡胴製作が難航中…。)。
ビクセンの
どちらも入門書では「高倍率には向かない」と断じられていますが、私は密かに広視野を求めない高倍率の方が向いてるんじゃないかと思っているところです(アイレリーフ除く)。
*「望遠鏡発達史 [上]」,pp165, 吉田正太郎, 1994
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では、それぞれのインプレッションです。(相変わらずのポエム記事ですみません)
■ 3B(スリービーチ) SR.4mm
これまたヤバいアイピースのお出ましです。良く見えます。
スリービーチ SR.4mm |
色収差が残るのは非ピュアラムスデンの宿命ですが、中心像の解像度はクリアそのものです。
セレストロンSR-4(6mm)も非常に解像度の高いアイピースでありましたが、この3B SR.4mmもそれに近い解像度でありました。中心像だけならばSMC PENTAX O-6と張り合う実力でした。
セレストロンSR-4は、迷光処理の点でやや難があって背景を含めた像のクリアさに微妙に霞みがかかるところがあるのですが、この3B SR.4mmは背景も黒く締まる印象です。
古い天文ガイドを開くと、この3B SR.4mmにはなんと 1,700円の値札が付いています。その頃の私と言えばアッベオルソ信仰にかぶれていて、SRなんかには目もくれませんでした。確かめもしないでダメなやつと思い込んでいたわけで、恥ずかしい限りです。
今回の品は、ジャンク双眼鏡との抱き合わせで 4,000円ほどで入手したものです。
■ EIKOW SR 5mm
EIKOW SR 5mm |
このエイコーのSR 5は、高倍率アイピースの中でも非常に良く見える Pentax XP3.8と同程度の解像度で良く見え、最上クラスのアイピースと同程度でした。頭がクラクラしてきます。
セレストロンSR-4と比較すると迷光処理が格段に良く、高い解像度と見易いコントラストを実現しています。3B SR-4と比較しても、高いコントラストであるように感じられました。
セレストロン、スリービーチ、エイコーのSRは、それぞれ似た見え方で、コーティングや艶消し処理などが差になっているように思えますが、じつに僅差です。スペシャルラムスデンでは色収差が残りますが、必ずどこかの波長はピントが合っている効果によって、ピントがシビアな短焦点鏡との相性がすこぶる良いようです。
中心像の解像度は間違いなく高いです。
■ 谷光学 K.6mm
谷光学 K.6mm |
このK.6mmで木星を覗くと、像の明るさが前出のSRと比べて際立つ感じでした。色味が白っぽく、着色がない透明感が伺えます。木星像には、ニュートン反射のスパイダーの回折像が重なって見えました。
SRと比較すると、確実に収差が少ない印象を受けます。特にこれは月などを覗くと顕著で、広くはない視野とはいえ周辺像も使えます。
そして問題の中心像ですが、こちらもクリアで収差の少ない良像を結んでくれます。ラムスデンと比較すると、像質がシャープであるようにも感じられるのですが、谷光学のOr(7mm)と同様に、もう一歩の解像力には欠ける感じで、木星の細かい模様の見え方や、土星のカシニの隙間の全周の見え具合などで SRに及ばない結果となりました。
解像度のレベルとしては TMB Planetary IIか、FUJIYAMA HD-OR と同じくらいかと思います。個人的な印象ではFUJIYAMA HD-ORに似た見え方に思えました。一般的に言えば十分に良く見えるレベルと言えます。
-----
以上のように、多くのレトロな高倍率レンズの中心像は実用に供するというか、現代でも高い評価を得ている高級アイピースに伍する中心像を見せてくれるということが確認できたのでありました。
また、詳細は次回に書きますが、チープなアイピースを覗き比べたからこそ見えてきたこともあります。現代のアイピースでも、気付かないところでコントラストを下げ、解像度が下がっているように感じさせる現象が実は起きているの・・・かも?(つづく)
コメント
「ばかにされていたものが実はすごい実力だった」って、
どこの少年漫画ですか、ていうかんじですね。
「メガネをはずすと美少女」と同じくらい俺史上リアル体験での
インパクトと爽快感です。そしてどちらもちゃんと理由がある。
(メガネ美少女は、男性が苦手なので見た目で声をかけられないよう
ブスに見えるメガネをかけていたらしいです)
いやー、3B。ちょっと小馬鹿にしていてごめんなさいという気持ちで一杯です。
この当時、作っていた会社はどこだったのでしょうね??
製造元はそう多くはない感じがしなくもないです。
そしてこの時代のアイピースは筐体がどれも似た形をしていて、迷光処理が思ったよりも丁寧なのもポイントですね。
誰ーも見向きもしなかったんですよね、これが定価で売られてた頃。
私としては、HR、XP、XO、TOE、SMC O、TMB P2と高倍率アイピースにだいぶ大枚はたいてしまいましたが、かつて粗悪品だと思って目もくれなかった製品がこの錚々たる面々の相手になってしまうのは何とも複雑な気持ちです。
(金をつぎ込んできたご令嬢カノジョがいるのに、垢抜けないけどかわいい娘に目が行ってしまった、みたいな???)
いや、SRがすごいのは中心像だけではありますヨ。
同じジャンルの考察は以前にちょっとかじったことがあるのですが、
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/cat_59655.html
ここまで詳細にはやってませんでした。改めて勉強になりました。
ちなみに3B製のSR4mm、5mmは当時1700円だったみたいですが、同時期に、「スリコールスーパーオルソ4mm」というのが3Bとしてはトップエンド価格の4800円で広告に出ており、「2群5枚構成、フルコート、アイポイント2mm、見かけ視界43°」「収差、ゴースト、フレア、平坦性等の最良の補正、最高級アイピース」という、笠井Tの元祖みたいなキャッチコピーがついていました。
いつかは入手したいと思っいてたまに探すのですが、いまだに見つかりません。
じつは、シベットさんの記事、以前より拝見しておりました。
SRの凄さについては、Yamaca氏がネットで述べたのが最初で、詳細記事はシベットさんの記事が最初だったと思います。
f-4の見え方も、単レンズのそれに凄く近いなあ、などとも思ってたりしました。
そして THREEKOR スーパーオルソ―。
上でコメントいただいている望遠馬鹿さんからも情報があって、私もぢつは探してます。
http://bouen-oremie.jugem.jp/?eid=25
↓こちらには現物の写真が!
http://ww81.tiki.ne.jp/~yumarin7/eyepiece.htm
そういう意味で、TP(トリプレーン; ケーニヒ型?)もちょっと気になっております。
あの情報少なき時代にコレらを選択できた人はなかなかいなかったと思います。