決着。高倍率アイピース頂上対決

高倍率アイピースの頂上対決、ついに決着です。この一連の対決に相当の出費と時間をかけた甲斐はあったというもので、個人的には長年気になっていた高倍率アイピースの見え味をじっくり見比べる感動を楽しむことが出来ました。
 先週末は、夜半頃までは貴重な晴れ間が覗いていましたので、その隙を突いて木星、土星を堪能しつつ、アイピースの見え味を改めて確かめて、その上で人工星の撮影を行いました。
 この日は風が強くはあったのですが、私のシーイング占いでは末吉といったところで、前回ほどの酷さはありませんでした。残念ながら「ナイフで切ったような」カッシーニの隙間…というわけにはいきませんでしたが、この決勝ラウンドに進んだ単レンズKepler、SR、XP、HR の4本では、どれも土星表面の模様や輪に落ちた本体の影と合わせてこのカッシーニの隙間も十分ハッキリとは見えていた、という状態です。(やっぱ土星は美しい!)

 Anywayですね、いろいろ見とれている間に雲が出てきてしまって、対決は恒星像ではなく人工星となったのであります。

■人工星の星像比較
 今回の人工星は、庭から土星を臨む位置関係の都合で、50mの距離での撮影となりました。径100μmのピンホールは0.41秒角ですので、口径20cm分解能より小さいサイズで、先日地球とニアミスしたという小惑星と同じくらいの視直径です。また、前回とは異なり、撮影筒にも気流対策を施し、XP3.8mmやHR2.4mmのように光束が大変細くなるレンズでも回折環の撮影ができるようになりました。
 撮影はEOS60Dでの動画で、およそ1000枚の画像をスタックして回折像を得ました。
 ただし、恒星像の場合とは違って、FFTでは有用な情報が得られませんでした。写っている回折環の本数が一つしかなく、光量も十分ではないため波数空間で議論できるような数値情報は得られませんでした(眼視ではいくつもの回折環が観察できるのですが、一眼レフカメラ動画の感度では写せません)。
 そこで、今回は人工星像そのものを使っての評価を行いました。どれくらいの大きさで人口星像が捉えられているか、という評価です。
 理屈からすると、人工星像が0.41秒角で口径20cmのエアリーディスクの半径が0.6秒角程度ですから、約1.6秒角強の像を得るのが限界ということになります。(なるほど、こう考えると 50μmと100μmの人工星とで口径の分解能以下でも大きさが違って見える理由がよくわかります)

 測定は、星像の縦横と斜めの4か所を測定して平均値を取りましたので、0.25~0.5ピクセル程度の精密度はあろうかと思います。拡大率の差にもよりますが、概ね7~13ピクセルの像として星像を捉えています。したがって、2.5~5%程度の誤差はないとは言い切れません。
 …しかし、一定の条件の下での撮影結果を第一の基準として、前回の眼脂結果を参考情報としながら一旦は順位をつけるということにしました。

人工星の撮影像。
※決勝ラウンドに残ったどのアイピースも、口径20cmの限界に近い像をもたらしています。

■そして頂上対決の勝者は…

 結果から申しますと結果は極めて僅差で、理論値に近い像を得ています。本当にこれを人間の眼で優劣つけられるのかどうか、自分自身でも疑わしいと思えてしまうほどの僅差です。
 この決勝ラウンドに進んだ4本は、どれも中心像については素晴らしい性能だと断言できます

そして、頂上対決の測定した星像の大きさで判定した結果は以下の通りです。有効数字3桁を表示していますが、3桁目は大小の比較にはなるかもしれませんがこの桁の数値にリニアな意味はないのでご留意ください。

第一位: 1.66秒角、SMC PENTAX XP3.8mm
 なんということでしょう。これが一番小さい中心像を結ぶ結果となりました。眼視では木星面の細かい模様がかすれ気味に見える感じはあったわけですが、しかししっかり解像していたということのようです。
 このアイピースはXOとは異なり、ヤフオクではけっこう安めに取引されていますが、相当良く見える部類の超一級品だといえます。ちなみに私は約1万円ほどで入手しています。

第一位: 1.69秒角、Vixen HR2.4mm
 この中心像サイズのXPとの差を、有意差と言ってよいかどうかは極めて微妙です。中心像のサイズはほとんど同じですが、その周囲に見える収差の広がりはこのHRの方が気持ち小さくも見え、HRはやはり超一級品に類すると言えます。そういうわけで、測定値が最も小さかったXPとは同着一位と判断しました。
 眼視でのインプレッションとは異なる結果となりましたが、どうやら眼視観測での私の眼の水晶体は0.5mmの射出瞳径に耐えていなかった、と判断するよりほかありません。
Paolini氏が高い評価を与えている理由も頷ける結果となりました。
 また、人工星像の眼視での姿も、XPと並んで素晴らしいものがあったと申し添えておきます。

第三位:1.74秒角、Celestron SR4mm(実質6mm, λ魂仕様)
 こちらは、上記2本と比べて像のサイズが小さく、1ピクセルの重みが違う中での数値ではありますが、ごく僅かとはいえ有意差はあったと見るべきと判断しています。
 眼視では間違いなくキレのある像を見せており、私の中では今でも「ザ・ベストの惑星用アイピースではないか」という思いもあるのですが、瞳径が私の水晶体に合っていたということが影響していた可能性は否定できません。
 とはいえ、世間的に見てもほぼ頂上と言ってよいXPやHRと十分わたり合えるレベルの性能を有していることが確認できたとも言えます。トップとの差の0.08秒角って、口径20cmのエアリーディスク直径の 1/10以下の差ですからね。
 ちなみに、これまでの眼視や恒星像比較の結果から言って、このSRに中心像で勝てるようなオルソなんて、そんなにあるもんじゃありません。間違いなく一度は拝んでおく価値のある中心像だと思います。

第四位:1.75秒角、単レンズ The Kepler 6mm
 ごくごく僅差で、SRとの差は有意差と言えません(拡大率の差しか見えていない)。
 眼視で再確認しても、やはり木星の模様もカッシーニの隙間も素晴らしいコントラストで見えているのですが、この差は解像度の差ではなく色収差による効果である可能性が大きいようにも思えます。そういう意味で、色収差の大きさなどを勘案の結果第四位としました。
 また、今回のテストで重要なことが一つ分かってしまいました。それは、「単レンズでは、そこそこ適当な焦点位置でもどこかの波長は必ずジャスピンになっている」という否定の使用のない事実です。確かに、HRやXPではピント調整に敏感というかいくらでも追い込める感じがあるのですが、単レンズでは合焦リングを回すと像の大きさはあまり変わらずに色が変わっていく(笑)のです。このことが、色フィルター効果と相俟って眼視での強烈な解像度とコントラストを実現していた可能性は大です。解像度があるのにボケている、というのも納得です。
 こうしてこの単レンズの結果を見ると、やはりメーカーが出してくるスポットダイヤグラムでの比較には疑問を感じずにはおれません。世の中の多くのオルソの中心像は、色収差効果があるとはいえこの単レンズに及ばないわけで、このことを安易に無視すべきではないように思うのです。

番外:1.68秒角、SMC Pentax XO2.5mm
 えーーと、梅雨時期に生えてきてしまったやつです。もちろん興味津々で木星・土星を眺めました。解像度に関して言うと、XPとほぼ同じです。優劣もつけがたいです。人工星像も撮影しましたが、やはり有意差を見出せません。
 ただ、見た感じの惑星の色味がHRとは若干違って感じられるのが面白いところです。
 このあたりの超一級アイピースを比較しようとすると、もはや、また別の方法が要るようです。

 それにしても、SMC Pentaxシリーズの解像度はホンモノで、様々なところで高い評価を得ている理由がよく分かります。

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そういうわけで、高倍率アイピースの頂上決戦は一旦はその答えに到達し、私の好奇心はだいぶ満たされました。

しかしその一方で、私の興味はというと…高精度単レンズを2枚組み合わせ、レンズ間隔をピッタリ焦点距離にセットした「ピュアラムスデン」に移りつつあります。まだ組み上げられておりませんが、またどこかのタイミングで報告したいと思います。

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さて、そういうわけで、プレゼント企画も決着です。
コメント欄より投票いただいた結果からしますと、XP0名、HR2名、SR3名、単レンズ2名でした。
高性能順位順→先着順ということで、当選は以下の3名様と相成りました。
 ・HRに投票いただいた : ぽこぽこ様、787b様
 ・SRに投票いただいた : 星のGG様(先着順)
ブログトップページの「連絡フォーム」より、お送り先をご指示ください。送料等含めて、全て当方の負担にて「λ魂SR-4」を発送いたします。

※そのほか、単レンズにご投票いただいた方、Twitterでコメントいただいた方、ご興味を寄せていただいた皆様に、改めて御礼申し上げます。おかげさまで、私自身がこの対決を大変楽しむことができました。

コメント

匿名 さんのコメント…
写真判定でまさかの逆転負けw

メーカーや業界的には、100分の1の値段で
同じくらい見えるSRは、無視するしかない
存在してはいけないAnotherな存在なのかもしれません。

暑いなか、お疲れさまでした。このような研究は大変
価値のあるものです。後発にとって偉大なる遺産、資産となる
ものでしょう。
Lambda さんの投稿…
やはり私の眼はアテにはならない部分があったというか、写真で判定しても差がごくごく僅かだったという、ある種の衝撃的な結末でした。

ご指摘のように、SRはメーカーにとっては無かったことにしたいような相手だと思います。
「ラムスデンはファインダー用」なんです(笑

それにしても、天文と言うのは科学の元祖なのに、意外と中世的な信仰が残されてる面白さがあります。

ガリレオが感じた種類のワクワクを楽しんでみたいと思います。

※おつきあい頂きまして、感謝です!