レンズ設計、これでいいの?中篇(じゃあどうするか。)

 高倍率接眼鏡決戦の勝者を最後にどうやって判定するのか?という構想無しに企画を立ち上げたりはしません。ただ、モヤっとしていた構想を企画を通じて広くご意見を拝聴しながら具体化して実験で確かめてみたい、という意図であります。
 奇しくも天文リフNews編集部様よりご連絡をいただき、ブログコーナーに紹介されたタイミングと重なって、多くの方にご覧いただけたことは幸いでした。

 さて、前回の前篇は、疑問が噴出して終わってしまいました。
 私も経験したことのある「過剰倍率になるとかえって像がぼやけて見えにくい」現象とは一体何なのか?
そして、高倍率アイピースの「実測による定量的な評価方法」とは?
更に、それがどうして「ニセモノTMB復活の呪術」につながるのか??

 そうしたことについて、毎度のごとくゆるーくですが、考えてみました。
 早速ですが、まず結論からです。

■ 高倍アイピースの実測試験法
 …といっても新しいことは全くなくて、アイピースと口径の相性の考察の時に観察したフーリエ変換像を使う、というのが実測試験方法としては妥当なんじゃないかと考え至りました。
 そして世の中を調べてみると、あのフーリエ変換像はOTF(光学伝達関数)と呼ばれているらしく、PSF(点拡がり関数)のフーリエ変換像です。これを画像として見比べるのはなかなか難しいので、だいたい点対称だと仮定して一周ぐるっと平均して、2軸のグラフにしてみました。
 まあ、難しいことは考えずに、下の図を見てもらうのが早いと思います。横軸が解像度(もしくは分解能、空間周波数)で、縦軸はその強度です。使った画像は、恒星像比較で撮った時のものです。
 空間周波数、というと分かりづらいので、当ブログでは横軸を「口径相当の分解能」になるように縮尺をとっているのがミソです。味方としては、縦軸が大きい方がエラくて、しかも右側で大きくなっていると「細かい模様まで分解できる」アイピースだということになります。

アイピースのOTF
(主鏡+アイピースのOTFです。光軸ズレもコミコミです)

恒星のFFT像(SR4mm、Gチャネル)
ドーナツ状に見える外縁が、20cmの口径の分解能を指していると思われます

この図を見ると、口径10cmより大きいところでアイピースの差が表れていることがわかります。また使った望遠鏡の口径より大きいところではもはや差が見えなくなっています。
 これを見ていると、SR-4mmが強烈な強さを見せつけているということがよく分かります。ペンタオルソに肉薄しているというより、追いかけてるのはペンタオルソの方だった格好になっています。なるほど、そりゃあ確かに良く見えたわけだ。
 また、口径10cm以下の分解能のゾーン、5cm相当くらいのところではペンタオルソがややリードしている部分があります。これは、5cmくらいの望遠鏡の分解能のサイズの模様には、オルソの収差補正が効いているということかもしれません。
 一方の当て馬にしてしまったSvBONY 4mmも、10cm以下の小口径であれば他のアイピースと大差ありません。しかしながら、口径が15cmを超えたあたりでいかんともし難い差が開くようです。

 こうやって比較すると、どのアイピースが解像度に優れているかが一目瞭然です。また、望遠鏡屋が宣伝するストレールナントカとはちがって設計値ではなく実測値だというのがミソです。

 そういうわけで、写真判定ではこの図を使って勝敗判定をしようと思います。眼視判定ではありがちなポエムに過ぎなくなってしまいますので・・・。

光学ブラック処理のSR4鏡胴
また、像比較はシーイング(と天気)の影響を避けるために、人工星にトライしてみようと思います。ポチってしまいました。
 人工星とこのOTFで実測試験が出来るのだとしたら、なぜ望遠鏡メーカーはきちんと実測したデータで宣伝しないのか、その姿勢には疑問が残ります(プロ…なんですよね?)。設計値通りだったらラムスデンなんか相手にもならないはずです。ストレールナントカだってやる気があれば実測できるのですから、宣伝する自信があるなら測ってほしいものだと思ってやみません。

*OTF輝度比は、分解能ゼロのDC成分を100%、FFT画像の最小値を0として正規化しています。また、フーリエ変換像に見える主鏡の分解能を示すリングのサイズから、拡大率の差異を横軸で補正しています。
**ちなみに、FFTをRGB別にかけてみると色収差の違いがオルソとラムスデンで顕著です。やはり、ラムスデンには確かに色収差が残っています。ただし、「色はつくけど各色で分解能が高い」ので、OTFには現れにくいようです。

■ つづきは後篇で…
 ホントはこれを後篇にするつもりだったのですが、ついつい長くなって中篇になってしまいました。
 次回後篇では、「過剰倍率になるとかえって像がぼやけて見えにくい」現象について考察しながら、何故SR-4が良く見えて他の名だたるオルソが撃沈されたのか、を考えてみたいと思います。
レンズのコバ塗りも実施しました
(4面全て曲率の違うレンズです)
また、レーリーリミットについて考察しているうちについでに思いついたニセモノTMBの復活儀式についても触れてみられればと思います。

プレゼント企画用景品の特別版SR-4は、写真の通り鋭意準備中です。特別版を示す耐候性ステッカーも印刷しましたので、エントリーをご希望の方はプレゼント企画記事へのコメントで奮ってご応募ください(締め切りはまだ先です)。

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コメント

Sam さんの投稿…
Lambdaさんはじめまして、「ほしぞloveログ」というブログを書いているSamと申します。
めちゃくちゃ面白い記事ばかりですね。素晴らしいです。最初から全部の記事を読んでしまいました。
アイピースはあまり詳しくないのですが、頂上対決楽しみにしています。

比較手法が、撮影した画像でフーリエ変換してしまうというのは客観的な数値で出てくるので秀逸なアイデアかと思います。一つ思ったのが、分解能が20cmの口径相当から高いところで3つのアイピースの結果がほぼ同様に見えるところです。おそらく一眼レフカメラでの撮影動画をスタックしたものを変換前の画像として使っていると思うのですが、一眼レフカメラの動画は圧縮の影響が結構があって、高周波成分をかなり飛ばしてしまいます。惑星撮影などでもかなりその影響が出ます。最初の頃それで悩んでいました。
http://hoshizolove.blog.jp/archives/9771879.html
その後、CMOSカメラでRAW動画を処理することできちんと細部まで出すことができるようになりました。天文ガイドの2016年8月号にも同様に比較した画像が出ていますので、もしバックナンバーを読むことができるなら探してみて下さい。
もしかしたら上のグラフにも動画圧縮の影響が出ているのではと思いました。元画像からどれくらい拡大してトリミングしているのかわからないので、もし勘違いだったらすみません。

神話をどんどん客観的に解明していく方向性は見ていて痛快です。これからの記事も楽しみにしています。
Lambda さんの投稿…
Samさん、はじめまして。また、コメントありがとうございます!

動画圧縮!、たしかに。なんにも考えてませんでした(苦笑)。
仰る通り、一眼レフカメラの撮影動画のスタックなのですが、サイズを考えるとjpeg的な帯域制限圧縮が行われていることは間違いないと思います。
ただ、今回の「20cmの分解能」は、FFT像で見ると楕円形(光軸ズレのせいで楕円なんだと思います)で、拡大率によって大きさが異なるところからして、動画圧縮ではなく光学系の限界が見えているのだろうと思われます。

詳しくないのですが、jpegはおそらくコサイン変換の高周波側をカットするタイプの圧縮だと思われるので、FFTでの見え方は矩形状の帯域制限になろうかと思います。そう思って生のFFT像を見ると、矩形的な帯域制限と思われる痕跡も確かに見えてますね(写真を本文中にアップします)。

3つのアイピースで差が見えないのは、もはや主鏡の分解能以上の情報は「タダのノイズ」が写っているだけなのだろう、と解釈しております。

※引き続き、よろしくおねがいします(!)。「ほしぞloveログ」も、とても詳細な検討がされていて興味深いです。参考にさせてください。