「自分で工夫する」天体観測の愉しみ

書斎の奥深くに眠る書籍が発掘されました。これまで、幾度にもわたる引越しの中で多くの書籍も失われてしまったのですが、なぜか捨てられなかった一冊です。

自分で工夫する「ぼくらの天体観測」
著・坂本嘉親氏
この書籍は、私が星に興味を持ち始めた小学3年の頃、母が買い与えたものでした。私の実家は父母共に学問とか科学だとかには縁遠く、本の良し悪しを判断できたとは到底思えないのですが、ひと言だけ言われました。
 「この本には、"自分で工夫する"と書いてあるから買ってきた」と。
この言葉は、私にとっては大いに暗示になりました。

 本を開くと、出てくる漢字には全てフリガナが振られていて、完全に小学生向けの入門書です。
 ところがこの本、数十年を経た今になって改めて読んでみると内容が恐ろしくマニアックで、宇宙に関係することが詳しく正確に書かれていてビビりました。
 たとえば木星の自転が9時間56分で周囲の帯とは21秒差で回っていてこの差のために大赤班が引っ張られることがあって観察すると面白いとか、M87銀河の中心にはブラックホールの存在が推定されているとか、1973年初版の小学生向け書籍としては相当にマニアックな内容です。
 掲載されている写真も、天文台によるものが厳選されているとは思うのですが、現代の肥えた目で見てもド迫力に感じるM81とかNGC4565とかが掲載されていて、目を奪われます。

 さらに望遠鏡のページをめくると、筒内気流を扇風機を使って解消する方法やら、六孔絞りによって反射望遠鏡の高分解能側コントラストを高める方法(アポダイジングマスクと似た原理)とか、極軸望遠鏡ナシで「極軸合わせ」を行う方法などが記載されています。
 多くのことは小学生には難解だったのですが、今になってみると当時分からなかったものが良く理解できて、今なおインスピレーションを貰えるほどの輝きを放っていて焦ります。カラー写真ばかりがキラキラしていて内容が浅薄な昨今の図鑑とは大違いです。
(昔の本ですから、もちろん星雲は低倍率で見ろと書いてありますし、ラムスデンはファインダー用だとも書かれています。まあそこから半世紀近く過ぎた今の入門書にも同じように書いてありますけど。)

新聞みたいな印刷なのに
今見ても大迫力な写真でした
(天文台のだと思いますが)
今更ながら、尊敬の念を込めてこの著者の方の略歴を拝見すると、なんとどこかの幼稚園の園長先生で、しかも完全な文系の経歴お持ちの方のようで、これも大いに驚きました。

 この本はボロボロになるまで何度も読んだのですが、残念なことに小学校低学年だった当時の私のアタマには難解だったようです。望遠鏡のページをあけるとエンピツ書きで「口径1m、集光力2040倍」と掛け算九九しか知らない小学生の知識で力強く誤りが書き込まれていたのでありました。

ですが思えば、どうやら私はこの本の内容が潜在意識にあって生きてきたようにも思えます。

本の表紙写真を真似しようと
期末試験前日にほぼ徹夜で撮った月食
(中学生の頃, たぶんフジカラーHR400)

この本の著者のご専門は科学史ということもあって、ガリレオについてのくだりで次のような記述があります。
当時欧州第一の学者を以て任ずるクレモニーニは、ガリレオが望遠鏡を覗くよう再三勧めたにも関わらず、"望遠鏡は魔法である"としてこれを断ったといいます。先入主ほど科学と人類の進歩を妨げるものはありません。
と。全く同意します。

今の私は、既に先入主に毒されつつある大人となってしまって、ごくごく標準的な生活を営んではおります。しかし、「"自分で工夫する"という暗示は確かに受け取っております」、と、同書にはリスペクトを込めつつ報告しておきたいと思います。


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