広視界だのフラットだのといった謳い文句が席巻している中低倍率アイピースではありますが、今回はいにしえより伝わるクラシカル・アイピースを覗き比べてみました。オールドファッションとはいえ、今眺めてみると意外な良さも見えてきます。
付属品のアイピースをつけて覗いてみるのも、なかなか楽しい世界があります。
こうしたアイピースには、カタログを飾る広大な見掛け視界や特別な新しい設計による収差補正はありません。ですが、昔ながらのコンパクトな筐体には手軽に楽しめる魅力が潜んでいます。また、40~50°前後の見掛け視界は「望遠鏡を覗いている」という感じがして、昨今の超広角系に慣れた眼で覗くと案外新鮮な良さがあって、もっと見直されても良いように思います。
そして何より、これらクラシカル・アイピースは中古品が格安で手に入ったりする点が魅力のエコノミー・アイピースである点も見逃せません。
今回は、ミザールAH40mm / K.25mm、ビクセンK.20mm / Or.25mm、メーカー不明(谷光学と思われる)Or.25mm、同不明(谷光学と思われる)Er.32mm、および三鷹光器PL-35mmの7本が対象です。
■ 評価について
今回は、150SL鏡筒(15cm F5ニュートン)に補正レンズ無しでアイピースを取り付けて評価しています。したがって、主鏡の像面湾曲やコマ収差がある状態での評価になっております。
中・低倍率アイピースでは、主鏡の像面湾曲との相性が視野全体の像の見え方を大きく左右するように思います。各種の収差も、視野周辺でピントが合わなくなることによって大きく見えてしまうからです。
このように、主鏡との相性の影響が大きいことを前提にした評価となっておりますので、ご留意ください。
なお、中心像は倍率が低く、優劣が分かりませんでした。どのアイピースでもほぼ点に見えるということで、Aをつけています。(射出瞳径が大きくなってくると、自分の眼の収差の方が気になってきてしまい、詳細な点像の評価はできませんでした)
※下記に表示されている「実視野能」は実視野を得る能力を示した数値で、この数値を主鏡焦点距離(mm)で割ると実視界(°)となります。
■ ビクセン K.20mm
寸評: 覗きやすい標準付属品。
[fl=20mm, FOV=40°, 実視野能=800, 24.5mm]
像:中心A, 50%視野A-, 周辺視野B+
像面湾曲:B+, 迷光: B+
オーソドクスな付属品として流通しているアイピースです。中長焦点アイピースではアイポイントの位置が定めにくかったりすることがありますが、このK.20mmは見口の形状が工夫されていて覗きやすくなっています。
ケルナーは高級品ではありませんが、その中心付近の像は十分に鋭く、視野の半分強までは像の崩れはほぼ気になりません。散開星団などでも対象は十分に良像で観察できます。
視野周辺では像面湾曲が大きめなせいか周辺に行くにしたがってピント位置がずれ、短焦点反射ではコマ収差が強めに見えるようになりました。非点収差や色収差も多少見えてしまいます。とはいえ、昨今の超広角アイピースの周辺像と比べるとその程度は小さく、控えめに設定された視野環によって収差が目立ちすぎることがないのが、この種のクラシカルアイピースの美点だと思います。望遠鏡の標準付属品として君臨してきた理由がよく分かります。
■ ビクセン Or.25mm
寸評: オルソの価値を再認識させてくれた。
[fl=25mm, FOV=42°, 実視野能=1050, 24.5mm]
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: A-
高級な立ち位置のオルソで、ケルナーよりも若干だけ見掛け視界が広くなっています。スペック的に目を見張るところはないのですが、覗いてみて「オルソの価値」を再認識してしまいました。
K.20mmに比べると、文字通り整像性に優れていて、視野周辺まで十分な良像を結んでくれます。
倍率は20mmより低く、市街地では視野全体が明るくなりますが、迷光処理がK.20mmより上等で背景の明るさはさほどには増えず、コントラストが高くなっています。
「望遠鏡を覗いている」という臨場感だけでなく、歪みのない気持ちの良い視界を提供する価値は間違いなくあるようです。以前は、見掛け視界が広いわけでもないこうしたオルソが高い値段で売られていることの価値を理解できませんでしたが、今覗き比べてみると確かにその価値はあるということがよく分かりました。
■ 不明 Or.25mm (谷光学と思われる)
寸評: これぞオルソ。本当によく見える。
[fl=25mm, FOV=42°, 実視野能=1050, 24.5mm]
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A
像面湾曲:A, 迷光: A
スペック的にはビクセンのOr.25と変わらず、デザインも似ていますが、焦点位置やレンズ間隔、コーティング、迷光処理などの設計や作りは全く違うようです。同じオルソであっても、随分違いがあるということを感じます。
覗いてみると迷光処理の出来が随分よく、視野の背景が黒く締まってコントラストが高められているのがよく分かります。絞り環に至るまで丁寧な艶消し塗装がなされている効果のようです。
そして星像は、F5の主鏡に使っているのに視野周辺までほぼ点像。見掛け視野は広くないとはいえ、ナグラーを覗いた時と同じような衝撃を受けました。F5ニュートンと組み合わせなのに、大きなコマ収差も感じません。おそらく、像面湾曲の抑えられ方が良いのだろうと想像します。
このアイピースはヤフオク叩き売られていたのを入手したものですが、大変素晴らしい実力を持った逸品だということを再確認しました。"T JAPAN"のシールはなかったのですが、アイピースの形状などから谷光学研究所製のアッベオルソだろうと推定されます。
谷光学研究所のアイピースやそれと同じ製造所による国産アイピースはこれまでにいくつも覗いてきましたが、全体的に収差補正に優れている印象です。中心像解像度を求める高倍率よりも、こうした低中倍率で整像性を求める用途で大変優れた性能を示す傾向があるように感じています。
■ ミザール K.25mm
寸評: ダークホースな良い見え味。
[fl=25mm, FOV=40°, 実視野能=1000, 24.5mm]
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A-
像面湾曲:A--, 迷光: A--
150SL鏡筒に付属していたアイピースを再入手したものです。ハレー彗星が来た1986年当時としてはK.20mmと並んで「定番付属品」と言えるスペックのアイピースです。
外観は谷光学のOr.25mmによく似たテイストで、絞り環などの部品も同一形態に見えます。コーティングも谷光学のものと同一のようです。但し、艶消し塗装は谷光学の物に比べるとやや雑で、ところどころに金属光沢が見えてしまっているのが残念です。
改めてテストして見ると、ダークホースと言って良い実力でした。良く見えます。焦点距離が長めなおかげか、像面湾曲がケルナーとしては良く抑えられています。確かにオルソと比較すると周辺像のピント位置や収差が見える点に違いはありますが、言うほどの差には見えません。
以前、ハレー彗星もこのアイピースと15cm/F5ニュートンの組み合わせで見ておりましたが、周辺像のコマ収差などが気にならなかったのも、このアイピースがあればこそ、ということのようです。
見掛け視界の小さいアイピースでは視野全体が一度に見渡せるので、周辺像が荒れると気になりやすい面があるのですが、このケルナーはそうした懸念も少ないように思えました。
■ ミザール AH 40mm
寸評: 像の鋭さはスゴイが迷光処理が…。
[fl=40mm, FOV=30°, 実視野能=1200, 24.5mm]
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: B-
たしかに絞り環が視野レンズの内側にある「ハイゲンス」です。見掛け視界は30°と狭いのですが、実視野能1200は24.5mmアイピースとしてはほぼ限界の広さです。覗くと「狭い」とは感じますが、Vixenのファインダーアイピースよりは実視界を稼げます。
外観はミザールK.25や谷光学Or.25と同じテイストのもので、コーティングもこれらと同じものが施されているように見えます。ただし、視野レンズ押さえ部品の艶消し塗装がよろしくなく、これがこのアイピースの性能をスポイルしています。
覗いてみると、視野全域(狭いけど)にわたって良像を結びます。倍率が低いことも手伝って恒星がとても小さな点に見え、像面湾曲も気になりません。星像と言う観点では、素晴らしく良く出来ているアイピースではないかと思います。
とても小さな円の中に星雲・星団が小さく見えて、ミニチュアの世界を見ているような新鮮な感動があります。私はこのアイピースを37年ほど前にデパートの眼鏡売り場で取り寄せてもらって購入し、6cm/F13.3屈折にμフィルターと共に取りつけてオリオン大星雲を眺めた時の像を思い出すのですが、確かに「収差って何?」というシャープさであったと思います(今思えば、μフィルターで青ハロが取れてほぼアポクロマートな像だったのだと思いますが、当時の私には収差を論じるほどの知識も経験もありませんでした)。
このアイピースの迷光処理の失敗は、低倍率と相俟って背景を白っぽくしてしまうのが残念の極みです。それでもこの小さな視界と鋭像の組み合わせには価値があり、いずれ塗装してやらねばと思います。
■ 不明 Er 32mm (谷光学と思われる)
寸評: 広い実視野を良くまとめている。
[fl=32mm, FOV=50°, 実視野能=1600, 31.7mm]
像:中心A, 50%視野A--, 周辺視野B
像面湾曲:B, 迷光: A-
31.7mmサイズのアイピースとして最大級の実視野を実現する「実視野能1600」は、他に比肩するものとしてはタカハシEr.28mm、ユニトロンのWIDESCAN20mmくらいしかありません。
エルフレは、かつては広角アイピースの代名詞として君臨していました。たしかに、40°前後の視界に慣れた眼でこのエルフレを覗くと、50°でも視野が広大に感じられます。(ふつう、エルフレは60°前後が多いのですが、31.7mmのバレル径の制約で50°にとどまっています)
像質は中心こそシャープですが、周辺に行くにしたがって徐々に崩れていき、周辺では像面湾曲によるピントズレや非点収差が現れる像となります。
しかしながら、現代的なアイピースのように無理に見掛け視界を頑張っていない分だけ、WIDESCANなどと比較すると周辺像の崩れは少なく抑えられ、実視野の広さを考えるとよく収差を抑えているように思います。低倍率で覗く散開星団も、低倍率ならではの小さな星像と、視野全体が見渡せる感覚がとても楽しいアイピースです。
■ 三鷹光器 PLOSSL 35mm
寸評: 視野は狭いが像は確かに高級
[fl=35mm, FOV=38°, 実視野能=1330, 31.7mm]
像:中心A, 50%視野A, 90%視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: A-
30年前くらいに叩き売りされていた三鷹光器のアイピースです。おそらく、40°に達しない見掛け視界の狭さが流行らなかったのだろうと想像されます。
全体的に丁寧に作られたアイピースで、迷光処理も一部の環にやや艶があるのを除けばよく出来ています。
覗いてみると、視野周辺まで収差が良く補正されていますが、さすがに実視界が広いために最周辺では像の形がわずかだけ崩れます(主鏡の収差が見えているのかもしれません)。
この実視界のアイピースとしては像面湾曲は小さく抑えられており、広い実視野を低倍率で楽しむことができるアイピースです。見え味は「高級なアクロマート・ハイゲンス」といった具合で、迷光処理を含めたグレードが上がっていてよく見えます。
さほど大きくない視野の中に、星団の小さい星が詰まって見えるのはなかなか感動的です。このクラスのプロ―セルは、もっと見直されても良いのかもしれません。
________________________
以上のように、クラシカルアイピースはカタログスペックを飾る華やかさはありません。ですが、地味に収差を補正しているオルソなどで覗くと、パッと見の派手さではないシャープな像の良さが分かります。「広視界」はもちろんそれ自体に価値があるのですが、そればかりじゃない楽しみ方も広がっていることを思い知らされます。
また、丸い円形の視野が眼前に見えてその向こうに星があるという「望遠鏡を覗いている」感動をもたらしてくれるアイピースとして、もっと見直されてもよいのではないかと思ったのでした。
付属品のアイピースをつけて覗いてみるのも、なかなか楽しい世界があります。
こうしたアイピースには、カタログを飾る広大な見掛け視界や特別な新しい設計による収差補正はありません。ですが、昔ながらのコンパクトな筐体には手軽に楽しめる魅力が潜んでいます。また、40~50°前後の見掛け視界は「望遠鏡を覗いている」という感じがして、昨今の超広角系に慣れた眼で覗くと案外新鮮な良さがあって、もっと見直されても良いように思います。
そして何より、これらクラシカル・アイピースは中古品が格安で手に入ったりする点が魅力のエコノミー・アイピースである点も見逃せません。
今回は、ミザールAH40mm / K.25mm、ビクセンK.20mm / Or.25mm、メーカー不明(谷光学と思われる)Or.25mm、同不明(谷光学と思われる)Er.32mm、および三鷹光器PL-35mmの7本が対象です。
今回テストした低倍率クラシカル・アイピース |
■ 評価について
今回は、150SL鏡筒(15cm F5ニュートン)に補正レンズ無しでアイピースを取り付けて評価しています。したがって、主鏡の像面湾曲やコマ収差がある状態での評価になっております。
中・低倍率アイピースでは、主鏡の像面湾曲との相性が視野全体の像の見え方を大きく左右するように思います。各種の収差も、視野周辺でピントが合わなくなることによって大きく見えてしまうからです。
このように、主鏡との相性の影響が大きいことを前提にした評価となっておりますので、ご留意ください。
なお、中心像は倍率が低く、優劣が分かりませんでした。どのアイピースでもほぼ点に見えるということで、Aをつけています。(射出瞳径が大きくなってくると、自分の眼の収差の方が気になってきてしまい、詳細な点像の評価はできませんでした)
※下記に表示されている「実視野能」は実視野を得る能力を示した数値で、この数値を主鏡焦点距離(mm)で割ると実視界(°)となります。
■ ビクセン K.20mm
寸評: 覗きやすい標準付属品。
Vixen K.20mm |
像:中心A, 50%視野A-, 周辺視野B+
像面湾曲:B+, 迷光: B+
オーソドクスな付属品として流通しているアイピースです。中長焦点アイピースではアイポイントの位置が定めにくかったりすることがありますが、このK.20mmは見口の形状が工夫されていて覗きやすくなっています。
ケルナーは高級品ではありませんが、その中心付近の像は十分に鋭く、視野の半分強までは像の崩れはほぼ気になりません。散開星団などでも対象は十分に良像で観察できます。
視野周辺では像面湾曲が大きめなせいか周辺に行くにしたがってピント位置がずれ、短焦点反射ではコマ収差が強めに見えるようになりました。非点収差や色収差も多少見えてしまいます。とはいえ、昨今の超広角アイピースの周辺像と比べるとその程度は小さく、控えめに設定された視野環によって収差が目立ちすぎることがないのが、この種のクラシカルアイピースの美点だと思います。望遠鏡の標準付属品として君臨してきた理由がよく分かります。
■ ビクセン Or.25mm
寸評: オルソの価値を再認識させてくれた。
Vixen Or.25mm |
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: A-
高級な立ち位置のオルソで、ケルナーよりも若干だけ見掛け視界が広くなっています。スペック的に目を見張るところはないのですが、覗いてみて「オルソの価値」を再認識してしまいました。
K.20mmに比べると、文字通り整像性に優れていて、視野周辺まで十分な良像を結んでくれます。
倍率は20mmより低く、市街地では視野全体が明るくなりますが、迷光処理がK.20mmより上等で背景の明るさはさほどには増えず、コントラストが高くなっています。
「望遠鏡を覗いている」という臨場感だけでなく、歪みのない気持ちの良い視界を提供する価値は間違いなくあるようです。以前は、見掛け視界が広いわけでもないこうしたオルソが高い値段で売られていることの価値を理解できませんでしたが、今覗き比べてみると確かにその価値はあるということがよく分かりました。
■ 不明 Or.25mm (谷光学と思われる)
寸評: これぞオルソ。本当によく見える。
メーカー不明 Or.25mm (T JAPANのシールはありませんが、 谷光学のアッベオルソと思われます) |
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A
像面湾曲:A, 迷光: A
スペック的にはビクセンのOr.25と変わらず、デザインも似ていますが、焦点位置やレンズ間隔、コーティング、迷光処理などの設計や作りは全く違うようです。同じオルソであっても、随分違いがあるということを感じます。
覗いてみると迷光処理の出来が随分よく、視野の背景が黒く締まってコントラストが高められているのがよく分かります。絞り環に至るまで丁寧な艶消し塗装がなされている効果のようです。
そして星像は、F5の主鏡に使っているのに視野周辺までほぼ点像。見掛け視野は広くないとはいえ、ナグラーを覗いた時と同じような衝撃を受けました。F5ニュートンと組み合わせなのに、大きなコマ収差も感じません。おそらく、像面湾曲の抑えられ方が良いのだろうと想像します。
このアイピースはヤフオク叩き売られていたのを入手したものですが、大変素晴らしい実力を持った逸品だということを再確認しました。"T JAPAN"のシールはなかったのですが、アイピースの形状などから谷光学研究所製のアッベオルソだろうと推定されます。
谷光学研究所のアイピースやそれと同じ製造所による国産アイピースはこれまでにいくつも覗いてきましたが、全体的に収差補正に優れている印象です。中心像解像度を求める高倍率よりも、こうした低中倍率で整像性を求める用途で大変優れた性能を示す傾向があるように感じています。
■ ミザール K.25mm
寸評: ダークホースな良い見え味。
MIZAR K.25mm |
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A-
像面湾曲:A--, 迷光: A--
150SL鏡筒に付属していたアイピースを再入手したものです。ハレー彗星が来た1986年当時としてはK.20mmと並んで「定番付属品」と言えるスペックのアイピースです。
外観は谷光学のOr.25mmによく似たテイストで、絞り環などの部品も同一形態に見えます。コーティングも谷光学のものと同一のようです。但し、艶消し塗装は谷光学の物に比べるとやや雑で、ところどころに金属光沢が見えてしまっているのが残念です。
改めてテストして見ると、ダークホースと言って良い実力でした。良く見えます。焦点距離が長めなおかげか、像面湾曲がケルナーとしては良く抑えられています。確かにオルソと比較すると周辺像のピント位置や収差が見える点に違いはありますが、言うほどの差には見えません。
以前、ハレー彗星もこのアイピースと15cm/F5ニュートンの組み合わせで見ておりましたが、周辺像のコマ収差などが気にならなかったのも、このアイピースがあればこそ、ということのようです。
見掛け視界の小さいアイピースでは視野全体が一度に見渡せるので、周辺像が荒れると気になりやすい面があるのですが、このケルナーはそうした懸念も少ないように思えました。
■ ミザール AH 40mm
寸評: 像の鋭さはスゴイが迷光処理が…。
MIZAR AH 40mm |
像:中心A, 50%視野A, 周辺視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: B-
たしかに絞り環が視野レンズの内側にある「ハイゲンス」です。見掛け視界は30°と狭いのですが、実視野能1200は24.5mmアイピースとしてはほぼ限界の広さです。覗くと「狭い」とは感じますが、Vixenのファインダーアイピースよりは実視界を稼げます。
外観はミザールK.25や谷光学Or.25と同じテイストのもので、コーティングもこれらと同じものが施されているように見えます。ただし、視野レンズ押さえ部品の艶消し塗装がよろしくなく、これがこのアイピースの性能をスポイルしています。
覗いてみると、視野全域(狭いけど)にわたって良像を結びます。倍率が低いことも手伝って恒星がとても小さな点に見え、像面湾曲も気になりません。星像と言う観点では、素晴らしく良く出来ているアイピースではないかと思います。
とても小さな円の中に星雲・星団が小さく見えて、ミニチュアの世界を見ているような新鮮な感動があります。私はこのアイピースを37年ほど前にデパートの眼鏡売り場で取り寄せてもらって購入し、6cm/F13.3屈折にμフィルターと共に取りつけてオリオン大星雲を眺めた時の像を思い出すのですが、確かに「収差って何?」というシャープさであったと思います(今思えば、μフィルターで青ハロが取れてほぼアポクロマートな像だったのだと思いますが、当時の私には収差を論じるほどの知識も経験もありませんでした)。
このアイピースの迷光処理の失敗は、低倍率と相俟って背景を白っぽくしてしまうのが残念の極みです。それでもこの小さな視界と鋭像の組み合わせには価値があり、いずれ塗装してやらねばと思います。
■ 不明 Er 32mm (谷光学と思われる)
寸評: 広い実視野を良くまとめている。
メーカー不明 Er.32mm (谷光学製と思われますが、 確証はありません。) |
像:中心A, 50%視野A--, 周辺視野B
像面湾曲:B, 迷光: A-
31.7mmサイズのアイピースとして最大級の実視野を実現する「実視野能1600」は、他に比肩するものとしてはタカハシEr.28mm、ユニトロンのWIDESCAN20mmくらいしかありません。
エルフレは、かつては広角アイピースの代名詞として君臨していました。たしかに、40°前後の視界に慣れた眼でこのエルフレを覗くと、50°でも視野が広大に感じられます。(ふつう、エルフレは60°前後が多いのですが、31.7mmのバレル径の制約で50°にとどまっています)
像質は中心こそシャープですが、周辺に行くにしたがって徐々に崩れていき、周辺では像面湾曲によるピントズレや非点収差が現れる像となります。
しかしながら、現代的なアイピースのように無理に見掛け視界を頑張っていない分だけ、WIDESCANなどと比較すると周辺像の崩れは少なく抑えられ、実視野の広さを考えるとよく収差を抑えているように思います。低倍率で覗く散開星団も、低倍率ならではの小さな星像と、視野全体が見渡せる感覚がとても楽しいアイピースです。
■ 三鷹光器 PLOSSL 35mm
寸評: 視野は狭いが像は確かに高級
三鷹光機 PLOSSL 35mm |
像:中心A, 50%視野A, 90%視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: A-
30年前くらいに叩き売りされていた三鷹光器のアイピースです。おそらく、40°に達しない見掛け視界の狭さが流行らなかったのだろうと想像されます。
全体的に丁寧に作られたアイピースで、迷光処理も一部の環にやや艶があるのを除けばよく出来ています。
覗いてみると、視野周辺まで収差が良く補正されていますが、さすがに実視界が広いために最周辺では像の形がわずかだけ崩れます(主鏡の収差が見えているのかもしれません)。
この実視界のアイピースとしては像面湾曲は小さく抑えられており、広い実視野を低倍率で楽しむことができるアイピースです。見え味は「高級なアクロマート・ハイゲンス」といった具合で、迷光処理を含めたグレードが上がっていてよく見えます。
さほど大きくない視野の中に、星団の小さい星が詰まって見えるのはなかなか感動的です。このクラスのプロ―セルは、もっと見直されても良いのかもしれません。
________________________
以上のように、クラシカルアイピースはカタログスペックを飾る華やかさはありません。ですが、地味に収差を補正しているオルソなどで覗くと、パッと見の派手さではないシャープな像の良さが分かります。「広視界」はもちろんそれ自体に価値があるのですが、そればかりじゃない楽しみ方も広がっていることを思い知らされます。
また、丸い円形の視野が眼前に見えてその向こうに星があるという「望遠鏡を覗いている」感動をもたらしてくれるアイピースとして、もっと見直されてもよいのではないかと思ったのでした。
コメント
おっしゃる通り、狭い視野の醸し出す独特の雰囲気がありますね。視野が狭くて、完璧な諸収差補正を示すアイピースにラベンデュラ・シリーズがあって、純製品はエコノミーとは言えないのですが、自作することができ、8割がたくらいの性能までは持って行けた気がします。
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825261.html
http://uwakinabokura.livedoor.blog/archives/1825262.html
これなら、こちらのLambdaさんの趣旨にもあうのでは?
オルソもそうですが、ラベンデュラにしても、カタログスペック的な視野の広さではない歪みや収差の少なさには価値がありますね。
そしてラベンデュラの記事、ちょうど少し前に拝見したところでした!
また新しい世界が広がっているようで、インスピレーションをありがとうございます。
3群6枚という構成も非常に興味深いです。
考えようによってはプレスル+レデューサー兼フラットナーのような構成なのかもしれません。そう思ってみると、プレスル+ACクロースアップのようなことも考えられて、また新しい世界が広がっているようにも思えました。