シーイング占いの術 - 気流の話③

気流からシーイングをどう読むか、考えがまとまってきましたので、報告です。
私自身は、これからこの指針に従ってシーイングの良し悪しを占いつつ、これが当たっているのかどうかを確かめていってみたいと思います。
 結局のところは晴れてるときに望遠鏡を向けてみることにはなると思うのですが、そのあと粘れば好シーイングが現出するのか、それとも無駄なのか、そういったところが少しでも占えたらいいなあ、というゆるーい考えでおります。

■ シーイング占いの術
 パロマー山をはじめ様々な場所や時間の風やシーイング予報(北米)を眺めつつ人力ディープラーニングを試みた挙句、寝落ちした私の枕もとに降り立った何かが示したご託宣は次のようなものでした。
 [ご託宣]
   "風速は常ならぬものにして、その大小に惑わされず、天空での変化に目を向けよ"
 [凶兆]
 ・地上が無風なるは凶
 ・上空へ向かひて風速減少あるは凶
 ・上空へ向かひて風速、風向きの急変あるは大凶
 [吉兆]
 ・地上に清風あるは吉
 ・上空へ向かひて風の緩やかに強くなりたるは吉
 ・上空まで風向き・風速の変化少なきは大吉
 ・上空まで一貫して穏やかなるは大吉

当然ですが、「地上から上空までほとんど気流がなく、地上だけそよ風」というのがシーイングとしてはベストに間違いありません。風速そのものが一貫して小さければ風速の急変もないからです。また、どの季節も一番温かい地面からの陽炎は、風で吹き飛ばされることが理想です。地面が冷やされている雨上がりなども侮れないと思われます。
 では、そんなシーンや場所があるのか?、というと、あります。一つは台風の目で、1万m以上の上空までほぼ無風な上に近隣の空気も上空までほぼ剛体のような運動をしており、更には地面が十二分に冷やされ切っているため、天頂付近は最高のシーイングではないかと思われます。が、残念なことに直前直後が強風・豪雨すぎて天体観測には向きません。
 もう一つは、南方の島などで上空にジェット気流がないところです。島では、周りが海なので地上の風速も大きくて、そよ風が吹いているのもミソです。このため、世界の惑星観測者はドデカい筒を島に運ぶ遠征を行う方もおられるようです。

 そして残念なことに、日本にはこの最良条件を満たすような場所やタイミングはありません。ジェット気流そのものが悪さをするというより、それが凶兆を作り出す原因になってしまうので好シーイングの可能性が低い、というのが真相であるように思われます。
 しかしその一方で、たとえジェット気流そのものは存在していても吉兆を捉える好シーイングの機会は確かにあるわけで、このチャンスを占いによって効率よく捉まえられるのかどうか?、ウォッチしたいところです。

■ パロマー天文台上空の気流で比較/考察
 さて、ご託宣のベースになった考察は、シーイングが良い時と悪い時のWindyでの気流情報です。
 図はシーイングが良い時と悪い時のパロマー天文台上空の気流の状態です。パロマー天文台ではWindy上の「地表」の風速はいつでも小さいのですが、これは山の中だからです。"パロマー山"というくらいですからね。天文台は標高1600mですから、そこが地表です。(Windyは山の中は周囲のデータの内挿を表示しているようです)
 そして上空の気流を見ると、確かにシーイングが悪い時は11.7km上空の風速が55ノットと速くなっているのですが、最大風速はシーイングが良い時でも47ノットほどあります。果たしてこの風速47ノットと55ノットの違いがシーイングの良否を分けているかというと、違うような気がします。もっと断然最大風速が低い時や場所でもシーイングの悪い場合があるからです。

パロマー山上空の気流の比較(好シーイング時と悪シーイング時)

気流比較を行ったときのシーイング情報
シーイング良: 7/5(Fri) 22:00、シーイング悪:7/6(Sat) 17:00
情報ソース: http://www.cleardarksky.com/csk/ (Danko氏より画像掲載許可取得済)

 シーイングが良い時と悪い時での最大の違いは風速の急変の有無です。風速がいくら大きくても、変化がなければ「よく混ぜられた氷水」と同じで像を乱すことはありません。
 しかし、風速の急変があると大規模な渦が発生して温度が高いところと低いところをかき混ぜて大規模なユラユラを発生させるわけです。
 このため、「速度変化が大きい」のは凶兆ですし、「上空に向かっているのに速度が減る」のは急激な速度変化のある証拠で、これも凶兆というわけです。

 なお、ここまでは上空に向かっての変化について述べてきました。同様に上から見て渦を巻いていたらシーイングが悪そうにも思えるのですが、必ずしもそうではないようです。
 理由は単純で、温度というのは水平方向にはあまり変化がないからです。10km離れた隣町の気温がいきなり-20℃とかいうことはあり得ませんが、上空1万メートルなら真夏でもそんなモンです。
 像を乱す元凶は温度の濃淡だったわけですが、地上と上空で50℃程度も差があるのですから、縦方向に掻き回す渦の発生こそが忌むべき大凶というわけです。地球の大気というのは、非常に薄っぺたいところにもの凄い温度差(と静圧差)が存在しているわけで、クリアな夜空が見えるというのはある意味奇跡なのかもしれません。

好シーイング時のパロマー山上空の気流 (source: Windy.com, seeing:4/5 good)
※風速が順序良く上がっていきます


悪シーイング時のパロマー山上空の気流 (source: Windy.com, seeing:2/5 good)
※3000mで突如「緑」の風速が出現して4200mでは消える急変(=縦の渦)が見えます
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こんな考察ですが、これで少しはシーイングを占えるようになったかどうか…、少し様子を見てみたいと思います。

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コメント

タカsi さんのコメント…
こんにちは。
大事なシーイングの考察、じっくり拝見しました。
が、理解できるのは部分的でしたが^^;
地上でも清風があるのはいいことなんですね。
願わくば、望遠鏡に影響のない、心地いい微風といったところでしょうか。
年に何回有るかわからないシーイングの良い夜をモノにしたいですね^^
Lambda さんの投稿…
タカsiさん、いつもコメントありがとうございます。
分かりにくい文におつきあいいただいて、ありがとうございます。

私もずっと無風がいいに違いないと思っていたのですが、地上はそうでもないんだなあ(南の島のデータを見ていると、地上で風が吹いていてもシーイング最良だったり)、と気づかされました。

シーイングは、最初悪いと思ってても、良い瞬間が2,3時間くらい続けてめぐってくることがあるみたいです。これをうまく捉まえられたらいいなあ、と、思っております。