格安赤道儀AGTでのガイディング

私のような初心者が直焦点ガイド撮影をしていると、ガイド失敗の嵐に見舞われるのは避けて通れない道…私だけじゃないはずと思いたいです。特に、安ーい機材/明るーい光害/足りなーい知識と技量と根性、という三重苦を抱えながら1000mmの直焦点ガイドをやろうというのは、無知だからこその挑戦ともいえます。
ま、そこは失敗も含めてプロセスを楽しむというのが、ゆるーい楽しみ方かとは思っております。

で、今回は、その中でも「ガイド撮影向けのバックラッシュ対策」に触れてみたいと思います。いかんせん愛機Advanced GT赤道儀のバックラッシュは大きくて、ここをきちんと対策しないとオートガイダーを使ってもガイドの失敗率が高くてしょうがなかったからです。

■ バックラッシュでガイドが失敗する理由
Guide error due to gear backlash of mount
赤道儀のバックラッシュのせいで
修正不足と過修正を繰り返した
失敗事例
そもそもバックラッシュがどのように影響してガイドが失敗するのか?というのは疑問でありました。オートガイダーで監視してるのなら別にバックラッシュがあっても関係ないような気もしますが、それは素人考えというものでした。
 バックラッシュというのは、ウォームギヤを逆回転させたときにギヤがかみ合わず赤道儀が反応してくれない不感帯のことです。これのために、オートガイダーが逆回転の修正指示を出しても赤道儀が反応してくれないのが問題、というわけです。
 赤道儀が反応してくれなければエラーが修正されず修正不足となるわけですが、ガイダーは赤道儀が反応してくれるように更に修正指示を出します。こうすると、いざギヤがかみ合ったときにはドドドーンと動き出してしまって今度は過修正でガイドエラーになる、というメカニズムなわけです。

■ 赤経はバランス崩しで物理的バックラッシュをゼロに
 これまでに先人が編み出してきた奥義に「バランス崩し」という技があります。赤道儀のバランスを崩すと、ギヤが片方にしかかみ合わなくなってバックラッシュは理論的にゼロの理想状態になる、というワザです。逆回転に対しても崩れたバランスで赤経軸が回るスピードまではバックラッシュゼロで追従できるという、夢のような無敵状態になるわけです。
 ガイド精度を追及するなら、バランスは崩すべきなのです(ギヤに負担がかかるので、崩し過ぎてはダメだけど)。
 特にピリオディックモーションとバックラッシュの大きい格安赤道儀の赤経軸では、「バランスを良くする」と折角のオートガイダーの性能を無駄にしてしまいます。
 そもそも赤経軸は常に追尾のためにギヤがかみ合って回転しているのですが、ピリオディックモーションのせいで軸の回転が早まると、オートガイダーはこれを検知して逆回転の補正をかけるわけです。
 ところが、バランスがあっていると、バックラッシュのせいでギヤを逆回転させても軸は止まったままなのです。そして放っておくと今度はやがて軸の回転が遅れてきて、順回転のほうに修正指示が出るわけです。しかしやっぱりかみ合っていないので、軸は動かず、修正指示はドンドン出されます。
 そしていざかみ合ったときには、たくさん出された修正指示の分だけドドドーンと動いてしまうわけです。しかもこの時には、ピリオディックモーションで早回し気味になっていたところから噛み合うわけですから、普段より激しく逸脱してしまうわけです。そして再び余計な逆回転指示も出されて…つまり、バランスがあっている赤道儀はカクカクと動いたり止まったりのデジタルな動きを繰り返していることになるわけです。
 これがバランスが崩れていると、どうでしょう?最初の逆回転指示で軸が逆回転すると、軸も重力の作用ですぐさま逆回転してくれて、物理的バックラッシュゼロ状態で修正が完了するのです。(※かみ合いの方向によっては、重力によって追尾方向に回転していて、修正指示ですぐさまモーターの作用で逆回転するという場合もありますが、作用は同じです)
 そういうわけで私は、赤経軸のバランス崩し&アンチバックラッシュ設定ゼロ、という状態で撮影しています(じつはこれ以外で1000mmのガイドに成功したことがありません)。
 ちなみに赤経軸のアンチバックラッシュを真面目に設定したら、派手にガイドエラーになりました。モータを早く回してかみ合わせようとしてるその間にも星は動いていて、それの修正をしようとしてまたモータを早回しするという、複雑な状況が発生するからではないかと思われます。

■ 赤緯はよくバランスをとってアンチバックラッシュで補正
 赤緯軸も、バランスを崩してバックラッシュゼロにすれば完璧、と考えた私の考えは浅知恵でした。理論的にはその通りなのですが、赤緯軸はバランスの崩し加減の調整が容易でないのです。特に反射望遠鏡では、カメラとかガイド鏡とかが突き出していて、鏡筒の向きによってバランスの状態が変わりやすくなっています。
 「良いバランス」の状態というのはバランスが取れているので保ちやすいのですが、「悪いバランス」の悪さ加減を一定に保つのは殆ど無理なのです。
このため、赤緯も赤経と同じようにバランスを崩してみても、被写体の方向によって良かったり悪かったり、ということになってしまうのです。それに、いちいち鏡筒バンドをゆるめて調整するのも面倒で、バランスウェイトの位置で調整できる赤経軸とはわけがちがいます。
 そういうわけで結論を言うと、赤緯についてはバランスを良くとった上でアンチバックラッシュ補正をキッチリやる、というのが最善でした。アンチバックラッシュ補正がないと、過修正でアウトになります。
 なお赤緯については、もはや駆動ケーブルを抜き去って補正を受け付けないようにするという方法もあって、極軸を十分よく合わせていればかなりイケます。というか、アンチバックラッシュを使うよりいいかもしれません。アンチバックラッシュ機能も、非常に厳しい目で見ると僅かな振動を引き起こしていて、完全無欠な像を求める人から見ればNGだからです。
(ただ、私はアンチバックラッシュ機能の「コキッ、コキコキッ」という働いている感じのする音が好きだったりします。)
 余談ですが、赤緯のアンチバックラッシュ設定値は、「寸止め」がベターです。バックラッシュの大きさというのは、少なくともピリオディックモーション程度以上にはばらついていますから、調整時にバックラッシュが完全ゼロになるようにしてしまうと、たまに勢いあまって早回しのままギヤに当たって派手に動くことがあるからです。高倍率アイピースを使ってアンチバックラッシュ値を詰めていくと、そのあたりの様子が良く分かります。

以上、ありがちなオーソドクスな方法での対処ではありますが、とりあえず格安赤道儀でもなんとかガイドは可能になっております。

コメント

山口のじぃ さんの投稿…
こんにちは。
バックラッシュの考察、大変勉強になります。ありがとぉございます。
赤経の「バランスは崩すべき」は私も実践しています。
ウェイトシャフトに子午線手前用と越え用にマジックで
印を付けて5kgウェイトを移動させてます。
東天頂付近、東約40度、約20度の三種類と子午線越えは適当で、
東天頂付近が一番大きくバランスが崩れるよぉにしてます。
根拠は「勘」です!はははっはははははっははは!!
ま、撮影を初めたら触れないので気休めかも知れません。(笑)
「駆動ケーブルを抜き去って」!たしかに。早くテストした~い!(笑)
Lambdaさんのよぉに理論的に考察された情報はホンマ助かります。
Lambda さんの投稿…
こんにちは。わざわざコメントありがとうございます。
さすがにご経験長いだけあって、バランス崩しも使いこなしておられるのですね。
私も、勘でバランスウェイトの位置をずらして対応しております。

ケーブル抜きは、オートガイダーの修正レートをゼロにしても同じことかとは思います。
(抜いてしまうと、ディザリングに支障をきたすかもしれません)

ガイドエラーはダサい原因で起きてたりもするので、アナログな対策も侮れないと思う今日この頃であります。