不覚にも、ミザール望遠鏡の創立65周年記念誌が2019.6に発刊されているのを全然認識しておりませんでした(youtubeはこちら)。
ミザールブランドそのものの栄枯盛衰については各所で批評を見ることが出来ますのでここでは取り上げませんが、デパートの眼鏡・時計コーナーで興味を惹きつけた役割というものにも貴いものがあったんじゃないかと思っています(現在ご活躍の巨匠も、ミザールを使われていたという例がけっこうあるようです)。
ここでは単なる批評ではなく、「こういうのがあったら良かったんだけどナ~」というタラレバ事例なども示しながら、2019現在の業界にもあってほしい視点を考えてみたいと思います。
■ RV-85 赤道儀
このマウントは「回転しない太い高剛性の極軸」「テーパー加工で取り付け容易なウェイトシャフト」「取付面の平行度を確保した三脚架台」など、メカ屋的にはなかなか悪くないと今でも思っているのですが、いかんせん頑張るところがズレていたのは残念なことでした。
やはり当時はピリオディックモーションを小さくするウォームギヤとか、そういうものが欲しかったところです。また、モーターの取り付け方法が1970年代初頭のカイザー型の方法を継承してしまったのは最悪手で、時代に取り残された最大の原因だったと私は思っています。
こうした追尾精度と、モーターのパッケージングがうまく出来ていたならば、このRV-85はガッチリとした良い赤道儀という評価を得られただろうに、と思います。「高精度ウォームギヤユニット(2万円)に換装すると追尾精度7秒角!」とか、もし出てたらウケる要素あったと思うのです…。
ここで、果たしてどういう製品が出ていればビクセンのスカイセンサーの攻勢を止めることができたか、と考えると、それは安いエンコーダを内蔵して手動導入を支援してくれる表示機ではなかったかと思ってます。「当時安いエンコーダなど無かった」という言い訳が聞こえてきそうですが、それは誤りです。
私は、中学生だったか高校生だったかの当時、現実にPC98用マウスを分解して2軸エンコーダを取り出し、このRV-85に独自に内蔵していました。正逆転の判定もできるマウス用2軸エンコーダは、信号出力I/F回路付きで僅か2,000円ほどだったのです。素人工作では大きな減速比で滑りのない機構を作れず2°くらいの分解能しか得られませんでしたが、メーカーであれば減速機構を組み込んで 0.5°かもう少しいい分解能にするのは不可能でなかったはずです。
これは減速歯車が得意だった(?)ミザールに向いていて、激安エンコーダにZ80マイコンの表示機でモーター&ドライバ別だったら、売価2.5万円くらいで十分勝負になったんじゃないかと思うわけです。
現在の AZ-GTi経緯台は、この頃実現してほしかった機能がほとんど内蔵されてしまっている感はあるのですが、もっと軽快なフリーストップ経緯台にもお手軽な導入を実現してくれる「電子目盛+α」くらいの機能があるといいなあ、とか私は思っています。
■ クーデシステム
この時代の天体撮影というと、かなり無理な姿勢を維持しながらガイド鏡を覗き続けるというものでした。要するにガイド撮影はヨガ修行の一種という性格があったわけで、これを解決するクーデシステムの発想はなかなか意欲的だったと思います。私はこれを誠報社のガラクタ市で忘れもしない4,800円で入手しましたが、残念ながら現存しておりません(たしか、ミザールの方が現地で直接販売されていたのを買ったものです)。
私はこれをAR-150SLのガイドに使っていましたが、工夫なしには使えませんでした。ガイド星の導入ができないだろうとの指摘も一部にありますが、そんなことはありません。クーデシステムの裏蓋を開けると現れる光軸調整ネジを使って主鏡と独立したガイド星導入は可能で、さらにガタガタの接眼筒を自在に傾けてガイド星を中心に据えることが出来ました。
ただ、赤経の修正ならば問題ないものの赤緯の修正を行うとアウトでした。赤緯回転に伴って光軸ズレによるガイド星の移動が起きてしまうからだ、ということに気付いたのは大人になってからで、当時は訳も分からず失敗の山を築きました。
…、と、余談が長くなりました。
まあ、当時はヨガとは違った方向性の苦行によってこのシカケをなんとか使っていたわけですが、このクーデ式というのはガイド鏡に向いてないのは確かです。
ですが、なぜわざわざコレを取り上げたのかと言えば、それは「観察姿勢に無理を強いない」という視点が、とくに入門用望遠鏡にはあったらいいのになあ、と思うからです。クーデ式とは言わないまでも山崎式コメットシーカーのようなノリとか、ラクに楽しめる工夫が出現しないかなあと思っております。
■ いまの業界に望むこと
確かに、ミザール望遠鏡の性能は天体写真を極めようという中~上級者には不十分なものだったと思います。その一方で、初心者向けの丁寧な手引書の付属や、いろいろな工夫の余地を残した「手で触れる機械」としての存在には意義があったなあ、と、今でも思います。
今の時代の望遠鏡は、外国製品が安く手に入るということもあってか、説明書の丁寧さは感じられなくなりました。AZ-GTiの和文説明書も、なんというかPCのマザーボードの説明書を見ているような感じで、昔のミザール望遠鏡についてきた簡易入門書の丁寧さはありません(たしか「望遠鏡と星のはなし」)。
仮に安い望遠鏡が外国製品だけになってしまったとしても、タダの翻訳ではないキチンとした「紙の簡易ガイドブック」が添えられるなら、それを仲介して売る会社の付加価値として意義はあるだろうと思います。
また、現代においては、あらゆる工業製品の細部に至るまで多くの工夫が練り込まれ、少年少女が立ち入れるゾーンが限られてしまっているのも、少々寂しいように思えます。
ミザールの望遠鏡ではいささか工夫を強要された面も否めないのですが、それによって星を眺めるということが映画やゲームを見るのとは違った面白さを伴っているという世界を知れたのは幸せなことでした。そういう意味で、ミザールには今なお感謝しています。
これが高級な赤道儀・アポ鏡筒であったなら、いい写真にはいち早くたどり着けただろうとは思うのですが、分解改造なんて敷居が高くできなかっただろうなぁと思うわけです(必要もなかったでしょうけど)。
そういうわけで、私が個人的に望むのは、「真面目にしっかり作ってあって」「丁寧な説明書があり」「自在に動かせて楽に覗けて」「少しの電子的サポートといじれる楽しさがある」ような入門機だったりします。
恐ろしいことにAZ-GTi経緯台はこれに一番近いようにも見えますが、パーフェクトではありません。どの業界もそうですが、まだまだ工夫次第でいい製品が生み出されてくる可能性はある、と思っています。
私のようなゆるーいエコノミー派に福音をもたらす機材が、日本のどこかのメーカーからもたらされたらいいなあ、と思います。
ミザールブランドそのものの栄枯盛衰については各所で批評を見ることが出来ますのでここでは取り上げませんが、デパートの眼鏡・時計コーナーで興味を惹きつけた役割というものにも貴いものがあったんじゃないかと思っています(現在ご活躍の巨匠も、ミザールを使われていたという例がけっこうあるようです)。
ここでは単なる批評ではなく、「こういうのがあったら良かったんだけどナ~」というタラレバ事例なども示しながら、2019現在の業界にもあってほしい視点を考えてみたいと思います。
MIZAR望遠鏡のラインナップ(1983年頃) かくいう私のHNも、このワインレッドの鏡筒への憧れにちなんで30年程前から使い続けているものです。 ※写真出典 「ミザール創立65周年記念誌」 より |
■ RV-85 赤道儀
マウス用エンコーダを内蔵した RV-85赤道儀 (※昨冬手放してしまいました) |
やはり当時はピリオディックモーションを小さくするウォームギヤとか、そういうものが欲しかったところです。また、モーターの取り付け方法が1970年代初頭のカイザー型の方法を継承してしまったのは最悪手で、時代に取り残された最大の原因だったと私は思っています。
こうした追尾精度と、モーターのパッケージングがうまく出来ていたならば、このRV-85はガッチリとした良い赤道儀という評価を得られただろうに、と思います。「高精度ウォームギヤユニット(2万円)に換装すると追尾精度7秒角!」とか、もし出てたらウケる要素あったと思うのです…。
ここで、果たしてどういう製品が出ていればビクセンのスカイセンサーの攻勢を止めることができたか、と考えると、それは安いエンコーダを内蔵して手動導入を支援してくれる表示機ではなかったかと思ってます。「当時安いエンコーダなど無かった」という言い訳が聞こえてきそうですが、それは誤りです。
私は、中学生だったか高校生だったかの当時、現実にPC98用マウスを分解して2軸エンコーダを取り出し、このRV-85に独自に内蔵していました。正逆転の判定もできるマウス用2軸エンコーダは、信号出力I/F回路付きで僅か2,000円ほどだったのです。素人工作では大きな減速比で滑りのない機構を作れず2°くらいの分解能しか得られませんでしたが、メーカーであれば減速機構を組み込んで 0.5°かもう少しいい分解能にするのは不可能でなかったはずです。
これは減速歯車が得意だった(?)ミザールに向いていて、激安エンコーダにZ80マイコンの表示機でモーター&ドライバ別だったら、売価2.5万円くらいで十分勝負になったんじゃないかと思うわけです。
現在の AZ-GTi経緯台は、この頃実現してほしかった機能がほとんど内蔵されてしまっている感はあるのですが、もっと軽快なフリーストップ経緯台にもお手軽な導入を実現してくれる「電子目盛+α」くらいの機能があるといいなあ、とか私は思っています。
■ クーデシステム
この時代の天体撮影というと、かなり無理な姿勢を維持しながらガイド鏡を覗き続けるというものでした。要するにガイド撮影はヨガ修行の一種という性格があったわけで、これを解決するクーデシステムの発想はなかなか意欲的だったと思います。私はこれを誠報社のガラクタ市で忘れもしない4,800円で入手しましたが、残念ながら現存しておりません(たしか、ミザールの方が現地で直接販売されていたのを買ったものです)。
クーデシステムで使用した K.12ガイドアイピース |
私はこれをAR-150SLのガイドに使っていましたが、工夫なしには使えませんでした。ガイド星の導入ができないだろうとの指摘も一部にありますが、そんなことはありません。クーデシステムの裏蓋を開けると現れる光軸調整ネジを使って主鏡と独立したガイド星導入は可能で、さらにガタガタの接眼筒を自在に傾けてガイド星を中心に据えることが出来ました。
ただ、赤経の修正ならば問題ないものの赤緯の修正を行うとアウトでした。赤緯回転に伴って光軸ズレによるガイド星の移動が起きてしまうからだ、ということに気付いたのは大人になってからで、当時は訳も分からず失敗の山を築きました。
…、と、余談が長くなりました。
まあ、当時はヨガとは違った方向性の苦行によってこのシカケをなんとか使っていたわけですが、このクーデ式というのはガイド鏡に向いてないのは確かです。
ですが、なぜわざわざコレを取り上げたのかと言えば、それは「観察姿勢に無理を強いない」という視点が、とくに入門用望遠鏡にはあったらいいのになあ、と思うからです。クーデ式とは言わないまでも山崎式コメットシーカーのようなノリとか、ラクに楽しめる工夫が出現しないかなあと思っております。
■ いまの業界に望むこと
確かに、ミザール望遠鏡の性能は天体写真を極めようという中~上級者には不十分なものだったと思います。その一方で、初心者向けの丁寧な手引書の付属や、いろいろな工夫の余地を残した「手で触れる機械」としての存在には意義があったなあ、と、今でも思います。
今の時代の望遠鏡は、外国製品が安く手に入るということもあってか、説明書の丁寧さは感じられなくなりました。AZ-GTiの和文説明書も、なんというかPCのマザーボードの説明書を見ているような感じで、昔のミザール望遠鏡についてきた簡易入門書の丁寧さはありません(たしか「望遠鏡と星のはなし」)。
仮に安い望遠鏡が外国製品だけになってしまったとしても、タダの翻訳ではないキチンとした「紙の簡易ガイドブック」が添えられるなら、それを仲介して売る会社の付加価値として意義はあるだろうと思います。
また、現代においては、あらゆる工業製品の細部に至るまで多くの工夫が練り込まれ、少年少女が立ち入れるゾーンが限られてしまっているのも、少々寂しいように思えます。
ミザールの望遠鏡ではいささか工夫を強要された面も否めないのですが、それによって星を眺めるということが映画やゲームを見るのとは違った面白さを伴っているという世界を知れたのは幸せなことでした。そういう意味で、ミザールには今なお感謝しています。
これが高級な赤道儀・アポ鏡筒であったなら、いい写真にはいち早くたどり着けただろうとは思うのですが、分解改造なんて敷居が高くできなかっただろうなぁと思うわけです(必要もなかったでしょうけど)。
そういうわけで、私が個人的に望むのは、「真面目にしっかり作ってあって」「丁寧な説明書があり」「自在に動かせて楽に覗けて」「少しの電子的サポートといじれる楽しさがある」ような入門機だったりします。
恐ろしいことにAZ-GTi経緯台はこれに一番近いようにも見えますが、パーフェクトではありません。どの業界もそうですが、まだまだ工夫次第でいい製品が生み出されてくる可能性はある、と思っています。
私のようなゆるーいエコノミー派に福音をもたらす機材が、日本のどこかのメーカーからもたらされたらいいなあ、と思います。
コメント
マウスのエンコーダーを赤道儀に移植してしまう技、その発想と技術力をお若いころからお持ちだったんですねΣ(・□・;)
AZ-GTiの可能性が大きいということが、なんとなく伝わってきました。
周りでも使っておられる方が多いのが頷けます。
使い方・工夫次第で面白くなるのではないかと思います^^
こちら、技術力はありませんが無駄な実行力で生活しております!
ところで、AZ-GTiは良く工夫されたマウントだと思います。
ものすごくお気楽にアライメントが終わって導入も追尾もやってくれるのは、本当に便利です。
私は観望専用ですが、いろいろ弄り甲斐のあるマウントだなあ、と、感じています。
このシリーズの話は大変面白いです。
30年位前?の天文ガイド(だっけかな?)に、マウスホイールを
ロータリーエンコーダーとして赤道儀に組込んだ読者記事を読んだことがあります。
確かエンコーダーの信号をパソコンに取込んで電子目盛として表示する、、、
みたいな工作でした。
ハンダごても使えないほど電子工作には疎かった私ですが、
非常に感激した記憶があります。
その工作をLambdaさんは中高生時代にやってましたかぁ~。
いやはや素晴らしい。
これからも年寄りに楽しい話を聞かせてください。(^^♪
当時にも似たような記事が出ていたのですね!?
あのころの市販されてるエンコーダは高くて、一軸3万円くらいで、とても手が出ませんでした。
お金のない中高生には、マウスをバラすくらいしかやりようがなかったんです。
じつは中高生時代は天文よりもパソコンに熱中しておりまして、パソコン雑誌の原稿を書いては小遣いを稼いで父に借りたパソコン購入代金を返すという自転車操業をやっておりました。
このマウスエンコーダのための星図表示ソフトもフルアセンブラで作成し、パソコン雑誌に掲載してもらって原稿料を回収した思い出があります。
やはりエコノミー派としては「貧すれば鈍す」ではなくて貧するときほど工夫で乗り切るのが吉と思ってやっていきたいと思っております。
引き続き、宜しくお願いします ^^!
ミザールの主鏡が面精度=λ/20 と書かれていた時代を覚えています。
そのころビクセンは面精度=λ/8 と謳っていました。
ともに昭和50年代後半ごろだったと思います(確証ありませんが...)。
それにしてもミザールの値は半端ない高精度だと思いますが、本当だったのでしょうか?
ミザールの鏡面精度λ/20、子供の頃憧れました。
ですが、実は所有した事はなくて、これを謳ったものが実際にそういう精度だったかどうかは分かりません。
ただ、ミザールにせよビクセンにせよ、謳っていたのは鏡面精度ですから、波面精度の半分の値だったと思います。つまり、λ/8という鏡面精度は波面精度λ/4で、レイリー限界という設計目安のギリギリということです。
また、この値が最大幅P-Vなのか標準偏差RMSなのかで、同じ精度の数値でも3倍強の鏡面精度のちがいがあります。
今ミザールの65年誌を見ると、このλ/20はP-Vを指していたようです。波面精度で言うとλ/10となり、かなりの高精度品と言うことにはなります。
さて、で、今私が所有しているミザールの15cmの筒はλ/8品ということで波面誤差で言うとλ/4です。
見え方としてもカシニの隙間などは15cmなりの見え方をしていて、特別シャープではありませんがメーカーが謳うレイリーリミットギリギリというくらいな精度かなあ、という見え方です。
だとすると、λ/20品はこれよりは良く見えることが期待されるんじゃないか、と推定しています。