「MAGELLAN 21mm 100° 」で考える超広角観望と像面湾曲

 国際光器のアイピースレンタルの利用で、同社オリジナルの見掛け視界100°アイピース「MAGELLAN 21mm」を試す機会に恵まれました。AFOV(見掛視界)100°のアイピースとしてはTeleVueのEthosが有名なわけですが、これをめざしたアイピースとして賞月観星のXWAやExploreScientificの100°シリーズがあります。
 このうち、私自身はXWA20mmを試したことがあり、「AFOV100°」や「良く補正された星像」がもたらす宇宙への没入感はなかなかのものでした。

 そうした中で、他の100°アイピースは一体どうなのか?気になるところです。

 ちょうど国際光器の機器レンタルサービスで対象になったアイピースの中に100°のMAGELLANがありましたので、これを借りてみることにしたのでした。

20mm級超広角アイピース
真ん中がMAGELLAN 21mmです

■ 広角観望における像面湾曲について
 本題の比較に入る前に、比較的長焦点の広角アイピースを使った観望で気になる「周辺像」を論じるには、像面湾曲について書いておかねばなりません。AFOV70°を超えるような超広角アイピースでは、見え方が像面湾曲の影響を著しく受けるからです。

 像面湾曲とは、視野の中心と周辺とでのピント位置のズレとして表れる収差です(歪曲収差ではありません)。この収差は、アイピース自体の像面と、対物鏡の像面の湾曲の双方に原因があります。

参考: 反射鏡の像面湾曲
(屈折式と同じです)

 


 主鏡(対物レンズ)による像面は、対象物から見て凹面(観察者の方に向かって凸)になっているのが一般的な天体望遠鏡です。これは屈折望遠鏡でも反射望遠鏡でも同じです。一部には「反射と屈折とでは像面湾曲が逆」という俗説もあるようですが、これはシュミットカメラの像面が主鏡に向かって凸になっているイメージから来たと思われる誤解です。
 アイピースの像面もやはり湾曲しており、これは主鏡による湾曲と逆方向に反っています。このため視野の周辺は中心と合焦位置が異なり、周辺では、中心よりもドローチューブを筒内に少し繰り込んだ位置で合焦するのが普通です。
このことは、特に主鏡のFが小さい時やアイピースの見掛け視界が大きい時に顕著になります。
対物鏡/接眼鏡の像面湾曲
(※強調して描かれています)
 

 像面湾曲による合焦位置のズレ量自体は、焦点距離そのものや実視界の大きさで決まります。ですからF値や見掛視界は関係ないようにも思えますが、そうではありません。
 F値が大きいと焦点深度が深くなり合焦位置のズレに鈍感になるので、同じズレ量でも像面湾曲の影響は見えにくくなります。このように、焦点距離そのものではなくF値が像面湾曲の影響の大小を決めます。
 また、合焦位置のズレによるボケも倍率によって拡大されますから、実視界に倍率をかけた見掛視界も像面湾曲の見え方を左右するファクターになります。

 このように、F値が小さい鏡筒と見掛視界が大きいアイピースの組み合わせで広範囲に良像を得るのは本質的に難しいということを、十分理解しておく必要があります。このため、安い広視界低倍率アイピースでは視野周辺がボロボロになるのが一般的です。

(↓前段が長くなりましたが、アイピースのインプレです↓)

■ MAGELLAN 100° 21mm
 AFOV 100度を特長とする21mmの2インチ広角アイピースです。MAGELLANの光学系は4群7枚構成で Meadeの 「Series5000 MWA」と同一であるとの情報があります。
 サイズは外径72mmと大柄でXWAの67mmより若干太く、全長は116mmとXWAの160mmと比べると3cm以上短く抑えられています。重量は709g(実測)ということでXWAとほぼ同じか、やや重たくなっています。
 見口には高さを回転式で調整可能なプラスチック製のアイカップがついており、アイポイントの位置で見え方が変わる超広角アイピースを覗きやすくしています。
 また、本体はJIS防水等級7級相当の防水仕様となっているのも特長です。

プラ製アイカップは伸縮式
 


※下記の比較は20cmF5ニュートンによる比較です。像面湾曲の影響が大き目に評価されている可能性があります。Fが大きい望遠鏡では評価が変わってくる可能性が高いですので、ご留意ください。また、評価自体は個人的な主観に基づくポエムです。客観的な評価ではございませんので、ご注意ください。

【短評】総合評価 ★★+ (広角系の参考: Nagler 13mmで四つ)
[f=21mm, AFOV=100° , 実視野能2100, 2", 709g]
像:中心A+, 50%視野A-, 80%視野B+, 100%視野B
像面湾曲:B+,  迷光: A

 「見掛視界100度」を謳い文句にするこのアイピースを覗くと、全視野を一度に見渡すのは困難で、眼を動かして視野を"見回す"ような感覚となります。これは80°級のアイピースとは違う世界です。
 しかしながら、他のアイピースの見掛視界公称値との比較から、このマゼラン21mmのAFOVは実際には100度には達していないように見えます。視野円はNaglerの82°よりは確実に大きいのですが、賞月観星XWAの100°と比較すると間違いなく小さく、実際のAFOVは90°前後であるように見えました。
 実視界はXWA20mmとほぼ同じで、1mmの焦点距離違いによる視野拡大は認められませんでした。ただし、焦点距離が公称値通りと仮定しての星図との対比結果ではAFOV95°相当の実視野は稼げており、公称値のAFOV100°も著しい相違があるというほどの違いではないようです。歪曲収差によって見掛けの視野円が小さく見えているのかもしれません。

 とはいえ、他の80°級のアイピースよりは確実に大きい視界が得られていることに間違いはなく、細かい比較をしなければ「スペースウォーク感覚」が得られることにも違いはありません。
 この手の超広角アイピースではアイポイントの位置にシビアなこともあるのですが、MAGELLANが装備する回転伸縮式のプラ製見口のおかげで、安定して見える位置に目を固定できます。覗きにくいということはありませんでした(※裸眼)。
 迷光防止もしっかりしており、背景が無駄に明るくなるようなことは感じられませんでした。

視野レンズ側
写真では見えませんが
一番視野側の環のところにも
凹レンズが嵌ってます

 

 肝心の星像は、「像面湾曲の大きさが目立つものの、収差補正の素直さが光る」という結果になりました。まず、中心像は及第点以上です。低倍率ながらリゲルBを容易に確認できました。

 アイピース自体の像面湾曲はそれなりに認められ、コマコレクターを入れても修正しきれませんでした。このため、Fの小さい短焦点主鏡では周辺像のボケが目立ちやすくなっています。
 一方で周辺での星像の崩れ方は素直で、単純なボケのように見え、すなわち像面湾曲以外の収差は大きくないのではないかと思われます。周辺にピントを合わせると素直にコマ収差が観察されて、他の広角アイピースにありがちな非点収差や、色収差による色ズレは少ないように思われます。
 このためMAGELLAN 21mmは、F値が小さい短焦点反射よりも大きめF値の望遠鏡でより力を発揮するのではないかと想像されます。

■ 他の20mm級広角アイピースとの比較
[賞月観星XWA 20mm(100°)]
 EthosをめざしたというAFOV100°のXWA 20mmは、スペック的にMAGELLAN 21mmとかち合います。重量も実測687gで、ややマゼランよりも軽くなっています。このアイピース自体の評価は既に記事にしている通りで、像面湾曲補正がかなり強力なのが特長です。このため、短焦点の対物に使った場合には、MAGELLANよりもXWAの方が良像範囲は広いと言えます。
 ただし、XWAはフラットナーを内蔵しているせいもあってコマコレとの組み合わせでは私の鏡筒で普通には合焦できません。MAGELLANはそんなことはなく、コマコレと組み合わせて普通に合焦できました。コマコレ+MAGELLANと、XWA単体とでは周辺像含めてほぼ互角です。補正レンズ系が入った鏡筒との組み合わせではMAGELLANの方が合焦位置変化が素直で、安心して使える可能性があります
 星像については、収差の出方はXWAの方が独特で、特に視野周辺では微妙な色収差とわずかな非点収差が見えます。この点、MAGELLANは周辺に合焦させたときの像が素直に見えますので、長焦点鏡ではMAGELLANに軍配が上がる可能性を無しとしません。

[ユニトロン WIDESCAN 20mm(84°)]
 こんなのと比較しては怒られそうですが、ワイドスキャン20mmは特筆すべき驚異のアイピースです(短評はこちら)。なんと言っても31.7mm径の限界の実視界を実現しながら、普通のプレスルと同じような外観に仕上げているのが驚きです。182gという重量も、スペックを考えれば超軽量の部類に分類してよいでしょう。
 しかし小型設計の制約ゆえかワイドスキャンの収差補正はあまりよろしくなく、特に像面湾曲は同じシリーズのワイドスキャン13mmよりも著大で、周辺星像はボケています。更に像面湾曲によるボケのほかに非点収差が加わって、その荒れ方はだいぶ苦しいものがあります。
 それでも私が今もこのアイピースを気に入って使うことがあるのは、手軽に広視界が楽しめるからです。周辺が荒れているとはいえ、大きく広がった対象を眺めたり、あるいは中心にフォーカスしていても視野全体に宇宙空間の広がりを感じられるからでもあります。
 これと比較するとMAGELLANは数段上の性能で、F5ニュートンに用いた場合でも視野の60%程度のところまでは十分良い像を結び、周辺の星が宇宙を感じさせてくれる感覚も上です。重量が嵩むアイピースを使う意義を考えさせてくれる比較となりました。

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 以上のように、超広角観望で「スペースウォーク」を行えるアイピースは観望派にとって福音ですが、像面湾曲から来る像の荒れは鏡筒との相性も良く考えるのが吉であるように思えます。XWA+コマコレのように「合焦しない」ようなこともあるので、よく確認したいところです。
 単純な比較では、短焦点反射に用いるのであれば MAGELLANよりはXWAの方が向いていそうです。逆に、長焦点系や補正レンズの入った光学系ではMAGELLANの素直さが活きるかもしれません。
 国際光器では有料とはいえ貸出サービスが提供されていますので、検討してみる価値はあると思います。(無料で貸し出されるMopheusなどもあります)


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コメント

匿名 さんのコメント…
このマゼラン100度21mm、インゲン豆効果が凄いので自分は買って直ぐ手放しました。
昼の景色や月が視野いっぱいに見える倍率だとかなり気になります。
他の焦点距離の物もインゲン豆効果がかなりあります。
吉田正太郎先生の著書にインゲン豆効果は設計が悪いと発生するとあります。
Lambda さんの投稿…
コメントありがとうございます!

隠元豆効果は、視野の中心と外側でアイポイントが異なるという、球面収差的な問題ですね。初期のナグラーにはこれがあったと書かれてます。アイポイントが高い広視野アイピースでは、全体を見渡せるアイポイントを探すのに苦労することがあります。

マゼラン21mmでは、私はさほどには隠元豆効果を感じませんでした。
記事中にもありますように、アイポイントを固定できるアイカップが良い効果を出しているのではないかと思います。

ただ、この隠元豆効果の大小は「射出瞳径」に左右されるところも大きいと思いますので、対物との組み合わせで顕著に思えることがあるのかもしれません。