令和の望遠鏡「新・御三家」考

かつて昭和の時代に「望遠鏡御三家」とも称された怪しげ系メーカー、ダウエル・パノップ・スリービーチは、天文少年・天文少女達に向けて大いに夢と希望と修行の道を与えてくれました。
 完成された製品が溢れるこの令和においては、こうした怪しげ望遠鏡が天文誌の広告欄を賑わせることはなくなってしまいましたが、その薫りは今なお大陸に息づいているように思われます。
 かつて御三家の薫陶を受けた私としては、ここでこの令和の「コンチネンタル御三家」たりうる望遠鏡メーカーを紹介してみたいところです。

ばら星雲, 2024.1.6 Lambda 撮影
※御三家とは直接は関係ありません。が、こうした星雲も望遠鏡を覗けば見えると思ったものでした。

 結論から言うと、中華望遠鏡メーカーは数も多く、「御三家」にまで絞り込むことはできませんでした。しかしながら、有力な候補生は見いだせたのではないかと思っています。ただし、これらは概して上級者向けですので、そこは十分に注意したいところです。
 今回は、それぞれのメーカーへの印象と感想を吟じるという、御三家詩人としての活動もご覧いただければと思います。

(ちなみに、昭和の御三家の雄「ダウエル」は、この令和の時代に愛好家によってブランドが継承され、オンラインショップが立ち上がっています。なお、昭和時代の御三家に関連する記事は、リンク先を御覧ください。)

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※下記記事には、いささか失礼な表現も含まれておりますが、あくまでも個人の感想です。それぞれのメーカーの性質を断定するものではない点にご留意ください。

■Datyson(デイティソン) - Dの系譜を継ぐ者
 中国深圳のDatyson(達泰森)は、当ブログへの登場回数も多い望遠鏡機器サプライヤで、公式日本語サイトの表記では「デイティソン」と読みが記されています(※読み方は自動翻訳の結果と思われます。彼らが本当はどう考えているのか、あるいは何も考えていないのかは不明です。たぶん考えてないでしょう)
 24.5mmアイピースアダプターなどの有用な機器も供給している一方で、トンデモアイピース・ガチャで当ブログに煮え湯を供給いただいたこともあるかなりの暴れん坊です。
 アイピースとして全く別分野のジャンクレンズを組んでいたり、単レンズに段差を入れて2枚玉に見せかけたりと、トンデモ振りは枚挙に暇がありません。同じショップで同日に注文しても別のもの(同じ商品型番で内容が違う)が届くことがあるという不安定ぶりも、他に類を見ません。
 また、バーローレンズだけで24種もラインナップしていますが、同一単凹レンズ3枚を入れたバーローを「トリプレットAPO」として売ったり(現在はラインナップされていません)と、基本的にジャンクです。このバーローは、金属筐体でありながら圧入で組まれていたりするので分解も転用もできず、利用価値がないのも痛いところです。
Datyson ラムスデン
24.5mm径です
 意欲的な面としては、新規に15mmと23mmのラムスデンをリリースするといった面も見せていますが、新製品なのに焦点距離が表記と違う(15mm表記が23mmで、23mm表記が15mm)など攻撃力が高く、まさに往時のダウエルを彷彿とさせる別次元の意欲が伺えます。
 これだけボロカスに言っておきながらもついつい気になってしまうあたり、頭文字Dの系譜を隔世遺伝で受け継いでいると言えるでしょう。
(※Datysonは、安物望遠鏡のバンドル品サプライヤなのだろうと想像します。)

■KSON(ケーソン) - 微笑みを誘う独創者
 KSONは、中国佛山の開信光電のブランド名です(読み方はおそらく「ケーソン」)。KSONには「合理性よりオリジナリティ」という社是でもあるのか何なのか、微笑ましいオリジナル機材を連発して微笑みを誘ってくれるのが特徴的です。
 球体のバランスウェイト、赤緯体をとりあえず丸ごと覆ってしまうモーターカバー(非GOTO)、使い勝手が微妙そうな反経・屈経の垂直微動桿など、一見風変わりな機構や意匠が目を引きますが、よくよく考察するとご利益がない機構だったり無理な観測技能を要求したりして、合理性に反旗を翻す姿が微笑みをもたらすエッセンスとなっています。
 なお、同社のオルソアイピースは笠井トレーディングのアッベの製造元であるとの情報もあるとともに、Paolini氏の書籍でも紹介されるなど、そこそこな見え味を示してくれます。
 いずれにせよ、この微笑みの誘い方は、御三家に名乗りをあげてもおかしくないでしょう。

特徴的な KSON の望遠鏡たち
*写真は 同社のAliExpress広告からの引用です。


■Tianlang(ティエンラン)
- 大衆望遠鏡の伝承者

天狼(ティエンラン)ブランドの望遠鏡
ミザール AR-1を髣髴とさせる架台です
*写真は 同社のAliExpress広告からの引用です。
 シリウスの漢字名称「天狼(Tianlang)」を冠したブランドは、かつて大陸の大衆望遠鏡メーカーとして人気を博していたようです。その後、ユーザーの志向が写真撮影に移って高精度・高剛性な日本を含む海外製品の流入によってブランドが後退してしまった、とも言われています。
 似たようなブランドが日本にもあったような気もしますが、このTianlangは、今なおかつての大衆望遠鏡を伝承し続けているようです。貧弱なギヤ剥き出しの蚊トンボ赤道儀も、ラインナップに残されています。
 特筆すべきは、ミザール「AR-1」の、現代版風味あふれる赤道儀を「TQ-4」と称して販売しているところです。この「TQ-4」は、AR-1(オールラウンド)やミザールSP(スペースパトロール)と同じく独特のシャフトによるモーター取り付け部がある赤道儀で、AR-1と同じ径のウォームホイールを持っているように見えますが、赤緯クランプはSPと同じになっているようです。また、ウェイトシャフト径が拡大されていたり、赤緯全周微動、アリミゾ取付部の装備など、近代化が図られています。
 このAR-1に 10cm屈折を載せた威容を見せる辺り、御三家に名乗りを上げる風格ありと認められます。

■Maxvision(マックスビジョン) - 筋肉と過積載の信奉者
 欧州では Bresser(ブレッサー) ブランド、米国では Explore Scientific (エクスプロア サイエンティフィック) ブランドで製品を展開する広州晶華光学の、中国国内でのブランドがこの Maxvision(大観)であるようです。日本のカメラメーカーとも取引があるという同社は、それなりの規模・技術力の企業であるようですが、広告や商品展開には独特のオーラを纏っており、御三家の伝承候補者としての資格がありそうです。
 いわゆる「蚊トンボ赤道儀」の白いやつなどを取り扱っている一方で、ちょっと高級風にも見える立派な仕様の鏡筒も扱っています。アクロマート屈折とニュートン鏡筒が主体で、中にはちょっと惹かれるスペックの製品もありますが、Bresserを購入した方の経験談では「金属かと思ったらプラスチック部品」のようなところもあって、微妙な作りだったとのことでした(*現状がどうかは不明です)。
力強さを感じさせる Maxvision の広告
*写真は 同社のAliExpress広告からの引用です。

 しかし Maxvisionの真骨頂は、何と言っても「過積載」に尽きるでしょう。15cm/F8ニュートンを GPクローンの赤道儀に載せた威容などは、グッとくるものがあります。さらには 15cm F8の屈折(16kg)や 25cm F5反射(14kg)など、C11シュミカセを上回る重量級鏡筒をもGPクローン赤道儀に載せてしまうあたり、だいぶチャレンジングです。
 更に印象的なのは、その広告です。15cm屈折を女性が抱えている姿が用いられているのですが、「軽い」「ポータブル」というアピールをするには重たい鏡筒ですから、何を印象付けたいのかはよく分かりません。これを軽々持ち上げている女性の筋力を誇っているのではないかとも思わせる絵面です。
 Max搭載をめざすチャレンジングな姿や足りなそうなバランスウェイトも、御三家の韻を踏んでいると言えそうです。

■SVBONY(エスブイボウニー) - 脱・御三家の挑戦者
 日本でも広く知られた「SVBONY」ブランドは、同社によれば、読み方は「エスブイボウニー」です。ボニーではなく「ボウニー」。こうした名称や製品型番は、しばしば話題に上がります。
 同社は意味不明で混乱を誘う製品型番や怪しげな日本語のマニュアルなど、御三家の素養たっぷりの廉価望遠鏡ブランドでしたが、2020年以降は「かゆいところに手が届き"そう"な」製品や、EDガラスを採用した屈折鏡筒をリーズナブルな価格で展開するなどして、「脱・御三家」の挑戦を図っているようにも見えます。けっこう実用的な商品がラインナップされていますし、日本語もだいぶ普通になってしまったのは寂しい限りです。
 やっぱり型番は整理したほうがいいとは思いますが、弊ブログでも何度か取り上げているような「エコノミーな機材の追求」はぜひ継続していただきたい、とエールを送りたいところです。

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 大陸には、ここでは紹介しきれなかったような挑戦者たち(Vision king、BOSMA など)がまだまだ蠢いていますが、こうした望遠鏡の「チャレンジングな姿」には、人を惹きつけるなにかがあるように思います。
 完成・洗練された製品が巷に溢れるこの時代にあっても、使い方一つとっても一癖二癖がある中に、学びがあるような気がするのは私だけでしょうか?

※決してエイプリルフール記事ではありません。

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コメント

うこん さんの投稿…
こんにちは。
御三家の記事面白かったです。
丸いバランスウェイトにはびっくりしました。なぜこんな形状にしたのか
気になります。

Datyson製品では自分も外れを引きました。
口径30mmのファインダーを買ったのですが、買った当初からレンズ
が曇っていて見え味が悪かったです。ただ全く使えないほどでは無いという
ものでした。

Vision kingは屈折鏡筒を注文したら、何らかの理由で中国から日本への
通関に失敗して返金処理になりました。返金が迅速だったので、悪い印象
はありません。

BOSMAはiOptronにOEMしている?マクストフカセグレンを購入しましたが
見え味は悪くはありません。口径がそこそこ大きくて扱いやすいサイズ
なので愛用しています。月の撮影に良いです。

それにしても光学機器メーカーは中国ばかりが元気ですね。日本のメーカー
にも頑張って欲しいところですが、高齢化で無理でしょうか。
Lambda さんの投稿…
うこんさん、こんにちは。コメントありがとうございます!

丸いバランスウェイトにはびっくりですよね。軸長を食う割には重量が少ないですし、加工の手間やコストを考えても、合理性が全然ないです(苦笑)。
KSONは、見た目で攻めるのを信条としているようです。

Datysonの狼藉はもうどうにもならんですね。
記事に書き忘れてましたが、購入したラムスデンはいきなりレンズが欠けてました。
単レンズの側面にスジを入れて2枚玉風にみせかけたりとか、攻撃パターンも豊富です。

大陸の商習慣として、「お金返せばいいでしょ」的な発想が見え隠れするのも、日本人からすると「え?」となることがありますし、交渉自体が面倒な場合もありますから、そのあたりも含めて楽しむ度量が求められているのだと思います。
___

とはいえ、ご指摘にありますように、中国のメーカーは元気ですね。
あれこれ試して、市場でユーザーもモルモットにされている、という昭和感覚なのだと思います。そこに「御三家」の影が見え隠れするのかもしれません。
今の日本では許されないことが大陸では許容されている、というあたりにも元気の源があるのかもしれません。
望遠野郎 さんの投稿…
こんにちは。

おもしろかったです。
C国ではちょうどいま日本の御三家があった時代が遅れてやってきている
みたいな受け取り方をしてしまいました。

SVBONYは元VITEという台湾の会社で、売り上げ増のため
C国に工場を作った、とかいう記事を読んだ記憶がありますが
間違いかもしれません。
ここの2倍バローは十分な性能で仕上げもきれいでした。

たしかにSVBONYはいまのぼくにとって、「ちょっといいスリービーチ」
みたいな感覚があります。(スリービーチファンの自分として)
ワクワクします。

※前から言っていた「逆ニュートン式」の望遠鏡、あのアイピースメーカーの
Brandon (と同じだと思いますが)から出ていました。

https://www.youtube.com/watch?v=A5NJIPBA3u4

僕がずっと前に見た外国の広告ページで見たものはもっと
初心者向けの小型機でしたけど。
Lambda さんの投稿…
望遠野郎さん、いつもコメントありがとうございます!

C大陸、まさにかつての日本の昭和時代をやってる感はありますね。
あの手この手の工夫が垣間見えるのは面白いです。

そしてSVBONY。なんとなく、Sの響きが3Bを髣髴とさせますね。
ここも、種々の工夫を提供しようという姿勢には好感を持ちます。
いわゆる出来上がったメーカーという位置づけではないですが、進歩している会社として、そうおうの評価をされてもよいのでは?と思っています。

ところで、「逆ニュートン」風の屈折望遠鏡、なんとBrandonだったのですね。
ちなみに、動画の方は様々な日本の古スコもコレクションされていて、動画に見入ってしまいます。