惑星写真における "倍率"

望遠鏡と言えば「倍率」。惑星写真を見せて、「これは何倍くらいですか?」と尋ねられるシーンがあった、との X(旧ツイッター)での会話から、撮影した写真が何倍に相当するのかを考えてみました。対物とアイピースの焦点距離で決まる眼視観察での倍率とは違って、カメラや画面など、関係する要素が多いのが話をややこしくしています。

撮影倍率520倍の土星(口径mmの1.86倍です)
2026.7.20 02:28-02:37JST,
 Celestron C11 + Powermate 4x , 合成FL=11,600mm,
MARS-CII(IMX662), gain 580, exp 9.0ms, 取込ROI=1280*720,
54% stack of 3,000 frames x 17set

結論から申し上げますと、写真の倍率は表示で拡縮自在なので「撮影倍率」と「表示倍率」の2種類に区分する必要があり、それぞれ次の式での計算を提唱したい、というところです。屁理屈は後述します。

① 撮影倍率Ma ≒ 0.13 × 合成焦点距離f[mm] / ピクセルピッチPc[μm]
  撮影時の絶対的な拡大の程度を示す倍率です。エアリーディスク直径を10ピクセルの解像度で撮影した時が「倍率=口径[mm]」と見立てた倍率で、拡大の程度のほかに口径に対しての過剰度合がわかります。

② 表示倍率Md ≒ 0.77 × 撮影倍率 × モニタ画素ピッチPm[μm] / 観察距離L[cm]
 人に尋ねられたら答えるときの、純幾何学的な倍率です。ピクセル等倍で見た時に、対象の視角["]が画面上でどれだけの視角["]に拡大されているかを示しています。
スマホとPCモニタでは、概ね下記のような表示倍率になります。
 ・PCの場合 :表示倍率Md ≒ 3.6 × 撮影倍率
 ・スマホの場合:表示倍率Md ≒ 1.5 × 撮影倍率
  この概算は、PC用2Kモニタ(1920x1080, 24インチ)の画素ピッチ280μmで観察距離(モニタと眼の距離)が60cm、スマホでそれぞれ 60μm/30cmとしています。  厳密性を求めても仕方ないシーンが多いとは思います。  また、表示倍率と撮影倍率の比を「表示拡大率」と称することにします。
 なお、簡易的には、「"木星か土星の環の長径"を、スマホ上なら1cm、PC画面なら2cmに映すと、表示倍率が約150倍」です。視角が眼視観察と合致します。

撮影倍率250倍の土星(口径mmの2.1倍)
表示拡大率がC11での写真より2倍以上高く、倍率過剰に見えます
2026.10.11 01:00JST頃,
MIZAR 120SL RS20P + PM 5x + ADC, 合成FL=5,580mm
MARS-CII(IMX662), gain 552, exp 12.5ms,
stacked 38% of 85,000 frames

■ 撮影倍率の考え方
 撮影における絶対的な拡大率は、合成焦点距離とカメラのピクセルピッチの比だけで決まります。ですので、このピッチを以てして拡大率指標としてもよいのですが、そのままでは眼視倍率との数値感覚が全く合わないのが問題です。
  そこで、眼視でよく言われる適正倍率、すなわち「倍率=口径[mm]」との対比で示せる値に調整し、"撮影倍率"としました。以前に行った解像度とDF値(*)に関する考察から、"エアリーディスク直径を10ピクセルの解像度で撮影した時が「倍率=口径[mm]」に相当する"と見立てて係数0.13を算定しました。拡大の程度のほかに口径に対しての過剰度合がわかります。
 例えば口径200mmで撮影倍率が300倍ならば、エアリーディスクが15ピクセルに写っています。同じ撮影倍率300倍でも口径100mmで写すとエアリーディスクは30ピクセル、という具合に、口径に対する拡大率の過剰や不測の度合いが目安として分かるようになっています。

 *DF値=合成焦点距離÷{ピクセルピッチ×口径}

■ 表示倍率の考え方
 眼視倍率と全く等価で、対象物の視角["]が、画面上で何秒角に見えているか、という絶対的な倍率です。しかしながら、画面のサイズや解像度や観察距離など、見る人の環境に依存して変化するため、撮影者からは「○○倍です」と言えず、表示したときにはじめて倍率が確定します。  どちらかというと、他人に尋ねられた時に答えるのが表示倍率でしょうから、ですので、先述のように、「スマホ上なら1cm、PC画面なら2cmになるように"木星か土星の環の長径"を映すと表示倍率が約150倍」という勘定でご覧いただくのがよさそうです。

表示拡大率(=表示倍率÷撮影倍率)を揃えた比較

追伸:フルサイズmm換算との関係
 フルサイズカメラの焦点距離に換算して拡大率の指標とする考え方もありますが、これはあくまでも撮影範囲全体の「画角の広さ」を表すものであって、対象の拡大率を表すものではありません。星野写真には良い指標と思いますが、惑星撮影ではROI (Region of Interest)を狭めたからといって拡大率が上がったことにはならないわけですので、拡大率指標としては向いていないと思います。

追伸2:実合成焦点距離の求め方
 撮影した惑星画像のサイズ(木星とか土星の環の長径など)[pixel]と、天文年鑑などに掲載されている惑星の視直径[秒角]などから求められます。 合成焦点距離[m]=画素ピッチ[μm]×惑星像サイズ[pixel]/{4.85×視直径[秒角]}

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撮影に用いる拡大率を「倍率」で表してみると、眼視での見え方と比較も出来て面白いです。モニターに2cmに縮小した木星を表示させてみると「これが150倍かー、たしかに。」と、ご納得いただけるのではないかと思います。

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