「本家エンケの隙間は偽エンケだった…」,何言ってるのか分からないと思いますが、私にも長らく分からなかったのです。
土星の環にある「エンケの隙間」は、小望遠鏡では分解能的に"全く見えない"というのが定説になっているようです。角度にして 0.05秒角ほどの隙間は、アマチュアが持つ望遠鏡の分解能では歯が立たない、という全くの正論です。メートル級以上の口径が無いと見える筈はなく、見えているのは錯覚だという説もあり、ごもっとものように思えます。
ところが。
シーイングが良い日に望遠鏡を覗いていると、カシニの隙間の外側に、どうにも暗い部分を感じることがあるのです。しかも、エンケの隙間の本来の位置より内側に。画像処理で現れるという偽エンケ(?)が、眼視観察でも現れてる!?という具合です。
こりゃあ一体何なんだぜ? というわけです。
相変わらず私の眼が腐っているだけかもしれませんし、ハッブルの美しい写真が脳裏にあるから見える錯覚なのかとも思ったのですが、同じように見えている人もけっこうおられるようなので、考察です。
■ 歴史:エンケの隙間 (Encke's minima and division)
そもそも、エンケ(Johann Franz Encke)が、どんな望遠鏡を使ってこの隙間を見つけたのかというと、それは 口径24cmの屈折望遠鏡でした。その1837年のスケッチが下の図で、これが「本家エンケの隙間」です。(出典:"Encke’s minima and Encke’s division in Saturn’s A-ring")。
ちなみに、実はエンケの隙間には2種類あって、minima(暗帯) と division(空隙)があります。ハッブル望遠鏡で撮影されるクッキリした溝は divisionの方ですが、合わせて「エンケ」と総称されているようです。ここでは、二つをまとめて「エンケの隙間」と呼ぶことにして、特に区別する場合にはエンケの「暗帯」「空隙」と書くことにします。
ちなみに、カシニの空隙の外側にも空隙があるというスケッチはエンケ本人よりも前、1825年にも H. Katerなる人によって残されています。こちらは口径16cmの反射望遠鏡によって成されていますが、その後の観測で見えたり見えなかったりで「永続的でない」という報告となってしまったようです。
この H. Kater に「土星の環の外輪に溝がある」ということをタレ込んだ L.A. Queteletという人がいて、この人は25cmの屈折望遠鏡で観察していたようです。
更に遡ると、1700年代半ばに James Short という鏡職人が30cmまたは46cmかいずれかの反射望遠鏡で、カシニの空隙の外側にも輪を隔てるスジがあるという図を残しています。(出典:"The Encke Minima and Encke Division in Saturn's A-Ring")
この暗部はエンケ以降にも多くの観測が行われていて、1888年には J. Keelerという人によってエンケの「空隙」が正しい位置にスケッチされています(これは92cmの屈折望遠鏡)。このため、このエンケの「空隙」は、「Keelerの空隙」と呼ばれることもあるようです。
更に1943年に残されているBernard Lyot氏による60cm屈折を用いたスケッチでは、現代のハッブル望遠鏡による写真とほぼ完全に一致する形でエンケの隙間をはじめとする各種の空隙や環の濃淡が記録されています。
これらの観察に、1メートル以上の口径を持つ望遠鏡など登場しません。
面白いのは、30cm以下くらいの小口径機によるスケッチでは、本来のエンケの「空隙」よりもやや内側、A環のほぼ中央の位置に「暗帯」が描かれている点です。エンケご本人による本家スケッチでもそうなっていて、いわゆる「偽エンケ」になっているわけです。
こうしたスケッチは、他でも見られます。例えば足立光学製作所の天文ガイド広告では、20cm/F8足立鏡に SR-5アイピースを使ったスケッチ(1972年)があり、やはりA環中央付近に隙間が描かれています。
これらは全てハッブル宇宙望遠鏡(1990年打ち上げ)やボイジャー探査機(1977年打ち上げ)はおろかパイオニア11号探査機(1973年打ち上げ)以前のスケッチですから、参考にすべき画像など無い時代のものです。
もちろん、初期の多くの観測は「計算機」や「画像」という概念すらない時代の話ですから、描かれたエンケの隙間や「暗帯」がデジタル画像処理で出てきたものだという主張にはかなり無理があります。
事実から考えると、少なくともエンケの隙間は20cm前後の口径の望遠鏡で存在が確認でき、60cmの望遠鏡ではかなり完全に近い形で解像できるものだということが分かります。
■ 理屈:そもそも「分解能より小さいものは見えない」のか?
まず明確にしておかなければならないのは、分解能より小さいものだって見える、ということです。存在だけならわかるし、明暗も色も認識できるのです。
「嘘だ!!」と言う人にだって、恒星は見えていると思うのです。分解能以下のものが全く見えないというのなら、恒星だって見えないはずではないかと思うわけです。でも、見えてますよね?
恒星が我々の肉眼で分解可能なサイズなはずはありませんが、現実に見えています。つまり、像を正しく分解できるかどうかという話と、存在を確認できるかどうかというのは全く別の話だということです。
ちなみに申し上げておくと、レイリー限界にしてもドーズの限界にしても、光学系の分解能の大小を比較する目安であって、理論ではありません。その数字を「分解能と呼ぼう」と決めて光学系比較のモノサシに使い、算数的な意味づけがなされたというだけのことです。レイリーさんもドーズさんも、観察対象の存在確認の限界指標だなどとは述べていません。
試しに、PC上で「点」をガウス分布でぼかして解像度低下を模擬してみれば分かるのですが、ぼかしたって存在が無くなったりはしないのです。更に、点ではなく「線」をぼかしてみると、相当解像度を下げても存在はかなりはっきり分かります。
■ 実験:"3cm F25" でカシニの隙間に挑戦!
そういうわけで、実験です。ミザールの150SL(150mm/F5ニュートン)の太陽観察用絞り孔を使って、3cm F25、無遮蔽、中心無収差というスペックを作り、これにHR2.4mmをつけて312倍の倍率で土星を見て、完全に分解能以下になっているカシニの空隙が見えるのかどうかを試みたわけです。
口径(mm)の10倍以上という超過剰倍率ですから、通説では「像が暗くて良く見えない」「ボヤけるだけ」ということになっています。しかし、そんなことはありませんでした。もちろん像は暗くなりますし、さすがに解像度は落ちますが、土星の像は環も含めてクッキリハッキリと見えたのです。小学生のころ覗いた6cm F13.3よりも良く見える印象で、良い鏡とアイピースに感謝です。
さて、問題はカシニの空隙です。理論的には 0.6秒角ほどの空隙は3cmの口径が持つ3.9秒角の分解能では全く見えないはずです。たしかに、15cmの口径で明瞭に見えていたようなカシニの空隙の姿はそこにはありません。
しかし。
やっぱり偽エンケのように、環に暗部の存在を感じることは出来たのであります。いや、エンケよりも暗部が明瞭だったと思います。アイピースをXO2.5mmやXP3.8mmに換えても、やはり同様に見えます。
ちなみに、SE200Nに5.2cmの絞りを使うと、カシニの空隙はさらに空隙"ぽく"認識できます。SE200Nの鏡は150SLよりも良いようで、絞ってもけっこうよく見えます。分解能2.2秒角でも0.6秒角の隙間は認識できるわけです。
※余談:これを眺めていると、良い光学系だったら口径4cmとかの入門機だってアリだよねという気持ちになります。4cm/fl800とかの良質なアクロマートにSR4(6mmだけど)をつけたら、6cmの望遠鏡で初心者が楽しめる世界とそんなに遜色ない気はします。
昔触った6cmくらいの望遠鏡でカシニの空隙が見えなかったのは、接眼鏡を含む光学系がタコだったからだと確信しました。
■ 結論:"偽エンケ" は解像度低下で起きる
本来のエンケの隙間とは違う位置にある「偽エンケ」は、画像処理によって現れるものだということになっているようです。確かに画像処理によっても浮かび上がっては来るのですが、じゃあ本家エンケさんの1837年のスケッチが画像処理によるものだったのかといえばそれはノーなわけです。
「偽エンケ」と呼ばれるA環中央に現れる暗部、エンケご当人が見たものは、画像処理や錯覚なんかじゃなくて光学的に必然的に表れる暗部だと考えるのが自然ではないかと思うわけです。
そこで、机上実験としてハッブル望遠鏡による「正しいエンケの隙間」が写った画像と,これをガウスフィルタでぼかした像とを並べてみました。ガウスフィルタでぼかした画像は、「望遠鏡による分解能の低下」を模擬したものです。
(注: 本来の望遠鏡は、ガウス分布とではなくベッセル関数と元画像との重畳積分になるはずで、ゴーストのような像が現れる一方で分解能的には有利になる可能性があります。ちなみに、画像はjpgビューワーのガウスフィルタでぼかしていますので、定量的にどのくらいの分解能にした、といえず、スミマセン。)
この「解像度低下」を模擬してみると、本家エンケさんがスケッチした位置にやはり暗部が現れるではないですか!そして、他の細かい溝の影響もあってか、本来の位置よりもやや内側に暗部は現れるのです。これは、まさに望遠鏡を覗いていて感じる暗部と同じです。
以上の事実や結果から私は、いわゆる「偽エンケ」は、画像の強調処理やスタック処理などの過程で生じるというよりは光学的に起こる現象だ、と結論付けたのであります(※)。
そういうわけで、「見えるはずがない」とか「写ったものは全て偽物」とか「嘘」「錯覚」と決めつけるのではなく、チャレンジしながら見えたり写ったりしたものが何なのかを考えてみるのも、ゆるーい楽しみ方の一つではないかと思った次第です。
(初期のスケッチは16cmの反射ですから!)
※光学系による「アナログ的画像処理」の結果だ、という言い方も出来ようかと思います。少なくともデジタル的な話ではないということです。
(余談: 「偽エンケ」は、現象としてはエイリアジングの方が似ているのかもしれません。しかし、光学系による解像度低下やイメージセンサによる撮像は comb関数サンプリングとはイコールでないので、現れ方や性質もいわゆるエイリアジングとは異なると思われます。また、光学系の解像度低下によって生じた「偽エンケ」は、デジタル画像処理によってより強調されて出現してくるのはそうだと思います。)
修正1: 初期の記載では Kater の観察は17cmとしていましたが、スケッチは16cmの方だったようです。「17cmの方が良い望遠鏡だった」と書いてあったのでそっちかと思ったら、そうではなかったようです。本文訂正しました。
土星の環にある「エンケの隙間」は、小望遠鏡では分解能的に"全く見えない"というのが定説になっているようです。角度にして 0.05秒角ほどの隙間は、アマチュアが持つ望遠鏡の分解能では歯が立たない、という全くの正論です。メートル級以上の口径が無いと見える筈はなく、見えているのは錯覚だという説もあり、ごもっとものように思えます。
ところが。
シーイングが良い日に望遠鏡を覗いていると、カシニの隙間の外側に、どうにも暗い部分を感じることがあるのです。しかも、エンケの隙間の本来の位置より内側に。画像処理で現れるという偽エンケ(?)が、眼視観察でも現れてる!?という具合です。
こりゃあ一体何なんだぜ? というわけです。
相変わらず私の眼が腐っているだけかもしれませんし、ハッブルの美しい写真が脳裏にあるから見える錯覚なのかとも思ったのですが、同じように見えている人もけっこうおられるようなので、考察です。
■ 歴史:エンケの隙間 (Encke's minima and division)
そもそも、エンケ(Johann Franz Encke)が、どんな望遠鏡を使ってこの隙間を見つけたのかというと、それは 口径24cmの屈折望遠鏡でした。その1837年のスケッチが下の図で、これが「本家エンケの隙間」です。(出典:"Encke’s minima and Encke’s division in Saturn’s A-ring")。
ちなみに、実はエンケの隙間には2種類あって、minima(暗帯) と division(空隙)があります。ハッブル望遠鏡で撮影されるクッキリした溝は divisionの方ですが、合わせて「エンケ」と総称されているようです。ここでは、二つをまとめて「エンケの隙間」と呼ぶことにして、特に区別する場合にはエンケの「暗帯」「空隙」と書くことにします。
ちなみに、カシニの空隙の外側にも空隙があるというスケッチはエンケ本人よりも前、1825年にも H. Katerなる人によって残されています。こちらは口径16cmの反射望遠鏡によって成されていますが、その後の観測で見えたり見えなかったりで「永続的でない」という報告となってしまったようです。
この H. Kater に「土星の環の外輪に溝がある」ということをタレ込んだ L.A. Queteletという人がいて、この人は25cmの屈折望遠鏡で観察していたようです。
更に遡ると、1700年代半ばに James Short という鏡職人が30cmまたは46cmかいずれかの反射望遠鏡で、カシニの空隙の外側にも輪を隔てるスジがあるという図を残しています。(出典:"The Encke Minima and Encke Division in Saturn's A-Ring")
エンケご本人による本家エンケの隙間のスケッチ (1837年, 25cm屈折) 出典: "Encke’s minima and Encke’s division in Saturn’s A-ring" |
更に1943年に残されているBernard Lyot氏による60cm屈折を用いたスケッチでは、現代のハッブル望遠鏡による写真とほぼ完全に一致する形でエンケの隙間をはじめとする各種の空隙や環の濃淡が記録されています。
これらの観察に、1メートル以上の口径を持つ望遠鏡など登場しません。
面白いのは、30cm以下くらいの小口径機によるスケッチでは、本来のエンケの「空隙」よりもやや内側、A環のほぼ中央の位置に「暗帯」が描かれている点です。エンケご本人による本家スケッチでもそうなっていて、いわゆる「偽エンケ」になっているわけです。
こうしたスケッチは、他でも見られます。例えば足立光学製作所の天文ガイド広告では、20cm/F8足立鏡に SR-5アイピースを使ったスケッチ(1972年)があり、やはりA環中央付近に隙間が描かれています。
これらは全てハッブル宇宙望遠鏡(1990年打ち上げ)やボイジャー探査機(1977年打ち上げ)はおろかパイオニア11号探査機(1973年打ち上げ)以前のスケッチですから、参考にすべき画像など無い時代のものです。
もちろん、初期の多くの観測は「計算機」や「画像」という概念すらない時代の話ですから、描かれたエンケの隙間や「暗帯」がデジタル画像処理で出てきたものだという主張にはかなり無理があります。
事実から考えると、少なくともエンケの隙間は20cm前後の口径の望遠鏡で存在が確認でき、60cmの望遠鏡ではかなり完全に近い形で解像できるものだということが分かります。
■ 理屈:そもそも「分解能より小さいものは見えない」のか?
まず明確にしておかなければならないのは、分解能より小さいものだって見える、ということです。存在だけならわかるし、明暗も色も認識できるのです。
「嘘だ!!」と言う人にだって、恒星は見えていると思うのです。分解能以下のものが全く見えないというのなら、恒星だって見えないはずではないかと思うわけです。でも、見えてますよね?
恒星が我々の肉眼で分解可能なサイズなはずはありませんが、現実に見えています。つまり、像を正しく分解できるかどうかという話と、存在を確認できるかどうかというのは全く別の話だということです。
ちなみに申し上げておくと、レイリー限界にしてもドーズの限界にしても、光学系の分解能の大小を比較する目安であって、理論ではありません。その数字を「分解能と呼ぼう」と決めて光学系比較のモノサシに使い、算数的な意味づけがなされたというだけのことです。レイリーさんもドーズさんも、観察対象の存在確認の限界指標だなどとは述べていません。
試しに、PC上で「点」をガウス分布でぼかして解像度低下を模擬してみれば分かるのですが、ぼかしたって存在が無くなったりはしないのです。更に、点ではなく「線」をぼかしてみると、相当解像度を下げても存在はかなりはっきり分かります。
点が解像度低下によってボカされると、コントラストがだいぶ下がりますが、存在は認識できます。 (ボカし8pixel≒半値幅で分解能の4倍) |
対象が線状だと、さらにボカしまくっても見えます。 小望遠鏡でカッシーニの空隙を認識できる理由はコレだと思われます。 (ボカし16pixel≒半値幅で分解能の8倍) |
■ 実験:"3cm F25" でカシニの隙間に挑戦!
そういうわけで、実験です。ミザールの150SL(150mm/F5ニュートン)の太陽観察用絞り孔を使って、3cm F25、無遮蔽、中心無収差というスペックを作り、これにHR2.4mmをつけて312倍の倍率で土星を見て、完全に分解能以下になっているカシニの空隙が見えるのかどうかを試みたわけです。
口径(mm)の10倍以上という超過剰倍率ですから、通説では「像が暗くて良く見えない」「ボヤけるだけ」ということになっています。しかし、そんなことはありませんでした。もちろん像は暗くなりますし、さすがに解像度は落ちますが、土星の像は環も含めてクッキリハッキリと見えたのです。小学生のころ覗いた6cm F13.3よりも良く見える印象で、良い鏡とアイピースに感謝です。
さて、問題はカシニの空隙です。理論的には 0.6秒角ほどの空隙は3cmの口径が持つ3.9秒角の分解能では全く見えないはずです。たしかに、15cmの口径で明瞭に見えていたようなカシニの空隙の姿はそこにはありません。
しかし。
やっぱり偽エンケのように、環に暗部の存在を感じることは出来たのであります。いや、エンケよりも暗部が明瞭だったと思います。アイピースをXO2.5mmやXP3.8mmに換えても、やはり同様に見えます。
ちなみに、SE200Nに5.2cmの絞りを使うと、カシニの空隙はさらに空隙"ぽく"認識できます。SE200Nの鏡は150SLよりも良いようで、絞ってもけっこうよく見えます。分解能2.2秒角でも0.6秒角の隙間は認識できるわけです。
※余談:これを眺めていると、良い光学系だったら口径4cmとかの入門機だってアリだよねという気持ちになります。4cm/fl800とかの良質なアクロマートにSR4(6mmだけど)をつけたら、6cmの望遠鏡で初心者が楽しめる世界とそんなに遜色ない気はします。
昔触った6cmくらいの望遠鏡でカシニの空隙が見えなかったのは、接眼鏡を含む光学系がタコだったからだと確信しました。
■ 結論:"偽エンケ" は解像度低下で起きる
本来のエンケの隙間とは違う位置にある「偽エンケ」は、画像処理によって現れるものだということになっているようです。確かに画像処理によっても浮かび上がっては来るのですが、じゃあ本家エンケさんの1837年のスケッチが画像処理によるものだったのかといえばそれはノーなわけです。
「偽エンケ」と呼ばれるA環中央に現れる暗部、エンケご当人が見たものは、画像処理や錯覚なんかじゃなくて光学的に必然的に表れる暗部だと考えるのが自然ではないかと思うわけです。
解像度低下を模擬してハッブル望遠鏡の画像をぼかすと、"偽エンケ"がうっすらと現れる (つまり「偽エンケ」は画像の強調やスタック処理で現れるのではない、ということ。) |
そこで、机上実験としてハッブル望遠鏡による「正しいエンケの隙間」が写った画像と,これをガウスフィルタでぼかした像とを並べてみました。ガウスフィルタでぼかした画像は、「望遠鏡による分解能の低下」を模擬したものです。
(注: 本来の望遠鏡は、ガウス分布とではなくベッセル関数と元画像との重畳積分になるはずで、ゴーストのような像が現れる一方で分解能的には有利になる可能性があります。ちなみに、画像はjpgビューワーのガウスフィルタでぼかしていますので、定量的にどのくらいの分解能にした、といえず、スミマセン。)
この「解像度低下」を模擬してみると、本家エンケさんがスケッチした位置にやはり暗部が現れるではないですか!そして、他の細かい溝の影響もあってか、本来の位置よりもやや内側に暗部は現れるのです。これは、まさに望遠鏡を覗いていて感じる暗部と同じです。
以上の事実や結果から私は、いわゆる「偽エンケ」は、画像の強調処理やスタック処理などの過程で生じるというよりは光学的に起こる現象だ、と結論付けたのであります(※)。
そういうわけで、「見えるはずがない」とか「写ったものは全て偽物」とか「嘘」「錯覚」と決めつけるのではなく、チャレンジしながら見えたり写ったりしたものが何なのかを考えてみるのも、ゆるーい楽しみ方の一つではないかと思った次第です。
(初期のスケッチは16cmの反射ですから!)
※光学系による「アナログ的画像処理」の結果だ、という言い方も出来ようかと思います。少なくともデジタル的な話ではないということです。
(余談: 「偽エンケ」は、現象としてはエイリアジングの方が似ているのかもしれません。しかし、光学系による解像度低下やイメージセンサによる撮像は comb関数サンプリングとはイコールでないので、現れ方や性質もいわゆるエイリアジングとは異なると思われます。また、光学系の解像度低下によって生じた「偽エンケ」は、デジタル画像処理によってより強調されて出現してくるのはそうだと思います。)
修正1: 初期の記載では Kater の観察は17cmとしていましたが、スケッチは16cmの方だったようです。「17cmの方が良い望遠鏡だった」と書いてあったのでそっちかと思ったら、そうではなかったようです。本文訂正しました。
コメント
絞りを使ってカシニの空隙で検証とは興味深いです
長年の疑問が氷解した気がしました
偽エンケ説はごもっともに思えただけに、なんとなく自分が見ているものは錯覚なのかと思い込みそうでした。
絞ってみるのはなかなか面白いです。3cmの口径なんて何も見えないように考えていましたが、ゼンゼン侮れませんでした。
学会に論文出しましょう。あるいは天文誌に。
いや、天リフが積極的に取り上げそうですね。
僕の少し前からの、不思議に思ってる現象もズバリ
解決して欲しいです。(自力では200%無理ww)
こちらの記事は調べものをまとめた与太話な内容なので、アカデミックな先生方と議論するにはまだまだ感が…。
でも、「エンケ」がなんだか嘘つき扱いになっている風潮には、一石を投じられたんじゃないかと思ってるんです。
やっぱり、「(見えてるという)事実を否定する」というスタイルの理屈のこね方には、ちょっと眉に唾つけてみちゃうところです。
#不思議に思われている現象…、それは私がハーシェルの回想の最後に書いたあたりに関係するところでしょうか??ちょっとなかなか難しい世界だなと思い始めてます。。
アポダイジングマスクで短焦点アクロ(15cmF5)の色収差が大幅に消えたのを体験し
たのです。そして、F=7.5になる口径(10cm)に絞ってもほぼ同じ像になったの
です。
きっかけは某掲示板に書き込まれたちょっと不思議な、嘘のような話でした・・・・
それがずっと頭のすみにひっかかっていて。ためしてみたらWでびっくりしたのです。
アポマスクには色収差を消す効果は理論上はないはずなのに、ちゃんと消えてシャープ
で高コントラストの良像が{見えて}しまったのです。
夢でもなく、精神に異常もありません(たぶん)
これは、もともとF値と色収差に関係があるのと似ている効果かと思います。
F値が大きくなると合焦範囲が広くなりますから、色収差による焦点位置のズレの問題が小さくなっていきます。
逆にF値が小さいと、焦点には大きな角度で光が向かいますから、わずかな焦点位置のズレでもボケ量が大きくなります。このため、色収差による焦点位置のズレで生じるボケ(例えば青ハロ)も派手に見えるようになります。
アポダイジングマスクでは、外側から来る光が制限されるので、色収差によるボケも制限されて見えるのだと思います。
決して、夢やマボロシではないと思いますヨ!
Lambdaさんは、教師とか講師とか人に教える仕事に
向いていると思います。
※
>ちょっとなかなか難しい世界だなと思い始めてます。。
は、別のことだったのですね。
ちなみに、私が難しいなあ、と思い始めているのもやはり絞りとかアポダイジングマスク的な話です。まだ攻めどころがあるような、ないような、で、考えがまとめきれていないのでございました。、
いわゆる偽の構造が見えてくるという現象については、人間側の問題(性質)が効いているのかも?と考えています。イメージとしては「輝度グラフの勾配が急激に変化した部分を暗線のように錯覚する」という感じでしょうか。こう考えると、エッジを強調(一種の微分処理?)して見かけの解像感を向上させる画像処理に似たところがあるのかもしれません。
それにしても、次から次へと面白いテーマを発見されていて驚嘆するほかありません!
>人間側の問題(性質)
そう! これはかなりあります。
眼球はCMOSセンサーと違って、望遠鏡にネジ止め固定されているわけでもなく、人間が最終的に感じ取っている画像は「脳内画像処理」で復調されたものだと思います。
今回の考察は、あくまでも人間の眼に入る前の輝度の話しかできていないのですが、「二重星の分離」で定義された限界と、「1点や線の存在有無」の限界は別、ということなのかと理解しております。
人間の眼については、全くの妄想推論ではありますが、「適応型アンシャープマスク」のようなものが脳内にリアルタイムで作られて、これを介してモノが見えているように感じています。(眩しいものをみて目をつぶると見える何か)
これが、おっしゃっているようなエッジ強調的な効果を生むのだろうなあ、と、妄想しております。
シーイングが良いときに見る惑星像、感動しますよね。
私も、写真よりもよく見えてるんじゃないかと見入ってしまうことがあります。
A環中央くらいの暗部、やっぱり感じますよね!?
「15cmくらいでは見えるはずがない」「画像処理で出る」ようなことも聞きますが、やっぱり眼視でも見えているように私も感じています。14cmマクストフも、スパイダーのようなものもないですし、良いコントラストで見えていたんじゃないかと想像します。
そして、小口径での観察も面白いですね。
私も、今年は良い5cmアクロマートを手に入れまして、やはりカシニの隙間というか、暗部を確認しておりました。木星の大赤斑なんかも、小口径ながらよく見えます。