シリウスの伴星に効く分解能と限界等級

先日、低空のシリウスBが良く見える日にでくわして、思わず撮影を試みてみました。シリウスの伴星は、これまでにもアイピース比較に用いたりしておりましたが、今シーズンは主鏡マスクの効果で昨年よりもだいぶ余裕になって、20cm鏡で2連勝中です。見え方もだいぶハッキリしましたので、今回は初の撮影トライアルと相成りました。

 シリウスBは主星との光度差が激しく、小望遠鏡ではそれなりの難物であることは過去に述べてきた通りです。過去記事からの繰り返しにはなりますが、「8.4等」とか「10秒角」という数値からは想像つかない程度には難物です。私のような初心者にとっては、ちょっとしたチャレンジとしてちょうど良い対象です。

 そして、このシリウスとその伴星を眺めれば眺めるほど、望遠鏡の"性能数値"の意味をよく理解しないまま見える/見えないを論ずるべきではない、という思いを強くするのでした。
20cmニュートンでのシリウスB
眼視では、中心部の回折環まで詳しく分解して見えます

(撮影: 2020.11.17, 20cm/F5 Newt., 5x PowerMate, Sv305)

■ 恒星は点には見えない件
 このことは、以前の記事でも書いてきた通りです。恒星は点になど見えませんし、エアリーディスクのサイズにもなっていません。写真を見ても1等星は大きく写っているのが普通で、これを「点だ」と強弁するのは裸の王様の世界です。
 シリウスの写真をご覧いただけば分かる通り、小望遠鏡で見るその姿はかなりデカいです。どのくらいの大きさかというと口径20cmでは視直径15"程度には回折環がひろがって見えて、見掛け上は中接近時の火星くらいのデカさです。もちろん、倍率に比例して大きく見えます

 もちろん恒星は点光源ですが見えているのはその回折像で、中心のエアリーディスクや回折環を含めた像が大きく広がって面積体として見えているのです。微光星では回折環が暗すぎて見えにくいために恒星像がエアリーディスクのサイズに見える、というだけの話です。

 ありがちな「恒星はどんなに倍率を上げても点にしか見えません」との記述は、光源が点である話と、像がどう見えるかという話とを混同した心眼に基づいたものだろうかと思います。

■ シリウスBが難物な理由
 シリウスの伴星を見るのが難しい理由の根源は、主星(-1.46等)と伴星(8.44等)の輝度差が 9,000倍にも及んでいるからです。リゲルとその伴星でも460倍、トラペジウムA星とE星でも50倍ほどの輝度差に過ぎませんから、シリウスA,Bの輝度差が格段に大きいということが分かります。

 主星の輝度が大きいということは当然その回折環も明るいわけで、エアリーディスクからかなり離れたところにある回折環も見えてきて、見掛け上は15秒角(口径20cm)くらいな直径になるというわけです。
 こうしてみると、「シリウスBの離角11秒角」という数値と、「シリウスの見掛けの大きさ約15秒角(半径7.5秒角)」が、意外と接近していて侮れないことが分かります。

 回折環の光芒は更にその外側にも広がっていて、バックグラウンドを明るくしています。このため、光害がある場合と同様に限界等級が下がっての伴星が見えにくくなるのです。

 単純に「シリウス本体が眩しくて目がくらんで見にくい」ということだけでなく、光学的に見えにくくなっていくということを理解しておく必要があります。

■ 「分解能」と「限界等級」
それにしても、「口径20cmの分解能が0.58秒角」「極限等級13.3等」という望遠鏡の性能数値が、シリウスBの「11秒角」「8.4等」という対象にどう影響を与えているのかは気になるところです。

 端的に言うと、口径の大きさによってシリウス伴星が見えてくる理屈は次の2つで、キモは分解能です。
 ・分解能向上に伴って回折環の拡がりが抑えられ、伴星のバックグラウンドが下がる。
 ・分解能が上がると恒星の見掛けの面積が減って伴星の輝度が上がる。

 すなわち、伴星周辺でのバックグラウンドと伴星への輝度の集中度合で決まる「限界等級」が上がることがシリウスBが見えるかどうかを決めている、というわけです。

 この様子を計算してみました。横軸はシリウスAからの離角です。伴星の輝度分布を、2020年の伴星の離角である11秒角のところに置いてみました。
口径によるシリウスBの見え方
(λ=530nm)

 


 縦軸は、望遠鏡の性能数値である「極限等級」を0として、これに対する像の輝度を等級で表したものです。口径が大きくなると極限等級が上がることで、伴星の輝度が上がって見えてくることが分かります。

 グラフをみると、口径10cmでは回折環と伴星の輝度が同程度になっており、分離の限界付近だということが分かります。シリウスBは回折環の中に埋もれながら濃淡として見えるのだろうと言うことが分かります。逆に言うと、この位置の淡い回折環が見える程度には暗い空の条件でないと見えないということになります。
 口径15cmでは、10cmよりは伴星がはっきりと見えてくるとは思います。回折環よりも1.5等ほど明るく見えているわけで、条件が良ければ十分分解可能だということが分かります。
 口径20cmでは伴星の位置での回折環よりも2.5等級ほど明るく見えていることになりますので、だいぶ楽です。
 口径40cmにもなれば4.5等級も回折環より明るいわけですから、伴星は余裕で見えることだろうと思います。

 こうしてみると、分解能の「0.58秒」とかいうのは中心のエアリーディスクの話をしていて直接関係ないようにも見えますが、実は面積体に見えている伴星のサイズを決めているのがこの分解能で、分解能の向上によって輝度が集中することがキモなのだということがよく分かるのでした。

 以上は理想的な空の条件(背景の暗さ、シーイング、透明度)での話ですから、たとえば光害によって限界等級が下がったり、シーイングによって主星の回折環が乱されて広がったり伴星が拡散されてしまっていると、如実にシリウスBは見えなくなるだろうと思います。
 また、分解能がキーファクターですから、主鏡の精度やアイピースの収差補正、光軸調整、筒内気流対策といったことが見える/見えないに大きく影響していくだろうということが容易に想像できます。反射望遠鏡では、回折光を乱す筒内の構造物にも十分配慮したいところです。

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こうして恒星を眺めてみることも面白いものです。今年もやってきたシリウスBのシーズンですが、「恒星は点だから見てもツマラン」と打ち捨てずに、観察&チャレンジしてみるのも良さそうです。

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コメント

望遠野郎 さんのコメント…
Lambdaさんこんばんは。

>ありがちな「恒星はどんなに倍率を上げても点にしか見えません」との記述は、光源が点で
>ある話と、像がどう見えるかという話を混同した心眼に基づいたものだろうかと思います。

そう!!まさにそうですよね! 昔からもやっとしていたものの正体をズバリ言い当てて
いただいてスッキリしました。

中二のとき始めて自分の望遠鏡を持って(理科教材社の3.2センチF25?)そのへんの
明るい恒星を見て、円盤状に見えて興奮しました。(ピントを合わせるということが分かって
なかったのです。)のちに「焦点内外像の色を見て楽しむ」という眼視の一方法を知って、
それはそれで間違ってはいなかったのだと思いました。(いや、間違ってはいますけど。)

二重星の観測はあまり興味はないのでやりませんがすが、主鏡の光軸合わせに回折環の同心円
状態をチェックすることはあります。なるべく高倍率にしてピンを合わせ・・・15cmF5ア
クロでやってみたら目で見る限り同心円状でした。光軸修正ネジのつっぱり長さを目で見て
同じにセットしただけなんですが、こんな偶然もあるのでしょうか?

関係ない話&長くてスイマセン・・・・
Lambda さんの投稿…
望遠野郎さん、こんばんは。
コメントありがとうございます!

恒星の見え方については、「恒星=点=ツマラナい」という先入主があって、高倍率でちゃんと観察してないという方も少なくないんじゃないかと思います。

内外像の見え方も面白いですし、色の確認にもつかえますね。

さて、光軸ですが、高倍率で回折環を観察すると、微妙な光軸のズレが観察できますね。
私も、この趣味を再開した当初は、高拡大率で撮影したときの接眼筒起因の光軸が気になっていて、微調整はなかなか苦労しました。

面白いのは、「回折環は光軸がズレていても必ず同心円になる」ということです。
同心円の見え方が対称になるように、最後は追い込む必要がありました。
↓の事例は、接眼筒の長さとカメラの重さで狂ってしまっている像ですが、面白いことに回折環は同心円です。
https://m-lambda.blogspot.com/2019/05/blog-post_26.html
望遠野郎 さんのコメント…
今度は書き込めるかな?

同心円は、目で見る限り上下・左右対称だったんですよ。
つまりほんとの同心円です。目視でこれ以上追い込むのは
無理なぐあいでした。
Lambda さんの投稿…
望遠野郎さん、ご返信ありがとうございます。

なるほど、「同心円が対称」ということで、光軸バッチリだったようですね。
恒星を見て目視で追い込めないレベルであれば、もはや十分なところまで来ているのだと思います!