[高倍率上等] 春の銀河を光害地から眼視で愉しむ

春は系外銀河が良く見える季節として良く知られています。ちょうど、夜空に天の川が見えない「自分たちが住む銀河系の薄い方向」が見えているからです。はるか遠くにある春の銀河を眺めていると、自分たちの天の川銀河との相似性に思いを馳せたりして、なかなか楽しいものがあります。

 冬の夜空のM42や各種散開星団などの派手な星雲星団に比べると、8等級だの9等級だのが並ぶ春の銀河はスペックだけ見ると難しそうにも思えますが、ところがどっこい春の系外銀河の戦闘力は意外にも高く、小望遠鏡でも、それも市街地からでも見えるものがあるのです。

 今回は、春の銀河の市街地(*)からの見え方や使用する倍率との相性について気が付いたことを綴りつつ、何百万光年もの遠方にある銀河を愉しんでみたいと思います。

*市街地:こちらは中堅地方都市の中心部で、世界光害マップのデータによると SQMは19.3とのことです。これは東京・大阪・神戸・福岡・仙台などの大都市と比較するとマシながらもお世辞にも良い空とは言い難い空で、長崎・高知・新潟・金沢あたりの駅前あたりと同じくらいといったところです。
 また、周囲からは3つほどの街灯と駅付近にある強烈な夜間灯とに照らされて、夜間でも影ができるくらいの条件下で眺めております。
望遠鏡で眺める M81 (ボーデの銀河) & M82 (葉巻銀河)
周囲の恒星より「淡い」です。
 

■ 光害地から系外銀河は見えるのか?
 条件と対象にもよりますが、意外と見えます。7~9等級という数値からは想像しにくいのですが、形などもけっこう見えるものです。特に真横を向いているM82のようなエッジオン銀河は、光が集中していて形も分かり易い対象です。
最初の図(写真ですが)は、市街地からの見え方に近づくように画像処理したM81とM82です。ちょうど、15cm F5鏡では私にはこんな風に見えています。

写真で見るM81 & 82
(ボーデの銀河と葉巻銀河)
 
天体写真で見る系外銀河は、とてもハッキリと写っています。周囲の恒星よりずっと明るく輝いているかのように写っており、そのような姿を期待してしまいがちです。
しかし眼視で見る銀河の姿は恒星よりもずっと淡く、眺め方に慣れていないと市街地では「全く見えない」と感じてしまうことすらあります。

 ですが不思議なことに、ひとたび見えるようになるとドンドン良く見えるようになるのがDSO (Deep Sky Object; 星雲・銀河・星団)というヤツで、「淡いのに銀河の楕円や暗黒帯が分って感動する」という対象でもあります。
 そして光度は明るくないものの、散光星雲のようにあまり大きく広がり過ぎてもいないので、肉眼で見えやすいかどうかということで考えると意外にも「見えやすい」ものが多いのがポイントです。
 メシエカタログにある系外銀河は、惑星よりは視直径が大きく月よりも小さいというサイズ感のものが多く、実は望遠鏡で観察すると大変おもしろい対象ではないかと思います。

 そういうわけで、春の系外銀河は市街地の夜空でも意外と見えるものがあるというのが私の個人的な感想です。
 M81&82、M65&66、M104あたりは比較的見えやすい銀河ではないかと思います。一方でM51などは空によっては見えにくく、視直径が大きなM101は市街地ではほぼ絶望的です。
街灯で影が出来るような自宅庭ですが、それなりに楽しめます
 

■ 透明度が効く!
 光害のある市街地では、透明度の良し悪しが見え方に大変影響します。なぜなら、光害で空が明るくなるという現象は、街明かりが大気中の微粒子によって散乱して起こるからです。微粒子が少ない、つまり透明度の高い日は、街明かりを散乱する物体が少ないのですから、光害が少ないのと同じ効果があります。
 光害は日によって変わり、光害地の方が透明度の影響が大きいのが道理というものです。

しし座のトリオ銀河 M65 & M66 & NGC3628
(市街地ではNGC3628は難物です)
 
透明度が良い日の夜空は「黒く」て、DSOが思いのほかよく見えたりします。
 私の自宅では、普段はM51がギリギリ存在が分かるかどうかという空ですが、条件が悪ければ全く見えず、透明度の良い日は銀河の中心部だけでなく渦巻きの外輪の存在が見えたりして、その姿はハーシェルによるスケッチに近いと感じたりもしました。
 しし座のトリオ銀河のNGC3628にしても、普段は自宅からでは存在すら分からないのですが、透明度の良い日は見ええるのです。
 このように、光害地であるほどその日の透明度に左右される傾向があるように感じます。
 なかなか「月明かりのない透明度の良い日」というのに巡り合うことは多く無いのですが、諦めずにチャレンジしていると見える日があったりするのも、面白いところです。

■高倍率が面白い
 春の銀河に限らず、星雲星団(銀河を含む)の楽しみ方はさまざまです。双眼鏡を使って存在を確認していったり、低倍率で銀河団を同じ視野に捉えたり、その小さな姿の形を観察するのも楽しいものです。
 しかしその一方で私が強調しておきたいのは、倍率を上げたからといって銀河や星雲がが見えにくくなったりはしないという事実です。口径(mm)を超えるくらいの倍率で観察しても、見えるのです。
 倍率を上げると確かに対象は暗くなりますが、背景も暗くなるのでコントラストは変わらないのです。

倍率を上げると像は暗くなりますが、背景も暗くなるのでコントラストは変わりません
(画像はおとめ座 M104 ソンブレロ銀河)
 
例えば図のM104の場合、低倍率では存在もソンブレロの形もしっかりと分かるのですが、倍率を上げると解像度の低い"そらし目"で眺めても詳細な形や暗黒帯が迫力を伴って見えてくるのです。
 図に示したのは15cm F5鏡に TMB PlanetaryII 6mmを使った125倍での姿ですが、もっと倍率の高い、例えば20cm F5鏡を使って167倍にしたり、更には Radian 4mmを使って250倍で観察してみると、実に迫力ある姿に見えます。
 同様に、良く見える条件の日であれば、視野一杯に広がるM51やM106なども面白い対象です。
 高倍率アイピースは必ずしも月惑星用のためだけのものではないのです(惑星状星雲や球状星団が相手でも、高倍率アイピースは楽しいです。ただし、迷光が少なく背景が黒く見える良質なアイピースを選びたいところです)。

 星雲(銀河)が「高倍率では暗く淡くなって見えなくなってしまう」というのは、迷信です。背景が明るすぎる市街地では、むしろ倍率によって背景の黒さを調整して眺める方が見易いのではないか、と思うのです。(人間の眼が感知できない明るさになってしまえば見えなくなっていくのだと思うのですが、それが起こる前提は大変暗いバックグラウンドであるように思われます。)

 但し、高倍率での観察はピント合わせに熟練が要ります。20cm鏡の250倍くらいですと視野内に恒星が見えなくなってきますし、見えたとしても点ではない微光星でピントを合わせるのは難易度が高く、初心者には困難が伴います。
 徐々に中倍率から慣れていくのが良さそうです。

■ やっぱり暗い空は良く見えますが、市街地も頑張れます
 実はこの記事を書く直前に観望のための遠征というか近征を敢行したのですが、やっぱり暗い空のところに行くと、苦労せずに銀河を楽しむことが出来ます。
 犬の散歩で通りかかったオジサンが懐中電灯で照らしながら「この望遠鏡何倍?ここ覗くの?」とやって覗いても銀河の存在や形を分かってもらえて、「この望遠鏡、メーカー名とか写真に撮っていいですか?」とご興味を持っていただけたほどでした。

 こうした暗い空で、見掛け視界100°のアイピースを使ってしし座~かみのけ座あたりの銀河団を眺めていると、視野には次々に銀河が飛び込んできます。これらにそれぞれ番号をつけて行ったメシエやハーシェルの地道な作業を思うと、なかなかアツいものがあります。また、小粒な銀河などを見ると低倍率では恒星と判別するのも容易でないものもあり、メシエの望遠鏡の性能が全くバカにはできないものだったのだと実感できます。
 しかし、その一方で、M104やM81&82などの明るめの銀河は、暗い空と自宅庭とで眺める姿にさほどの差がないというのも新たな発見でありました。
 形が判別可能な程度に見えてしまえば、そこから先の差は感じにくいのかもしれません。
 ちなみに"暗い空"は、SQM21.3ほどですから最良とは言えないですが、天の川が十分見える程度の空です。淡いとされるM101も軽く確認できる程度の条件でした。

 つまり、対象によってはその暗い空で見るものと似た姿を市街地からでも拝める機会はある、というわけですから、諦めずに試してみる意義はあるなあ、と強く思ったのでありました。

何百万光年も離れた遠方から届く光をナマで眺めるロマンというのは確かにある、と、個人的には思うのです。



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