望遠鏡取り扱いの「お作法(?)」

天体望遠鏡は精密機器というわけで、その取扱いにも繊細さが必要だったりします。こうした取り扱い方法は、人によっては「お作法」に位置づけられてる場合もあるようです。

そこで今回は、世の中の望遠鏡取り扱いの「お作法」に通じるかも知れないとの思いから、私が本能的にとっている望遠鏡取扱時の行動を書き出してみました。

望遠鏡をいたわる取扱いで、長く使いたいものです

注意!】もちろん、これはあくまでも個人的な経験と見解に基づく備忘録に過ぎません。全国の様々な「望遠鏡お点前」の流儀に必ず沿えることを保証するものではありませんし、望遠鏡の故障防止や延命を保証するものでもないことにご留意ください。あくまでも個人的な独り言メモです

※2021.9.5 に、夏シーズンを経ての経験から、一部追記しました。

■ 架台
 大変ガッチリしているようにも見える望遠鏡架台ですが、中身は意外と繊細です。機械の声(?)に耳を傾けながら、優しく取り扱いたいところです。

・クランプを締めるのは使用時だけ
 赤道儀のクランプは、組み立てを完了していざ「使うとき」にだけ締めるようにしています。クランプが締まっているときの赤道儀は作用する外力を全てギヤの小さな歯先で受け止める状態になっていて、バランスがとれた使用状態以外でクランプを締めるとギヤ歯先の悲鳴が聞こえる気がするからです。
 重たくてガッチリした赤道儀であるほど気をつけます。クランプした状態ではアルミか銅合金のウォームホイル先端のわずか数ミリの歯先で全荷重を支えているわけで、大型赤道儀であればあるほど架台自体も搭載物も重たいので、気を使いたくなるポイントです。

 架台に関する「お作法」の基本は、このクランプワークに原点があるかも知れません。
クランプ緩めで始まり、クランプ緩めで終わる。」これが私の個人的な本能であるようです。
据付の際も、保管時も、私はクランプを緩めています。

ウェイトだけ装着の赤道儀。
組立/撤収でこの姿を拝みます
 
・赤道儀のウェイト(先組み/後外し)
 鏡筒を取り付ける前にウェイトを取り付ける「ウェイト先組み」と、撤収時には鏡筒取り外し後にウェイトを外す「ウェイト後外し」を本能的に行っています。理由は単純で、ウェイトがない状態で鏡筒を取り付けると軸が回転して鏡筒がどこかに激突して悲しいことになるからです。
 私は、前述のように鏡筒取り付け/取り外し時にもクランプは締めません。とても鏡筒の重量をクランプだけで止める(=歯車の歯先だけで止める)気にはならないですし、据付時には余計な衝撃が加わりやすいからです。
 また、搭載時には必ずウェイト側を重めにして、鏡筒が重力で上がるようにしながら組むのが安全です。

・ネジは締めすぎない
 ついつい「しっかり締めたくなる」のが人情ですが、そこをグッとこらえて過剰締付の手前で止めるところに侘び寂びを感じます。締めネジをトルクが掛かりやすい長いレバーや大径のものに交換するのも、締めすぎを指先で感じる風流を身に着けてからが良いような気がします(交換には十分な吟味が必要かと思います)。
 ボルトの軸力というのは、100kgfなんて軽く超えて発生してしまうものです。そして多くの場合、ボルト自身は鋼でできていてけっこう丈夫なのですが、赤道儀などの本体側はアルミ鋳物だったりして強度は期待できません。本体ではなくボルト自体がネジ切れる場合もありますがこれは運がいい場合で、締め込みすぎて壊れるのは本体側の穴だったりすることも少なくないので、私はネジの締め過ぎに注意するのでありました。

※ 固定ネジの類は、もちろん締め方が緩すぎては本末転倒でむしろ危険です。「しっかりと、しかし締めすぎない」ことが肝要です。

■ 鏡筒
 主に、鏡筒は「縦置き」が鬼門です。悲しい事態を避けるためにも、よく気をつけたいところです。流派によっては縦置き自体を禁じているところもあるかもしれませんが、ゆるーい趣味派の私は縦置きしつつ細心の注意を払って最悪の事態を避けるように心がけています。
 また、使用後・保管時の湿気を避ける工夫にも、個人的には気をつけています。こうした注意によってか、私の15cm鏡は35年間カビを生やしたことがありませんし再メッキしたこともありませんが、現役です。

・チェーンが無いところに立てて置かない
 特に反射鏡筒はつい組み立ての時などに地面に立てて置きたくなるところですが、私は避けてます。倒れたりすると大変悲しいことになるからです。特に屋外では風も吹きますし、置いた地面も本当に平らかどうか怪しいものです。宅内で反射鏡筒を縦置きで保管するときも、必ずチェーンをかけて転倒しないように保管します。

・作業時は鏡筒や接眼筒を横に向ける
 光軸調整や各種部品の取付などは、絶対に鏡筒を立てて作業しないようにしています。工具や部品類が主鏡・対物レンズに落ちると大変悲しいことになるからです。面倒でやりにくくても、必ず鏡筒は横向き(できれば水平)にします。架台に取り付けて行う場合もあります。
 同様の理由で、ニュートン反射の接眼筒も、なるべく水平に近い位置にして作業します。接眼筒側から工具や部品を落としたときに斜鏡を直撃するのを避けるためです。

・蓋を開けての縦置き保管は避ける(反射)
 &レンズを下に向けての縦置き保管は避ける(屈折)
 こちらは当たり前ですが、特に宅内に多く舞っているホコリやカビの胞子が主鏡や対物レンズに堆積するのを避けるためです。縦置き状態、特に室内ではなるべく鏡筒の蓋を開けないに限ります。
 屈折鏡筒は対物側が太くなっているので、つい対物レンズを下にして縦置きしたくなるところです。しかし屈折の対物レンズは取り外してジャブジャブ洗うことができませんので、ホコリの堆積を避けるためにも、対物を下にしての縦置きは避けたいところです。(どうしてもという状況でも、接眼キャップを縦置き状態で脱着するのは心が咎めます(埃が落ちるから))。

・撤収は蓋を締めてから(特に反射鏡筒)
 鏡筒の撤収は必ず蓋を締めてから行い、温かい室内で温度順応するまで蓋を開けないようにしています。反射鏡筒の場合、たとえ内部が結露していたとしても、です。主鏡のシースルーも蓋をします。これは、鏡筒内部や鏡・レンズ面の乾燥を保つためです。 

室内に持ち込むのは、
接眼側のキャップも付けてから
 
 屋外で冷えた鏡筒内部の空気というのは、実は水分量が少なくなっています蓋を閉めた状態で温度を上げると、それだけで内部は乾燥するのです。
 逆に、暖かい室内の空気は水分量が多くなっています。冷えた筒を開放した状態で室内に持ち込むと、鏡や筒が除湿器として作用して、湿った室内の空気が流入して鏡筒内部は余計に湿るわけです。シースルーも塞ぐのは、このためです。
 屈折望遠鏡でも、接眼鏡をつけたままか、キャップをつけてから室内に持ち込むのが吉かと思います。なお、私は乾燥剤を仕込める接眼キャップA・B型シリカゲルの袋をそれぞれブレンドで詰めて使用しています。

 なお、屋外で鏡筒内部に結露を起こしてしまっているような場合は、一旦は蓋を閉めて室内に持ち込み、しばらくしてから蓋を開けて乾燥させています。室内で余計な結露をさせないためです。

※上記は室内より外気温が低いことを前提として書かれていますが、夏場の冷房の効いた部屋に戻る場合には部屋の中で蓋を締めたほうが良い場合があります。鏡筒の中の方が暖かい場合には、この温かい空気は湿気を含んでいますから、冷房の効いた室内に晒すとより乾燥できます。(2021.9.5追記)

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神経質になる必要は無いと思いますし違うやり方もあるかとも思いますが、せっかくの望遠鏡ですから大切に扱いたいとはみんなが願うところかと思うのでありました。

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コメント

shonencamera さんのコメント…
グループや仲間がいるケースではその流儀作法が受け継がれていくでしょうが、ずっと単独、最近始めた、というケースに属する場合には、現場であれ?と悩んだり、失敗をして途方に暮れたりしたことが「こうしたらよかったのか」と合点がいく指南書のような記事だと感じました。(失敗経験があるほうが膝を打つ回数が多い)

中でも「撤収は蓋を締めてから(特に反射鏡筒)」は秀逸でまたまた驚きでした。
先のムーブメントにもなった結露の常識ちゃぶ台返しの時、ヘボい三脚を根本構造から20cm反射を支える剛性に変えてしまったり、400円のアイピースで見る惑星模様などでも「なんとなくみんながそーしてるようだからそれが正しいと思っていたし疑わなかった...」ことをまたひとつそーじゃなかったのね...と教わった気がしました。感謝です。
Lambda さんの投稿…
shonencameraさん、コメントありがとうございます!

ご指摘のように、仲間が近くにいればいろいろ伝承されていく世界はあると思います。
近頃はネットの発達で、近くにいなくても近い(?)方々で情報を共有できるのは、本当に素晴らしい時代になったと思います。

世の中、「パッと見て思いついた原理」とは違ってることはけっこうあるんですね。

天動説もそうでしたし、落体の法則もそうでしたし、ニュートンの運動の法則もそうでした。

私は「失敗しながら学ばせてもらって」ます ^_^;; (苦笑