「色収差がひどくて観察には向かずファインダー向き」などという記述を見かけることがあるラムスデン式アイピースですが、ラムスデン狂のアイピース詩人としてはこの記述はイマイチ正しくないと指摘せざるを得ません。
ラムスデン式は高倍率での惑星の模様観察に比類なき威力を発揮するプラネタリー接眼鏡で、私の所有する4~6mm級の40本超の接眼鏡の中で上等なラムスデンに比肩できるのは TMB の Super Monocentricか、Pentax のXOくらいなものです。(なぜこんな数の接眼鏡を買ってしまったのかと言えば、それは¥250のラムスデンと比較するためでした。)
その一方で入門書は、この超絶性能な短焦点ラムスデンを「観察には使い物にならない」としながら「ファインダー向け」だと言うのですから、長焦点品に興味も湧こうというものです。私が星を見始めたハレー彗星の頃にはもう既に絶滅していたファインダー用中・長焦点ラムスデンですが、つい蒐集してしまいました。
そういうわけで、相変わらず誰も欲しない需要ゼロ情報の上塗りですが、今回は中・長焦点系の素のR (Ramsden) のレビューです。
※2021.9.26 長焦点のユニトロン R25mmを記事に加えました。
長焦点系ラムスデン(主にファインダー用です) |
入手したのは、五藤光学のR16mm、ビクセンのR.22mm、およびメーカー不詳(サークルA)のR20mmです。比較用に、ミザールのNR20mmやいくつかのアイピースも眺めながらのテストとしてみました。
※当記事の各アイピース評は、「ラムスデン大全」にも収録しました。
■ 長焦点ラムスデン総評
ファインダー用に適するとされるラムスデンの教科書どおりの使い方、というわけでその性能・性質は気になるところです。しかし結論だけを言ってしまうと、「ラムスデンはファインダー用としては不適切なんじゃないか」というのが正直な感想です。
何と言っても、長焦点(低倍率)では軸上収差の補正というラムスデンの特長がスポイルされ、苦手な軸外像を多く眺めて得意な中心像の良さは低倍率で分かりにくくなるからです。軸外像が苦手なために設定される狭い見掛視界(AFOV)は、ファインダー用としては失格だと思うわけです。
十字線が張りやすいとかいう古典的記述は、観察者が自分で十字線を張ることを前提としたものです。普通の製品だったらハイゲンスの視野環の位置に入れた方が十字線が切れなくて良いのではないかとすら思います(※十字線の見え味(笑)がラムスデンには劣りますが)。
また、ラムスデンでは十字線と視野レンズが接近しすぎていて意外と張りにくいのが実態ではなかったかと思われます。このためか、視野レンズと十字線が異様に離されている感がある長焦点系ラムスデンでは本来の性能をだいぶ損ねているようにも思われます。
そういうわけで、長焦点ラムスデンを積極的に使用する理由は乏しいというのが結論です。ハレー彗星の頃には絶滅していたということの理由がよくわかります。
今回試したラムスデンの中には素晴らしいものもありましたが、それでも低倍率の観察に求められるものを考えると、積極的にラムスデンが良いとする理由は見つけられませんでした。
■ ビクセン R.22mm
中心像:B、周辺像:C、視野:約30°
ビクセンの R.22mm |
十字線保守のしやすさやゴミの目立たなさを優先させたためか、レンズの焦点距離の割にはレンズ間隔が狭く、視野レンズと視野環の距離が大きく離されています。すなわち、本来のラムスデンからはだいぶ逸脱したファインダー仕様の設計であるようです。鏡胴の造りはやや雑で、内面も艶消し塗装になっていません。レンズはノンコートです。
星像は中心像においても軸上色収差が目立って甘く、広くもない視野の周辺では像も荒れます。20cm F5の対物で、球状星団M3の星が分解せず星雲状でした(谷光学K25mmでは分解しはじめる)。微光星もかき消されてしまっている印象です。ミザールのNR20mmと比較すると明らかに周辺像の荒れが大きく、像面湾曲も強めのようです。
また、視界のクリアさがあるかと言うとそうでもなく、視野環も青く滲んでボケており、ラムスデンの印象を悪くするのに十分な内容でした。これを見ると、ラムスデン式がファインダー用に適しているのかどうか、疑問が残るところでした。
■ アストロ光学 R 20mm
中心像:A-、周辺像:B+、視野:約25°
アストロ光学 R 20mm |
アストロ光学を示す "サークルA"刻印 |
なお、この製品のメーカーは不詳(※)ですが、「丸囲みのA(サークルA)」が刻印されています。売り主は「アサヒペンタックス製」を主張していましたが、真偽は不明です(所有する他の古いペンタックスのアイピースにはそのような刻印はない)。※青色つきこさんからのご指摘で、このサークルAはアストロ光学のものと判明しました(2021.9.26修正)。
覗いてみると、視野の狭さに驚きます。40°くらいのケルナーの半分とは言いませんが、それに迫る視野の狭さで、ファインダー用としては疑問が残ります。
星像は、中心はほどほどに鋭く結像し、倍率が高くない分だけ軸上色収差もさほどには目立ちません。周辺では色収差がやや見えてきますが、視野が狭いだけあって著しい崩れにはなりません。ミザールNRに似ている像質でした。
■ 五藤光学 R16mm
中心像:A、周辺像:A--、視野:約40°
五藤光学 R16mm |
視野環の位置はかなり視野レンズ寄りに設定されており、伝統的なラムスデンの配置になっているように見えます。鏡胴の造りは凝っていて、十字線の付いた視野環が適切な位置にねじ込まれています。レンズはノンコートです。
特筆すべきはアイレンズで、なんと側面が段付きに研削されてレンズ面が筐体とツライチになるように作られているのでした。おそらくこれはアイレリーフの短いラムスデンで覗き易さを追求した結果だろうと思われます。決して安物扱いせずに本気で作られた高級品であることが分かります(ガイド用アイピースだったのかもしれません)。私が購入したラムスデンの中でも別格の最高級品です。
アイレンズは段差付き |
驚きは見掛視界の広さ(といっても40°,苦笑)と周辺星像の良さで、倍率色収差は見られるものの大きな像の崩れもなく、ビクセンのK-20mmを凌ぐ収差補正になっていました。教科書に忠実なレンズ配置が効いているのだと思います。背景も黒く締まっており、「微光星がよく見える」クラシカルアイピースでした。
高級な絞り環,十字線,塗装 |
ラムスデンも真面目に作るとここまで素晴らしくなるものなのかと驚かされる出来映えです。なぜかハイゲンスびいきの五藤光学にあって、より新型のラムスデン式がこれだけ気合を入れて作られていたというのもなかなか感慨深いものがあります。私のビンテージコレクション入りです。
UNITRON R25mm |
見え方としては、V社のK20mmより中心も周辺も断然上で、谷光学やミザールのK25mmをも上回ります。このR25mmは像面の平坦性が優れているようで、このことによって視野周辺でもピントが合い、コマ収差も気にならなくなっているようです。谷光学Or25mmとの比較では、ぱっと見ではわからない収差がラムスデンには残存しているためか、微光星の検出や見え方ではこのOr25mmにはかないませんでした。しかし、総じてラムスデンとしては驚愕の性能と言えます。
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ラムスデン式アイピースは何故か不当な評価を一身に浴びてきたように思います。
その不幸の始まりは「低級アイピース=低倍率用」のような誤った信仰と「ファインダー用」というラムスデン式にとって不得手なところに投入されてしまったところにあったのかも知れません。
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