イーソス 21mm vs XWA 20mm

エコノミーアイピースとしては最高峰(?)の一つなんじゃないかとも思う「賞月観星のXWAシリーズ」ですが、そのXWAシリーズがめざしたという TeleVue の Ethos との直接比較の第二弾「イーソス 21mm vs XWA 20mm」を行ってみました。
 この二者は、これまでにも比較を試みながらも射出瞳が大きくなる20mm級のアイピースでは市街地の背景光が強く、自分の瞳径が観察中に変化してしまってまともな比較ができていませんでした。そこで今回は、この比較のためだけにわざわざ空の暗いところまで出かけて比較を行った、というものです(XRAYさん、ムナーホッターさんにもご協力&お立ち会いいただき、F8主鏡との組み合わせでの比較も行えました!)。

見掛視界100°の最大級2インチアイピース
TeleVue Ethos 21mm と 賞月観星 XWA 21mm (左端はパラコア2)
 

※イーソスと言うと「エコノミーの対極」にあるようなアイピースの一つですが、そのような製品との直接比較をすることで「エコノミー品」の位置づけも浮き彫りにできるのではないかという意識で比較しています。比較レポートはあくまでもアイピース詩人が詠うポエムですが、その背後で一定の活動が行われていることをご理解いただければと思います。

■「Ethos vs XWA」 対決のこれまでのあらすじ
 イーソスとXWAは、両者とも100°の見掛視界を持つ超広視野アイピースです。レンズ構成も似ていて、特に13mmは焦点距離も同じです。前回はこれら13mmを直接比較したのでした。
 13mm同士の Ethos vs XWA 比較では収差の出方まで「うり二つ」という結果で、丸コ○°ーなのではないかという疑いを抱かせるレベルでした。少なくとも私には、13mmについては XWA なのか Ethos なのか、もしもブラインドテストだったら区別できない自信があります。

 では 「20mm vs 21mmだったらどうなのか?」というのが今回お題です。

今回の20mm級は13mmの時と異なり、微妙にですが焦点距離も違います。単純な丸○ピーとは考えにくいところが興味をそそります。過去のXWA 20mmの単体評価では高い評価で、高価な Ethos 21mm は果たしてそれを超えてくるのか、同じなのかというのも気になるところです。

■ Ethos と XWA のラインナップ
 賞月観星XWAシリーズと、TeleVue Ethos シリーズはたいへん似ているようでいて、実はラインナップの中で焦点距離が一致しているのは 13mm だけです。それぞれ微妙な焦点距離差があるのが面白いところです。
 そこで、両者のラインナップを比較してみたのがこちらの表です。Ethos が短焦点110°のSXも含めて8種であるのに対して、賞月観星は6種類となっています。似たスペックながら、全般的に賞月観星の方が重量が軽くなっています。特に 20mmと21mmでは、XWAが705gであるのに対して Ethos は 1015g (1kg超え!) と、実に 310gもの差があり、Ethosはズッシリと重たい筐体になっています。
 この他、TeleVueのEthosの見口にはネジが切ってあり、乱視を矯正する DIOPTRX に対応している点が差異となっています。

表. TeleVue Ethos と賞月観星XWA のラインナップ
この表を見ると、賞月観星XWAシリーズがエコノミーだと思えてきます。

 そしてなによりの注目は価格です。XWAとEthosの最大の違いは価格なのです。2023年4月時点(1$約134円,消費税率10%)では、TeleVue Ethosと賞月観星XWAの価格比は実に 4.4倍以上となっていて、21mmと20mm では実に6倍、14万円もの価格差(!!)になっています。

 賞月観星XWAも2万円以上する高価なアイピースとはいえ、スペックが近いEthosが二桁万円超えという状況と比較してしまうと、XWAはエコノミーアイピースと言うことができます。

■ 注目の評価結果
 今回の評価では、主に収差・星像を中心とした評価を行いました。そこそこの暗さの空で評価を行うことで、観察中の瞳孔径変化が起こらない状況でテストを行い、結論に辿り着きました。

 前置きしておきますが、下記で述べる結論はかなり詳細に見たときに気付くことであって、普通に眺める分には気にならないことが殆どかと思います。

 そして結論は下記の通りです。
 1) イーソス 21mm と XWA 20mmには明確な違いがある
  (焦点距離の違いだけではない)
 2) 中心付近の像の質やシャープさ、星の色の見え方は両者ともに甲乙つけがたい。
 3) 周辺近く(80%以上)では XWA にはF5ニュートン主鏡のコマ収差とは別に非点収差が見られる。
  (扇状でなく線状に広がる成分が強く見える)
 4) パラコアとの組み合わせでも XWAの最周辺では若干の非点収差が残る
 5) XWA 20mmには若干の像面湾曲が残る。
  (0.1mm程度、中心と周辺でピント位置が変わる)
 6) XWA, Ethosの双方ともに最周辺にはごくごく僅かな色収差が残るが、XWAの方が多く感じる(像面湾曲のせいかもしれない)。
 7) F8 ニュートン主鏡では、両者ともに全面ピンポイントの星像となり、差を論じるのは極めて困難。


 上記の結論は、必ずしもXWAが必ずしも悪い製品であることを示すものではありません。立ち会っていただいた方々の評価は、「指摘されると確かに違うことが分かるが、言われなければ気付かない」というものでした。

当日集結したアイピースより
 
 個人的には、EthosとXWAの6倍もの価格差を埋めるほどの性能差はないという感想です。たしかに13mmの時とは違って、Ethosに軍配が上がる結果ではありますが、この違いに価値を見出すかどうかは評価の分かれるところと思います。

 なお、評価は微光星の多い散開星団M38で行いました。中心付近の像の良し悪しは暗い微光星の見え方ややや明るい微光星の色の見え方で評価し、収差は比較的明るい星を周辺に置いた時の形やピント位置の確認を行って評価するとともに、この星を視野内の中心から端まで動かして収差の形を観察しました。なお、視野周辺の星像は、眼球をそちらの方に向けて評価しています(でないと見えないので)。

■ 星像や収差に関する考察
 大きな違いは像面湾曲に集約されるのではないかと感じました。テレビューがめざしている像面の形と、XWAがめざしたそれとで差があるのではないかと思われます。
 XWA 20mmは、コマコレクターとフラットナー機能を併せ持つパラコアを使用してもなお中心にピントを合わせると周辺がややピントを外します。パラコアによってコマは補正されますが、アイピースの像面湾曲のために外側の方はピントがずれる結果となり、結果として放射状に見える非点収差が観察されるようになるのではないかと思われます。

 このため、XWA 20mm はFの小さい反射望遠鏡に使用した場合には最周辺像にやや崩れを感じることになります(※普通に考えると全く許容範囲です)。このことはコマコレを使うことで軽減されますが、皆無にはできないと思われます。

 この像の崩れは、Fの大きい主鏡では改善されます。F8であろうとも主鏡のFに依らずアイピースの像面湾曲自体はあるわけですが、ピントの光軸方向のズレ量が同じでも、F値が大きいと像としてのピントのズレは大幅に小さくすみます。このため、F8の主鏡ではXWAもEthosも「全面ピンポイント」となり、差が分からなくなったものと思われます。
 したがってXWAについても、Fが大きいニュートン反射はもちろん、Fが大きめ(F>6)でコマ収差も無い屈折望遠鏡で不満を感じることはおそらく無いだろうと思われます。

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 繰り返しになりますが、XWA 20mmが良くないアイピースと言うわけでは全くありません。細かい点についてアラ探しをすると Ethos 21mm との間で差が見られたという結果にすぎません。
 ハッキリ言って、普通の天体観望をする上では論じる意味があるかどうか微妙な差でもあり、アイピース詩人的にはその違いを味わいとして楽しむ領域ですが、普通に眺める分には「いかで気にせむ」ように思えた一晩だったのでした。

番外:当日は、持参した顕微鏡用Zeiss A16x や、ダウエルK30mm / HM40mmなども楽しみましたが、こちらについてはまた後日くわしく調べたいです。

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