超広視界アイピース「Ethos」 と 「XWA」13mmの同一焦点距離直接見比べをやってみました。テレビュー社の Ethosシリーズとスペックが良く似た賞月観星やSolomonのXWAは、価格がEthosの1/4程度とフレンドリーなのが特長ですが、過去にもレビューした通り性能は全く侮れません。(※ご参考: XWA 20mmのレビュー記事)
ニュートン反射との相性が抜群に良いテレビューのアイピースに対して、過去には賞月観星UWAとNaglerで比較しましたが、このときは Nagler有利という結論でした。
今回は、見かけ視界100°のXWAはどうなのか?コマコレ+XWAはすごい性能を出せるのか?という視点でもテストしてみました。
13mmについての結論は、「ウリふたつ」です。詳細は下記ポエムを御覧ください。
※100°シリーズは焦点距離によって収差の見え方が変わり、同一焦点距離でないと比較は難しいと感じています。
※この記事から1年後、XWA 20mm と Ethos 21mm の比較も行いました。ご興味のある方は御覧ください。
ランニングマン星雲 ※アイピーステストとは無関係に、正月に撮影したものです 2022.1.4撮影, 20cm/F5 Newt., Coma-corr, L-eNhance, 250x30s |
Nagler type5とtype6 (ニュートン反射用アイピース として超えるべき壁は高いです) |
Widescan 13mm:周辺は像面湾曲と非点収差でかなり厳しい。
Hyperion 13mm:68°の最周辺で非点収差出る。像面湾曲も残る。
APM HI-FW12.5mm: 視野広いが最周辺は同上。
UWA 16mm:周辺まで自然な収差補正だが像面湾曲残る。
Mopheous 12.5mm:中心鋭く自然な収差補正だが像面湾曲残る(多分屈折に合う)。
Nagler type6/5 13/16mm:像面湾曲補正が素晴らしく、最周辺まで良像。
「ナグラーtype6 の見え方をめざした」と標榜する賞月観星UWAは、私のテストした範囲ではNaglerに及ばぬ結果だったのでした。
UWAは4mmも所有しており、UWA 4mmの中心像は Mopheousと並んで素晴らしいのですが、像面湾曲補正の傾向はUWA 16mmと全く同じで最周辺でのピントズレが見えます(ズレ量は大きくないが、倍率が高いので見える)。UWAは本質的にNaglerとは異なるようです。
比較に用いた XWA と Ethos (中央は Nagler type6) |
※正直に言うと、「XWAもEthosには及ばないだろう」という先入観を持ってテストに臨みました。
これまでにもイーソスとXWAはそれぞれ所有していながら同一焦点距離のものがなく比較記事にできておりませんでしたが、今回は13mmのイーソスとXWAを揃えて比較してみました。
ちなみに、XWAは Solomon ブランドのものと賞月観星ブランドのものがありますが、いずれも SkyRover (United Optics社)のOEMで、製品自体は同一です (業界人との会話から)。
Ethos: 6mm、13mm
XWA: 13mm(Solomon)、20mm(賞月観星)
重量は実測で Ethos 6mmが 438g、Ethos 13mmが 585gで、XWA 13mmが508g、XWA 20mmが 705gでした。13mmで比較すると、XWAの方がやや軽いようです。
ちなみに 6mm/13mm は 1.25インチと2インチの両対応、20mmが2インチ専用です。
また、コマコレクターによって到達する最終形態(?)で XWA が Ethosと張り合えるのかどうかという興味から、パラコア2を使ってのテストも並行して実施しました。使った鏡筒は 20cm F5のニュートンです。(※このため、屈折望遠鏡やフラットナー入りの望遠鏡では結果が変わることはあります)
コマコレクター: TeleVue Paracorr 2 (なし/あり)
テスト鏡筒: Kenko SE200N (20cm/F5 ニュートン反射)
テストはシリウスおよびカペラによる星像・ピント位置テストと、M38、M44、M41散開星団による視野全体の確認によって行いました。この手の中倍率超広視界アイピースで眺める散開星団は本当に美しいです。
※テストは2日間に分けて行い、トータル4時間くらい覗いていたと思います。月明かりがあり、バックグラウンドの黒さは十分に比較できていません。
■ テストの結果
冒頭にも書いたとおり、「ウリふたつ」という結果でした。これまで、ニュートン反射との組み合わせではTeleVueのNagler/Ethosを超えるものは無いと思っていましたが、13mmの比較ではEthosとXWAの像に明確な差を見出すことができませんでした。
「丸コ〇゜ーなんじゃないのかコレは」とすら思えてしまう像の似かより方です。ブラインドで(?)比べたら、どちらがイーソスなのかXWAなのか言い当てる自信はありません。XWAの「イーソスの見え方をめざした」という目標は、この13mmについては完全に達成されていると思います。
2時間以上かけてあれこれ比べてみても、表現・記録の難しい程度のごく微妙な違いしかなく、それがアイピースの違いなのか、差込口のごく微妙な光軸ズレなのかを見分けられませんでした。なお、XWAのほうが合焦位置が内側です。
まずは、F5ニュートンでコマコレなしのテストです。
中心像はいずれもシャープで、13mm 77倍ではエアリーディスク付近の回折環を確認するのは私の眼の性能ギリギリですが、これを確認できます。南中頃のシリウスでは外側の回折環が大気分散で色ズレを起こす量まで良く確認できます。
視野の75%程度までは両者ともほぼ点に近い良像を結び、この範囲では南中のシリウスの大気分散を超えるような色収差があるようには見えません。天頂付近にいたカペラを見ると視野75%周辺でやや色収差が見えますが、Ethos/XWAの差は分かりません(ピントをずらしていくと色収差の様子は変わるので、アイピースによる差なのかどうかが分からない)。最周辺では像面湾曲によるボケの影響が大きく、色収差は議論できません。
像面湾曲は、Ethos/XWA共に認められ、視野の80%以上の外側で顕著です。このため、最周辺像はイーソスもXWAも点像にはなりません。13mmでの湾曲の程度(ピント調整量)はイーソス6mmよりは明らかに大きく、XWA 20mmよりは小さいものとなっており、焦点距離(または実視野)の影響が大きいことが窺えます。長い焦点距離のものは不利です。
最周辺での像の崩れは、芯の部分が像面湾曲によってピントがずれ、その周囲に主鏡のコマ収差が見えるような像となります。この像の崩れた形状や程度も、EthosとXWAでウリふたつでした。非点収差は両者ともに見えません。ピントがズレた最周辺像には焦点内像に見える干渉環が見えており、この様子も全く同じでした。
以上のように、コマコレ無しのF5ニュートンでは、XWAとEthos 13mmの有意な差は見つけられませんでした。
(※両者の焦点位置などは異なっており、完全同一製品ではありません。コーティングにも違いは見られますが、私にその差を論じるだけの眼力がありませんでした。また、DIOPTRXへの対応という観点でも差があるかもしれません。XWAの見口の外径もEthosと同径でしたが、軸方方向の形状は異なっています。)
パラコア2+イーソス |
■ パラコアとの相性はどうか?
パラコア2はなかなか優れたコマコレクターで、主鏡焦点距離が1.15倍ほどになるごく弱いバーローのような役割を果たします。このため、ピントが出にくいような場面がほとんどのケースで解消され、収差もバッチリ補正できるという神ツールです(特に眼視用としては)。バックフォーカス補正機構もあり、テレビューのアイピースに対しては補正量がマニュアルに記載されています。
まず、Ethosとパラコア2との組み合わせですが、これは6mm / 13mmともに100°の視野全面ほぼピンポイントと言ってよい素晴らしい像となります。13mmで見られた像面湾曲がバッチリ補正され、周辺まで合焦します。明るい恒星で最周辺を観察するとわずかな崩れを生じ、この最周辺で微細な観測をしようという気にはなりませんが、恒星が星雲状に広がって見えたりすることは断じてありません。さすがにマニュアルにあるバックフォーカス調整量を守ると、大変すばらしい視界になります。この組み合わせで眺める散開星団は絶品で、微光星では収差もほぼ分からないレベルになります。
XWA13mm+パラコア2はどうかというと、こちらも同様の全面ピンポイント状態となりました。パラコア2の調整量は自前となりますが、Ethos13mmと同じ調整量で十分でした(焦点面位置が違うので、厳密には違うのかもしれない)。いずれにせよ、100°の視野最周辺での像面湾曲・コマ収差・非点収差が良く補正された気持ちの良い視界を得られました。本当にイーソスと瓜ふたつと感じられます。
XWA20mmにパラコア2を使用した場合には、やや様子が異なります。像面湾曲がだいぶ補正され、100°の視野全面に合焦するようになり、最周辺での荒れが抑えられ、相当に良像範囲が広がります。ただし最周辺では非点収差が現れ、XWA13mmで得られたほどのピンポイントとはなりません。パラコア2のバックフォーカスを調整してもこの傾向は残ります。
もちろん、普通に使用していて著しく気になるようなレベルではありません。100°もある見掛視界、2°近い実視野の周辺まで、ほぼ点像が広がる素晴らしい視界が得られます。非点収差は「視野の端っこでやや星が縦/横に伸びてるように見える」というレベルで、星がぼやけたり星雲状に見えたりしてしまうわけではありません。
この非点収差については、Ethos21mmとの組み合わせだとどうなのかは気になってしまうところではあります
[参考(余談)] イーソスの歪曲収差について
時折、Ethosについての評価で「糸巻型の歪曲収差」が挙げられることがあります。しかしこれは設計思想によってワザとこうなっているのであって、収差補正が不十分なために起きているのではありません。
歪曲収差には「直線歪曲」と「角倍率歪曲」の2種類があり、同時補正は理論的にできません。感覚的には世界地図のメルカトル図法とモルワイデ図法のようなもので、両立はできず、どちらが正解というわけでもありません。
直線歪曲補正は直線の格子が直線に見えるような補正です。しかし、この補正はメルカトル図法のようなもので、視野内の中心と周辺で縦横の大きさ(倍率)が変わって見えるのが欠点です。直線歪曲補正を行うと、惑星などは周辺で形が歪んで見えます。
角倍率歪曲の補正は、視野の中心と周辺とで倍率が一定になるように補正したもので、視野の中心と周辺とで惑星などのアスペクト比(つまり形状)が変わらないのが特長です。モルワイデ図法のように格子が直線には見えなくなります。Ethosはこの角倍率補正がほぼ完璧です。このため、視野全体としては「糸巻き型」に歪曲しているように見えて当然の設計となっています。
どちらの補正がよいかは、目的や好みによると思います。
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そういうわけで、少なくとも13mmに関して言えば、積極的にイーソスが良いとする理由はありません。XWA 13mmは満足の行く逸品と思いますし、Ethos/Naglerと比較して像が悪いということもありません。
XWA がエコノミーかと言われれば微妙なところですが、イーソス13mmの税込10.2万円超という価格(2022年時点)を考えると、XWA 13mmの税込2.49万円は破格と言えましょう。
※他の焦点距離がどうなのかは不明です。
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