超広角アイピースは、1985年のNagler以降様々なものが市場に出てきました。それぞれ特色がありそうなので興味は湧くのですが、中倍率についてはNagler type6 13mmの出来が良くて不満もなく、高倍率については4mm前後のアイピースが惑星用に増えすぎてしまって、なかなか購入しようという動機に繋がっていませんでした。
■ Baader MOPHEOUS(モーフィアス) 12.5mm
[fl=12.5mm, AFOV=76°, 実視野能=950, 1.25", 317g]
像:中心A++, 50%視野A, 80%視野A-, 100%視野B+,
像面湾曲:A--, 迷光: A+
5群8枚の全面ファントムコーティングを施し、AFOV 76°という広い見掛視界を確保した「モーフィアス」は、見掛視界だけでなく中心像の良さが際立つ結果となりました。
今回、改めて最近の13mm級広角アイピースと比較すると、このワイドスキャンの周辺像の荒れは目立ちます。非点収差も像面湾曲も目立つのですが、完全に破綻しきってしまわないところがこのアイピースのチャームポイントでもあります。
※前回の評価記事をご参照ください。
モーフィアス4.5mmは、12.5mmと同様に視野中心の高いシャープネスや視野周辺までの収差の自然さが印象的なアイピースです。随所に使い勝手の工夫が凝らされている点は12.5mmのモーフィアスと同様で、4.5mmは全長が若干長くなっています。アイレリーフは17.5mmと大きい値を確保しています。
恒星向けにはシリウスB相手に強みを発揮した Radian 4mmで、惑星観察も含めて大変高い性能を有しているアイピースです。参考としてですが改めて横並びで評価して、上記のような評点をつけました。
しかしながら、国際光器のレンタルサービスを利用していくつかのアイピースについて試す機会がありましたので、アイピース詩人としてレポートを吟じてみたいと思います。
今回は、恒星やDSO観望を念頭に置いた評価です。「星雲星団には低倍率」という教義とは裏腹に「中~高倍率が星雲星団に効く」というわけで、この4mmや13mm級の広角アイピースは星雲星団向けに使いやすいことを念頭に置いてのものです(対物の焦点距離などにもよりますが)。
13mm級の対象は HYPERION 13mm、MOPHEUS12.5mm、APM HI-FW12.5mmと、参考としてNagler type6 13mm / 賞月観星 UWA16mm / WIDESCAN 13mmを取り上げました。
4mm級の対象としては、賞月観星 UWA4mm、MOPHEUS4.5mmと、参考として Radian 4mmを取り上げています。
結論としては、短焦点反射との相性ではなぜかコマ収差まで補正されてしまうNagler/RadianのTeleVue勢の強さが引き立つ結果にも見えますが、こうして比較してみるとそれぞれに特色があって試してみる価値はあったと認識したのでした。
多くのアイピースを国際光器のレンタルサービスで試すことができました (このほかに MORPHEUS4.5mmを借用しました。 Nagler, XWAは自前のものです。) |
※下記は、あくまでもアイピース詩人が吟じるポエムです。20cm/F5ニュートン反射を用いて同日にM42、M38などを眺めながらの感想に基づいて吟じられたものですが、他の方が同じ感想を持つかどうかは定かではありません。
評価はDSO観望を念頭に置いたものです。歪曲収差は今回の評価対象から除いていますので、ご留意ください。また、特に4mm級については、惑星表面の見え方などは評価基準が異なりますので注意が必要です。
表示している重量は詩づくりの参考として実測値を用いています。カタログ値と違う場合があるようです。
なお、「実視野能」は実視界の大小を比較するための指標として記載しています。この数値を対物焦点距離で割ると、実視野の値(単位: °)になります。
---- 中倍率13mm級広角アイピース:
■ APM HI-FW 12.5mm
[fl=12.5mm, AFOV=84°, 実視野能=1050, 1.25", 重量556g]
像:中心A, 50%視野A-, 80%視野A--, 100%視野B,
像面湾曲:B++, 迷光: A+
9枚構成、12.5mmの焦点距離で見掛視界84°、「Hi-Flat Wide」を謳う堂々のスペックのAPM HI-FW12.5mmは、重量も556gと堂々とした体格です。スペック的に対抗馬となる Nagler 13mmと比較すると、実に3倍もの重量感となります。金属肌が現れたバレル周りなど、高級感のあるデザインとなっています。
---- 中倍率13mm級広角アイピース:
■ APM HI-FW 12.5mm
[fl=12.5mm, AFOV=84°, 実視野能=1050, 1.25", 重量556g]
像:中心A, 50%視野A-, 80%視野A--, 100%視野B,
像面湾曲:B++, 迷光: A+
APM HI-FW 12.5mm 84° |
9枚構成、12.5mmの焦点距離で見掛視界84°、「Hi-Flat Wide」を謳う堂々のスペックのAPM HI-FW12.5mmは、重量も556gと堂々とした体格です。スペック的に対抗馬となる Nagler 13mmと比較すると、実に3倍もの重量感となります。金属肌が現れたバレル周りなど、高級感のあるデザインとなっています。
覗いてみると、84°を見渡すには若干だけアイポイントの位置にシビアな感もありますが、覗きやすい位置にあるゴム見口のおかげで難はありません。丁寧な迷光処理のおかげか、バックグラウンドはよく締まっています。
中心像はもちろん十分シャープで70%程度の視野まで使えますが、像面湾曲は Naglerと比較して大きめで、視野外周では荒れてきます。最外周では像面湾曲に加えて非点収差が見られ星が線状に伸びて見えましたが、これはニュートン反射のコマ収差との重畳もあると思われます(それでもWIDESCANと比較すると数段良い)。短焦点ニュートン反射でも最周辺で点に近い像を結ぶ Naglerとの違いはこのあたりにあり、アポ屈折などではまた違った評価となるかもしれません。
■ Baarder HYPERION(ハイペリオン) 13mm
[fl=13mm, AFOV=68°, 実視野能=884, 1.25", 373g]
像:中心A, 50%視野A, 80%視野A--, 100%視野B,
像面湾曲:B++, 迷光: A
5群8枚で20mmのアイレリーフを誇るハイペリオン13mmは、見掛視界は68°とほかの「超広角」と比べると控えめです。とはいえ覗いてみると、「十分広角」を感じさせる視野となっています。迷光処理は十分なされていて特段気になるところはありません。
[fl=13mm, AFOV=68°, 実視野能=884, 1.25", 373g]
像:中心A, 50%視野A, 80%視野A--, 100%視野B,
像面湾曲:B++, 迷光: A
HYPERION 13mm 68° |
中心像は十二分にシャープで、視野が若干制限されていることもあり、視野の半分くらいまでは良像を保っています。視野の80%より外周ではやや急激に像が崩れ始め、APM HI-FWと大変似た非点収差が現れます。不思議なことですが、ハイペリオン68°の最外周と、APM HI-FW 84°の最外周の非点収差の具合は殆ど同じでした。この非点収差は、WIDESCANと比較すると小さく、不快度は小さくなっています。
こちらも、Fが大きめの鏡筒やニュートン反射のようなコマ収差がない光学系では、非点収差の程度が抑えられることは期待できます。
■ Baader MOPHEOUS(モーフィアス) 12.5mm
[fl=12.5mm, AFOV=76°, 実視野能=950, 1.25", 317g]
像:中心A++, 50%視野A, 80%視野A-, 100%視野B+,
像面湾曲:A--, 迷光: A+
MOPHEUS 12.5mm 76° |
このモーフィアス 13mmの317gという体躯は1.25インチアイピースとしてはなかなか立派ですが、HYPERIONやAPM HI-FWと比較すると軽めの仕様となっています。また、独自の脱落防止溝や防滴仕様、アイカップ部へのカメラ取り付けネジなど、随所に使い勝手を向上させる工夫が施された構造となっています。アイレリーフも20mmが取られていて、覗きやすくなっています。
このモーフィアスの特長を一言で述べよ、と言われたら、それは「中心像の収差補正の良さによる微光星の検出能力と自然な周辺像補正」と答えたいと思います。
中心付近の像は特にシャープネスが良く、かすかな微光星がよく見える印象で、場合によっては Nagler 13mmを上回るのではないかと思われました。具体的には、トラペジウムE,F星がこの中倍率でも比較的楽に検出できたということです。この日は Nagler 13mmやUWA 16mmでもE,F星は見えたのですが、最も安定してよく見えていたのはこのモーフィアスで、中心像にA++をつけました。軸上色収差も、高い次元で補正されているように感じました(逆に、星の色が白っぽく見える印象でした)。
周辺像では像面湾曲の補正が Naglerほどではなく、中心と周辺でややピント位置がズレます。またNaglerの魔法のようなコマ収差補正はありません。しかし、非点収差や倍率色収差が現れることもなく、ニュートン反射のコマが自然に見えたことから、対物鏡が結像する情報を余すところなく観察者に伝えるアイピースと言えるのではないかと思います。
よく収差が補正された対物レンズに用いるような場合には、Naglerと総合評価が逆転するのかもしれず、相性を試してみる価値は大いにありそうです。
(参考)■ ユニトロン WIDESCAN 13mm
[fl=13mm, AFOV=84°, 実視野能=1092, 1.25", type I 141g /III 123g]
像:中心A, 50%視野A-, 80%視野B, 100%視野B-,
像面湾曲:B+, 迷光: A-
像:中心A, 50%視野A-, 80%視野B, 100%視野B-,
像面湾曲:B+, 迷光: A-
※前回の短評をご参照ください。
WIDESCAN 13mm 84° (TYPE III / I) |
そして改めて、すごい軽さです。この手軽さが、このアイピースを手放し難くしている所以です。
(参考)■ TeleVue Nagler type6 13mm
[f=13mm, AFOV=82°, 実視野能=1066, 1.25", 182g]
182gの重量も、並み居る巨漢アイピースと比較すると大変にコンパクトな部類で、価値あるアイピースだと改めて認識させられました。
一方で、今回の比較で改めて視野周辺の像を確認すると、ごくわずかに色収差が認められました。これは視野の中盤から意識するとわかるレベルのものですが、星像が肥大するような性質のものではありません。
(参考)■ 賞月観星 UWA 16mm
[fl=16mm, AFOV=82°, 実視野能=1312, 1.25", 167g]
像:中心A+, 50%視野A, 80%視野A-, 100%視野B+
像面湾曲:A--, 迷光: A
賞月観星UWA 16mm 82° |
前回の評価では「ナグラーとイコールではない」と評価したものですが、依然としてエコノミーアイピース番付では大関級のパフォーマンスが確認できます。改めて他の超広角アイピースと比較してみて、UWAの優秀さがわかりました。
モーフィアスといい勝負になっているという印象で、ニュートン反射での周辺像の肥大の仕方はこちらのUWAの方がやや抑えられ気味である一方で、UWAでは周辺でわずかに倍率色収差を感じられるというところでした。
---- 高倍率4mm級広角アイピース:
■ Baader MOPHEOUS 4.5mm
[fl=4.5mm, AFOV=76°, 実視野能342, 1.25", 358g]
像:中心A++, 50%視野A, 80%視野A, 100%視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: A
MOPHEUS 4.5mm 76° |
肝心の星像ですが、12.5mmと同様に中心のシャープネスは大変高く、評価日のシーイングではトラペジウムE,F星を難なく捉えることができました。また、シリウスBも確認でき、高倍率アイピースとして十分な解像度や良い迷光処理性能を持っていることが分かります。微光星はUWAやRadianと比較して像が締まって見え、トラペジウムの四つ星にも干渉環が確認できましたが、トラペジウムEF星やシリウスBの視認性はUWAにやや譲る印象です。なぜそうなるのかは観察した限りでは分かりませんでした。
視野周辺に目をやると、主鏡によるものも含めた像面湾曲や主鏡のコマ収差がよく観察され、やはり忠実に対物鏡の結像を見せてくれている素直な印象です。広い見掛視野でも、見渡してみて大きな不満はありません。
短焦点ニュートンのコマ収差や像面湾曲を抑え込んでいるイメージの TeleVueや賞月観星UWAと比較すると、モーフィアスはアイピース単体でのフラット・収差補正を目指した印象があると感じられました。鏡筒との相性は要確認です。
■ 賞月観星 UWA 4mm
[fl=4mm, AFOV=82°, 実視野能328, 1.25", 164g]
像:中心A++(+), 50%視野A, 80%視野A, 100%視野A-
像面湾曲:A-, 迷光: A
本当はファインダー用高倍率アイピースとして調達したのですが、相当な実力者でした。特に視野中心での星像の良さは特筆モノで、ごくごく僅差とはいえトラペジウム四星の干渉環やエアリーディスク内の光の強度分布が最もよく見えたのはこのアイピースだと感じられました。当然トラペジウムEF星やシリウスBもモーフィアスやRadianと同等かそれ以上にしっかりと確認でき、性能の高さが確認できました。中心星像には"+"をもう一つ加えようかどうしようか、というレベルです。微光星が美しく見えます。
像面湾曲や収差補正の傾向はUWA16mmと大変似ており、視野周辺では若干星像が肥大しますが「周辺像が破綻」というレベルにはなりません。目のピント調整能力が強い若い方であれば、星像肥大に気づかないかもしれません。
星像肥大の様子はモーフィアスとは異なっており、コマ収差が若干抑え込まれる方向に補正がかかる印象で、対物鏡との相性があるかもしれません。
価格も高くはないので、UWA 16mmとともにやはりエコノミーアイピースの大関に据えて良い高コスパアイピースだと言えそうです。
像面湾曲や収差補正の傾向はUWA16mmと大変似ており、視野周辺では若干星像が肥大しますが「周辺像が破綻」というレベルにはなりません。目のピント調整能力が強い若い方であれば、星像肥大に気づかないかもしれません。
星像肥大の様子はモーフィアスとは異なっており、コマ収差が若干抑え込まれる方向に補正がかかる印象で、対物鏡との相性があるかもしれません。
価格も高くはないので、UWA 16mmとともにやはりエコノミーアイピースの大関に据えて良い高コスパアイピースだと言えそうです。
(参考) ■ TeleVue Radian 4mm
[fl=4mm, AFOV=60°, 実視野能240, 1.25", 340g]
像:中心A++, 50%視野A+, 80%視野A+, 100%視野A
像面湾曲:A+, 迷光: A
Radian 4mm 60° |
視野は驚異的にフラットで、視野全面でよくピントが合います。これはNagler 13mmとよく似ています。視野が狭いこともあって、Naglerで見えた色収差も殆ど見えません。
微光星の見え方も申し分なく、トラペジウムEF星やシリウスBも「よく見える」と感じさせてくれます。(※昨年よりも対策を施した鏡筒により、シリウスBの分離が楽になっている状態での評価です)
大変カッチリした像を結び、微光星は「美しく」感じる姿に見えるのが不思議なアイピースです。倍率が上がると微光星も点ではなくエアリーディスクが面積体に見えてきて、トラペジウムの星々の干渉環の様子まで観察できて感動的ですらあります。
惜しむらくは見掛視界がやや狭いところで、春の銀河の観察などではもう少し広い視界が欲しくなるところです。
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以上のような中・高倍率アイピースは、冒頭でも述べたとおり「星雲星団用」として観望のお供として役立つ範囲が広いものです。そして4mm級も、惑星を観察するための高倍率アイピースとは違った観点で選んでみるのもいいなあ、と改めて思ったのでした。
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以上のような中・高倍率アイピースは、冒頭でも述べたとおり「星雲星団用」として観望のお供として役立つ範囲が広いものです。そして4mm級も、惑星を観察するための高倍率アイピースとは違った観点で選んでみるのもいいなあ、と改めて思ったのでした。
本当は、このクラスには Nikon の NAV-SWシリーズや、Pentax の XW シリーズなどもあって興味の湧くところなのですが、そこはまたいつか機会があれば、とも思います。
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