この令和7年には早速、大増光した「輝く彗星」を拝むことができました。近日点通過直後の彗星ということでかなり明るい夕焼けの低空でしたが、マイナス等級を大きく超えて増光した C/2024 G3 アトラス彗星は、雲の隙間を抜けて双眼鏡の視野の中でついぞ見たことのない「輝き」を放っていたのでした(写真より遥かに輝いていました!)。
今回は「ほぼ曇天」の中の奇跡的な観望となりましたが、その超低空の彗星捜索に向けた観測地選定についてもいくつか「気づき」がありましたので、書き残しておきたいと思います。
暗くなりゆく雲を抜けて現れた「一番星」のように光を放つ C/2024 G3 アトラス彗星 data: 2025.1.15 17:13JST, FUJINON 16x70FMT スマホコリメート(トリミング) |
■ 雲の隙間に現れた「輝く」彗星
当日、1月15日(水曜日)は午前中は大変天気もよく、夜まで晴れる予報だったので、午後は仕事を休みにしてマイナス2等だとも3等だともいう彗星の見物にでかけることにしたのでした。
機材は双眼鏡2台のみで、カートンの7x42(瞳径6.0mm) および フジノンの16x70(瞳径4.4mm) です。昨年の紫金山-アトラス彗星の観望には 7倍の視野がちょうど良かったのですが、今回は検出の難易度が高そうに思えたので、結局現地判断で、瞳径が小さく倍率も高い16倍の検出力に賭けることにしました。
暗く変化していく雲の様子 (遠くの雲はまだ白い) |
日没時のアトラス彗星の高度は5°ほどで、このあたりは完全に雲が覆い尽くしています。また、太陽が丘や木などの近くの遮蔽物に隠れても、地平下に行かない限り背景は暗くなっていきませんから、これを待つ必要があります。
雲を観察していると、日没前後には「白く」照らされていた雲が、時間の経過と共に地平の影に入り、暗くなっていきます。彗星は背景よりは必ず明るいはずですが、差分を検出できるかどうかは彗星の明るさと機材と自分の眼次第、ということになります。
ふつう、彗星は恒星や惑星よりも集光が弱いために等級の数値よりも検出が難しく、「ボヤっと淡い」「背景よりもちょっとだけ明るい」存在を探すものです。そういう目で探していました。
沈みゆくアトラス彗星 (2025.1.15) |
光度は目測で-3等級といったところでしょうか。高度にして僅か1.5°弱の晴れ間から拝むことができました。
この日金星並みのマイナス等級にまで増光していたアトラス彗星は、明るい夕焼けの超低空の中で「尾まで輝いて」見えたのでした。これまで見たことのない「bright」というよりは「brilliant」な彗星の輝きに、感動しました。
ちなみに、肉眼でも捜索したのですが、残念ながら私の眼では検出できませんでした。
双眼鏡の視野に奇跡的に見つけられた、曇天の中の彗星 (2025.1.15,中央の画像が双眼鏡の視野) |
■ 低空の観察と障害物と観測地
超低空の観察で感じた気づきの一つは、観測地の選定です。5°を下回るような低空の観察では、僅かな丘や木も邪魔になるということです。実は今回の観察は昨11月の紫金山-アトラスの時と同じ観測地に出向いたのですが、西空が開けているとは言っても実際には微妙に凹凸があり、太陽の沈む位置や彗星の現れる位置も季節によってかなり変わるわけです。
1月は昨11月に比べればだいぶ太陽は西に沈むわけで、前回余裕と思っていた左側の丘が邪魔になるかどうかのギリギリラインでした(場所を変えようかとすら考えたくらい)。Google map などで日没位置(方位)がどうなるかということや、彗星との位置関係をよく確認しておくことが肝要です。
障害物の視角度と距離 (Hは観測点基準の障害物の高さ) |
低空の観測地選びで重要なのは、丘や建物や木などの障害物の高さと、距離です。もちろん、マンションなどで自分の位置が高ければ気にすることも少ないのですが、私のような地ベタリアン観望者の場合にはそうはいきません。
グラフは自分より H[m]高い障害物がどの程度の高さに見えるのか、視角度を示したものです。こうしてみると、地ベタリアン観望者にとってみると 10m の木々や建物ですらも鬼門で、1°の低空を臨もうとすると500m以上離れないといけないということが分かります。
100mを超えるような丘がある場合には、2km以上離れないと3°の高度も視野を確保できないので、地図とにらめっこしながら良い場所の候補を持っておくのが良さそうです。
(前の写真では、湖の対岸まで 2km、左側のゆるい丘はそれより手前500mの距離にあります。)
■ 天気の読み方
…と言っても、基本的に天気自体を読むことはできません。今回、私がアトラス彗星を拝めたのは単なる幸運です。ですが、天文現象に合わせてなるべく晴れた地に行きたいと思って SCW や Windy を開くのは、天文屋の習性というものでしょう。
今回あらためて認識したのが、見えてる空の範囲はけっこう広い、ということです。自分の観測地の真上だけ雲がなくても、それは天頂のことを言っているに過ぎず、低空の雲は40kmほどの遠くを見ているのです。(※地平線までの距離が概ね40kmです)
40kmというとSCWでもけっこう遠くの空を気に掛けることになります。例えば下図は都心あたりから半径40kmの円をSCWの予測に重ねたものです。この例で言えば、都心あたりは晴れていますが、日没位置周囲には薄雲が出ていて西空超低空の観望には不向きな天候だということを示しています。
この図を見れば、どこまで行けば見られるか、ということの検討の指針になるかもしれません。(そんなの常識、だったらスミマセン! あまり意識したことありませんでした。)
気にすべき雲の範囲と方角 (SCW)の例 |
ぜひとも「運を使い果たした」ではなく「幸先ヨシ!」となるように祈りたいものです。
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