令和式三脚架台(どうすりゃいいのか)

三脚架台の考察では、現行の三脚がトラスなどではなく「揺動体」になっているという問題を指摘してまいりました。あの昭和の少年時代にも認識されていた問題点が、平成を過ぎ去ってもなお解決されなかったのは甚だ遺憾なことです。
 そこで今回は、「じゃあ、どうすりゃいいのか」という方策について、私の持つローテクを駆使して検討中の令和式三脚架台を紹介してみたいと思います。
 今回、3D-CAD的な何か体験版を使ってお絵描きしてみた三脚架台は、AZ-GTi用として大きくもなく、相当な剛性が得られる見通しです。もちろん揺動なんかしません。
 同様の考え方は超入門機から重量級の機種まで応用が効く話ではないかと思います。ちなみに、私自身はコレで快適な眼視観望ライフをゆるーく楽しもうという魂胆です。

令和式三脚架台 (AZ-GTi用, 図上方が地面側、図下方が架台側)
※3Dプリントの値段抑制のために剛性に影響ない範囲で肉抜きが入っています

■ 令和式三脚架台のご利益
 この三脚架台は、従来の「トラス誤信仰・揺動三脚」からは完全に脱却した上で、ストッパー式の三脚に見られる「テコの原理での力が集中する」問題を解決しています。この結果、高い剛性が得られるのが特長です。
 更に、この三脚架台を用いると、部品点数を削減できます。まず三脚の開き止め一式が不要になります。ストッパーとかいう無粋な部品も不要です。また、今回のAZ-GTi用としては、付属してきた「ジョイント」部品の流用を前提にした設計になっていますが、これを省略する設計も可能です(挟み込むフォーク部分を三脚架台側に設ければ、脚そのものには穴が開いているだけでよい)。
 つまり、脚3本と三脚架台だけという極少の部品点数で三脚を構成できますから、入門望遠鏡であっても最低の価格と最高の剛性を両立させられるようになります。
(私のお絵描きは樹脂の使用を前提にしているためやや大きくなっていますが、金属を前提にするとコンパクトにできます。)

■ ストッパー式三脚の問題点
 まず、従来型のトラス信仰の揺動体三脚が論外だということは前回説明したとおりです。一方の近年の「ストッパー式」三脚は、これよりは随分マシには違いないのですが問題点があって、特に細い径のパイプ三脚では採用しにくい事情もあります。

令和式三脚架台と従来のストッパー式三脚の比較

 図の左側は、ストッパー式三脚の構造を示したものです。ストッパー式三脚では、三脚の石突で地面から力を受けるところを力点として、三脚架台が支点となり、ストッパーを作用点とする「てこ」の形で三脚が開こうとする動きを止めています。
 問題は二つあって、一つは支点とストッパーの距離が短く、てこの原理で増幅される力が大きくなっていることです。そしてもう一つは、その力を全てアルミ鋳物のジョイントが受け止めているということです。
 前者の問題に対応して支点とストッパーの距離を稼ぐためには、三脚のパイプを太くするしかありません。パイプの太さによって三脚自体の剛性が上がるということもありますが、それよりはテコの原理でジョイント部分に作用する力を減らす効果の方が大きいと思われます。逆に、パイプが細いと力がどんどん増幅される上に受け持つ断面積も減ってしまうのですから、細いパイプでストッパー式というのは剛性面で著しく不利になります。AZ-GTiの3cmくらいなパイプ径では、ストッパー式で十分な剛性を得るのは難しいのだと思います。
 そして後者の問題も深刻です。ジョイントは、肉厚を増しても所詮はアルミですから、材料としての剛性は鋼の1/3しかありません。また、ジョイントのコの字のフォーク形状は、揺らす力に対して必ずしも有利な形ではありません。つまりジョイントは三脚の中では最弱部だというわけです。
 このように、最弱部であるジョイントに全ての増幅された力を集中させておいて、見た目ばかりごついジョイントやストッパーやらを設けるという設計は、商売上は目立って都合がいいのかもしれませんが、私の個人的な趣向には合いません。数値計算などせずとも応力が重なって見える体質の人間にとっては、ジョイントが悲鳴を上げているのがよく見えてしまうのです。私が三脚架台にイラっときているのは、こういうところです。
 (苦言ばかりになってしまいました。30年越しの積もったイライラがありましたので、ご容赦願えればと思います。)
 
■ 令和式三脚架台の原理
 さて、今回お絵描きした令和式三脚架台では、上記の二つの問題を解決しています。その方策の一つは、支点と離れたところに支持点(作用点)を設けるということです。しかも、三脚の太さとは関係なく長いモーメント長を確保できる位置に支持点を設けられますから、たとえ細い三脚でも過大な力が発生してしまうことがありません。
 また、ジョイント部にはストッパーがなく回転フリーになっていますから、弱いジョイントは「曲げ」の力(曲げモーメント)を受け持つ必要がありません。
 この二つによって、三脚架台の本質的な問題点をクリアしているというのが、令和式三脚架台のミソです。
 今回のAZ-GTi用では、脚を支えるストッパー部のモーメント長さ45mmを確保しており、しかも曲げの力を最弱部であるジョイント部のフォーク断面で全て支えるような愚かな設計は避けられています。この三脚架台を金属で作った場合には、ジョイントの変形量の少なさは重量級赤道儀のφ70級パイプ三脚用のそれを凌駕すると思われます。

 また、支持点での脚パイプの支持方法には、テーパー面を採用しています。こうすることで、脚の開閉のための回転方向と直交する方向の揺れ力に対しても、ジョイントの精度や剛性に頼らずに拘束する効果を持たせています。
 こうして、上下左右ねじれの全てに対して、無理な力を働かせることなく剛性を高められるというわけです。

 なお、令和式三脚架台が「ちょっと変わった見た目」をしているのは、上記の原理をコンパクトにまとめるためです。普通の三脚架台のように、中心から放射状に三脚が開く形式では、三脚架台が大きくなりすぎてしまいます。
 そこで、今回の令和式三脚架台 for AZ-GTi では、それぞれの脚の設置を中心からオフセットさせて「渦巻き状(?)」に配置しています。こうすることで、小さい三脚架台であっても、互いの脚が干渉せずに最大限のモーメント長が稼げるようになっています。
裏面から見た令和式三脚架台の構造
■ で、コレ、作れんの?
 もちろん、作るつもりで設計しました。普通の切ったり貼ったりの工作では面倒臭そうなので、3Dプリンターの活用を考えて、触ったこともない3D-CADにトライしてみました。
 外部に委託すると、このモデルで3Dプリントをやってくれるようです。お金さえ払えば、色々材質も選べるようです。全くいい時代になりました。

 3Dプリントの受託サービスでは、使用する材料の体積に応じて値段が決まってくるので、肉抜きをやることが有効です。もう少しチューニングした後で、実際に注文してみたいと思います。樹脂版にはなりますが、少なくとも現在のAZ-GTiの揺動式三脚よりはシャキッとして、15cm反射にも難なく対応できるようになる筈…と思います。

にほんブログ村 科学ブログ 天文学・天体観測・宇宙科学へ

※ここの記載されている方法は、当blogによって 2019.7.20 に公知となりました。

コメント

匿名 さんのコメント…
こんばんは。

昔の(昭和40年代くらい?)自作本に、三脚の自作例の意外な方法として、
3本の棒の上の方を紐で縛ってから、「ヤッ」と下のほうを広げ、
上に空き缶をかぶせる・・・・というめちゃくちゃな方法が、
(これはけっこうしっかりする)とか言って書いてありました。(笑

でもこうやると、Lambdaさんのこの方式と似て、放射上に棒が展開されます
ので理にはかなっているのかもです。

あと、この三脚取り付け部グラグラ問題で、思い出したのは、ツァイスの三脚が
たしか取り付け部同士が物凄く近い(台形の上底が短い)形状ではなかったか?
と思い画像検索してみると、測量用三脚のように松葉杖型になっていて、一本づつが
逆三角(トラス構造?)になっているようでした。

(これも自作本の中で、丈夫にするには松葉型、と推奨されていました。コンパクトさ
には欠けるでしょうが。)
Lambda さんの投稿…
いつもコメントありがとうございます!

>3本の棒の上の方を紐で縛ってから、「ヤッ」と下のほうを広げ、
>上に空き缶をかぶせる

素晴らしいです。棒の差し込み位置や広げ方にコツが要りそうですが、けっこうしっかりすると思います。
ご指摘のように、私の三脚架台と力学的には大変似ています。某が挿さる場所を規定できるような抜き差し式の筒状三脚架台、というのも考えられそうですね! (3Dプリントにすると高くなってしまいますが、型を使った量産ならシンプルかもしれません)

>ツァイスの三脚

さすがに彼らは「揺動体問題」に気付いていたというか、ドイツ人らしく基本に忠実にしようとしてか、「松葉杖型」の各辺が三角形に近づくような形になっていますね。
ご指摘のように一本ずつが逆三角形になっていて、隣の脚とも三角形を構成するような美しい形です。
自作に向いているかどうかは…微妙ですが、このトライアングル構成によってねじりに対しても強そうには思いました。

※すごく含蓄のある自作本ですね!
M87JET さんの投稿…
初めまして。M87JETと申します。
令和式三脚架台に、期待特大です。
実に、三脚の剛性不足に、昨晩実際に気づきました。
AZ-GTi経緯台モード(セレストロンC5や露除けフード、CMOSカメラ等を同架で回転モーメント大)を三脚に載せて、遠方のビル屋上の赤色灯を視野に入れ、望遠鏡各部位を叩いたりして振動減衰の程度やモードを観察していました。全体としての振動減衰は遅く、水平回転軸方向の振動が大きかったです。
そのついでに三脚の2つの足を手で握りねじると、僅かの力でも容易に星像が分単位の角度で左右に動くことがわかりました。三脚をいっぱいまで伸ばした状態だったので、短縮時よりはるかにねじれやすかったとは思います。
これが、振動の上下と左右の不均一性、横方向の減衰不良の大きな要因と思いました。
三脚のねじれは、天体撮影では、根本的な水準の脆弱さだと感じました。
是非、令和式三脚架台を開発して欲しいと思いました。
Lambda さんの投稿…
M87JETさん、はじめまして。そしてコメントありがとうございます!

ご指摘のように、AZ-GTiは三脚架台や本体の剛性にもう一歩のところがあり、改良したところ大変快適になりました。

令和式三脚架台は既に実戦配備済みで、またマウント自体の剛性改良と併せて、15cm反射ではもはや300倍超の高倍率観察に支障がなく、20cm反射も日常的に搭載して使用するに至りました。

関連記事:
https://m-lambda.blogspot.com/search/label/AZ-GTi

それにしても、こうしたブツの製作があっという間にできるようになった時代に感謝です!

なお、高剛性化改造は、20cm反射ではまだ気になる振動対策を目下検討中です。
Lambda さんの投稿…
そういえば以前、M87JETさんのブログを拝見して、風による振動が意外とクセモノだということに気づかせて頂きました。感謝です。

20cmの筒だと1m/sの風速で1Hz、侮れません。
渦の振動数は風速に比例、直径には反比例、です。
M87JET さんの投稿…
Lambdaさん
ご返信ありがとうございます。
すでに作製していらっしゃったのですね。近視眼でした。失礼いたしました。ご示唆のページ見ました。美しいです。ガラス玉入り素材ってのも、選択できるのですね。昔、深海作業船の部品(浮力材)に、エポキシ樹脂の中に中空小ガラス玉を入れたのを使ったという話を読んだのを思い出しました。
令和式三脚、金属で安価にプリントできるようになると、なお、よいなあ。
望遠馬鹿さんのおっしゃっているのと同様の構造は、屋外スケッチ用の三脚イスにも見られると思います。工作妄想が膨らみます。
小生には、CAD等難しそうなので、とりあえず、安直に手元の純正AZ-GTi用三脚の、パイプ接合ネジをはずして、樹脂製スペーサを自作アルミ製スペーサに替えて(パイプ1本当たり厚さ0.5ミリ1枚と0.2ミリくらいのを2枚はさみました)、極力隙間を埋め、僅かですが、剛性向上を試みました。

Lambda さんの投稿…
M87JETさん、ご返信ありがとうございます!

ご指摘のように、屋外スケッチ用の三脚椅子とは共通点ありますね。放射状ではなくて、すこしオフセットさせる形には、まだいろいろ応用範囲やメリットがあるかもしれません。
私も後になって気付いたのですが、この令和式は10cm少々のハーフピラーをつけたのと同じ効果もあったりしました。

金属プリントの見積もりもやってみたのですが、こちらは三桁万円超えで挫折しました。ちなみに、最も安い樹脂で作ると1万2千円ほどです。
製作したものは1万8千円ほどでしたが、使用時のガタもなく十分な剛性が得られましたので大満足です。

AZ-GTi標準付属の三脚架台は、そもそもの揺動式(https://m-lambda.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html)だというところも問題なのですが、M87JETさんの方法のようにスペーサーを十分剛性の高いものに換えてガタを無くしていく方法は効果があると思います。

(深海作業船の中空ガラス玉、これは全く知りませんでした。たしかに、大きい径の球体やスポンジみたいな材料では圧力に抗うのが大変だったのかもしれませんね。)