実験は成功し、乾燥剤レス除湿システムが成立することが分かりました。望遠鏡の夜露対策は完結です。乾燥剤の煩わしさとは無縁の天体撮影ライフは、夜露対策三段構えで可能になりました。
…が、しかし、です。正直なところ、二ノ段の製作&実験は虚しさとの闘いと相成りました。なんというか、夜露対策一ノ段、三ノ段で既に死に体になっている夜露を相手に秘奥義を繰り出す格好となったからです。"口ほどにないヤツ"、と、つい先日惨敗したことを棚に上げて言ってみます。
夜露対策は一ノ段でほぼ決着がつき、三ノ段で乾燥剤再生の面倒から解放されて夜露の息の根を止めてしまっていることを考えると、ニノ段は完全に趣味の実験の世界です。
現実に、実験の傍らで撮影していた鏡筒は一ノ段の対策と短いフードだけの対策だけでしたが、露天に曝したプラスチック類が夜露で濡れ行く中、斜鏡は金具も含めて全く結露しませんでした。「これ以上対策要るのこれ?」という感じです。
■ 実験結果
一応ニノ段の結論を申し上げますと、湿度がほぼ100パーセントの状態から、乾燥剤を全く使わずに86%まで除湿することができました。後述しますが、このシステムはより冷え込んで結露しやすい条件になると、自動的に更に湿度が下がって追従するオートシステムです。
また、乾燥剤も電力も使わないブースター(0¥)を使うと、湿度は一気に63%まで下がりました。ブースターは無くても夜露は十分防げると思いますが、あればより安心な保険と言えます。
■ 原理
夜露対策ニノ段の原理は至って単純で、夜露が降りる現象をそっくりそのまま利用するという、相手のワザをそのまま跳ね返す系の奥義です。
夜露が降りる原因は、放射冷却で冷えた物体表面で水分が凝縮する、というものでした。ですので、鏡やレンズじゃないところで先に結露させれば、残るのは除湿された空気になるという単純な考えです。
この方法は、結露しやすい条件の時ほどこちらの装置もよく結露してくれるので多くの水分を取り去ってくれるという条件自動追従になっています。その日その時の条件で先に結露させておくので、それ以上に鏡やレンズの温度が下がらない限り結露はしにくくなるというわけです。
これを実現するのは、黒塗りした金属缶です。黒塗りによって放射率を上げ、金属の熱伝導で缶の内部を冷やします。この缶内に空気を送り込むと、空気は内部で冷やされて除湿されるというわけです。
但し、単純に缶を通すだけでは金属表面と十分に接触しないまま素通りする空気が出てきてしまいますから、空気が缶内でグルグル渦を巻きつつ時間をかけて缶の出口に向かう旋回流設計にするのがポイントです。
なお、空気の送出には水槽用のポンプを使います。吐出容量は1.5L/minとしました。吐出量が大きいものにしても除湿能力は変わりませんので、風量を気にして一定以上の大きい容量のポンプにしてしまうと湿度は十分に下がらなくなります。ここは乾燥剤システムと同様に注意が必要です。
■ 作り方
[材料]
・金属缶を2つ。外径10cm程度。
・ジョイント用パイプ2つ。できれば細いものと太いもの。
今回はφ2.1とφ4.0の外径の真鍮パイプを使いました。
・水槽用のチューブ。できれば普通のとスリムと。
・水槽用のエアポンプ。今回は1.5L/minのものを使いました。
チューブやジョイントの太さを変えるのは、後述の旋回流の効果を高めるためです。缶への入口径を小さくすると旋回スピードが上がって、空気は缶の壁面を何回も周回して出ていくようになります。
エアポンプは1.5L/minとしました。うちのSE200N鏡筒ですとおよそ30分で満杯になるくらいですので、まあこんなものでいいかと思います(乾燥空気は重いので鏡筒の下の方から溜まっていきます)。
[穴空け]
缶にジョイント用の穴を空けますが、普通の穴ではないので注意が必要です。穴は接線方向に空けます。私は、リューターにエンドミルを取り付けて削るようにして空けました。
細い方の穴は底面から5mm程度上方に空け、太い方は底面スレスレにします。
また、穴を空ける接線方向の向きはどちらも同じ方向にしておきます。
[ジョイントの取り付け]
ジョイントは差し込んで接着すればOKです。私は強度を考えてハンダ付けにしましたが、60Wくらいのコテがないと出来ないのと、作業には多少の経験が必要ですので、ハンダでメカ物を付けたことがない方にはお勧めしません。エポキシ接着剤でいいと思います。
取り付けは、写真のようにジョイントパイプが接線方向を向くように行います。これは、缶内で旋回流を起こすために必要です。正しく作ると旋回流は出口まで維持されますので、缶の壁面をくまなく有効活用できることになります。細い方が入口で、太いジョイントが出口です。
[缶を貼り合わせて色塗りして完成]
缶を向かい合わせて銀色アルミテープで貼り合わせます。耐久性の高さと、内側への熱伝導を考えて銀色テープを選択しています。
貼り合わせると、空気出入口のジョイントが互い違いになって旋回流仕様になります。
色塗りは放射率を高めるために必須です。当然、艶消しブラックです。そして色を塗ったら完成、です。
[ブースターについて]
先述の「ブースター」とは、冷やした保冷剤のことです。ケーキとかについてくる奴でOKです。これを缶の上に置くだけで、強烈な除湿ブースターになります。HAKUBAの湿度計がパキパキ音を立てて10%くらい針が一気に動くほどの威力で除湿出来ました。
■ 総評
実験は大成功で、乾燥剤レスの乾燥空気システムは確かに出来ました。ですが、一ノ段の効きが思った以上に良好のため、このシステムは保険かなあという感想です。
一の段の対策は、言ってみれば「従来の(結露対策としての)フードが、全裸に帽子をかぶせて防寒対策だと言ってたようなものだったところに服を着せてやった」形なので、これの効果は大かったということのようです。また、どうせ主鏡の裏蓋には保管用にB型乾燥剤を仕込むので、ここを通して空気を送り込めば二ノ段の対策って要るんだっけ?、という疑問もわいてきます。
というわけで、死体蹴りみたいな過剰対策になってしまいましたが、もはや夜露は脅威ではなく、乾燥剤の面倒からも解放されて夜空を楽しもうと思います。
※夜露対策の関連記事は下記にあります。
一ノ段:銀色シート包みで放射冷却を防ぐ
三ノ段:"B型"シリカゲルで加熱処理が不要に
…が、しかし、です。正直なところ、二ノ段の製作&実験は虚しさとの闘いと相成りました。なんというか、夜露対策一ノ段、三ノ段で既に死に体になっている夜露を相手に秘奥義を繰り出す格好となったからです。"口ほどにないヤツ"、と、つい先日惨敗したことを棚に上げて言ってみます。
乾燥剤レス除湿システムによる実験結果(乾燥剤は全く使用していません) |
夜露対策は一ノ段でほぼ決着がつき、三ノ段で乾燥剤再生の面倒から解放されて夜露の息の根を止めてしまっていることを考えると、ニノ段は完全に趣味の実験の世界です。
現実に、実験の傍らで撮影していた鏡筒は一ノ段の対策と短いフードだけの対策だけでしたが、露天に曝したプラスチック類が夜露で濡れ行く中、斜鏡は金具も含めて全く結露しませんでした。「これ以上対策要るのこれ?」という感じです。
■ 実験結果
一応ニノ段の結論を申し上げますと、湿度がほぼ100パーセントの状態から、乾燥剤を全く使わずに86%まで除湿することができました。後述しますが、このシステムはより冷え込んで結露しやすい条件になると、自動的に更に湿度が下がって追従するオートシステムです。
また、乾燥剤も電力も使わないブースター(0¥)を使うと、湿度は一気に63%まで下がりました。ブースターは無くても夜露は十分防げると思いますが、あればより安心な保険と言えます。
■ 原理
夜露対策ニノ段の原理は至って単純で、夜露が降りる現象をそっくりそのまま利用するという、相手のワザをそのまま跳ね返す系の奥義です。
夜露が降りる原因は、放射冷却で冷えた物体表面で水分が凝縮する、というものでした。ですので、鏡やレンズじゃないところで先に結露させれば、残るのは除湿された空気になるという単純な考えです。
この方法は、結露しやすい条件の時ほどこちらの装置もよく結露してくれるので多くの水分を取り去ってくれるという条件自動追従になっています。その日その時の条件で先に結露させておくので、それ以上に鏡やレンズの温度が下がらない限り結露はしにくくなるというわけです。
製作した乾燥剤レス除湿システム |
これを実現するのは、黒塗りした金属缶です。黒塗りによって放射率を上げ、金属の熱伝導で缶の内部を冷やします。この缶内に空気を送り込むと、空気は内部で冷やされて除湿されるというわけです。
但し、単純に缶を通すだけでは金属表面と十分に接触しないまま素通りする空気が出てきてしまいますから、空気が缶内でグルグル渦を巻きつつ時間をかけて缶の出口に向かう旋回流設計にするのがポイントです。
なお、空気の送出には水槽用のポンプを使います。吐出容量は1.5L/minとしました。吐出量が大きいものにしても除湿能力は変わりませんので、風量を気にして一定以上の大きい容量のポンプにしてしまうと湿度は十分に下がらなくなります。ここは乾燥剤システムと同様に注意が必要です。
■ 作り方
[材料]
・金属缶を2つ。外径10cm程度。
・ジョイント用パイプ2つ。できれば細いものと太いもの。
今回はφ2.1とφ4.0の外径の真鍮パイプを使いました。
・水槽用のチューブ。できれば普通のとスリムと。
・水槽用のエアポンプ。今回は1.5L/minのものを使いました。
チューブやジョイントの太さを変えるのは、後述の旋回流の効果を高めるためです。缶への入口径を小さくすると旋回スピードが上がって、空気は缶の壁面を何回も周回して出ていくようになります。
エアポンプは1.5L/minとしました。うちのSE200N鏡筒ですとおよそ30分で満杯になるくらいですので、まあこんなものでいいかと思います(乾燥空気は重いので鏡筒の下の方から溜まっていきます)。
製作に使った金属缶とジョイント用のパイプ (穴は左写真みたいな感じにあけます) |
[穴空け]
缶にジョイント用の穴を空けますが、普通の穴ではないので注意が必要です。穴は接線方向に空けます。私は、リューターにエンドミルを取り付けて削るようにして空けました。
細い方の穴は底面から5mm程度上方に空け、太い方は底面スレスレにします。
また、穴を空ける接線方向の向きはどちらも同じ方向にしておきます。
[ジョイントの取り付け]
ジョイントの取り付け方 (旋回流を起こす「接線配置」です) |
取り付けは、写真のようにジョイントパイプが接線方向を向くように行います。これは、缶内で旋回流を起こすために必要です。正しく作ると旋回流は出口まで維持されますので、缶の壁面をくまなく有効活用できることになります。細い方が入口で、太いジョイントが出口です。
[缶を貼り合わせて色塗りして完成]
缶を向かい合わせて銀色アルミテープで貼り合わせます。耐久性の高さと、内側への熱伝導を考えて銀色テープを選択しています。
貼り合わせると、空気出入口のジョイントが互い違いになって旋回流仕様になります。
色塗りは放射率を高めるために必須です。当然、艶消しブラックです。そして色を塗ったら完成、です。
塗装前後の金属缶です |
[ブースターについて]
先述の「ブースター」とは、冷やした保冷剤のことです。ケーキとかについてくる奴でOKです。これを缶の上に置くだけで、強烈な除湿ブースターになります。HAKUBAの湿度計がパキパキ音を立てて10%くらい針が一気に動くほどの威力で除湿出来ました。
■ 総評
実験は大成功で、乾燥剤レスの乾燥空気システムは確かに出来ました。ですが、一ノ段の効きが思った以上に良好のため、このシステムは保険かなあという感想です。
一の段の対策は、言ってみれば「従来の(結露対策としての)フードが、全裸に帽子をかぶせて防寒対策だと言ってたようなものだったところに服を着せてやった」形なので、これの効果は大かったということのようです。また、どうせ主鏡の裏蓋には保管用にB型乾燥剤を仕込むので、ここを通して空気を送り込めば二ノ段の対策って要るんだっけ?、という疑問もわいてきます。
というわけで、死体蹴りみたいな過剰対策になってしまいましたが、もはや夜露は脅威ではなく、乾燥剤の面倒からも解放されて夜空を楽しもうと思います。
※夜露対策の関連記事は下記にあります。
一ノ段:銀色シート包みで放射冷却を防ぐ
三ノ段:"B型"シリカゲルで加熱処理が不要に
コメント
エェですねぇ!エェですねぇ!「夜露が降りる現象を
そっくりそのまま利用」が東洋的且つロマンティックで、
シビれますぅ!合気道で、ガス!はっはははっはは!!
しっかし、普通に考えたら、缶の内側がビチャビチャに
なるのは分かりますがぁ、そこから色気の無い空気が
出てくるとゆぅ着眼点にシビレまくりますぅ!テヘッ!
Lambdaさん!いったいWho are you?ははっははは!!
実用新案出願の際は是非山口のじぃにご用命をッ!
はっはははははっははははっはは!!
合気道、そう、ワタクシもそういう「柔よく剛を制す」的な何かがスキなんです。
ついでに、西欧なのか東洋なのかが微妙なおろしや国発祥の
https://ja.wikipedia.org/wiki/TRIZ
もスキだったりでございます。
ちなみに缶に溜まった水は、缶を逆さまにしてポンプを稼働するとぴゅーっと出てくる算段です。
で、実用新案...は;
ここで考案したものはブログで公知にしてセコい企業の独占の妨害を企んでおりマス!
が、なにかすごいのを思いついちゃったら明細書持ってお伺いします(!?)(いやすごいのは出てこなそうです)
あの面倒なシリカゲルが不要というのがスマートで素晴らしいです。
私も早速作ってみたいと思います。
このままでも機能的に十分なのでしょうが、
缶の外側に冷却フィンを着けるとどうなるか?とか
ブースターは保冷材の替わりに1000円程度のペルチェを着けてモバイルバッテリー駆動にするとどうか?とか余計なことが頭に浮かんできます。
他の記事で応援しておきます。
シリカゲルは再生が面倒、とくに再生したあと容器に戻すのが面倒で、できればオサラバしたいと思っていたんです。B型シリカゲルでほぼ解決、といえばそうなんですけどね。。
冷却フィン、私もいろいろ考えたんです。
ところが、缶の方が周りの空気より冷たいものですから、フィンをつけるとむしろ温められてしまうと分かって、思いとどまったのです。
また、内側にフィンをつけるのがいいと言えばそうなのですが、フィンをつけると旋回流を阻害してしまうので、ここも敢えてツルツルにしたのでありました。
ブースターにペルチェはおっしゃる通りで、効果あると思います。
特に電力に制限のない自宅では、威力あると思います。(遠征先では、バッテリーがきついかも)
けっこう安いペルチェユニットが売られてるみたいで、そそられますね。
バナー、つい付け忘れちゃうんです。(モノグサなもので、、、)
シンプル イズ ビューティフル!!
理屈を知らない人が、どんな秘密があるのかと缶をバラシたら空っぽだった。(笑)
私の『乾囲送兵衛』は冷却デジカメを箱で覆い、そこに乾燥空気を送りこむ事で
シミレーションでは箱内の湿度が54%から25%に下がりました。
狭い空間に送り込むのと違い、鏡筒内の結露を防ぐとしたら
筒内を乾燥空気で満たす事でしょうか?(乾燥空気は重い?)
先日2夜連続で月の撮影を行いましたが、筒内気流の検証をやれば良かったです。
あはは、もしこんなのを売ったりでもしたら、中身が空っぽだとクレームが来そうですね(笑。
鏡筒(というか鏡とかレンズ)の結露を防ぐ本質は、冷やさないことだと思いますから、一ノ段が第一だと思います。
遠赤外で見るとガラスは黒かったりするので、放射冷却で冷えやすいのがミソです。
反射鏡筒の場合は乾燥空気が重いですから、乾燥空気で満たしておくのは次善の策です。
(水=H2Oは気体ならO2やN2より分子量が小さくて軽いのです)
ちなみに、冷却カメラへの対策は、この二ノ段のブースターなしではできません。温度が外界条件より下がっているからです。もしやるとすると、ブースター全開でやるしかありません。
ブースターの実験は、今回は何も考えずに保冷剤を置いただけですが、気合いを入れて効率を上げれば相当除湿できるとは思います。
乾燥剤では、新品A型シリカゲルでも25%の湿度では吸湿率が極めて小さくなってしまいますので、到達は困難かもしれません(少しでも吸湿した後ではそこまで吸えなくなってしまう)。