見えている気流の正体 - 気流の話①

筒内気流の対策をした時からずっと気にかかっていることに、気流の話があります。見えているユラユラは一体何なのか、と。そして、シーイングが良い時とは、どういう時なのか、と。
 シーイングの良し悪しは恒星像の半値幅(FWHMというらしいですね)で調べることはできますが、これは結果論なのでFWHMそれ自体は対策につながらないのが残念なところです。
 当ブログでは、ゆるーくお気楽に星を楽しむための生活の知恵を通じて世界平和を祈るという趣旨のもと、上空の気流や筒内気流との関係を考えてみたいと思います。天気予報と同じで、気流は変えられなくとも予想と最善を尽くす方法が分かっていればチャンスが増えるんじゃないか、という淡い期待です。
 まずは「その①」で見えているものの正体をあばき、「その②」ではどういう日が観察に向いているかを考えたいと思います。

■ 見えてる「気流」までの距離
さて、実は筒内気流対策のあの日気流にピントが合った瞬間がありました。木星面からピントをほんの少しだけ外側にずらすと、高速で動く気流らしきものがクッキリ見えたのです。
 ピント位置というのは、対象との距離に応じて変わります。天体はほぼ無限遠ですね。
 例えば焦点距離が1000mmの鏡筒で気流までの距離が1kmなら、天体と気流の焦点位置の差はおよそ1mmです。相当な違いです。そして更に近い気流になれば、天体の焦点位置の差は顕著になってきます。
 このことからすると、ごく僅かなピント位置ズレ(0.1mm以下くらい?)で見えたあの日の気流は、10km程度かそれ以上離れていたと考えられます。つまり、あの日はホンモノのジェット気流が見えていた、ということになります。

 ちなみにその後日、「まったく酷いシーイングの日」というのも体験しました。この時も筒内気流が収まっていることを恒星の焦点内像で確認していましたが、像はなおイマイチでした。こんな日は、気流にピントを合わせようとしても、多少のずらし方の範囲ではハッキリとそれを見ることが出来ませんでした。
 つまりこの酷い悪シーイングの日は、もっとずっと低空での気流が悪さをしていたということになります。

 十分な経験から言っているわけではないので偶然かも知れませんが、問題となる気流が本当に高高度の上空の話なのかというのは純粋に疑問だったので、もう少し考察です。

■ 上空と低空、影響の違い
まず、木星表面を通過していたあの高高度の気流による濃淡は、一体どのくらいの大きさの濃淡を眺めてたのか、というところから考えてみました。
 木星の視直径は角度で40秒(0.0002ラジアン)くらいですから、ジェット気流があるとされる10km上空ではおよそ直径2mほどの範囲を見ていることになります。私が見たジェット気流による揺れのサイズは概ね視直径の1/20程度でしたから、10cmくらいの密度の濃淡が高速で移動していた勘定になります。そんなモンかもしれません。
 もし同じ程度の画像の揺れ1km上空の空気で起こそうとすると、1cmくらいのサイズの濃淡で同じことが起こることになります。もしそこに10cmものサイズの濃淡があれば木星面全体を揺らすような話になるわけです。
 端的に言うと「遠くのものは小さく見えて近くのものは大きく見える」という否定のしようがない当たり前の話ではあります。

 しかしながら、遠くの気流が小さくしか見えないことを以て「低空で起きている気流の方が、像への影響が大」と言い切るのは早計です。小さい空間の中では温度の高低差も大きくなりにくく、大きい空間では大きな温度の高低差が存在しやすいからです。
 上空の気流を見ているときには、低空よりも大きな温度差を同じ視野の中で観察することもあり得そうなわけで、影響は「起きやすそう」です。ただ、上空の気流が影響するのはかなりの高解像度側での話だろうな、とは思います(影響がサイズとして小さく見えるので)。

 上空と低空との違いはもう一つあります。それは、低空で起きている密度の濃淡にはピントが全く合わないということです。このため、低空の気流の影響は像全体の解像度悪化という形で表れます(フーリエ変換像が乱される効果となるため)。
 この低空の気流による影響は、実空間でいくらスタッキングしても大数の法則では解像度が上がらないため、画像処理の観点ではタチが悪そうです。高高度で実像に近く見えている濃淡はノイズとして大数の法則で処理できる可能性があるのとは大きく違う点だと思われます。

 おそらく、ボイジャーで撮ったような写真に迫ろうとすればジェット気流の高度の影響は全く無視できないと思いますが、私のようなゆるーいアマチュアが眺めている範疇では、上空というよりは比較的低空の気流による像の乱れが良く見える/見えないを左右しているように思われます。

※木星の手前に見えたジェット気流、残念ながら手持ち機材では撮影はできませんでした(高速シャッター1枚こっきりでの勝負となるため、デジイチでは無理でした)。

■ 筒内気流と上空の気流 - 筒内気流対策は必須です
 ある程度まで近くの気流(密度の濃淡)になってくると、影響は筒内気流と同じようなことになってきます。別に、筒の中だからダメで筒の外ならOKとかいうことはありません
 ただし、以前の考察の通り筒の温度は周囲よりけっこう低くなっているので、筒内に発生する密度の濃淡はけっこう激しく、筒の外より激しい陽炎で像を乱しています。
 筒内気流と上空の気流の切り分けも含めて、それが焦点外像に与えている影響を写真で見てみたいと思います。

温度慣らしと「銀巻き」による焦点外像の安定と残留する上空の気流の影響 (2019.5.25撮影)
さて、図は、鏡筒の温度慣らしの過程が、焦点外像にどう影響を与えるかを撮影したものです。鏡筒を外に出して主鏡シースルー状態で40分たったものが最初の写真で、像の外形は激しく崩れていて像の内側も濃淡が激しく動いています。この状態ではまともな解像度は期待できません。
 さらに20分経過したところで主鏡のシースルーを塞ぎ、筒内への空気の流入を抑えました。またこのタイミングで銀巻きを施していますが、鏡筒はまだ冷たいままの状態です。先ほどの状態よりはややマシですが、像の外形やその内側もまだ変形して動き回っています。
 そして筒内気流対策の銀巻きから20分経過したところで、銀巻きの効果で外形の歪みが急速に収まっていったことが分かります(40→60分後の改善よりも60→80分後の効果の方が大きい)。
 しかし、筒内気流対策をしてもなお残っている像の内側の濃淡の動きが、おそらく上空の気流によるものと思われます。焦点外像のなかで動き回っている様子が影絵のように見えるということからすると、あまり高度が高くないところの気流の影響が見えているようです。


■ どうすりゃいいのか?
そこは次回「その②」で考察したいと思いますが、少なくとも言えることは、筒内気流対策は不可欠だということです。
 私の疑念の一つは、「透明度が高い日はシーイングが悪いという神話が本当なのかどうか、ということです。じつはこのことの一因として、放射冷却ゆえの筒内気流があったりしないのか、ということです。
 逆に、「バッチリ筒内気流対策を施した鏡筒を透明度が高い日の中に向けたら、目の覚めるような像が見えたりしないのか!?」、という淡い期待を抱いていたりするのです。
 いずれにしても、何に着目してシーイングの良し悪しを占ったらいいのか、次回の考察としてみたいと思います。

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ps. 梅雨空のせいでアイピース対決ができなくて虚しい日々を過ごしております。大雨のために人工星設置もできませんでした。
 λ魂SR-4mmはイイ感じに仕上がってます。内部の押さえ金具やスペーサーに至るまで迷光処理を施した結果、ビシッとした視界を得ております。ノーマルのSR-4を電灯に向けると霞がかかったような安物アイピース然とした視界の中に内筒の反射光や電灯のゴーストなどが見えるのですが、これらが消え失せました。もともとが木星でもゴーストが見えるような安物でしたので、改善効果に期待が高まります。
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※前回の記事で、TMB PlanetaryII(ニセモノ)のレンズ構成に関する記載に誤りがあったことが分かりました。再分解の結果、レンズ構成は「スマイス+2群3枚」であることが分かりましたので、本文ともども訂正いたします。なお、当該ニセモノレンズを更生させるのはだいぶ無理であるようです。
着々と準備が進む頂上対決アイピース

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コメント

匿名 さんのコメント…
またまた失礼します。
気流に関しての考察、とても小生のポエム脳では
及びつかない領域に達していて、ただただ尊敬致します。

そんな私の筒内気流対策は、自作木製四角筒の利点を
活かし、上面をほとんど開放できるように蝶番つきの
ふたにしてあってセッテイング時に全開放、団扇であおぐ、
(筒を筒じゃなくして、Cチャン形状にしてしまう)というものです。

これで20センチF5で、ほぼ10分ぐらいで安定します。

上空気流は、見て悪ければ網戸の網で自作した
「アポダイジングマスク」装着によりコントラストアップと
悪シーイングのキャンセル効果で良像を得る、
という方法です。(惑星面模様に効果抜群です。)

アイピース対決、 λ魂SR-4mmに期待ですね。
3000円ぐらいで限定販売してください。
高精度シングルレンズもわくわくしますね。

Lambda さんの投稿…
望遠馬鹿さん,コメントありがとうございます!

Cチャネル木製鏡筒での温度順応対策、イイですね。
木の場合は、外側が放射冷却で冷えても内側には伝わりにくくて、また、四角い形状のおかげで冷えた空気が壁づたいに四隅に降りてきそうで、筒内気流抑制によさそうです。

そして「アポダイジングマスク」。
焦点外像と画像のFFTを眺めながらちょうど漠然と考え始めていたところでした。
特に低空で起きている悪シーイングは焦点内外像の部分部分に現れるので、マスクの効き目がありそうです。

※λ魂SR-4、ご興味いただいて嬉しいのですが、製作労力が思ったよりも馬鹿にならなくて、対応は難しいというか無理でございます(レンズのコバ塗りと、表裏管理しながらの組付けが神経つかうんです)。。