【観望】冬の散開星団の多様な愉しみ

倍率によって違った表情を楽しめる冬の散開星団の個人的なゆるーい感想です。

 冬の夜空は散開星団の宝庫で、プレアデス(M45)、ヒアデス、プレセペ(M44)と、ビッグネームが並びます。(※記事の末尾に、冬に楽しめる主な散開星団を添えてあります。)

 撮影対象としてはあまり人気がない感もなきにしもあらずの散開星団ですが、個人的には眼視で楽しむのがとても好きな対象です。近頃は撮影の合間に、AZ-GTiに載せた150SL鏡筒(15cm F5ニュートン)で星団を観望することが多いです。比較的光害の多い場所からでも、眼視で結構楽しめる対象だと思います。

 こうした観望で使う機材は個人的な好みによって様々で、楽しみ方は十人十色だと思います。それゆえ色々な組み合わせを試してみるのが面白く、双眼鏡や各種機材をついつい増やしてしまう原因でもありますが、増えてしまった機材を存分に試すのは楽しいものです。

 様々な鏡筒・アイピースの組み合わせが考えられる中で、倍率によって表情を変える冬の散開星団について思うところをまとめてみました。
ぎょしゃ座(Auriga)の散開星団、M37
粒が揃った微光星が、「仄かに」しかし「多くの粒に見える」姿が大変美しいです。
(SE200N CR + EOS kiss X5 + Astronomik UHC にて自宅庭から撮影, 2020.1.2)
※フィルター着けっぱなしのせいで色がちょっとおかしいのはご容赦ください。

■ 倍率で変わる星団の表情
 古来より、「星雲・星団の観察は低倍率で。」という宗教が世の中の主流を占めているようには思いますが、私はこれに異を唱える異端教徒です。倍率を上げて楽しむ星雲星団の世界もあるわけですし、もちろんグッと倍率を下げた双眼鏡で楽しむ世界もあります。

 倍率によって星雲星団の表情は変わり、しかもそれぞれ美しい、というのが私のゆるーい見解です。

 中でも、散開星団は「相手が恒星なんだから、倍率を上げたって星団がまばらに見えるだけだろ」「星がかたまって見える双眼鏡や、低倍率が一番」と、子供の頃は思っていました。
 しかーし。最近になって、それは入門書に洗脳されていただけだった、と思うようになってきたのであります。(好みはあると思います)

 端的に言うと、倍率を上げていくと星々が分解されやすくなるのと同時に、(特に光害地では)限界等級が上がってより多くの微光星が見えるようになり、背景が黒くなって見た感じの美しさの種類が変わるのです。
 逆に、低倍率には低倍率の良さがもちろんあって、それは星像の小ささと星団の密集度を濃密に楽しめるという点です。

 ちなみに、入門書には「恒星は倍率を上げても大きさが変わらず点にしか見えない」ようなことが書かれていることがありますが、これは誤りです。確かに恒星は点光源に違いありませんが、それが点に見えるくらいなら苦労はしません。
 実際には、回折限界の「エアリーディスク」や「回折環」が見えていて、これは倍率を上げればそれに比例して大きく見えます。口径(cm)の2.5倍の倍率以上では視力1.0でエアリーディスクが点でなくなるわけですし、明るい恒星では周囲の回折環も見えているのでもっと大きく見えます。(注: 恒星の実際の大きさが見えているわけではありません)
 さらに言うと、「限界等級は口径で決まる」というのも微妙なものがあります。特に光害のある市街地では肉眼の瞳径は意外と小さいので、最低倍率付近では口径を無駄にしていて、倍率を上げていくとより暗い星まで見えるようになってきます。

 ですから、低倍率では星が点のように見える一方で暗い星の検出には弱く、高倍率では星はやや広がって見えるものの暗い星まで見えてくるようになります。また、倍率によって星と背景とのコントラストは変わったりはしないのですが、倍率が上がると背景が黒くなっていきます。

■ 実際の星団の見え方(感想)
 例えば私の手元にある8倍42mmの双眼鏡では、冬の星団の代表格「ヒアデス」を視野の中に収められますし、「プレアデス」の星々が分解されながらも青白いカタマリとして感じられて、美しい眺めです。また、写真のM37のように密集した星団も、冬の天の川の中の多い星数の中に埋もれながらも、隣にあるM38星団と同一視野で存在が分かり、大変美しいです。更に低倍率のWIDEBINO(2.3倍)では、星座との関係が分かってこれまた美しいのですが、星団そのものはとても小さなカタマリとしての見え方になってきます。
 16倍70mmの双眼鏡を使うと、プレアデスの中に見える星の数が増しますし、写真のM37などもややボヤっとしたカタマリながらも星団ぽく見えるようになってきて、小さい双眼鏡とは違った美しさになります。背景の天の川を構成する星々も、より暗い星が見えてきて、思ったほどにはまばらにならない印象です。
 いずれも、星像は限りなく点です。こうした「広い視野でどの星々も点に見える」双眼鏡は、確かに星を美しく見ることのできる素晴らしい道具だと思います。

 さて、望遠鏡を使うと、星々が分解されてくるのが大変美しく感じられます。
撮影の傍ら、AZ-GTi+150SLで色々眺めています。
影ができるような光害地ですが...
 
私の15cm F5に35mmのプロースルをつけて有効最低倍率(21倍)にすると、プレアデスも視野内で星々が非常に小さな点のように見えて、青白い色が印象的です。M37のように密集した散開星団も、カタマリでありながらもこれが星の集まりなのだと分かる美しい眺めになってきます。このような最低倍率近辺では、針でつついたような小さな星像と、その密集度との対比が美しいなあ、と個人的には思うのです(どの口径でも)。

 もう少し倍率を上げて、口径(cm)の2~2.5倍くらいの倍率(15cmF5鏡では20~25mmくらいの広角アイピースをつけて30~40倍程度)にすると、プレアデスなどはだいぶばらけてきますが、周囲の暗い星が見えてきて最低倍率とは違う美しさです。特に80°や100°の超広視界アイピースを使うと、この倍率ならけっこう実視野も広いですから、対象の星団が宇宙の中にある姿を拝んでる感覚がします。

 更に倍率を上げて、口径(cm)の3~3.5倍程度の倍率(15cmF5鏡では15mm前後の広角アイピースで50~60倍前後)にすると、いよいよ恒星が点ではなくやや広がりを持って見えてきますが、密集した星団が良く分解され、暗い星まで良く見えてきます。見掛視界80°を超える超広視野アイピースで50~60倍程度にすると星団全体も視野に完全に収まりますし、星も分解されて圧巻です。こんなに暗い星もあったんだ、と、光害地からでも感動するのでした。個人的には大変好みの倍率だったりします。

 もっと倍率を上げて口径(cm)の5~7倍程度の倍率(15cmF5鏡では7~10mm前後の準広角アイピースを使って75~100倍程度)にすると、それでもM37などの場合は星団の集中部は視野に納まります。恒星も完全に点ではなくなり、ほのかに見える微光星が存在感を示しながら分解され、背景も黒くなってきて大変美しい眺めになります。
 同様のことを20cm F5鏡でやると倍率は100倍を超えますが、M37にしても二重星団にしても、星の分解のされ方が昭和時代の東京タワーのイルミネーションを仄かにしたような感じで、低倍率とは違う美しさがあるのでした。人間の眼はCMOSセンサーと同じではなく、少し面積を持って見える対象に存在感を感じるのだということを再認識させてくれます。
 ちなみに、かつてメシエが望遠鏡で観察していた時の倍率がこの程度です。

 更にもう一歩踏み込んで口径(cm)の十倍を超える倍率にしてみても、見掛け視界が広角ならば、また違った趣きがあって面白いです。20cm F5、250倍で散開星団を眺めると、あたかも重星分離のような倍率ながらも思ったよりも多くの星が近接して見えたりして楽しいです。
 倍率は依然として望遠鏡の重要な性能指標だという意見はあり、私もこれに賛同します。
ペルセウス座(Pereus)の散開星団、h-χ
秋の星団、という説もありますが,北天なので冬も楽しめます。
(SE200N CR + EOS kiss X5 + Astronomik UHC にて自宅庭から撮影, 2019.11.9)
 
このように、アイピースや鏡筒を変えてを変えて星団を眺めていくと、「いままで見たことある」と思っていた散開星団も違う表情を見せてくれるんじゃないかと思います。

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■ (付録)主な冬の散開星団

(まばら系)

・おうし座(Taurus)のヒアデス、プレアデス(M45)
・おおいぬ座(Canis Major)の M41
・かに座(Cancer)のプレセペ(M44)

(密集系)
・ふたご座(Gemini)の M35
・ぎょしゃ座(Auriga) M36、M37、M38
・とも座(Puppis) の二重星団 M45、M46
・ペルセウス座(Perseus)の二重星団 h-χ
・かに座(Cancer)のM67

こうしてみると、天の川の中心じゃ無い側(つまり冬)には、散開星団が豊富だなあと思わずにはおれないのです。

コメント

Nick さんの投稿…
Lambada様、初めてコメントいたしますNickです。
散開星団の目から鱗の観望方法ご提案ありがとうございます。今まであまりアイピースを交換せず見ていましたが倍率を変更して中心部とか観察してみます。高倍率での散開星団は多重星のあつまりですね。 また観望の楽しみが増えました。 ありがとうございます。
Lambda さんの投稿…
Nick様、はじめまして。コメントありがとうございます!

私も、この年末年始にじっくり楽しむ機会があって、改めて散開星団の美しさを認識したところでした。

観望に使った15cm鏡は小学生の頃から使っているものですが、倍率を変えたら、よもやこの歳になって新たな世界が広がっていようとは思っていませんでした。

私は大口径でのさらなる別世界は未体験ですが、きっとまた違う表情が見えるに違いないと思っています。いずれそういうのも堪能していきたいと思っております。