惑星「撮影」2021年 夏の陣 - ②撮影編

惑星撮影の「撮影編」を、前回の機材編に続いてまとめてみました。「いいシーイングだな」と思った時に、その感動を気軽に写真に収められるのは楽しいものです。カラーカメラによるお気楽撮影とはいえ、撮影の際の留意事項は結構あるので、順を追って書き出してみました。なお、今回もあくまでも後で自分が思い出すための備忘録にすぎません
 惑星撮影は、なんのかんのと言っても結局は撮影のと時点で勝敗が決まってしまうような気もします。下準備やピント合わせ、露光時間の決め方など、なにかのヒントになればとは思います。
※なお、画像処理についてはスタッキング編デローテーション&ウェーブレット編にまとめています。
 
ハイリゲンシャイン効果で環がひときわ明るい土星
Data: 2021.8.3 23:48-00:02 (衝の翌日)
20cm F5 newt. / Powermate 5x / ADC (total F39) / SV305(IMX290)
Exp. 18ms / Stacked 45% of 28,800frames

■ 極軸合わせ
 惑星撮影における極軸合わせは、けっこう重要です。ちゃんと合わせないと、撮影している間に狭い視野から対象がどんどん逃げていってしまって面倒くさいからです。昼間のうちに極軸望遠鏡をよく調整しておくことも肝要です。
 極軸合わせが面倒くさい場合にはオートガイダーを使う手もありますが、PCがもう一式必要になります(一台のPCでガイドと撮影を両方行うと、肝心の転送速度の妨げになります)。

■ 光軸調整(特にニュートン反射)
 ニュートン反射の光軸調整は視野の広い眼視ではレーザーコリメータを使った調整でも概ね出来上がりなのですが、極小の視野内で最良の光軸のポイントを得るために、私は恒星を使って毎回確認&再調整することにしました。これをやるには、それなりの剛性のある架台と、主鏡の調整ネジの先端球面化が必要です(SE200N CRは、幸い調整ネジの性能はOKでした)。そうでないと、少しネジに触ると恒星は視野の外で、大変面倒です。
恒星での光軸調整
 自動導入アライメントやファインダーの微調整の前に、まず光軸調整を行うことが肝要です(やり直しになるから)。アライメントスターを導入した直後に光軸調整し、その後にアライメントを完了させると能率が良いです。
 方法は、拡大された恒星像とその回折像をモニターに映し出しながら、尾を引いているように見える恒星の「尾の方向に星がずれるように主鏡の調整ネジを動かし、恒星が視野中心に来るように架台を動かす」ことの繰り返しです。エアリーディスクを中心に全体が対称になるまで繰り返します。

■ 対象の導入
 対象の導入や修正を容易にするために、高倍率もしくは電子ファインダーをよく合わせておくことが肝要です。私は、自動導入アライメントの際の恒星を使ってファインダーも精度良く合わせるようにしています。ファインダーの光軸は30秒角くらいの精度が必要ですので毎回再調整しています。
 電子ファインダーは、ガイド鏡を流用してSharpCapのレチクル機能を使って実現できます。レチクルボタンはウィンドウ右上にあり、画面上をクリックすると十字線の中心を変えられます。ShaprCapはカメラを切り替えて使うこともできますので、一台のPCでファインダーと主鏡を切り替えての使用も可能です。

■ ADCでの色ズレ調整 (ニュートン反射用ADC水平早見盤)
 大気分散による色ズレを補償するADCでは、地面の水平と補正の方向を合わせることが肝要です。屈折望遠鏡やカセグレン系鏡筒であれば倒立像なだけですので、水準器などを使って合わせることになります。
 問題はニュートン式反射です。鏡筒回転に伴う接眼部の向きによって、視野の中のどこが水平かなんてサッパリ分かりません。赤道儀だと尚更で、子午線フリップなんてしたら全くわからなくなります。

ニュートン反射用ADCの水平調整治具
ドローチューブ鉛直測定版
(使用方法)
 そこで、ニュートン反射の鏡筒の向きに依らず簡単にADCの水平出しができるADC水平早見盤を開発してみました。これは、パソコンで描いた方位目盛を印刷してダンボールに貼り付け切り抜いただけの物体で、「ドローチューブ鉛直測定板」と「ADC方位調整板」の2枚組から成っています。

 まずはじめに錘がぶら下がった鉛直測定板を使って、鏡筒の向きや回転に伴って変わる「ドローチューブ基準の鉛直方向」を読み取ります。測定板にはプラス方向を示す矢印が描いているので、鉛直の「正負方向」と「角度」を読み取ります。

ADC方位調整板
(使用方法)
 続いてADC方位調整板を接眼部にあてがい、調整板の水平線(矢印が描いてある方向と直交)と鏡筒の方向が合致するようにします。こうしたときに、先ほど鉛直指示板で読み取った鉛直方向をこの方位調整板上にあてはめると、その方向が視野の中での鉛直方向になります。これを基準にADCを回転させれば、水平出しは完了です。

 あとはADCの補正量を調整すれば完了です。このときに画像取り込みソフトの表示の"Saturation"を最大にして表示させたり、あるいは露出過剰にしてプレビューすると、色ズレが可視化されて調整がし易いようです(RGB24でプレビューしておく)。
 なお、新しい SharpCap(4.0) には ADCの色ズレ方向をも示してくれる機能があるようですが、なぜか私の環境では途中でハングアップしてしまうので、今後に期待です(この機能が動作すれば、早見盤は不要かもしれません)。

■ ピント合わせ
 ここは惑星撮影のキモだとは思うのですが、実は私も明確な答えを未だ持てていません。「シーイングのゆらぎがある程度よく見える」ところにジャスピンがあるように思えます。ゆらぎが最も見えるところは、大気の揺らいでる層にピントが合っていて、ジャストではないようにも思えるときがあります。
 結局のところ、ピント合わせは土星であれば「カシニの隙間の手前側」、木星であれば「ガリレオ衛星の輪郭と回折環」の写り具合を見てジャスト位置を探っています。

 なお、キャプチャソフトのピント合わせサポート機能ですが、私は十分には使いこなせておらず、説明するだけの知見がないのでありました。

ピント合わせ直後の様子
(手前側に微かに見えるカシニを見ながら調整しました)

■ 露光時間
 シーイングの影響排除の観点で露光はなるべく短くしたいわけですが、得られる階調情報とのトレードオフが悩みどころです。露光を短くして画像が暗くなると、輝度最大と最小の間の段階(階調)が少なくなってしまい、1枚の画像から得られる情報量が減ってしまうのです。短露光時間化はハードディスクを"0"で埋め尽くしたり総露光時間を伸ばさせる側面もあり、無闇やたらと短い露光時間にはできません。

 暗く写して最大輝度を半分にすると情報量としては1bit欠けるわけですが、この1bitをスタックでリカバーするには撮影枚数を2倍にしなければ同じS/N比になりません(情報が欠けた分だけノイズが目立つようになる)。
 しかし、露光を伸ばしてシーイングのせいで失われる解像度はスタックでは回復しませんから、輝度レンジ一杯まで露光時間を伸ばすのも得策ではなく、ジレンマがあるわけです。

 結局のところ私が取っている妥協策は、次のようなものです。
 ・ゲインはデジタルゲインが効かない範囲で最大に設定。
 ・輝度レンジ全体の 1/4くらいを使う輝度になるよう露光時間を調整。

 輝度レンジ全体の 1/4を使用とすると2bit欠け相当ですから、12bit AD変換の IMX290では10bit相当で撮ることになりますが、ここを諦めるというのが私なりの妥協点です。

 結果として、木星で 4~10ms、土星で15~30msくらいの露光時間(注)で撮影しています。シーイングが良い日は長めの露光として情報量をかせぎ、イマイチな日は短くしています。自転をあまり気にしないなら、土星はもっと露光時間を短くして枚数を稼いだほうが解像度が上がる可能性はあります。もちろん、光学系の合成Fやセンサの画素サイズとの兼ね合いもあります(機材編参照)。
 この観点で、拡大率を上げすぎると露光時間が長くなりがちで不利にもなりますので、使用する光学系の組み合わせと併せて良好なところを探ることになりそうです。

注: 私は、IR/UVカットフィルターを外したカメラを使用しています。このため、通常のカラーカメラを使った場合よりも露光時間は短めで済んでいます。一方で、フィルターレスの場合は色合いの調整に後処理で多少苦労します。

■ 画像取得の設定 (SharpCap4.0)
 画像取得で特に気をつけているのは、次のポイントです。

ROI (Region of Interest; 矩形切出領域)の設定
 対象の周囲を切り出して、画像を保存する範囲を狭く限定します。この設定で範囲を狭くしておくと、転送速度を稼ぐことができて惑星撮影には有利になります。あまり狭く設定しすぎると、撮影中に惑星がはみ出して面倒なので、適切なところにとどめます。

取り込み形式
 まず、保存形式を SER に設定します。AVIなどでは、12bitの多階調を活かすことができず、せっかくの情報が落とされてしまいます。
 AD変換のビット数を最大に取れる設定にすることがMUSTです。私のSV305カメラでは、取り込み時には「RAW 12」を選択しています。プレビューに使う「RGB24」は要するに8bit(×3)ですので撮影枚数4倍分に相当する情報が捨てられており、フレームレートは稼げてもSN比としては必ずしも有利にはなりません。

転送速度とプレビュー
 USBの転送速度が最大であることを確認しておきます。また、撮影時のプレビューはディベイヤーなどは行わず、モノクロのままにしておきます。リアルタイムでのディベイヤーやカラー表示が転送速度の妨げになる場合があるからです。

撮影開始(撮影枚数の設定)
 一気に数万フレームを撮ったりはしません。1まとめの撮影で30秒から1分くらいになるよう分割します(私は1200framesに設定しています。PCの性能によって一度に撮れる枚数は変わると思います。)。欲張って一気にたくさん撮ろうとすると、途中からHDDへの書き出しが始まって転送速度(fps)がガタ落ちになります。最初は、こうしたfps低下が起きないかどうかをよく見ておきます。

 また、インターバルは 0秒とすると中断ができなくなるので、2秒くらいにセットしておきます。

 こうした分割撮影は、後から惑星の自転の影響をデローテーションで補正しようとする場合にも有効です。

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同じ鏡筒でも、周辺機材と撮影時の気遣いで結果は随分変わってきます。

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 惑星は、観測した年や日によって違う表情が変わることも楽しみの一つかと思います。木星は毎日どころか時刻によっても自転でどんどん変わっていきますし、模様も日々変わっています。土星の環も年々の傾きの変化もあれば衝の前後でのハイリゲンシャイン効果など、見どころもあります。
 大昔とちがって惑星撮影の敷居も随分下がり、得られる画像も昔の大望遠鏡での写真のようになってきていますので、楽しみがいのあるジャンルではないかと思います。

次回「画像処理編」も書き残してみたいと思います。

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コメント

Yocchan さんの投稿…
ニュートン用のADC用補正版は発想です。
ネットで探してもニュートンの合わせ方がどこにもなかったのでADCを購入するのをあきらめていましたがこういう方法があるとはさすがです。

これ見ちゃうとADCが欲しくなってきました。

20cmF5で撮った土星はしっかり解像して素晴らしいの一言です。
Yocchan さんの投稿…

全コメントに誤記がありましたので追記します。


ニュートン用のADC用補正版は素晴らしい発想です。
ネットで探してもニュートンの合わせ方がどこにもなかったのでADCを購入するのをあきらめていましたがこういう方法があるとはさすがです。

これ見ちゃうとADCが欲しくなってきました。

20cmF5で撮った土星はしっかり解像して素晴らしいの一言です。
Lambda さんの投稿…
Yocchanさん、コメントありがとうございます!

ぢつは私もニュートンがゆえにADCを諦めかけていたのですが、ようやく活用の算段がついたところでした。

口径が大きくなるほど大気分散の影響は顕著に見えてしまいますから、30cmならなおのこと威力を発揮するんじゃないかと思います。

ほかにも、更に簡単な(?)方法としてこういう方法を採られている方もおられます。
どちらが楽かは微妙ですが、ニュートンでの対策は皆様頭をひねっているようです。
https://www.youtube.com/watch?v=1Fkpu7jmGno