2021年の夏は好シーイングに恵まれ、ネットでも凄まじい木星・土星の写真を見るようになりました。特に梅雨明け直後の 7/16から一週間くらいの気流の状態は素晴らしく、アイピーステストのときにはまさにネットで見る高精細写真のような惑星の姿に、私も大いに感激しました。
さて、素晴らしい像を見てしまったら写真に残してみたくなるのは人情というものです。惑星撮影の経験では、「眼視で見えてるのよりもよく写すのは大変」というのが正直な感想です。昨年の火星接近の折にも、確かに見えている模様やグラデーションが、写真では表現できないということがよくありました。
この記事では、この夏に再チャレンジしつつある惑星撮影について備忘録として書いてみたいと思います。ちょっと長くなるので、道具立てを記したこの「機材編」のほか、撮影時のノウハウなどの「撮影編」、そして「画像処理編(スタッキング編+デローテーション&ウェーブレット編」の3編に分けて書いてみます。
※こちらはあくまでも個人的な機材のチョイスと、備忘録としての撮影方法などを記録したものです。決して唯一無二の完成された方法というわけではありません。ご了承下さい。
惑星シーズンには、眼視・撮影共に楽しめます data: 2021.7.24. 02:24JST, 20cmF5 newt. / Powermate 5x / ADC, SV305 (filter less) / gain300 / 10ms / stacked 68% of 8000frames |
■ 光学系
私が使用している一張羅の20cm/F5 ニュートン鏡筒はまずまず惑星撮影も楽しめる万能機ですが、それなりによく撮影しようと思うと光学系にもいくつかの神器があるとラクなようです。この辺りは、その昔少年の頃に挑戦していた昭和の時代から様子が大きく変わっていました。
① バーローレンズ
拡大撮影は昔ながらのアイピースを用いた投影法も勿論可能なのですが、画質をはじめいろいろ考えると、なるべくレンズの枚数が少なくて焦点位置から離れたところにレンズを置くのが有利に思えるので、私はバーローレンズを使っています。
バーローも色々種類がありますがADCの使用を考えると、付加光学系によって倍率がかわりにくいテレセントリック設計のものがラクではあります。一般的にバーローレンズというのはレンズとセンサー(やアイピース)の間の距離に比例して倍率が上がります。ADCはバーローレンズの後段に入れることになりますので、ADCが入って拡大率が上がることを見越してバーローの倍率を選ぶとよいと思います。この記事の木星写真の拡大率から逆算すると、テレセントリックなPOWERMATE 5xにADCをつけたときでも焦点距離の倍率は5倍ではなく 7.8倍になっていました。
なお、バーローレンズには失敗体験(*)もある私としては、当ブログの趣旨からの逸脱もやむなしとしてTeleVueのPOWERMATE(5×)を使用しています。なお、中国製の格安バーローも3種類ほど購入してみましたが、いずれも良好な性能にはなり得ない仕様でした(「三枚玉アポ」と書かれていても「単凹レンズ3枚入」だったりとか(笑))。
*私が情報を入手した範囲では百発百中で不良だった2インチEDバーローですが、最近のものは必ずしも不良ではないようです。販売店のシュミットさんは、またま売りに出ていた1本についての私の問い合わせに対してた調査くださり、ニュートンリングの崩れた不良品ではなかったとのご回答を下さいました。
2”-1.25”アダプタ、バーロー、ADC、カメラを組んだもの (カメラ以外エコノミーじゃなくてすみません…(反省)) |
② 大気分散補正プリズム(ADC)
なくても撮影可能ですが、あると解像度をだいぶ改善できるようです。私はPierroAstro社のADCを使っていますが、手頃な価格のものとして有名なものはZWO社のADCだと思います。(Pierro Astro社のADCは1/10λの面精度や回転と補正度合の独立した調整機構などがウリということで、昨年の火星のタイミングで酔った勢いで発注してしまったものですが、悲しいかな、納入は冬だったというものです。)
ADCは回転方向の位置合わせがキーで、赤道儀に載ったニュートン反射ではここが鬼門になり、目視で合わせるのはなかなかの難しさが伴います。この問題に対しては解決策を編み出しましたので、試してみた上で別途記事にしたいと思います。
③ 微動合焦装置(減速装置付きフォーカサー)
惑星撮影でのピント合わせは、主鏡Fの直焦点と同じシビアさになります。微動装置がないと辛いところと思います。私は、SE200N CR に後付しています。できれば、電動フォーカサーがあれば更にお気楽だとは思います。
④ 精度の良い1.25"スリーブ
小さいカメラや細長いバーロー、そしてADCなどを組み合わせると結構な長さになります。こうなってくると、これらを差し込む部分のガタによる光軸ズレが気になるところです。このため、なるべく精度が良くて(穴とのクリアランスが狭くて)剛性の高いスリーブがあるとラクです。
私は、たまたまヤフオクに格安で出ていたTeleVue社の2"→1.25"アダプタを入手して、これを惑星撮影用に愛用していますが、クリアランスが少なくて快適です。
⑤ 高倍率 or 電子ファインダー
レチクル付アイピース X-Y微動付きのスグレモノ |
私は7.6cmの望遠鏡をニュートン反射式ファインダーとして使い、XY微動と暗視野照明レチクル付きのガイドアイピースにCelestronのバーローレンズ(2×)をねじ込んで約50倍のファインダーとしています。
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この他にも、筒内気流対策やニュートン反射の最外周主鏡マスクなども惑星観察&撮影には効き目があるところですので、気になる方は試して見るのも良いと思います。
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■ 撮影用カメラ
2021年現在、天体撮影用CMOSセンサーはSONYのIMXシリーズがメジャーとなっています。私は惑星用には、IMX290LQRを搭載したSVBONYのSV305カラーカメラを主に使用しています。約1万5千円ほどで買えてしまう安いカメラですが、十二分に実用にはなっています。このカメラの弱点は、接続がUSB2.0であるために転送速度が遅いという点です。惑星撮影はFPS勝負の側面が強いのでUSB3.0で転送速度が速いカメラの方がよいとは思います。
昨今では、赤外粋に感度が高いカメラもありますし、高精細に撮れるモノクロカメラも充実しています。使っている光学系との間でベストマッチングを探すのがよいと思います。
こちらはモノクロセンサ搭載の SV305M Pro |
惑星を撮影する際のカメラ選びの興味は、解像度と感度ではないかと思います。私は、カメラを選ぶ上では「惑星像のサイズ」と「露光時間」を参考に考えるようにしています。
惑星像サイズと露光時間はトレードオフの関係になります。惑星撮影ではシーイングの影響が大きいのでできる限り速いシャッタースピードが望まれる一方で、解像度情報を稼ごうとするとそれなりの大きさの惑星像が欲しくなります。惑星の観察や撮影では、望遠鏡のスペックに言う「分解能」よりだいぶ細かい模様を見ることになりますので、分解能の数値やエアリーディスクのサイズそのものはあまり参考にはなりません。
惑星像のサイズ[pixel] = 4.85 × 視直径[秒角] × 焦点距離[m] ÷ 画素ピッチ[μm]
(注:焦点距離はメートルです。視直径は木星が約45秒角、土星本体が19秒角です。)
また、露光時間に対しては F値÷画素サイズ[μm] の値が決め手です。これは「デジタルF値(DF値, 仮称)」とでも言うべき値で、露光時間はこの2乗に比例します。
例えば5,000mm/F25の光学系に2.9μm画素のSV305を使った場合の45秒角の木星は 376ピクセルに写ります、このときのデジタルF値(DF値)は 8.6となります。ここで例えば拡大率を上げて8,000mm/F40として画素がやや大きめのIMX224(3.75μm)を使うと、木星は476ピクセルに写ってDF値は10.7となり、露光時間は約1.5倍必要になる計算です。
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惑星撮影も星雲星団の撮影と同じように、かつては困難だった高精細での撮影が可能になり、眼視で見えている感動を写真に残せるようになってきたところが魅力かと思います。画面に映るモニタ用の像も大きくて大迫力でなかなか楽しめる対象です。この惑星シーズン、チャンスは多くないですが、楽しんでみたいところです。
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