夜露対策 「一ノ段:冷却防止」

乾燥剤の面倒から逃れる望遠鏡の夜露対策にチャレンジ中です。
 前回の遠征で夜露による撮影大惨敗を喫したからには、その時の体験を対策に活かさない手はありません。反射望遠鏡では安易にはヒーターで対策しづらいので、熟慮が要ります。
 世の中を調べてみると、天体撮影での現代の夜露対策は乾燥剤&ポンプ方式が主流であるようで、夜露自体はこれで対策できます。しかし、ゆるーくやっているワタクシには、どうにもシリカゲルの再生や交換が面倒臭く感じられて取り掛かれておりません。パーツ保管に使ってるシリカゲルですら、あちこちに散らばりがちなシリカゲルの粒粒鬱陶しく感じてたりする無精者であります。ハハハ。。

 まあしかし、はるか昔の学生時代にその名も"Drying technology (熱・物質移動)" なる講座でインド人の高名な老師から秘術を伝授された身としては、ここで長年の封印を解き、秘奥義を以て夜露を葬らないわけにはいきません。

■ 結露対策三段構え

色々考えた結果、乾燥剤再生・交換の面倒臭さからの解放を実現しつつ、天体撮影時の結露を抜本的に防止する処方箋として、三段構えの対策を考案しました。

一ノ段: 結露の原因、冷却を防ぐパッシブな対策
二ノ段: 完全乾燥剤レスで除湿するアクティブな仕掛け
三ノ段: 乾燥剤でのラクラクメンテを実現する除湿法

上手くいけば、一段目と二段目の対策で完結して完全な乾燥剤レス化も夢じゃない⁉︎とか妄想しております。三段目まで要したとしても、シリカゲルのツブツブを交換する鬱陶しい作業からは解放される見通しです。

放射冷却対策で銀色シートを巻いた鏡筒(宇宙探査機風になりますね)

■ そもそもの、夜露がつくメカニズム

なぜ、鏡筒やレンズが結露するのか、といえば、それは「放射冷却で鏡筒やレンズが冷えるから」です。冷えたところに湿った空気が触れると結露するのは、ビールの缶が汗をかくのと同じ道理で、空気中の水分が凝縮して液体になるという話です。
 なので、まず"一ノ段"では放射冷却を断って根本対策を施すことになります。
 放射冷却というのは、物質の表面から熱が電磁波(遠赤外線)で空間に逃げることで起こる冷却現象です。ですから、遠赤外線が逃げにくい表面の状態を作ったり、逃げた遠赤外線が反射して戻って来るようにすれば対策になります。ちなみに、曇りの日には空から放射されて来る熱があるので放射冷却は小さく、夜露での結露は起こりません。スカッと晴れた天体撮影日和ほど、夜露問題は起こりやすくなります。
 どういう表面が放射冷却を防ぐのに良いかというと、それは放射率の低い表面ということになります。放射率と反射率と透過率を足すと必ず1になる法則があるので、つまるところ反射率の高い表面がいいことになります。このため、一般には金属は放射率が低くなっています。
 参考までに放射率の順番からすると、夜露の付きやすさは「プラスチック≧塗装された金属>アルマイト>>金属表面」ということになります。思い返せば、あの惨敗の夜は鏡筒表面からも夜露が滴り落ちていましたが、ピカピカの金属表面が露出している三脚のパイプが平気だったのは、そういうことです。
 つぎに、材質ではなく表面が大事だというのもミソです。鏡筒には塗装がなされているので、材質は金属でも放射率は塗料のものになります。そして、樹脂塗料は非常に放射率が高い(1がMAXのところ、0.9とか)のです。
 そして大切な法則に、放射率イコール吸収率というものがあります。鏡筒は外側が樹脂塗料によって放射率が高くイイ感じに冷やされるのですが、鏡筒の内側も漆黒の塗装によって吸収率もMAXになっています。こうなると鏡筒内壁は、斜鏡から飛んでくる遠赤外線を吸い取って冷やす宇宙空間と化していたわけで、要するに斜鏡はフードも何もない裸の状態で曝されているようなもので、フードを筒先につけても頭隠して尻隠さず状態にしかならないというわけです。こうなった鏡筒に空気が入り込むと、内部の物体表面で湿った空気が冷やされながら結露を生じさせます。ちなみに、コマコレクターは主鏡から反射されて遠赤外線が戻ってくるためか、あの日も全くの無事でした。

■ 一ノ段: 放射冷却を阻止せよ!

斜鏡周辺に銀色シートを巻いた鏡筒
放射冷却を止める、というと思い浮かぶのは銀色のシートです。正解です。
これを活用したフードはよく見かけます。放射冷却に対しては、黒いフードより10倍くらい効果が高い勘定です。
 しかし、問題は対策する場所です。一般には、筒先を延長する形でフードをつけるのを見かけます。確かに、筒先から逃げていく遠赤外線もあるので筒先フードによってこれを防ぐ効果があります。しかし、やはりどう見ても熱が逃げていく本丸は鏡筒表面で、ここへの対策が筒先よりも効果大だということは明らかです。
 したがって、一ノ段の対策は、鏡筒、それも斜鏡付近の筒に銀色シートを巻く、というものです。「え~!?ホントかよー、、」と、私自身も感じないことはないのですが、原理から考えると通常のフードよりも効果が期待できるわけで、この対策だけで十分な日は多いかもしれません。頑張って銀ピカの三脚程度に結露が抑えられてしまえば、乾燥空気すら必要ないというわけです。

■ 夜露対策におけるシートの選定

今回使った銀色シートは、たまたま自宅にあった建材用のシートですが、効果だけを考えると防災・防寒用のやつの方がいいかなあとも思います。安いですし。
 また、今回巻いたシートは薄手の物です。よく天体用フードで見かけるのは、銀色のラミネートが発泡ウレタンなどの断熱材に貼り付けられたものですが、放射冷却対策という観点ではイマイチです。
 鏡筒は放射によって冷やされますが、空気によってはむしろ温められています。つまり、冷えるのを防止するという観点からすると、放射冷却は銀色で防ぎつつ空気からの伝熱は促進したほうが効果が高い、ということで、薄手の銀色シートが選択肢になります。
 そういうわけで、SE200N鏡筒とガイド鏡のフードにこの対策を施して"一ノ段" の核心部分はひとまず完了、です。

■ 主鏡のシースルーは慣らし後に塞いだ方がいい

シースルーの裏ブタ(段ボール製)も表面を銀色に
ちなみに、筒の奥地にある主鏡は影響を受けにくい状態にはあります。湿気は空気より軽いですし、冷たい気体は重いですから、基本的に筒先から主鏡にたどり着く空気はやや水分が抜けた冷たい空気ということになります。
 それでも主鏡が曇ってしまうのは、シースルー構造によってドライな空気が流失して、湿った空気がどんどん流れてくるからです。シースルーに蓋をするという対策は有効で、このことは先日の惨敗時にも効果が確認できています。
 筒内気流の観点からも、温度慣らしを終えたらシースルーを塞ぎ、むしろ主鏡は保温して必要以上に冷えるのを防止して筒内流動を防いだ方が良像を得る意味でもよさそうです。

■ 銀色シートはパーツ類にかぶせておくとgood!

 ちなみに、夜露は鏡筒だけでなくてパーツ類にも降りてきます。特に、天体関係のパーツは「なぜか他のものより夜露が付きやすい」と感じたりしませんか?だいたいが黒塗りしてあって放射率が高いからです。あと、プラスチックのケース類も放射率が高くて夜露にやられがちです。プラケースの蓋を閉じていても開けた瞬間すぐにじっとり汗をかいてしまうのは、鏡筒と同じでケース自体がパーツからの遠赤外線を吸収して中を冷やしているからです。
 そこで、銀色シートを風呂敷のようにパーツにかぶせておくと、そこに夜露が降りるのを防止することができますし、パーツも無駄に冷えないで済むので、取り出してもすぐには結露しないことになります。

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さて、夜露対策は、この一ノ段の対策で完結してしまう可能性もなきにしもあらずですが、この対策は「ついてしまった夜露」には無力です。そこで概ね設計は完了している二ノ段の対策(除湿)も、暇をみつけて製作してみようと思っています。
「完全乾燥剤レス」の夢の行方…はたしてかなうかな・・??
(ご紹介できる日がいつになるかは不明です)

※ちなみに、昨夜は透明度の悪い夜だったせいか大した結露が起こらず、効果確認には至りませんでした。

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※夜露対策の関連記事は下記にあります。
一ノ段:銀色シート包みで放射冷却を防ぐ
二ノ段:乾燥剤不要で乾燥空気を作り出す
三ノ段:"B型"シリカゲルで加熱処理が不要に



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コメント

山口のじぃ さんの投稿…
こりゃ楽しみな実験で、ガスぅ!
Lambdaさんの理にかなった工作に期待大ッ!!
これがうまくいけば、天体撮影の世界を変えますね!
私はLambdaさんを信じて既にシート探しをしてます!
はっははははっははっは!!
二ノ段もすごく興味あり!楽しみで、ガス!
Lambda さんの投稿…
いつも当方の屁理屈にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。やっぱり、乾燥剤は面倒ですよね^^;
第二弾も頑張って工作してみたいと思います。
ところで、こうした夜露対策の効果を計算していたら、驚倒の事実にも気付いてしました。ちかごろは、入門書に信じ込まされていたことが打ち砕かれまくっていて、目眩がします。
沢田 さんのコメント…
はじめまして
反射望遠鏡の夜露に悩まされていたので大変興味深いです。
夏場、太陽の光を反射してピカピカの金属の表面が触れないほど熱いのに比べ、塗装してあったり光の鈍いものは同じ材質であってもそれほど熱くならないのも同じ理由ですね。なるほど。納得しました!
Lambda さんの投稿…
沢田さん、はじめまして。
コメントありがとうございます!

夜露は多くの場面で悩みどころだと思います。
ちかごろの私は、鏡筒全体を銀巻きにしてしまっております。

夏の太陽と金属表面は、入熱と放熱のバランスや触った時の熱伝導率の影響もあるのでやや複雑な現象だとは思いますが、全天への放熱の影響は大きいのだと思います。

今年の夏は、この原理の生活シーンへの応用も検討しております。
風来坊 さんのコメント…
はじめまして. このテクニック参考にさせていただいています:-)
私も熱工学を学んだ身なのでコロンブスの卵的に「これか!」と超納得して使わせていただいています.
facebookでコスパ天体写真のグループ(英語)があって入ってるのですが, この手は外国であまり知られてないみたいで, 私のブログで英語の紹介記事を書いてそこのグループにシェアしたら結構反響がありました.
https://whoraibo.hatenablog.com/entry/2020/03/08/140300?fbclid=IwAR2ZsDNTovIIqTRG4DWR47_zhzmg752b1PpAqoK2JZ4HSC-d_PkwzYAdvfo
私はちょうどうちにあったキャンプ用マットの薄いのを使いました.
薄いウレタン付きですが, まあNewton鏡筒は内側に入る空気でも冷やされるからまあいいやということで.
そもそも, 霧の出た夜に斜鏡が盛大に曇ってしまってから良い方法を探してこちらの記事を知りました.
この対策をしてからは今のところ大丈夫な感じです.
Lambda さんの投稿…
風来坊さん、コメントありがとうございます!
And, thank you so much for introducing my articles.

さてちかごろは、ハッブル風味な銀巻き望遠鏡をweb上でも見かけるようになってきましたが、よくよくwebを検索してみると、惑星観測者の間では"銀巻き"を施されていた方は以前からおられたようです。

かくいうヒーターの Kendric社も、FAQの中で「夜露がつくのは放射冷却のせい」と述べていたりしました。
https://www.kendrickastro.com/heaterfaq.html

いずれにせよ、鏡筒が冷えることの悪影響は避けるのが吉です。
私も、対策以降で斜鏡がやられたことはありませんが、透明度の良い夜にはガイド鏡がやられ、二ノ段出撃となったことはありました。

筒内気流もニュートン反射でが問題になり易いので、効果のあるところかと思います。
対策のおかげで、少ない晴れ間の中でも火星を存分に楽しめました。