AZ-GTi + 150SLを搭載した令和式三脚架台 (揺動なんかしません) |
架台そのものは、正直言ってSkywatcherの自動導入経緯台AZ-GTi の出来がなかなか悪くないので、これでいいかという気もしています(改善したらいいのになあと思う点はいくつもあるのですが)。
一方で、三脚架台(三脚座)が揺れ動く気持ち悪さについては記事にしてきた通りで、30年以上前の昭和の時代から引き継がれた課題意識であります。
また、令和式三脚架台のような支持方式は20年以上前に気付いていましたが、きっと誰かがやってくれるだろうと信じて放置しておりました。
しかし時は過ぎ、令和の時代に突入してもなお勇者が現れることはなかったのです。
■ 令和式三脚架台の製作
そういうわけで、私が個人的な好奇心を満たすという自己満足目的で、ローテク構想を3D-CADでお絵描きして3Dプリントサービスで発注してみたのが「令和式三脚架台・初号機」というわけです。一品モノの製作ですから、お値段は結構します。
選択したプリントサービスはDMMのもので、これはDMMが持っている設備と選べる材質が今回の目的に合っていたからこその選択です。ちなみにこのサービスは、耐食材や超耐熱材やら超高強度剤やらのかなりマニアックな金属素材も注文可能ですが、値段は私が注文したプラスチックの35~60倍にも達します。
お絵描きは、そのDMMが推奨しているRhinocerosなる3D-CADで、15万円ほどのソフトですが体験期間90日間はすべての機能が無料で使えますから、ありがたくこれを利用させてもらいました。
私自身は製図版とT定規のアナログ人間なので3D-CADの経験はほとんどありませんが、このソフトは直感的に操作できるようになっていて、三脚架台の基本設計になる絵は3日ほどで描くことができました。特に、コマンドラインと充実したメニューとリファレンスマニュアルがあるので、目的機能のアイコンを探す宝さがしが不要なのが素晴らしいソフトです。そこから翌週にいくつかの修正を行って、トータルで取り掛かりから10日ほどの所要期間でした。
発注は、データを登録して材料を選んでポチるだけです。データの良否チェックも即座に完了するあたりがなかなか素晴らしいサービスです。
今回チョイスした材料は、PA-12GBという強度と剛性に優れるナイロンで、ガラスボールが混ぜられていることでプラスチックとしては高い剛性を実現しているものです。とはいえプラスチックですから、一般的なアルミと比較すると強度が7分の1くらいで材料としての剛性は20分の1くらいです。
そして、注文から5日ほどで到着です。マウスをポチポチ押してお絵描きして、Webでポチったらブツが仕上がる。まったく素晴らしいサービスで、いい時代に感謝です。
仕上がりは上々で、なかなかの精度で出来ています。三脚取り付け部には磨耗防止用のステンレス筒を挿入したのですが、穴の設計値と金属筒のはまり具合を見ると、公称±0.20mmという精度よりずっとよく出来てきているようです。普通の工作であれば十分な精度と言えます。
(当初、精度を0.05mmと記載しておりましたが、改めて別件でDMMのマニュアルを確認したところ、値は0.20mmとなっておりました。本文を訂正いたします。2019.9.21)
到着した初号機の令和式三脚架台(実物の写真です) |
■ 実際の搭載の様子
架台や鏡筒を搭載してみた感じは冒頭のような具合です。
AZ-GTi付属の三脚をバラして開き止めを取り去り、令和式三脚に組み付けました。先述の通り、三脚の取り付け部には金属筒(外形φ8、内径φ6)を差し込み、ここにM6ボルトを差し込んでいます。プラスチックはヤワいので、硬いボルトでゴリゴリ擦れるのは避けるように設計しています。
さて、これに架台と鏡筒を搭載してみると、揺動はバッチリ止まり、非常によく安定しています。さすがに強く押せば多少揺れますが、揺れの元は三脚そのものだったりハーフピラーのようで、三脚架台は揺れません。この経緯台のフリーストップな動かし方や合焦操作での揺れはだいぶ減りました。
このように初号機は概ね大成功で、「剛性」という目的は達成しました。さすがに金属ではないので金属製のパイプ三脚ほどの剛性には達しませんが、脳内暗算では15~20kgの搭載荷重で問題は生じないだろうと踏んでいます(均等荷重で200~300kg程度で破壊する勘定です)。
令和式三脚架台にAZ-GTi用の三脚を組みつけたところ |
■ 弱点および要改善点
さて、概ね大成功だった三脚架台ですが、弱点とか初号機ゆえの失敗点もあります。
1. 見た目
この令和式三脚架台の最大の弱点は、見た目がひ弱そうだということです。この三脚架台は、上下左右ねじれの全方向に対して三本のそれぞれの脚を無理なくガッチリ支持するので無類の剛性と強度を誇るのですが、それと裏腹にどうにも千鳥足っぽいもつれた感じが不安を惹起するのが難点です。
人間の思い込みなどアテにならないということを理解して天動説を棄てられる人だけに使用の資格があります。
2.「開かせ具」があった方がいい
ストッパー式の三脚(たとえばAdvanced GT用みたいな)のように、三脚をキッチリ開かせる部品をつけると、いかなる場合でも確実な剛性を得られます。この令和式では、開かせ方が不十分だと剛性感が低下します(当たり前ですが)。
3. 逆方向に開かないようにすべきだった
これは失敗点ですが、三脚を誤った方向に開かせることが出来てしまうので、そうなると誤って破損させてしまう恐れがあります。反対側には開かないように設計しておくべきでした。(私が使う分には全く問題ありませんが)
4. AZ-GTiのジョイント採寸間違えちゃったよ
三脚架台を意識していたのでAZ-GTiの三脚架台の寸法を測って、それに合わせて設計したのですが、この三脚を解体してみたら薄いスペーサーが2枚入っていたことが発覚。ちょっとスカスカになっちゃいました。まあ、原理的にそこがスカスカでも剛性にはあまり関係ないのでいいのですが、気持ち悪いのでスペーサを噛ませようかと思ってます。
5.やっぱ金属がいいな~
だれか金型起こして金属で作る奇特な変人は現れないだろうか…。金属での量産が前提なら、もっとコンパクト&軽量な設計が可能と思いますし、最小の部品構成でありがちな極太三脚の剛性を軽く超える最高の三脚ができる・・・と思うのです。
(さすがに金属で3Dプリントすると中古車一台分くらいの値段になってしまいます。)
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ともあれ、三脚架台に起因するイライラは解消して、高倍率での木星・土星や、M13、M57といった対象を楽しんだのでありました。ミザールの150SL鏡筒も未だ捨てたものではなくて、大赤班、カッシーニの隙間、星に分解し始める球状星団、リング星雲といった対象を十分楽しめたのも、足元がしっかりすればこそであります。
コメント
令和式三脚架台、凄すぎます!!
構造力学はよくわからないのですが、説明されている内容は何となく理解できました。
極太三脚から解放されるのは、幸せになれますね(笑)
なんとかメーカータイアップで金属製が制作できるようになればいいですね^^
観望用の、ライトで華奢に見える三脚がガッチリとしてくれてスッキリしました。
これ、何が凄いって、ポチったらサクッと家に届くのがすごいんです!
本当に凄い時代です。
ついついオリジナル赤道儀とか金属製で作りたくなっちゃいますが、たぶん家が建つくらいの値段になっちゃいます(苦笑)。一品モノはお高いですね。
やっぱり数は力なり、で、どっかのメーカーが勝手に作ってくれたらな~、なんて。中華の会社ならすぐにでもやってみたりして。。
はじめまして。あの華奢な脚で反射150、200までをも支えることができるなど...マジすか?!状態です。理屈は説明を何度副読、なんとなくわかるんですが摩訶不思議で実物をじーっと見てみたい衝動にかられてしまいます。
どこからこんな発想が出てくるのでしょう、素晴らしい、天才、マーベラスです。
是非スリックやベルボンの開発担当責任者付超パワーアドバイザーになってくださいw マシになったとはいえストーンエイジ信仰がまだまだ根強い写真分野でもレボリューションがおきるかもしれません(保守派多いんで「見た目アカン、売れん」と握りつぶされるかもですがw)。
他の記事もご覧いただいたようで、拙文ながら嬉しく思います。
この令和式三脚ですが、15cmとベストマッチで、20cmはさすがに重量オーバー感があります(苦笑)
ですが、ハーフピラー効果も無料で得られるので、望遠鏡には特にマッチしております。
こうしたアイテムも、昔から密かに考えていたものが、最近のテクノロジーで簡単に作れるようになったのが本当にありがたいことです。
この業界、市場規模が大きいわけでもないですから、一つのことが長らく信じられる傾向があるようですね。
見た目も、やはりトラディショナルなのがウケはいいようです ^_^