PHD2でディザリングをやる (APTの導入)

ガイドシステムをNexGuideから切り替えたのは、ディザリングを自動でやって欲しかったという怠惰な欲求からでした。普通のガイドカメラを使ってのオートガイドには"PHD guiding (PHD2)"が定評あるわけですが、ディザリングにはカメラの制御も必要なためPHD2単独ではできません

(※2021.7.22追記: 久しぶりに撮影をしたら、APTとPHD2がうまく連携してくれない問題に遭遇し、対処法を備忘録として追記しました。Windows の update に伴う Defender の強化が原因だったようです。同時に、記事本文も2021時点の知識に基づいて少しだけ追記しました。)

 こうしたことを一括してやってくれるソフトとしてはいわゆる「ステラショット」があるわけですが、なかなかいいお値段なので当ブログとしてはもう少し何とかならんのかと思うわけです。

 ここでは、普通のガイドカメラとDSLR(=デジタル一眼レフ)を使ってディザリング撮影をを行うためにオートガイドソフトPHD2と"Astro Photography Tool (APT)"との連携させる道筋に焦点を当てて、フレッシュな視点を忘れないうちに綴ってみたいと思います(他記事と同様に、この記事には高度な使用方法に関する情報の記載はありません)。
Astro Photography Tool (APT)
アンバー色のデフォルト画面デザインがなかなかグッドです。
(日本語のユーザーズガイドも用意されています)
APTは大変高機能な上に約2500円(18.7ユーロ)と安価な「天体写真撮影ソフト」で、赤道儀の自動導入からカメラの露光時間コントロールやらいろいろ出来てしまう素晴らしいツールです。これを使うと、カメラのシャッタータイマーの類も不要になります。

※APTそのものについては、多くの方がより高度な使用方法について詳細を解説されておられますので、そちらを参照されたほうが良いと思います。

■ デジタル一眼でのディザリング撮影で用意したもの(接続)
 私が組んでみた環境は次のような赤道儀やカメラです。
 ・赤道儀: Celestron Advanced GT
 ・カメラ: Canon EOS kiss X5 (=EOS D600)
 ・ガイドカメラ: ZWO ASI120MM mini
 ・PC:Windows 10 のノートPC

 これらの機材でディザリング撮影をするためには、接続のために下記のケーブル類を用意する必要があります。また、延長ケーブル類も必要になると認識しておいた方がよさそうです。

赤道儀-PC間の接続
ケーブルがけっこう必要です
セレストロンのRS232C-4芯モジュラージャック変換ケーブルが必要です。赤道儀との接続は、ガイドカメラの端子経由でも接続されることになりますが、これはガイドパルスの授受専用です。赤道儀との通信のためには、専用のケーブルでハンドコントローラとPCを接続する必要があります。
 また、最近のノートPCではシリアルポートが無いケースが多く、私もUSB-RS232C変換ケーブル(変換器)を買いました。Windows10では、ドライバも不要で動作してくれました。
カメラ(DSLR)-PC間の接続
 カメラによると思いますが、EOS kiss X5では一般的な mini USBケーブルで接続できました。これで接続すると、DSLR(デジイチ)の感度や露光時間などをPCから制御できるようになります。
ガイドカメラ-PC間の接続
 ASI120MM mini の場合、type CコネクタのUSBケーブルでPCと接続します。画像の転送は速度を必要とするので、ちゃんとしたケーブルでやるのがいいと思われます。
ガイドカメラ-赤道儀間の接続
 ASI120MM mini とAGT赤道儀の場合、6極6芯のいわゆるST4互換ケーブルで接続します。なお、ガイド信号もASCOMドライバを使って送出できるため、この接続を省略することもできます

※色々接続していくとPC側のUSBポートが足りなくなりますし、多くのケーブルを赤道儀から離れたPCとの間で繋ぐとダサい理由でガイドエラーの原因になることもありますから、できれば赤道儀の近くにUSBハブを設けたいところです。(関連記事はこちら)
但し、USBハブを設けると接続が上手く行かないといった事例も聞かれますので、近々試してみたいと思います。

■ ドライバソフトの準備
 多くのソフトウェアはPHD2導入時に必要なものと同様です。ASCOMなどのドライバソフトウェアは、APTの動作にも必要です。
 ただしAPTディザリングをやる場合には、赤道儀との接続のためのASCOM用ドライバが必須になりますので、これをインストールしておく必要があります。(ASCOMプラットフォーム / 架台用ASCOMドライバ各種 / Vixen用はこちら

■ Astro Photography Tool (APT)
 多くのエキスパートにも使用されている大変優れた天体撮影のためのオンラインソフトですが、なんと価格が約2500円(18.7ユーロ)と大変安価なのも魅力です(PayPalでの支払いになります)。
 安価だからと言って機能がイマイチなのかというとそんなことはなく、スケジュールした撮影を自動でこなしたりディザリングしてくれるのはもちろん、ピント調整や光軸調整や極軸調整のアシストといった天体撮影のサポートや、赤道儀による天体の自動導入まで行ってくれる大変多機能なソフトになっています。また、操作性も大変洗練されていると思います。
 更には、PHD2やプラネタリウムソフトなど、他のオンラインソフトとの連携によって、それぞれの定評のある機能を活用できるのも魅力です。

 メニュー類は英語になっていますが、ボタン類にマウスを持っていくと現れるガイド("tooltips")や、日本語ユーザーズガイドもインストールが可能です。

・ソフトウェアのサイト (2019.12時点)
 Astro Photography Tools:公式サイトです。2019.12時点の最新版はv3.82です。
  Download : デモ版、製品版共にこちらからダウンロードできます。
  (同ページから、日本語tooltipsやユーザーズガイドのダウンロードできます。日本語ユーザーズガイドはv3.50用で、.chmファイルを所定の場所に置くと、日本語版が参照されるようになります。)

※ライセンスの購入については、星見屋さんでの取り扱いもあるようです。
※※なお、近年では「N.I.N.A.」などの新しい同様の無料ツールも出現しており、こちらを使うのも一つの手です。(2021.7追記)


■ PHD2との連携でのディザリング撮影
 これと言って難しいことはなく、実現できます。PHD2を立ち上げておき、APTを立ち上げ、下記3点の制御ができるように接続を確立して行います。

カメラ(DSLR)のAPTによる制御
 カメラの電源をONにしてPCとUSBケーブルで接続し、APTの「Camera」タブの「Connect」ボタンを押します。カメラの選択画面が現れますので、自分のカメラを選択します。
 露光時間や感度、撮影枚数やインターバルを設定しておくと、そのプログラム通りに撮影してくれます。
赤道儀のAPTによる制御
 APTの「Gear」タブの「Connect Scope」ボタンをクリックして、赤道儀との接続を確立させます。クリックするとASCOMのドライバ選択画面が現れるので、自分の赤道儀のドライバを選択します(PHD2とは異なり、ガイドカメラのOnCameraは選択できません)。接続が確立されると、APTのPC画面から自動導入なども可能になります。
PHD2との連携
 APTの「Gear」タブの「Guide」ボタンをクリックして、PHD2との接続を確立します。PHD2側の設定で「サーバーを有効にする」をONにしておく必要があります。
 この状態で、PHD2側でガイド星を選んでガイドを開始した後に、APTから撮影を開始すると、自動的にシャッターを切って、設定した頻度でディザリングを行い、設定した安定化時間の後に再びシャッターを切るという動作をしてくれました。

※きちんと設定しているはずなのに、APTとPHD2の連携がうまくいかず、ディザリングが正しく行われない場合があります。「Windows Defender」の設定で、APTが送出/受信するべきコマンドが妨害されてしまうのが原因なようです。Windows 10であれば、「スタートボタン→"Defender"と入力→Defenderを起動→送信(および受信)の規則」でブロックされているアプリとしてAPTが該当している場合は、ダブルクリックして「接続を許可」に設定変更してやることで、うまく動かすことができました。(2021.7.22追記)

----
 というわけで、 このAstro Photograph Tool (APT) の導入によって、天体撮影もずいぶん省力化が出来そうな気配であります。天体の自動導入もハンドコントローラのキーをやたらたくさん押す必要もなくAPTが実現してくれて、とても楽です。
 PC操作での撮影は好みの分かれるところかもしれませんが、カメラのリモコンタイマーを買うくらいならこちらのAPTを購入する、というチョイスは十分にアリだなと思ったのでした。

余談:
 それにしても、ハードもソフトも、狭く小さい日本市場を相手にしていては価格は高くせざるを得ないし、高くしたからといってベンダーが大して儲かるわけでもないし、なかなか苦しいところだなと思うのでありました(関連の考察)。


にほんブログ村 写真ブログ 天体写真へ

コメント

星のGG さんの投稿…
ディザリングの成功おめでとうございます。
Lambdaさんは問題解決能力が高いですねぇ。
これで撮影条件さえ良ければバンバン写真が撮れますね。

私はと言えば、銀河を撮るという目標ができたのですが、
未だにPHD2のキャリブレーションエラーでつまづいている状態です。
いろいろと試しているのですがエラーの連続。問題解決能ゼロですね。

Lambda さんの投稿…
星のGGさん、いつもコメントありがとうございます!

こちらもバンバン撮影…と行きたいところですが、寄り道ばかりしております ^ ^

さて、PHD2でのキャリブレーションエラーとのことですが、極軸があっていなかったり、赤道儀側のバックラッシュやガイドレシオの設定がまずいと、警告が出るようです。

また、全くガイドが始まらないのは、ガイド星の選択(画面に映ってる星をクリック)とか、ピントや明るさの問題と言ったところのほかに、ケーブルの不良のようなハード的問題も可能性としてはあるかもしれません。
また、地面が建物だったりすると、歩いただけでガイド星が動いたりしますから、そのせいでエラーになってしまうこともあるようです。

幸い、私はあまり不具合に当たっていないのですが、一旦壁にぶつかると原因究明には難しさがありそうです。
タカsi さんの投稿…
こんにちは。
APTの導入、お疲れ様です^^
安価で多機能なソフトなので、弄りがいがあります。
本家のフォーラムでの投稿も活発で、そちらも問題解決に役に立つと思います。
オールインワンのステラショットも使いやすくていいのですが、もう少し痒い所に手が届く機能が、APTには実装されています。
最近はほとんどの撮影はAPTでこなせるようになりましたので、お役に立てることがあるかもしれません^^
Lambda さんの投稿…
タカsiさん、コメントありがとうございます!

さすがに最先端を走ってますね!タカsiさんがいくつものカメラを並列して動かしておられるのを見て、つい私も手が出てしまいました。

APTは、ご指摘のように、広く意見を募りながら改良を続けているあたりが素晴らしいですね。
価格面でもそうですが、機能面でも、ユーザー数の力がモノを言ってるかなあ、と思ったのでした。
うこん さんのコメント…
はじめまして。
いい情報ありがとうございます。このソフト星見屋でみかけて興味はあったのですが
StellarmateOSのつかいこなしで手一杯で手をだせてませんでした。安いので買ってみます。
INIDIの不具合から開放されるかも。
INDIは使いこなせればいろいろなことが出来るのですが、思わぬ不具合が多く苦労しています。
家のwifiネットワークに望遠鏡を参加させて、屋内から遠隔操作で撮影対象をスケジュールに従い
自動で導入、撮影させることは可能になりました。自動なので冬の寒さと無縁で快適ではあるのです
が、なにか機械任せすぎる気がしています。
Lambda さんの投稿…
うこんさん,はじめまして! コメントありがとうございます!

INDI / StellarmateOS は、ASI air的なもの+オープンソースのアプリですね?
たまに名前を見かけるのですが、あまり意識しておりませんでした。

不具合はこのAPTにもあるとは思うのですが、私はそこまで使い込めておりません(なんとか導入した、と言う程度な段階です)。
ただ、APTは使用されている方が多いようですので、経験談など参考にできるものがネットに多いかな、と思っております。

私もはやく機械任せにして、その脇に別の望遠鏡を出して眺めている時間を増やしたいです。
うこん さんのコメント…
こんばんは。
>ASI air的なもの+オープンソースのアプリですね?
その通りです。ラズベリーパイ3/4で動作するINDI関連のファイルをOSを含めて
必要なものをまとめてパッケージにしたものです。自分でOSのセットアップや
パッケージの収集、設定をする手間がはぶけるので楽です。ASI Airと比べると自分で
いろいろ柔軟にカスタマイズできるのがメリットです。AZ-GTiと接続してskaysafari
経由で遠隔操作とかできます。
Lambda さんの投稿…
うこんさん、情報のご提供、ありがとうございます.

柔軟なカスタマイズは魅力ですね。オリジナリティのあるシステムが組めそうです。
小さな筐体で動かせるのも、大きな魅力だと思います。

私は…、このAPTといい、INDIといい、便利で「遊べる」ツールの選択肢があるのがなんとも素晴らしいです。