高倍率アイピース総評

高倍率アイピースの評価、もともとは「ブログのネタとして揶揄する」という邪まな目的で購入したはずの SR-4(実質6mm)が、私の持つPentaxオルソよりも良く見えてしまったという事件からスタートしたものでした。これが春を過ぎた頃から、あれよあれよという間に似たような焦点距離のアイピースが生えてきてしまって、ずいぶんと覗き比べをしてしまいました。

 そこで、覗いてきたアイピース達の評価を,惑星用という観点で簡単にまとめてみたいと思います。以下は20cm/F5 ニュートン反射での比較です。(※中心像の比較です。視野の広さや周辺像については評価しておりません)
 ちなみに、確認を行った日(2019.8.2夕)はシーイング占い術でも大吉と出ていたので赴任先から猛ダッシュで自宅に戻り、木星、土星を様々なアイピースで堪能しつつ、各アイピースの特性を再確認いたしました。果たして占いは当たり、地上の清風と相俟ってなかなか良く見える夜となりました(暑かったけど)。

※HD-ORに関連した情報がありましたので、追記いたしました。(2019.11.19)

■ 特A級
・SMC Pentax XP 3.8mm
SMC PENTAX XP 3.8mm
素晴らしい解像度と共に、視野周辺まで崩れない像や迷光の少ない締まった視界とコントラストが素晴らしいアイピースです。ただし、拡大撮影用に設計されているため、アイレリーフは無慈悲な短かさで覗きにくいアイピースではあります。
 眼視の評価記事はあまりお目にかかることがなく、そのせいかヤフオクではわりとリーズナブルな価格で取引されている準エコノミー級アイピースでもあります。私は10,500円で入手しています。
(追記:ちなみにPaolini氏の文献では、XOやZAOと並ぶ"the best"の性能クラスに分類されています。)


・SMC Pentax XO 2.5mm
SMC PENTAX XO 2.5
XP3.8やHR2.4と同様に、素晴らしい解像度とコントラストです。XPよりは覗きやすくなっています。私の眼には瞳径がやや細すぎるようですが、良く見えます。こちらも文句なく特A級です。私の眼にはわずかにXOの方がHRより優れているように感じられましたが、私の眼の水晶体の性能自体がこのレベルの解像度を論じるのに不足している可能性は大です。
 ちなみにこのアイピースは、まだ普通の価格で新品を入手可能(2019.8時点)です。(ヤフオクでも値段はさして安くはありません。定価は3万円です。)


・Vixen HR2.4mm
Vixen HR 2.4mm
成り行き上3番目に書いていますが、上記2本のSMC Pentaxとの優位な解像度差は認められず、まずもってナンバーワンに類する実力でした。私の眼には射出瞳径が細すぎるようですが、良く見えることには間違いありません。
 Paolini氏による絶賛記事も決して言い過ぎではなく、また、周辺まで破綻しない像やコントラストなどどれをとっても特A級と言えます。アイレリーフもXPよりは長くて比較的覗きやすいです。ちなみに Pentax XO2.5とはほぼ完全に同焦点です。




・Celestron SR-4(実質6mm)
Celestron SR4 (λ魂版)
倍率は少し下がりますが、中心像の鋭さにはドキッとさせられます。写真判定での解像度は上記の3本にごくわずかに譲る結果となりましたが、惑星用アイピースとして一度はヌケの良い中心像を拝んでおいて損はありません。そんじょそこいらのオルソでは全く相手になりませんでした。XPと像を何度も見比べましたが、うーむ、と唸ってしまう内容です。
 1本210~270円ほどの超絶安値で買えるエコノミーアイピースの東の正横綱です。筒の内側の迷光防止策が不十分ですので、対策するとゴーストが減って更に見易くなります。


・平凸単レンズ The Kepler 6mm
単レンズ The Kepler 6mm
(SR4の鏡胴に実装)
これ以上シンプルにしようがない究極の一枚構成がもたらすヌケによる解像度の高さと、激しい軸上色収差のために「必ずどこかの波長はジャスピンになる」効果と、色フィルター効果とが合わさって、微細な惑星面の模様が浮かび上がってくる像質です。眼視では、細かい模様の見え方が、XP3.8mmよりも高いコントラストで浮かび上がりました。かつてハーシェルが単レンズを愛用したという世界が理解できます。
 有効視界は10°程度で、良像範囲は激狭でF5反射では木星の視直径分くらいしか良像範囲はなく、ド真ん中に対象を入れるしかありません。ピント合わせのほかに、対象の位置を調整していくと急激に像質が良くなっていく性質があります。惑星観察で極軸合わせが大事だと感じたのはこれが初めてです。
 レンズには高精度、マルチコート、黒コバ塗りの光学実験用レンズを用いており、単レンズとしては値段は安くありません。
考察記事はこちら

SMC PENTAX O-6
・SMC Pentax O-6mm
 このアイピースも、XPや他の特A級アイピースに大変近い解像度を眼視で感じられました。しかし、倍率が小さい効果があった可能性は否めません。XP3.8は倍率が高いのにこのO-6より細かい模様のコントラストに優れていたということもあり、有意差ありと見てO-6を特A級の最末尾としました。O-6の像質自体は大変シャープです。
(※写真判定は行っていないので、正確なところは不明です。眼視では私の瞳の状態にあっているようで、HR2.4mmよりも良く感じられています)

■ A+級
・TMB Planetary II 6mm
TMB Planetary II 6mm
大変よく見えるTMB謹製の惑星用アイピースです。解像度という点ではSMC Pentax O-6に若干劣りますが、背景の黒く締まった視界に浮かぶ惑星像がとても印象的です。
 アイピース本体の作りも高級で、隙間には異物の侵入を防ぐオイルが塗られています。迷光防止の塗装も非常に丁寧に処置されています。まず第一級のアイピースと言えます。
 また、アイレリーフが長めで覗きやすく、初心者に覗いてもらうのには大変適しているアイピースです。

後述のニセモノとは作りの丁寧さも見え味も全く異なります。

・Pentax Or-6mm
PENTAX Or 6mm
こちらはSMCではない Pentaxのオルソです。SMC版と比較してみると、僅かにコントラストと像の明るさで劣る印象です。解像度の写真判定ではSR-4に僅差で負けていますが、アイピースとしては第一級で、ほかのアッベオルソとは一線を画する解像度を持っています。
 ちなみにコレは、30年前に誠報社のガラクタ市で4,000円ほどでゲットしたものです。当時これを入手した後、ビクセンとミザールのオルソを友人に譲ってしまいました。

■ A級
・FUJIYAMA HD-OR 4mm/6mm
 像の明るさと収差補正がなかなか素晴らしいアイピースです。とびぬけた解像度があるわけではありませんが、シャープで良く見えます。6mm/4mmともに入手しましたが、どちらも良く見えました。たまにヤフオクでも出てきますが、知名度が低いためにリーズナブルな価格で取引されているようです。
 University opticsの HD Orと同一品と思われ、Paolini氏の著書では「poor man's ZAO」と評され、同著内では高屈折率ガラスを採用したオルソであるとされています。
 個人的には大変良く見える部類のアイピースだと感じていますが、解像度とコントラストが上級品と比較すると劣り、これが同著で「best-of-best ではない」と評される原因になっているかと思います。ちなみに、同著内では TMB PlanetaryIIと同クラスのような「ベストクラスの次点」扱いになっており、ここのランク分けは微妙なところなのかもしれません。
※追記:このHD-ORは、Masuyamaアイピースの製造元である大井光機によって製造されたもので、今ある「国産アッベ」はほぼ全てコレのようです。University Optics の HD-ORや、Baardar GenuinOrtho、タカハシアッベOr、笠井のHC-Or、および大井光機のマスヤマOr (=BORGの国産アッベ)とこのHD-ORは基本的には同じものであるようです(違いはコーティングとの見解があります)。これらにはphase1, 2のバージョンがあり、外観は違っていますが、基本的な中身は同じようです。FUJIYAMA HD-ORは phase2 のデザインになっており、4mmと25mmはphase2にしかないようです。
 なお、大井光機は谷オルソの製造メーカーでもあったようです。これらの関係は、こちらのツイートまとめサイトに詳しいです。谷オルソとこれらHD-ORは、製造元は同じですが設計が同じであるかどうかは分かりません。


国際光機 FUJIYAMA HD-OR 4mm / 6mm



・谷光学 Or-7mm
谷光学 Or.7mm
収差補正によって像が整った良いアイピースです。コントラストも良いのですが、ヌケが足りず、恒星像の写真では回折環の隙間がハッキリしません。これが、木星面の観察で「細かい模様」が見えなくなっている原因かと思われます。この差は、小口径機の分解能では分解されない世界で、むしろ収差補正の良さが目立つ結果もあり得るかと思われます。





■ A-級
・KSON Super Ortho 4.8mm
KSON Super Ortho 4.8mm
笠井のFMCオルソと同一品のように見えます。スーパーアッベとかスーパーオルソとも銘打たれているようです(箱にはSuper Orthoと書かれており、Paolini氏の著では Super Abbeと紹介されています)。
 収差補正、コントラスト、解像度ともに標準的です。これくらいが普通のオルソなのだろうと思います。迷光処理などもそこそこにちゃんとしています。
 新品で買うとAliExpressでも5,500円くらいはするので、お買い得かと言われると微妙です。




・SvBONY Aspheric 4mm
SvBONY Aspheric 4mm
収差補正がだいぶよく出来ているように見える短焦点アイピースです。ややゴーストが現れたり、背景の締まりはよろしくなく、コントラスト面で劣る部分があります。解像度自体も必ずしも高くはありませんが、著しく低いということはなく、普通に良く見えます。
 スマイスレンズ入りで、アイレリーフは眺めで覗きやすくはなっています。
 アリババでは1本1,000円前後で入手できます。4/10/23mm の3本セットでは 2,500円前後です。

※一部では4/10mmの製造ばらつきが大きいとの情報がありますが未確認です。

■ B+級
・Mizar OR6mm
MIZAR OR6mm
つい、昔の見え味を再確認したくて再入手してしまいました。上記の名だたるオルソと比較すると、解像度は劣ります。再入手して確認してみると、レンズの内側の面にはコーティングも無く、レンズ押さえ金具の黒塗りなども不十分で、損してる感じがあります。
 その昔、Vixenのオルソ(Or.5mm)も所有していましたが、そちらの方が良く見えました。また、前出のPentax Or.6mmの入手によってこれらミザール/ビクセンオルソの出番はなくなってしまいました。




・Vixen PL-4mm
 その昔、魅惑の高倍率「4mm」アイピースが欲しくて購入したものです。たしかに木星像は大きく見えましたが、細かい部分の見え方はミザールのOr.6mmと大差ありませんでした。
 恒星像比較でも、この見え方を裏付けるコントラスト/解像度の内容でした。






■ B級(※短焦点反射との相性が悪い可能性はあります)
・EIKOW H 6mm
EIKOW H 6mm
恒星像比較での回折環の分離が素晴らしかったのですが、中途半端な収差補正がいけないのか、良く見えません。なまじ補正された収差によって像が見えにくくなっており、単レンズよりも見えないのが悲しいレンズでした。また、収差自体もラムスデンよりずっと大きいようです。
 廉価な望遠鏡には、このハイゲンス式やその廉価版の"F"が高倍率用として付属してくる例が散見されますが、きちんとした惑星観察にはラムスデンの方が向いているようです。(※サングラスでの太陽観察をする場合には、焦点位置とサングラスが離れるハイゲンスの方がやや安全ではありますが)
 本品は、EIKOWスカイホーク(6cm/F5アクロマート)の付属品でした。


・五藤 MH-6mm
五藤光学 MH-6mm
こちらも全体的に収差がひどいのは仕方ないのですが、収差とは別に像質(ヌケ)そのものもEIKOW H 6mm以上にぼやけてしまってシャープさに欠け、メニスカスレンズのせいなのか、ゴーストも重なってしまって良く見えないアイピースとなってしまっていました。
 収差云々とか短焦点反射との相性というのもあるとは思いますが、それにしても中心像で単レンズやラムスデンや素のハイゲンスに及ばないというのは残念なことです。


■ C級(廃棄処分)
・ニセモノTMB Planetary II 3.2mm
 こちらは既に愚痴を記事にしております通りです。見えるとか見えないとかを超越したダメさ加減です。怪しく蠢く火星の環が見えたのはコイツが初めてです。故Thomas Back氏を冒涜しているようで、大変腹の立つアイピースです。
 こうした酷い不良品が中古市場に流れることがないよう、購入者責任として、破壊した上で廃棄処分するしかないという判断です。

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さて、とりとめもなく主観も含めたインプレッションを書いてしまいましたが、記録として何かの役に立てば、と思います。

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コメント

匿名 さんのコメント…
こんばんは。

どうも旗色が悪いH、MHですが、
MHは屈折の対物の球面収差を補正するとはいってもF15くらいの
話だし。短い焦点のものはやっぱり性能は出ないのでしょうね。
光学的にもラムスデンの方が優れているらしいですし。

しかし、先日8cmF11屈折(ミザール)で、3枚玉2.8倍
バローに12.5㎜のオルソをつけたものより、MHの12.5㎜を
つけた方があきらかに良く見えました。ちょっとびっくり。
同等か少し劣ると思っていましたので。やはりレンズ枚数の少なさ
によるヌケのよさ。これが中焦点になると活きてくるのかなと。

ペンタXOのレンズ配置が確かPL+バーローと同等になっていまし
たし。既存の形式のアイピース+バロー・・・

そういう意味でもピュアラムスデン+バローも相当ヤバイ性能
になりそうですね。

Lambda さんの投稿…
このコメントは投稿者によって削除されました。
Lambda さんの投稿…
こんにちは!コメントありがとうございます。

実は、H-6、MH-6もずーっと気になってるんです(特に名門MH-6)。
「Fが小さすぎるからだ」という指摘もあったので 3cm F25 や 5.2cmF19 でもトライしたのですが、良い結果は得られませんでした。
単レンズに遠く及ばない、というのが腑に落ちないところで、いわゆる収差の問題ではないようです。

ところが。
いくつもの2枚玉レンズや、かの3群5枚PLを覗き比べていて、これまたしょうもない事実に気付いてしまったのでした。さしもの五藤光学の大先生もそこまでは気付かなかったのかもしれません。
MH-12.5mm が良く見えるというのは、未検証ながらある意味納得してます。

昔のバーローはガイド鏡用という色合いもありましたのでイマイチ感が満載でしたが、最近のはそうでもなく、良い効果が得られるようですね。

ピュアラムスデンは…SR-4の鏡胴に納まらないということが判明して、どうしてくれようかと思案中です。