天文趣味を再開して半年ほどの間に、これまで信じてきたことが打ち砕かれるような事実に何度も直面して、正直戸惑っております。私が異端の教徒だからいけないのかもしれませんが、ついうっかり踏んづけて砕いてしまったお説を振り返ってみたいと思います。
■ 天文の歴史は常識転覆の歴史
天文のみならず科学の世界には、はるか昔から通説/俗説が入り乱れて信じられ、そして転覆させられてきた歴史があります。
地球は宇宙の中心で天体が周りを回っていると信じられてきましたし、人間はフロギストンとやらを吐き出していることになっていたり、金は錬金術で精製できると思われていたり、ハレー彗星の尾に入った地球は毒で汚染されて人類が滅びるはずだったりしましたし、ついこの前までノストラダムスの大予言の書籍が本屋を埋めていたなんてこともありました。
実はブログを書くようになって大変驚いたことの一つに、私が子供の頃から歴史上の人物として図鑑などで知っていたイケヤ・セキ彗星の関勉氏*が、今なお活動を継続されながら某ブログランキングで当ブログと順位を争っていたというこれまた驚天動地の事実があります。たゆまぬ情報発信を続けながら、多くの人たちに星を見ることの面白さを伝える各種の活動をリードされていて、その尊い人間力には本当に頭の下がる思いです。
そのブログの中で氏は「火星」について、「多くの観測者が経験に頼った火星表面の模様をスケッチしました。彼らの念頭には、実在すると思われた火星人のイメージがあるものですから、その多くは大小の運河や人工的な模様が描かれました。先入観というものは恐ろしいものですね。(2019.4.22の記事より引用)」と語っておられます。
この火星の話はそんなに大昔のことではなくて、割と最近まで「そうだ」と信じられていて、多くの天文マニアはそれを前提に活動していたわけです。
*関勉氏は、これまでに彗星6個、小惑星225個を発見している屈指のコメットハンターです。
■ 通説(俗説?)を振り返る
天体観望や撮影というのは趣味の世界ですから、信仰に逆らうことはなかなか受け入れられずにいるのも致し方のないことではあります。
そうした中で私が見つけたものは、どうでもいいごくごくつまらないことばかりです。
それこそ、「米国とかの外食で出されるポテト山盛りは完食を前提にしていない*」とか、「海鮮の一番美味い食べ方は蒸しだと思われる**」といった甚だどうでもいいことに属する知見ばかりですが、ひょっとしたらこの世のどこかの誰かには役立つ日が来るかも、ということで、通説/俗説をちょっと振り返ってみたいと思います。
*その昔、2か月ほどこうしたポテトを完食する生活をしていたら猛烈に太りました。周囲の細身の金髪美女はどうやってんのかと思って観察してみたら、食ってませんでした。
**水と米を投入した鍋の中に「蒸し目皿(網)」を置き、テーブルの上のガスコンロで海老とか貝とか野菜とかなんでも蓋を閉じて蒸しながら食し、鍋の中にしたたり落ちる海鮮エキスで炊き上げられた粥で最後にシメると幸せこの上ないです。個人的意見です。ちなみに海鮮だけじゃなくて肉と野菜でやっても、海鮮と一緒にやっても美味です。野菜も山芋とか蒸すと美味です。鍋の使い方は煮るばかりに非ず、ということで、生きててよかったです。
俗説: 大口径になっても星雲は大きく見えるだけでハッキリとは見えない
(面積あたり輝度が変わらないから)
これらの説は残念ながらどちらも正しくありませんでした。肉眼は「面積当たりの光量」の通りには感じてくれないということが分かってしまいました。肉眼はCCDやCMOSセンサーとは違う、ということのようで、総光量のようなものが人間の知覚に影響しているようです。このことは、星雲の戦闘力を計算したときにも明確になっていて、面積当たり輝度が大きいからと言って見えやすい星雲だとは限らないことも明らかになっています。
よくよく考えてみれば、眼球なんて接眼鏡にネジでガッチリ固定されているわけじゃないですから、網膜の一点に光が当たり続けるなんてことはある筈がなくて、常に像はフラフラ動き回ってるわけです。当然、大きい像になれば、それが動いていても網膜の同じ場所は光の刺激を受け続けるし、像が小さければごくわずかな瞬間しか刺激されないことになるのは道理です。
なので、像の大きさも含めた総光量的なものが効いてくるのは当然の帰結だと思うのですが、"面積当たり光量"は長らく信仰の対象です。
通説: 筒内気流の原因は温度に順応してない主鏡だ
主鏡が一因であることには間違いないのですが、ある程度温度順応してしまった後の主鏡の影響よりも、放射冷却で冷え続けている鏡筒の方が強烈な筒内流動を引き起こしていたのでした。
真面目な話、反射望遠鏡のディフラクションリングを拝んだのは、筒内気流対策をやった時が生まれて初めてでした。その対策は主鏡ではなく、鏡筒だったのでした。
その昔、どこかの入門書には「斜鏡スパイダーの回折があるから反射望遠鏡では回折リングは見えない」みたいな書き方がしてあったのを見たことがありましたが、これは誤りでした。故・吉田博士の著書にはちゃんと「反射望遠鏡で回折リングが見えないのは筒内気流のせい」と40年前に記されています。さすがです。
俗説: 大口径ほど大気の影響を受けやすい
解釈が間違えられています。「大口径ほど大気の影響も良く見える」「小口径では大気の影響も解像できない」が正解です。小口径の方がよく見えるわけじゃないです。
大口径では、回折リングがどんどん小さくなるので、大気のせいでそれを観察できなくなるのは事実ですが、小口径の方がよく見えるようになったりするというのはただの幻覚です。
想像ではありますが、大口径機が性能を発揮しにくいのはこの理屈ではなくて、筒内気流やドーム内気流の存在や、機材の温度安定や、ミラーの変形などによるのではないかと思われます。天体ドームも、恰好良く色が塗ってあって断熱不備なのは気流が安定しなくて大変そうです。放射冷却だけで数kWくらいには軽く達すると思われますから、日本の偏西風のせいばかりにしているのはどうかと思います。
また、レンズ枚数の多い接眼レンズはそもそも限界分解能不足で、大口径主鏡の分解能を解像する能力がないという疑いも濃厚です。そりゃまあ、高級な大望遠鏡に、ラムスデンだのハイゲンスだのをつけて真面目な観察をしようという変態はなかなかいないとは思います。
俗説: M33は6等級だから容易に見える
星雲の「等級」しか見ないでいると間違えます。等級が明るくても見えにくい天体はありますし、等級が暗くてもハッキリ見える星雲もあります。
そこで編み出した星雲の戦闘力は、だいたい目の感覚に近いんじゃないかと思います。面積当たり輝度とか、等級じゃあないよね、というのは分かると思います。
M33、少し空が悪いと見えないんです。なのに15倍も暗い9等級のM57は高倍率でもハッキリ見えるんです。
通説: ハイゲンスやラムスデンは収差がひどい低級品だ
俗説: SRは Standard / Symmetrical な廉価版ラムスデンだ
周辺像についてはおっしゃる通りなのですが、中心像に関して言えば、自宅のどのオルソよりも解像度が高いです。またSRは廉価版などではなく高級な設計でした。
これらは、中心像だけに関して言えば、大口径望遠鏡になるほど無類の解像力を発揮するアイピースだと考えられます。オルソやその他レンズ枚数が多いアイピースの方が、初心者用小望遠鏡向けのアイピースとして適しています。
但し、周辺像は酷くて不快なので、月面観察にラムスデンやハイゲンスは向きません。
---
こういうのを書いていると、やがて敬虔な教徒たちに糾弾されて火炙りの刑を宣告される日も来ないとは限りませんが、私の考察もまた俗説としてひっくり返されるべきものかもしれません。
私自身はささやかに楽しく平和に、蒸し海鮮をつつきながら星を眺めていたいと願うばかりです。
■ 天文の歴史は常識転覆の歴史
天文のみならず科学の世界には、はるか昔から通説/俗説が入り乱れて信じられ、そして転覆させられてきた歴史があります。
地球は宇宙の中心で天体が周りを回っていると信じられてきましたし、人間はフロギストンとやらを吐き出していることになっていたり、金は錬金術で精製できると思われていたり、ハレー彗星の尾に入った地球は毒で汚染されて人類が滅びるはずだったりしましたし、ついこの前までノストラダムスの大予言の書籍が本屋を埋めていたなんてこともありました。
実はブログを書くようになって大変驚いたことの一つに、私が子供の頃から歴史上の人物として図鑑などで知っていたイケヤ・セキ彗星の関勉氏*が、今なお活動を継続されながら某ブログランキングで当ブログと順位を争っていたというこれまた驚天動地の事実があります。たゆまぬ情報発信を続けながら、多くの人たちに星を見ることの面白さを伝える各種の活動をリードされていて、その尊い人間力には本当に頭の下がる思いです。
そのブログの中で氏は「火星」について、「多くの観測者が経験に頼った火星表面の模様をスケッチしました。彼らの念頭には、実在すると思われた火星人のイメージがあるものですから、その多くは大小の運河や人工的な模様が描かれました。先入観というものは恐ろしいものですね。(2019.4.22の記事より引用)」と語っておられます。
この火星の話はそんなに大昔のことではなくて、割と最近まで「そうだ」と信じられていて、多くの天文マニアはそれを前提に活動していたわけです。
*関勉氏は、これまでに彗星6個、小惑星225個を発見している屈指のコメットハンターです。
某ランキング村で関勉氏のブログに並ぶ当駄ブログ |
■ 通説(俗説?)を振り返る
天体観望や撮影というのは趣味の世界ですから、信仰に逆らうことはなかなか受け入れられずにいるのも致し方のないことではあります。
そうした中で私が見つけたものは、どうでもいいごくごくつまらないことばかりです。
それこそ、「米国とかの外食で出されるポテト山盛りは完食を前提にしていない*」とか、「海鮮の一番美味い食べ方は蒸しだと思われる**」といった甚だどうでもいいことに属する知見ばかりですが、ひょっとしたらこの世のどこかの誰かには役立つ日が来るかも、ということで、通説/俗説をちょっと振り返ってみたいと思います。
*その昔、2か月ほどこうしたポテトを完食する生活をしていたら猛烈に太りました。周囲の細身の金髪美女はどうやってんのかと思って観察してみたら、食ってませんでした。
**水と米を投入した鍋の中に「蒸し目皿(網)」を置き、テーブルの上のガスコンロで海老とか貝とか野菜とかなんでも蓋を閉じて蒸しながら食し、鍋の中にしたたり落ちる海鮮エキスで炊き上げられた粥で最後にシメると幸せこの上ないです。個人的意見です。ちなみに海鮮だけじゃなくて肉と野菜でやっても、海鮮と一緒にやっても美味です。野菜も山芋とか蒸すと美味です。鍋の使い方は煮るばかりに非ず、ということで、生きててよかったです。
■ 天文通説/俗説
通説: 星雲はなるべく低倍率で観察したほうがいい俗説: 大口径になっても星雲は大きく見えるだけでハッキリとは見えない
(面積あたり輝度が変わらないから)
これらの説は残念ながらどちらも正しくありませんでした。肉眼は「面積当たりの光量」の通りには感じてくれないということが分かってしまいました。肉眼はCCDやCMOSセンサーとは違う、ということのようで、総光量のようなものが人間の知覚に影響しているようです。このことは、星雲の戦闘力を計算したときにも明確になっていて、面積当たり輝度が大きいからと言って見えやすい星雲だとは限らないことも明らかになっています。
よくよく考えてみれば、眼球なんて接眼鏡にネジでガッチリ固定されているわけじゃないですから、網膜の一点に光が当たり続けるなんてことはある筈がなくて、常に像はフラフラ動き回ってるわけです。当然、大きい像になれば、それが動いていても網膜の同じ場所は光の刺激を受け続けるし、像が小さければごくわずかな瞬間しか刺激されないことになるのは道理です。
なので、像の大きさも含めた総光量的なものが効いてくるのは当然の帰結だと思うのですが、"面積当たり光量"は長らく信仰の対象です。
主鏡が一因であることには間違いないのですが、ある程度温度順応してしまった後の主鏡の影響よりも、放射冷却で冷え続けている鏡筒の方が強烈な筒内流動を引き起こしていたのでした。
真面目な話、反射望遠鏡のディフラクションリングを拝んだのは、筒内気流対策をやった時が生まれて初めてでした。その対策は主鏡ではなく、鏡筒だったのでした。
その昔、どこかの入門書には「斜鏡スパイダーの回折があるから反射望遠鏡では回折リングは見えない」みたいな書き方がしてあったのを見たことがありましたが、これは誤りでした。故・吉田博士の著書にはちゃんと「反射望遠鏡で回折リングが見えないのは筒内気流のせい」と40年前に記されています。さすがです。
俗説: 大口径ほど大気の影響を受けやすい
解釈が間違えられています。「大口径ほど大気の影響も良く見える」「小口径では大気の影響も解像できない」が正解です。小口径の方がよく見えるわけじゃないです。
大口径では、回折リングがどんどん小さくなるので、大気のせいでそれを観察できなくなるのは事実ですが、小口径の方がよく見えるようになったりするというのはただの幻覚です。
想像ではありますが、大口径機が性能を発揮しにくいのはこの理屈ではなくて、筒内気流やドーム内気流の存在や、機材の温度安定や、ミラーの変形などによるのではないかと思われます。天体ドームも、恰好良く色が塗ってあって断熱不備なのは気流が安定しなくて大変そうです。放射冷却だけで数kWくらいには軽く達すると思われますから、日本の偏西風のせいばかりにしているのはどうかと思います。
また、レンズ枚数の多い接眼レンズはそもそも限界分解能不足で、大口径主鏡の分解能を解像する能力がないという疑いも濃厚です。そりゃまあ、高級な大望遠鏡に、ラムスデンだのハイゲンスだのをつけて真面目な観察をしようという変態はなかなかいないとは思います。
俗説: M33は6等級だから容易に見える
星雲の「等級」しか見ないでいると間違えます。等級が明るくても見えにくい天体はありますし、等級が暗くてもハッキリ見える星雲もあります。
そこで編み出した星雲の戦闘力は、だいたい目の感覚に近いんじゃないかと思います。面積当たり輝度とか、等級じゃあないよね、というのは分かると思います。
M33、少し空が悪いと見えないんです。なのに15倍も暗い9等級のM57は高倍率でもハッキリ見えるんです。
通説: ハイゲンスやラムスデンは収差がひどい低級品だ
俗説: SRは Standard / Symmetrical な廉価版ラムスデンだ
周辺像についてはおっしゃる通りなのですが、中心像に関して言えば、自宅のどのオルソよりも解像度が高いです。またSRは廉価版などではなく高級な設計でした。
これらは、中心像だけに関して言えば、大口径望遠鏡になるほど無類の解像力を発揮するアイピースだと考えられます。オルソやその他レンズ枚数が多いアイピースの方が、初心者用小望遠鏡向けのアイピースとして適しています。
但し、周辺像は酷くて不快なので、月面観察にラムスデンやハイゲンスは向きません。
---
こういうのを書いていると、やがて敬虔な教徒たちに糾弾されて火炙りの刑を宣告される日も来ないとは限りませんが、私の考察もまた俗説としてひっくり返されるべきものかもしれません。
私自身はささやかに楽しく平和に、蒸し海鮮をつつきながら星を眺めていたいと願うばかりです。
コメント
って、考察内容は難しくてほとんどフムフムと理解したフリ(笑)
どぉも私はLambdaさんの姿勢を好んでるみたいです!(笑)
何せ、こちらへお邪魔すると学生時代に戻れるッ!
「おい、その考えちょと待てやぁ!」って聞こえるので、ガス!
はい、アンチテーゼの東照大権現様~ぁ!ははっはは!!
きっかけは、やっぱ「一ノ段」ですねッ!?ははっははは!
その為だけに反射を持ち出したくてウズウズしてます!(笑)
既に遭難時のアルミシートは入手済みッ!ははっはっはは!
超高湿度の夜を待ち望む山口のじぃで、ガス!テヘッ!
職業病なのか、「ほんとかよ~?」と自問するのがクセみたいです!
山口のじぃ様の学生時代,アンチテーゼの若武者だったお姿が目にうかぶ…!?ようです。
アルミシートは快適です。
とくに、どうでもいい日でもパーツケース周囲に降りてくる露はシャットアウトできていて、風呂敷としての性能は高いです。
宇宙探査機だってあのピカピカですからね。
私も超高湿度&高透明度の日を待ちわびています。